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夢想に従い愚行を通す、その原動は極端か熱狂

運命神の導きにより前世から夜襲のリュカオーンと戦う宿命の聖戦士が転生してリュカオーンに挑んだはいいが力及ばず呪いを刻まれ、運命に導かれ呪いを解く巡礼の旅を続けるさすらいの戦士……だったのだが遂に夜襲のリュカオーンの打倒に成功し、あの最強種に明確に敵として認められた鋼の獣を従え、何人たりとも触れることすら叶わぬ闘気を纏いし宿命の超戦士。


それが今の俺の設定らしい。


「ふっふっふ……アタシのくちはっちょーてはっちょーも日々成長してるんですわっ!」


最近はずっとマフラー擬態で人目を乗り切っていたので、久しぶりに見る【姿形変化(メタモルフォーゼ)】によって人の姿へと化けたエムル。

これまでのある種の模様にも見える刺青のような痣であった「呪い(マーキング)」から、シンプルだが乱雑な……まるで全身をズタズタに引き裂かれたような、傷跡を黒く染めたようなおどろおどろしい模様を胴体と足に刻み込んだ鳥頭を決戦兵器でも見るかのような目で関所の門番(NPC)が見送る。

尤も、後ろに控えているのが若干土っぽくなったとはいえ威圧感を放つ「最大火力(アタックホルダー)」や、中にモコモコした白マント(シークルゥ)をくっつけた狐面の忍者というやべー軍団を相手に強く出られないのも分かるのだが。


魔力(MP)の方は大丈夫なのか?」


「ふふふー、アタシも日々成長してるんですわっ」


「シークルゥさんはあれ出来ないんですか? ねぇシークルゥさん? もしもーし?」


「必死にマントのふりしてるんだから話しかけるのは勘弁してあげろよ……」


「はっ、そうでした!」


朝五時ともなればログインユーザーの数も増え始める時間帯だ、ちらほらとNPCとは別種の視線に晒されているのを感じつつ俺はレイ氏へと向き直る。


「今日は何から何まで本当にありがとうございます、エリア攻略のみならずリュカオーン戦にまで付き合わせちゃって……」


「いえ…………えぇ、私も楽しかった(・・・・・)ですから。また何か私が協力できるような事があれば……是非」


「その時はまた連絡します」


果たしてレイ氏に頼らざるを得ないような状況になるリュカオーンクラスの奴がそうポンポンいるのかとも思うが、それを差し引いてもレイ氏との共闘は楽しかった。それだけで「次」を考えるには充分だ。

街の観察は後でもいいだろう、今はリュカオーンとエリア攻略で消費した諸々を補充しなければならない。

わぁわぁと街を見渡しながら黙り込んだマントに話しかけるやべーやつはさておき、これにて解散とラビッツへ行く為に何処か人目のない裏路地を……と視線を巡らせていた俺は、ふと路地裏に人がいることに気づく。

それは全身を奇妙な紋様が描かれた真っ黒なローブに身を包み、フードから覗く皺くちゃの顔を笑みに歪めて明確に俺を手招きしていた。


「なんだありゃ」


「わ、路地裏から手招きしてるですわ……なんだか怪しいですわ…………なんでサンラクサンそこでアタシを見るですわ?」


「いや、路地裏から手招きして俺をラビッツに連れていった不審者がいたなぁ、と」


「言われてみればそうですわ!?」


愕然とした様子で硬直した擬人化エムルの肩をポンと叩きつつも、俺は路地裏で不審者呼ばわりされてもめげずに手招きする謎の人物の正体を見極めんと注意深く観察する。だが意外にも、いやある意味では不思議ではないが謎のフードの正体の答えは俺の真横からもたらされた。


「あれは、覚醒の導師アーカヌム……ああ、レベル99だから……」


「説明をお願いしても?」


俺の言葉に、別れる直前に俺が見ているもの、俺を見ているものに気づいたレイ氏がその正体に言及する。


「覚醒の導師アーカヌムは、レベル99になったプレイヤーの前に現れる、特殊NPC……です。特殊ジョブ「神秘(アルカナム)」の取得ができます」


「特殊ジョブ?」


このゲームにおけるジョブ、職業とは要するにスキルや魔法の覚えやすさに影響を与えるものだ。魔法使いであれば魔法を覚えやすいし、俺のように二刀流使いであれば剣や立ち回り系のスキルを覚えやすくなる。そんな中で「神秘(アルカナム)」は通常のジョブとは明らかに毛色が違うものであるらしい。

