既に賽は投げられていた
更新が遅れてしまい大変申し訳ないです、リアルが安定しない……チャートを書き直さないと……人生RTA……
おかしい。あんまりにうまく行き過ぎている。
「パーティ組んで役割分担完璧とはいえ、あまりにうまく行き過ぎてる」
罠、というわけではない。全体的な難易度がイージーに設定されているというべきか……ユニーク繋がりの可能性を差し引いても大陸ラストの街で受けられるシナリオにしてはあまりに簡単過ぎる。
「考えられる可能性は三つ」
一つ、特に意味はなく偶然簡単なシナリオだった。
二つ、実はウツボ半魚人すら雑魚敵でさらなるボスがいる。
いや、これらはなきにしもあらずだがむしろ……
三つ、
「ば、化け物め……僕様がパパの仇を討ってやる!!」
「ああクソ、もっと早く気付くべきだった!」
護衛系ミッションかこれ!!
護衛系ミッションとは、嫌いな人はとことん嫌いな……それでいてRPGというカテゴリにおいて分かりやすく世界観を補強する手段であるために多くのゲームで見かける特殊な勝利条件と敗北条件を持つミッションだ。
護衛対象として設定されるNPCは大抵非力に設定されており、出現するエネミーからNPCを守り通す、特定地点まで連れて行く……そしてその逆としてどれだけプレイヤーが暴れてもNPCがやられた時点で敗北する、それが護衛系ミッション。
そして、このユニークシナリオにおけるキーパーソン「自称大海賊スチューデ」が幽霊船クライング・インスマン号に乗り込んだ瞬間、状況が動いた。
「おいおい全ヘイト奪取とかタンクの素質があるぜ……クソッタレ!!」
あまりにも貧弱な短剣一つで幽霊船に飛び移ったスチューデに対し、この場にいる全ての半魚人がヘイトを向ける。ウツボ半魚人すらもが眼前のレイ氏を無視してスチューデを狙っているのだ。
「か、かかってこい!」
「かかってこいじゃない……!」
「う、うわっ!」
スチューデの身体が引っ張られる。引っ張ったルストはスチューデを引きずるようにしてスカーレットホエール号に戻ろうとするが、海賊船に乗り込んでいた半魚人共もまた幽霊船に戻るようにスチューデを狙っているため、幽霊船側へ突き進むように逃走を開始する。
「なんで来た……!」
「ぼ、僕様だって、戦えるんだ!」
「お前より石ころを投げるほうが戦力になる……!」
「んなっ!?」
石ころ以下だってさクソガキ、まぁ確かに弱点が騒音を発しながら勝手に動くとかクソゲーすぎるわな。
とはいえ護衛系ミッションだと見抜けなかったプレイヤーの手落ちだ、リカバリと打開策を考えなければ。
幸か不幸か完全に俺とエムルはスルーされているため、どう動くべきか考えているといつの間にか折れたマストをよじ登っていたモルドが狂乱状態に陥った半魚人達を俯瞰しこちらに指示を飛ばして来た。
「ルスト! 右側突破! ごめんサンラクさん、左の群を攻撃して!」
「よっしゃ任せろ! レイ氏!!」
「あの半魚人は私が……!」
どうする、とりあえずルストとスチューデを追う半魚人を食い止めなければならないが、お荷物抱えて逃げ続けることはできない、どこかでこの後手に回った状況を打開しなければ。
「エムル、お前に大命を与える」
「は、はいなっ!」
「あそこで立ってるナヨいのいるだろ?」
「いますわ」
「あそこにお前をぶん投げる」
「ですわぁ!?」
むんずとエムルを掴み、照準合わせぇー……
「待って! 待ってですわ! 早まるのはよくない、よくないですわ!?」
「エムル……秋津茜も言ってたろ? 兎は一羽二羽で数えるからイケるって」
「それシークルゥお兄ちゃんが否定してたですわやぁぁぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!?」
ぶん投げる!!
半魚人共の上をエムルが飛んでいく。若干捻りが入ったせいでジャイロ回転してるが誤差だよ誤差、というかエムルもエムルでちゃんとモルドの肩に着地している辺り慣れって怖いなあ!
それはともかく、ここから少し無茶な動きをするからエムルをどこかに置かなければならないし、どうも俯瞰的な視点からの支援を得意としているらしいモルドの護衛と言葉以上にダイレクトなポインターとしてエムルはあっちにいた方が役に立つ。
「よーし…………ゴー!!」
まずはヘイトの奪取だ、どんなカラクリかは知らないがスチューデが全部持って行ったヘイトを丁寧に一個ずつ剥いでこちらに貼り付ける。
ライオットアクセル起動、体力が削れて速さと膂力が加速する。駆け出した先、半魚人の一体へと加速した勢い任せの飛び蹴りを放って注意をこちらへと向けさせる、こちらに注意を向けた一体が立ち止まったことで後続がそいつに引っかかる。ギャグのような連鎖は行進を止めた原因へと意識を向け、ある程度のヘイトをこちらに向けることに成功する。
さらに致命秘奥【ウツロウミカガミ】起動、集めたヘイトをその場に残して移動する。先程よりも加速したとはいえ所詮はゾンビの親戚のようなもの、AGIに重きを置いたレベル99の脚なら容易く追い越すことができる。
「レイ氏、そっちにいる雑魚を頼む!」
無言で頷いたレイ氏がスキルエフェクトが残留する、現在進行形で半魚人が十数人群がる場所へと走っていく。
敵の多寡はもうどうでもいいが、その
「ルスト、まだ走れるか?」
「そろそろスタミナが限界、一度回復の時間が欲しい……」
「そうか……レイ氏が雑魚を散らすからそこを通ってあっちに戻ってくれ」
「分かった……多分モルドが援護を飛ばしてくれる」
「俺バフとか弾いちゃうんだけどなぁ」
「火力支援だから一安心……!」
現状がすでに安心のカケラもないけどな!!
