<< 前へ次へ >>  更新
13/907

通報レベルの変態は引かれる変態に進化した!

「いらっしゃ……どの防具をお求めですか?」


俺ほど「着るものが必要です」を全身でアピールしている者もいないだろう。

防具屋の店員NPCは引きつった笑顔でそう俺に問いかけてきた。

というかAIすごいな……そこらへんは軍事レベルの技術が惜しげなく使われてるんだっけかこのゲーム、ほとんど人を相手しているようにしか思えない。


「一覧を。」


「こちらになります。」


羊皮紙……っぽい見た目をしたウィンドウが目の前に表示され、大まかな情報が記載されている。






・蛇革装備一式(個別購入可):12,000マーニ

・ハードチェーン装備一式(装備個別購入可):6,000マーニ

・黒道の黒衣装備一式(個別購入不可):9,000マーニ

・白道の白衣装備一式(個別購入不可):9,000マーニ

(へだ)()の皮服装備一式(個別購入不可):4,000マーニ



「隔て刃一式をくれ。」


「かしこまりました、少々お待ちを。」


安さに負けた。

というか俺としては街中を歩く時に変質者扱いされるのがなんだかなぁ、という理由で服を買うだけだ。

よくよく考えたら真正面から攻撃を受ける状況に持ち込まれた時点で負けのようなものなのだから、優先すべきは防御よりも動きやすさだ。

多分ヤツ(・・)の素材から作られた装備であろう蛇革装備とハードチェーン装備はどうも重量でAGIにマイナス補正が入るようだし、黒道&白道装備は魔法職用装備、俺には見た目以上の価値がない。

どちらにせよ隔て刃の皮服装備しか選択肢がないな、これ。


「お待たせいたしました。」


「はいこれ代金。」


「お買い上げありがとうございます!破損した装備は持ち込んでいただければ破損に応じた料金で修復させていただきます、貴方に幸運のあらんことを!!」


その場で装備……と、インベントリに消える直前、風船に目鼻口用の穴を開けただけの覆面が視界に入る。

………頭は鳥面のままでいいや。





・隔て刃の皮マスク

四駆八駆の沼荒野に生息するマッドフロッグの皮から作られたマスク。最低限の隙しかないマスクは装着者の顔を守る。

髪の量が多いと愉快なシルエットになるので注意。


・隔て刃の皮ベスト

四駆八駆の沼荒野に生息するマッドフロッグの皮から作られたベスト。一定以下の切れ味の斬撃に対して抵抗を持つ。

肌に吸い付く感触は賛否両論。


・隔て刃の皮ベルト

四駆八駆の沼荒野に生息するマッドフロッグの皮から作られたベルト。マッドフロッグの背中の皮だけを使っているため刺突に対して抵抗を持つ。

通は全身にこれを巻く。きつく、もっと!!


・隔て刃の皮ズボン

四駆八駆の沼荒野に生息するマッドフロッグの皮から作られたズボン。装備者の動きを阻害しない作り。

ベストと比べて防御は薄い。





とりあえず通報されるレベルの半裸から辛うじて薄着のファッションで済まされる肌着の不審者にランクアップ、といったところか。

厚手のダイバースーツ、もしくは分厚い全身タイツを服の形に分解したような服、と言うべきだろうか。

アイテム説明欄の言葉の通り、妙にクセになる密着感は動きやすさを損なう事なく見た目と防御力の改善に成功していた。


「まぁ覆面はつけないけど。」


目力鳥面がまだネタになる不審者であるなら、これはネタにならない不審者だ。これから銀行強盗します、と冗談で言っても信じられそうなくらいには不審者だ。

さて、次は武器屋だな。完全に損失してしまった傭兵の双刃に変わるメイン武器が手に入るといいんだが。

致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)は対ボス用の切り札として基本温存だ。

どうも二刀流は武器の磨耗がやけに早い気がするので雑魚相手に無駄遣いするのはナンセンスだろう。











「あ?こんなゴミ買い取れるかよ。」


「まぁそうだよなぁ、原始的な石器以下の出来だし……武器のラインナップを見せてくれ。」


「あいよ。」


カテゴリとしては武器なのだが、価値はゴミと等価らしいゴブリンの手斧は買い取ってもらえなかった。

まぁ使い捨ての武器と考えれば使い道もあるか。

防具屋と同じく羊皮紙ウィンドウが表示され、俺は双剣カテゴリを探す。


「あれ、取り扱いがないのか。」


だが、双剣の欄は存在自体はするものの、購入可能な武器が一つも存在しない。

困ったな、前言撤回の必要があるか?このままだとゴブリンの手斧を使い潰しながら次のエリアを攻略することに……あ、そうか。

よくよく考えたら双剣使いではなく二刀流使いなんだから短剣二本でもいいのか。

初期装備だった傭兵の双刃が二本一対な一つのアイテム扱いだったから勝手に勘違いしていた。

冷静に考えてゴブリンの手斧も致命の包丁も二本使っていたな。


「短剣はっと………うーん………」


微妙。

可もなく不可もなく、まぁ二つ目の街で買えるものとしてはまぁ……という反応しづらいスペックだ。

いや、レアドロップであろう致命の包丁が想像以上に有能だから余計に弱く見えるのか。


「おう、作り置きで気にいる武器がねぇなら素材さえ持ってくれば新しく作ってやるぜ?」


「お、マジで?」


それはいいことを聞いた。


シャングリラ・フロンティアにおけるNPCは軍用AIやらなんやらを惜しげも無く使用しているため、肉体がない以外はほぼ人間と言っても過言ではない性能です。

というよりも裏設定ですがこのゲームの開発者が頭おかしいレベルの天才なので明らかにオーバーテクノロジーな技術の宝箱と化しているシャンフロを狙う輩はそれこそ世界中にいます。しかしハッキング対策もオーバーテクノロジーなのでどうすることもできず、邪な考えでシャンフロに攻撃を仕掛けたものが最終的にプレイヤーとして普通に楽しんでいる……なんてこともあったりなかったり。

<< 前へ次へ >>目次  更新