エピローグ 一期一会を何度でも
「しっかし
「サンラクサンにぴったりですわ!」
「それは「お前は
「正直バカじゃなきゃ半裸でリュカオーンに挑もうとか思わないですわ」
「おい正論を言うのはやめろ、まるで俺がバカみたいじゃないか」
「……………」
「その「ああ、やっぱり頭がおかしくなって……」みたいな目もやめーや! そもそもリュカオーンのせいだからぁぁ!!」
わぁわぁと騒ぎながら路地裏へと駆けて行ったエムルとサンラク。レベル99に到達すると発生する「
(確か、レベル99になるまでにかかった時間が短ければ短いほど
例えば「
サイガ-0自身が持つ「
閑話休題、サンラクがこのシャングリラ・フロンティアを始めてまだ一ヶ月も経過していない。そしてどこでパワーレベリングを行ったのか、昨日サイガ-0が彼と再会した時、彼は既にレベル100オーバーのモンスターを倒した者のみが到達する「Extend」の領域に足を踏み入れていた。レベル99のプレイヤー複数人に介護を受けなければ到達しえない領域に彼がほぼ独力で到達しているという事実はサイガ-0に驚愕と納得をもたらしていた。
(あんなに難しいゲームをたくさんクリアしてますし、納得といえば納得です)
かつて
いつの間にかサンラクとエムルは路地裏から忽然と姿を消しており、サイガ-0は昨晩からずっと張りつめていた緊張を吐息と一緒に吐き出す。たった一度の徹夜行軍、何度も経験しているというのに今回のそれはあまりにも濃密な一晩であった。夜襲のリュカオーンを打倒したという事実はサイガ-0のステータス欄に表示された特殊状態「導きの灯火」が確たる証拠として存在しており、およそ一年間姉が追ってきた相手をたった一晩、それもぶっつけ本番で倒してしまったということだ。果たして姉になんて言おう、サイガ-0……もとい玲は頭を悩ませる。正直、リュカオーンが絡むと姉は面倒臭くなるのだ。
(姉さん、「ユニークに関連する事である以上私自ら調べたい」って無理矢理こっちに残ったくらいですし……)
本来であればサイガ-100を筆頭に新大陸の開拓を行うはずが、突如現れた「墓守のウェザエモン」討伐の看板を掲げるクラン「旅狼」の出現により、無理矢理こちらに残った姉。もしここで「サンラクさんと一緒にリュカオーンを倒しちゃいました」などと言えばどうなるか……恐らく六割くらいの確率で「ではもう一度頼む! 今度は私も含めて!」とでも言って彼を捕獲&リュカオーン探しの旅が始まるだろう。
身内ながら、姉は良い意味でも悪い意味でも強引な人間であると玲は知っている。それは多くの人を牽引するカリスマであり、姉が常々愚痴っている「厄介ごとの権化」ことアーサー・ペンシルゴンの事を言えないくらいには人を振り回すものだ。
(……知らせるのは一週間くらい後でいいんじゃないですかね)
疲れと充実による燃え尽き症候群の諸々が組み合わさり、思わずそう考えてしまうサイガ-0。サンラクは待ち合わせの前に消費したアイテム類や武器の修理などをする、と言っていたがそれは彼女もまた同じである。結果的にリュカオーンを相手取ることになって過剰とも言える準備は十全に役に立ったが、やはり懐に響いたのもまた事実。所持金の面では問題ないが、入手の手間はいかんともしがたい。
(私も一度ログアウトして、玉露を淹れてもらいましょうか……)
ノーダメージでリュカオーンと相対し続けたサンラクと確実に攻撃を当てる為にタイミングを計り続けたサイガ-0。アバターの消耗以上に本人の疲労もまた看過できない。クラン「黒狼」が拠点としている場所へと向かおうと一歩踏み出したサイガ-0は、改めて昨晩から今までの夢のようなひと時を思い出して笑みを浮かべる。
初めて会った時はその他大勢の中の一人でしかなかった。いつしかどんな日であっても楽しげに帰る彼の姿に惹かれていた。彼が熱中しているものに手を出して挫折したことも少なくない、巨大生物に収穫間際の作物を何度も踏み潰されてはさすがに心が折れる。それでも彼が楽しんでいるものを知って、彼を知りたくて、時に協力者からのアドバイスを受けて今がある。
彼が笑って楽しんでいる中に、自分が含まれているということ。彼と一緒に楽しいことを出来たという事実。それら全ては輝く思い出となってサイガ-0というデータに、斎賀 玲という人物の記憶に刻まれて……それがどうしようもなく、嬉しい。
「えへへへ……」
まるで悠久の時の中で朽ち果てた鎧が動き出したような、ある種のちぐはぐさすらをも威圧に変えた巨躯の騎士。その兜の隙間から漏れ出した威圧のかけらもない緩みきった笑みを聞いた水夫のNPCが直立不動の蛇でも見るかのような驚愕の視線でサイガ-0を見ていることに彼女は気づいていない。そのままスキップで踊り出しそうな様子のサイガ-0であったが、ふとこの場にいるもう一人の人物のことを思い出す。当の人物……秋津茜はと言えば、サンラクからの別れの挨拶も話半分にフィフティシアの街並みを見ては歓声をあげていたのだが、ようやく思考が現状へと戻ってきたらしい。