まるで騒音を強制シャットアウトするために顔を殴られたかのように気絶状態のバカを雑に引っ張りながらルストが駆けていくのを確認し、傑剣への憧刃を握る手に力を込める。
状況だけ見ればバリッバリの死亡フラグだが策はある。要するにあのゾンビトレインをどうにかして止めればいいのだ、そして別にそれはお行儀よくストップさせる必要もない。
「先頭を転ばせて後ろを巻き込む、さっきと一緒だ……」
いや待て足止めさえできればいいんだ、だったら必要なのは無双ゲーの如き強さではなく……パズルゲーのペナルティのような
「だったら……!」
インベントリアからアイテム選択、こちらに迫る冒涜的な行列の進行上の座標を指定して……!
ルストのスタミナが尽きて走る足が速度を落とす、モルドとエムルの魔法がウツボ半魚人へと放たれる、俺がアイテムを取り出す最後の行程を終えんとする、レイ氏が振り抜いたスレッジハンマーが半魚人を打ち据える……それぞれがそれぞれの行動をする中、またしても───というか奴はそういう星の元に生まれたのかと問い詰めたくなるような───
「すいませんっ! 転がっていったシークルゥさんを回収してて遅れました!!」
別に秋津茜が原因、という訳ではない。恐らく秋津茜は「最後の一人」であっただけで、この場にプレイヤーが全員揃ったこと自体がトリガーだったのだろう。物凄い雑にシークルゥを担いだ秋津茜がクライング・インスマン号に飛び移った瞬間、一瞬時が止まったかのような錯覚を覚える。
(違う……違うぞ、これ本当に
雨粒が、俺の眼球のすぐ側で停止している。時間にすれば一秒に満たないラグにも思える世界の停止は、幽霊船の周囲に発生した巨大な水柱を再起動の合図としたかのようにすぐさま何事もなかったかのように動き出す。
これまでの荒波に揺れるそれとは桁の違う揺れにこの場にいる全員が行動の中断を余儀なくされる。
「はぁあ!?」
水柱は重力に従い豪雨と共に海へと落ちていく、だがその柱の中にあった巨大な……あまりに巨大な「蛸足」に俺は呆然と動きを止めてしまう。己の迂闊に気づき慌てて半魚人共へと振り向くと、先程まで狂乱のままにスチューデを追っていた筈のそいつらは、そんな事実はなかったとばかりにその場でピクリとも動かずに停止している。
「え、え?」
「な、何事!?」
「やばいですわやばいですわ……サンラクサン!!」
エムルの声が酷くクリアに聞こえる。そしてその言葉は、状況が動くのとほぼ同時にこの場にいる全員に届いた。
「ク、クターニッドですわ─ ─ ─っ!!」
「はぁあ!!?」
水柱は八本、つまり八本ある漆黒の触手がクライング・インスマン号をガッチリと固定する。まさかデストラップかと目の前が真っ暗になりかけるが、まだ残っている思考の冷静な部分がそれを否定する。
ある程度の数なのか参加プレイヤー全員なのかはともかく、戦闘エリアに入っただけで即死なんてそんなバカな話があるか、あるわ。だが少なくともそれはシャンフロでの話ではない。
であれば参加プレイヤーが全員「クライング・インスマン号」に乗り込む事で条件を満たした何か……そして足だけとはいえ姿を現したユニークモンスター「深淵のクターニッド」……そもそもクターニッドとどこで戦うのか……特殊なエリア?
「まさか、このシナリオが開始した時点でEXまで停車なしの直通?」
八本の巨大な触手によって完全に掴まれたクライング・インスマン号が船体を軋ませながら沈んでいく。沈没ではなく、これは……!!
「こういうのって普通開始前に断りがあるもんだろぉぉぉ!!」
叫んで
『ユニークシナリオEX「人よ
そして何もかもがひっくり返る。
ふわああぁ! いらっしゃぁい! よぉこそぉ↑深淵へ~! どうぞどうぞ! ゆっぐりしてってぇ!
いやま゛っ↓てたよぉ! やっとお客さん(ゲス顔)が来てくれたゆぉ! 嬉しいなあ! ねえなんにぃで死ぬぅ? 色々あるよぉ、これね、眷属って言うんだってぇハ↓カセに教えてもらったンの! ここから攻略が始まるから楽しんで逝ってにぇ!