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ジョーカー混じりのストレートフラッシュ

最初そのメールを見た時、新手のスパムか何かだと思った。基本的にリアルで関わる事のない俺たちの関係性に石が投げ込まれたのだ、それもメールの文体からして何か裏がある。

とりあえずメールの送り主……カッツォに対して説明を要求しつつ、俺は我らがクラン「旅狼(ヴォルフガング)」のブレインことペンシルゴンへと秘匿メールを送ったのだ。


とはいえ俺とペンシルゴンの会話を簡略化すると


俺「奴の狙いはなんだと思う?」


鉛筆「内容次第だけどどれくらい「貸し」を作れるかな?」


俺「交通費参加費を全額負担、って何かは知らんが辺り割と追い詰められてるっぽいな」


鉛筆「お仕事が一段落ついててよかったよ」





ううむ、やはり狂人とは会話が成立しないらしい。奴の話に乗るかどうかを聞いてるのに、あんにゃろーは既に乗った後のことしか話さないんだもの。

とはいえいくつかの詰問メールを送った結果、奴が吐き出した情報は以下の通りであった。






GGC……グローバル・ゲーム・コンペティション。その名の通り世界中で作られた、作られる、作ることが決定した、作るから投資よろしく……なゲームの数々を紹介する一大イベントだ。

数年前まではイギリスやアメリカなどの海外で開催されていた。所謂スポンサーとしての強さが垣間見える開催地チョイスだったのだが、去年から今年も含めて二年連続で日本が開催地となっている。その理由とは当然シャングリラ・フロンティアという超巨大タイトルの存在が大きな理由を占めていると言っていいだろう。

アメリカの大手企業が億単位で金をつぎ込んで作った大作ゲームですら「ゲーム」でしかなかった。それに対してのシャンフロは……言うまでもあるまい。


シャンフロが発売されるまで世界各国のゲームバランスはおおよそ三つに分けられていた。クオリティのアメリカ、キャラとストーリーのアジア、斬新なシステムのヨーロッパ。

お国柄もあるため、ゴリラの遺伝子が三割混じったようなキャラばかりだったり、主にヒョロヒョロの男や美少女が大剣を振り回したり、独創的過ぎて人類が理解する為に数年かかったり……良きも悪きも含めて素晴らしいゲームやクソみたいなゲームが数多あるわけだ。

それが今では何もかもをシャンフロが……アジアではなく「日本」の一企業が掻っ攫っていってしまった。俺の見立てではシャンフロと現行のタイトルじゃ三……いや、五世代くらい差がついている。

シャンフロ発売から半年くらいで国内外を問わず色々なメーカーからシャンフロっぽい(・・・)タイトルが発表されたが、その手の嗅覚に秀でた俺がいくつかマークしてる時点で察してほしい。さながら流星群の如く一瞬の輝きを放って流れていくシャンフロもどき達……発売が楽しみだなぁ。


話を戻すが、要するに今ゲーム業界は資金力が53万を軽くぶっ飛んでいるアメリカなどが牽引している遥か先をシャンフロが独走しているような状態なのだ。当然あらゆるアクション、RPG、シミュ……シャンフロが内包する要素を一つでも含むゲームはシャンフロが仮想敵になる。基本的に神ゲーや良ゲーが発表される場所である為、俺は中継動画を見る程度で済ませているのだが最近のGGCは殺伐とした雰囲気が漂っている……とは去年辺りにカッツォから聞いた情報だ。

あいつは割と有名なプロゲーマーであるし、GGCでゲームを発表する企業はプロゲーマーに依頼して実機プレイを見せたりするから毎年GGCには顔を出しているらしい。そして今年はお仕事でお呼ばれされているカッツォが何故俺とペンシルゴンを招くような真似をするのか。


「要するに絶対に負けたくない相手と対戦するのに、当初予定していたメンバーがほぼ全員欠席して不戦敗の危機になった、と……」


シャンフロからログアウトし、再度ログインするまでの隙間の時間でメールを読み込んだ俺は思わず鼻で笑ってしまう。ギャグみたいなアクシデントの連鎖だな、いつもよりエナドリが美味く感じるぜ。


「とはいえどうしたものか……明後日かぁ」


まぁ、特に用事があるわけでもない。毎日ログイン&ノルマがあるようなクランにいるわけでもない。この後にシャンフロで人と会う約束をしてはいるが、それは問題ではない……ぶっちゃけ、俺の意思以外でこれを断る理由はない。

要するに欠員による不戦敗を回避するための埋め合わせ、それがカッツォが俺たちに求めている役割だ。とはいえそれでも俺達を選んでいる辺りにただの人数合わせではない、勝つ気を感じるが。

プロゲーマーですらない一般人を勝手にエントリーさせて良いのか、とか疑問は尽きないが仮にもカッツォのやつがそこらへんを考えずに誘うとも考えづらいので気にしなくてもいいのだろう。


「明後日……色々準備して明日出るにして……んー、まぁ行けるかな」


今日やるべきことはシナリオを一つ消化することだけ、少なくとも強行軍で一つのエリアを突破するよりかは容易いだろう。これが海外だったら笑顔でスパムメールをカッツォに送りつけてやるところだったが、電車(リニア)で二、三時間で到着する距離ならクソゲー探して場末のゲーム屋を巡るよりかはイージーな難易度だ。

GGC自体は三日間行われるわけだが、カッツォが提示した「親善試合実機プレイ」は一日で終わるのだから拘束時間も短い。そして何よりプロゲーマーとして結構な稼ぎをしているらしい今をときめく魚臣 慧サマが諸々の経費を請け負うとまで言っているのだ、最近はシャンフロを全力疾走していたのでたまには息抜きも良いだろう。