まず第一にこのジョブは副業、サブジョブ限定のものであり、言い換えればサブジョブの欄を潰してプレイヤーに「装備」される。

第二にこの「神秘」はスキル習得ではなくプレイヤーのステータスに直接干渉する。

そして第三にタロットの大アルカナに対応する「神秘」はその殆どがピーキーな性能をしているということ。


「……例えば「戦車(チャリオット)」の「神秘」は、AGIとSTRを二倍近く引き上げますが、その代わりにSTMの消費速度も倍になります」


「なんじゃそりゃあ……」


超テクノロジーで作られた燃費が悪すぎる車のようなちぐはぐっぷりだ。とはいえ「超特化型」として有用な神秘もそれなりにあるらしく、「魔術師(マジシャン)」の神秘を得た状態で魔法特化にすればSTRが死にきる代わりに超火力砲台を実現できたりもするらしい。

しかもタロットカードに描かれるイラストはプレイヤーの姿を模したものであるらしい、無駄なところで細かいな。


「ちなみにレイ氏は何を引いたんで?」


「その、「世界(ワールド)」の神秘を……」


聞けば全ステータスに上昇補正が入る代わりにスキル、魔法などで発生するデメリットが二倍になる、というものらしい。それ控えめに言って大当たりでは? やはり持ってる人は持ってるんだな、と改めてレイ氏というプレイヤーの凄まじさを実感する。


「戻る前に「神秘」チャレンジとやら、してみるか」


俺は迷うことなく手招きする老人の元へと歩いていく。知り合いがガチャに挑むのであれば結果が気になるのが人の常、恐る恐ると言った様子でレイ氏や秋津茜も後ろから俺と黒ローブ……覚醒の導師アーカヌムを見つめている。


「えーと、おはようございます?」


「強気に至りし者……汝が神秘を、覚醒してしんぜよう……」


「あ、これ話通じないタイプか」


「さぁ、汝が神秘は運命が決める……札を引きたまえよ」


シャンフロではなかなか珍しいこちらからの会話に一切反応しない老人は、懐から取り出したタロットカードを空中へとぶちまける。だが不思議なことにタロットカードは地面に落ちることなく、空中で球体を作るように浮遊している。さらに言えばその全てのカードは表面が俺には見えないような挙動をしていた、本当このゲーム無駄なところに凝ってるな。


「これってランダム?」


「いえ、恐らくですがなんらかのパラメータを、参照しているのではと、言われてます」


「つまりどう引こうが結果は変わらないわけだ」


ベシッと雑にカードの一枚を掴み取る。描かれていたのは、半裸の鳥頭と二足歩行の兎が一緒になって歩いているイラスト。番号は0番、ゲームの題材ではお約束の部類なのでうろ覚えとは言え心当たりがある、確かタロットで0番のカードは……そう、


「愚者か」


「ほう……汝、定住せざる者、その歩みは放浪か、それとも目的ありし旅か……だが一つ言えることがある」


「というと?」


「……愚者の神秘は汝の再起を助けるであろう、だが汝は汝の他に助けを求めることができぬ、故に病は汝の首により鋭い刃を突きつけるであろう……」


「えーと……これの効果分かります?」


「愚者は確か……スキルのリキャストタイムが半分になる代わりに……状態異常で受けるダメージや持続時間が倍になって、回復アイテムの成功率が確率になる……だった、はずです」


えーと、うん。






大当たりでは?

実際ステータスに大幅な補正が入ってもフルダイブ故に自分で動かなきゃならないので神秘(アルカナム)は強いんだけど使いづらい、というのが現状の評価。ぶっちゃけある程度ユニークが充実すると必要性は薄れるので実質ユニークを持たないor少ないプレイヤーへの救済的意味合いがある。

ちなみにもしも主人公がもっと本格的にアイテム掘り作業やらなんやらをしていたら引いたカードは愚者(フール)ではなく運命の輪ホイール・オブ・フォーチュンでした。


ちなみに余談ですが

ペンシルゴン:力

サイガ-100:女帝

アニマリア:太陽

だと思います

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