「あ、サンラクさんはラビッツに行っちゃったんでしたっけ……じゃあ私たちもラビッツに行きましょうかシークルゥさん!」
狐面の忍者少女が背に纏うマントが「だからマントは喋らないで御座るぅーーーー!!」とでも言いたげにはためくが、サイガ-0の聴覚が脳に送った
「い、今なんと……!?」
「へ?」
思わず秋津茜を呼び止めるサイガ-0。仮面越しですらぽかんとした表情が見えるかのような間の抜けた声に、サイガ-0は意を決して訪ねるのだった──────
「だぁーっ! 畜生!」
ダン! と見た目よりも実用性が重視された机が握りこぶしで叩かれる。苛立ちを隠そうともせず、長い長い息を吐き出した
「ジュリーはお家事情、ケンは喪中……くそ、メンバーが足りない……!!」
取り出した携帯端末、パスワードを入れてメールを開けば、そこには彼からの誘いに対し各々の理由で断りの文言が書かれたメールの数々。
「このままじゃ……く、他のチームに頼るのも無理だし…………」
断りのメールが続く中、日付を遡った先にある一通のメールが開かれる。そこには明らかに翻訳ツールによって無理やりに日本語に変えたのだろう文章が書き込まれていた。
『私はあなたとの再戦を楽しみにしています。 次のGGCでも私の "流星"があなたの "溶岩"をまたしても克服します』
「………このままじゃ不戦敗なんて情けない結果になる……どうにか、どうにかメンバーを……」
そこで彼は思い出す。いつだったか、冗談交じりに考えていた「マッチング」を。来たる祭りにて戦うことになる
もはや手段は残されていないのだ。そもそも彼女と彼の個人的な因縁であったが為に、チームメイトの殆どが当日にスケジュールの空きが無かったという現状。当てにしていたチームメイトも突然の用事で不参加となり、進退窮まっていた彼が必要としているのは「残り二枠」の埋め合わせ。
「ああもう、後が怖い……」
口ではこのメールによって生じる大きな「借り」をどこまでせびられるかを嘆くが、その口元には一縷の望みがもしも叶ったら、そんなifを思って無意識のうちに笑みが形作られていた。
件名:折り入って頼みが
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク、鉛筆戦士
本文:交通費参加費諸々を持つから、二人ともグローバル・ゲーム・コンペティションに遊びに来ませんか?
「やっぱりすごいリアリティだね……」
「それにロボがある、文句なしの神ゲーと認める」
フィフティシアのとある宿屋にて、チェックインから実に半年ぶりに二人の開拓者がチェックアウトする。
方や褐色の肌に銀髪の、背中に弦のない奇妙な弓を背負った眠たげな表情に隠しきれない期待を浮かべた小柄な少女。方や全身に幾つもの傷跡を持つ偉丈夫……でありながら、明らかに魔法職のローブに腰に革紐で本をぶら下げた青年。互いに幼さの残る声で話し合いながら、NPCに加えてプレイヤー達のログインも増えたことで騒々しくなった港街で昇る朝日を眺める。
「……待ち合わせ場所に行く」
「そうだね」
NPC、プレイヤー共に忙しなく港の方へと駆けていく中、のんびりとした足取りで二人が向かうは、明らかに治安を悪くデザインされた、雰囲気的な暗さが物理的に太陽の光を遮っているかのような建物の密集地。というのも、活気あふれる港街から薄暗い部分を建物ごと隅に掃いてしまったようなその場所全体を覆うように巨大な船の残骸が鎮座しており、真っ二つに裂けた半身のみが残った船の亡骸は日の出の光を遮ってしまっているのだ。
通称「
「にしても、サンラクさんをどうやって見分ければいいんだろう」
「……見ればわかる、と言っていた」
視覚的に特徴がある、ということはネタ装備かなにかなのだろうか。そんなことを考えながら青年……「モルド」がふと振り向いた先、
そこに幽鬼の如き千鳥足でこちらへと歩いてくる半裸の鳥頭を見た。
「オハヨウゴザイマス……」
「ひぇっ」
終盤スケジュール管理ガッタガタになって申し訳ないです。とりあえずこれにて2章は終了とし、一週間ほどお休みさせていただきます。
それと、かねてより考えておりましたが別作品にてシャンフロの作品設定集兼本編では語られない番外編的なものを突っ込む作品を作ろうかなと考えております。その場合本編に載せたキャラ設定などを移動させる可能性がありますので、話数が減ったらそういうことだとお察しください。
書き溜めしなきゃ……