「お前の誘いに乗ってやるよ……っと」


メールを送り、ふと思う。


「……よくよく考えると、これ天音(あまね) 永遠(とわ)魚臣(うおみ) (けい)にリアルで会いに行くってことなのか……」


有名人と会う、というイベントは本来はもっとはしゃいで然りなんだろうが…………普通にメールやゲーム内で会話してるし、あんまりレア感が薄い。我が妹の為にサイン色紙でも持って行ってやるか。















……と、まぁそんなわけで明日の夜にはGGCの会場までちょいと遠出しなければならない俺ではあるのだが、今はこの二人とのユニークシナリオ検証が目下の予定だ。


「ねぇルスト、僕らがこのゲームから離れたのって結構前だけど、あのユニークシナリオ……もう他の人に攻略されてたりしないかな」


「……大丈夫だと思う。あれの発生条件は私たちでも分からないくらい、だし」


二人が俺へと提供したユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」は、NPC「自称大海賊スチューデ」と会話することで発生する。だがそこに至るまでどうすればいいのかを当事者二人ですら把握していないらしい。


「初めてここに来た時、ルストがNPC達の……その、挑発にマジギレして全員ボコボコにしたんです」


「全員ボコボコって……見た所弓メインの遠距離に見えるが……あと敬語はいいって」


「あ、そっか……ルストは「魔法弓」と「剛弓」を使い分けるから、素のSTRが高いんです。人間、それもNPC相手なら普通に殴るだけでも十分なので……」


「あー……」


気になるワードはあったが、ともかくルストは大暴れに暴れたらしい。もはや顔が悪人面ならとりあえず殴る、というレベルで暴れに暴れて……そして気づいたら「大海賊の遣い」を名乗るNPCに連れられてユニークシナリオに到達した、と。うーむ、一定数のNPCを倒すことが条件か? いや、確かNPCをキルしてもカルマ値は溜まる、と以前ペンシルゴンのやつから聞いたことがある気がする、ユニークシナリオEXというレア中のレアならありえなくもないが……キルする必要はない? むしろ別の可能性であるかもしれないな。

そもそもこのゲームではプレイヤーをキルしようがNPCをキルしようが等しくペナルティを負う。そんなゲームシステムの中でまさかNPCをフルボッコにしようと考える者は少数派だろう、経験値が欲しいなら街から出てエリアボスかレアエネミーでも倒せば良いのだから。仕様の穴……というほどのものではないが、盲点ではあるな。


「で、その自称大海賊のクソガキに付き合って幽霊船を追う……それがこのシナリオ」


「クソガキて」


「あーうん、あれは「クソガキ」と表現するしかないというか……」


モルドですらそう評価するNPCだと……? 言っておくが俺の中でのクソガキ認定はフェアクソ基準だからな、並大抵のクソガキ度では俺はクソガキとは認めない。フェアクソ最大の邪悪といえば当然フェアカスことフェアリアとかいう畜生で間違いないのだが、そのフェアカスに匹敵するクソガキが存在したのだ。

その名も「アーク」、通称で「害悪(ガイアーク)」とまで言われたそのキャラは、無自覚に災禍を撒き散らすフェアカスというキャラを産み落とした開発が意図的に「クソガキ」としてデザインした人造邪悪である。ストーリー上の役割としては「精霊教」における精霊の愛し子として莫大な権力を持ち、主人公達を何度も妨害する悪役なのだが、主人公一行の指名手配から始まり刺客を送り込む(強敵込み最低10人)、主人公が向かう村の井戸に毒を流し込む、魔物をけしかける、森に火を放つ、重要アイテムを盗む、などなど……明らかに主人公の障害としてではない、プレイヤーを不快にさせることを主眼とした行動の数々。


それらは分かっていてもストレスの溜まるものであり、最終的に主人公……厳密にはフェアカスを敵視する理由が「僕より精霊に愛されているから」という自分勝手な理由であったこと、さらに言えば暴走してボスキャラとして戦うことから、如何にこいつをフルボッコにするかだけでwikiを1ページ使うクソガキオブクソガキなのだ。

末路としては精霊に見捨てられたことで権力を持ったクソガキからただのクソガキに格下げされ、裸一貫で教会から叩き出されるという中々ハードな終わり方をするキャラクターであり、ある程度ストーリーを進めた状態で特定の街にいる特定のNPCに話しかけると「やたら生意気なガキが男娼館(アレなお店)へと連れ去られていった」という話を聞くことができる……というキャラクターである。

フェアクソがR18ゲーであったのならアレなお店でアレなことになった害悪君を見ることができたかもしれないが、大抵のプレイヤーはボスとなった害悪君をタコ殴りにして精霊に見捨てられたシーンを見て満足するので露骨に死体蹴りする必要はあったのか? 製作側は「悪役」キャラの扱い方間違ってない? おいフェアカスお前ボス戦の時は「貴方はこの世全ての苦しみを受けてなお足りない」とか言ってたのになんで聖人面して哀れんでるの? と結局クソゲー度合いを高めるだけに終わったのだが。


「そう、高々生意気な程度では俺からクソガキ認定を勝ち取ることなど……」




数分後







「よく来たな! 僕様こそが大海賊スチューデ様だっ! 僕様の言うことは絶対だからな!」


こういうのも何だか妙なのだが、俺は正しい意味でのクソガキを今知ったのかもしれない。

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