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夜が明け、後悔を乗り越える……違う、そうじゃない

とりあえず防具の防御力関連は現状これでいきます、後々修正はするつもりです。

あともしかしたらこの話は手を加えるかもしれません。

やってしまった、やらかしてしまった。湧き上がる後悔を達成感で押さえつけてなんとか平常を保つ。流石にこの状況でわめき散らすのは無様が過ぎる。おそらく俺が今見て、受け取った事と全く同様の処理を行っているのだろうレイ氏と秋津茜を横目でちらと見る。

リュカオーンのユニークシナリオEX「夜闇を祓うは勇気の灯火」を俺ではどうすることもできないクラン「黒狼」の切り札と、不確定要素の塊であるプレイヤーが握ってしまった。ここから先、俺がリュカオーンに関わることができるかどうかは分からない、それだけに留まらず「致命兎エピック・オブ・叙事詩ヴォーパルバニー」の秘匿すら……


「はぁ……馬鹿馬鹿しい」


「へ?」


「あーいや、ちょっと雑念がね」


そうだとも、今更うじうじしたってどうしようもないんだ。進んでしまったイベントを巻き戻ることはできない、ここからどうするリカバリするか考えるのが良いゲーマーというものだ。なおセーブデータでタイムスリップはないものとする。

どうせ悪巧みはペンシルゴンの領域であるし、まぁなんとかなるだろう……あいつ権力を手に入れるとラスボススイッチが入ってその内倒されるが今はまだその時ではない。


「ユニークシナリオEX……これが、ユニークモンスターに挑むために必要な……」


「そう、墓守のウェザエモンの時は「此岸より彼岸へ愛を込めて」ってシナリオがウェザエモンに挑む為のシナリオだった」


「な、なんだかよく分かりませんけど私もそのユニークシナリオいーえっくす? を受けても良いのでしょうか!?」


「大丈夫大丈夫、受けた方が楽しいから。それに君の援護が無ければ勝てない戦いだったしね」


そう、楽しければいいのだ。うだうだ悩んで作戦練って、思い通りに事が動くよりも、何も分からない暗闇に松明一本で突っ込む方が俺には合っている。

そして恐らくEXシナリオの鍵となるのであろう「導きの灯火」なる特殊状態、いわゆる麻痺や毒が状態異常であるなら異常ではないが平常ではない状態、という事だろうか。こういう時は黙って説明欄を見るに限る。




・特殊状態「導きの灯火」

昏く黒い夜闇の中において夜の帝王への道を示す小さな炎をその身に宿した状態。

ユニークモンスター「夜襲のリュカオーン」が一定範囲内に存在する場合、その方向を指し示す。

闇を束ねるリュカオーンは、逆説的に光を払う事ができる。リュカオーンより授けられた灯火はリュカオーンの一部であり、破棄された光である。




「要するにレーダーか」


この一定範囲、というのが広域に作用するものなのか狭い範囲であるのかで産廃かどうかが決まるのだが、少なくともこれがリュカオーンに挑む為に必要なパスポートであることは明白だ。

最初からある程度どこで何をするべきかが分かっていた「此岸より彼岸へ愛を込めて」と違い、リュカオーンを自力で探さなければならないのだろうか。

ちらと暗闇を見やれば、姿形は無くともそこにいると確信できる不可視の視線が闇を通してこちらを見つめている。上等だ、自宅に引き籠ってるのなら地の果て空の果て海の果てまで探し尽くして引き摺り出してやる。

俺の視線に篭った挑戦の意思を感じ取ったのか、不可視の圧は笑うようにその気配を霧散させ……いやちょっと待て。


「おい何勝手に〆ようとしてんだちょっと待てワンコロ!!」


お前AIのくせに忘れてるんじゃないか!? 説明文に書かれた条件(・・)は満たしたんだ、忘れてもらっては困る。


分身(お前)に刻まれたこの「呪い」、分身(お前)を打倒したんだからキッチリ解いてもらうぞ!」









忌々しいリュカオーンの呪い、レベル99になった事でメリットデメリットの関係性はデメリット側に大きく傾いたと言ってもいい。これを解除するには「慈愛の聖女イリステラ」に解呪してもらうか、リュカオーン自身に解かせる他に方法はない。そしてパーティで打倒したとはいえ、倒したことに変わりはないのだ。ふはは待ってるぞ挑戦者よ! なんて陳腐な終わり方をされては困る。

あんちくしょうは人の言葉を理解できている、少なくとも言葉の意味は分からずともニュアンスは理解できるだけの知能(AI)を奴は持っている。であれば自身の足と胴体を叩きながら叫ぶ俺が何を求めているのかも奴は理解しているはずだ。


「せめて装備を付けることくらいは許せよ!」


ウェザエモン相手でも半裸、金晶独蠍でも半裸、エリアボス相手にも半裸、かっこいいこと言っても半裸……防御力が欲しいんじゃない、最低限人としての身嗜みがしたいんだ。縛りプレイにしたってせめてズボンを履かせてください。


人間は「恥」を持つ唯一の生き物だ、恥じらいを失ったら獣と同じではないか。

かつてプレイしたゲームからの引用だが、なるほど良い言葉だ。女の子のスカートをめくるアクションゲームというしょーもない一発ネタのくせに、肝心のキャラクターの恥じらいが声は迫真であるのに表情のテクスチャがゴミなせいで質の悪い仮面をつけている風にしか見えない、というカレーからルーを差し引いたような点に目を瞑れば台詞回しも面白いクソゲーだったが、今の俺にはピッタリな言葉だ。

オフラインならともかく、オンラインの他プレイヤーの視線を半裸で受け止めるのはやっぱりつらい。恐らくこれまでとは比べ物にならないプレイヤー人口を誇るであろうフィフティシアに入る事になる、レイ氏とこのエリアの攻略を始めた時点では既に露出プレイか頭巾プレイの覚悟は決まっていたのだが……やはり服を着られる可能性があるのならそれに縋りたいのだ。尤も、その可能性(リュカオーン)に縋るどころか顎粉砕してやったんだがなはっはっはっ!


奇妙な沈黙があたりを支配する。エムル達NPCからすれば最強種たるリュカオーン相手にクレームをつけているという命知らずの蛮行に対して、レイ氏達からすればNPC相手にクレームをつけているプレイヤーとしての行動に対して、果たしてリュカオーンが如何なる返答を返すのかを固唾を飲んで待っている。

果たして薄れ霧散しかけていた気配は再び一点へと収束し、こちらへと視線が向けられた。それはまるで電話を切る直前に「あ、もう一個話すことがあった!」と聞こえてきたので通話を切ろうとする動作をギリギリで止めたような、ほんの少しの間抜けさすら感じるものであったが、やはりそこは腐ってもユニークモンスター。最低限の威厳は確保されている。


「さぁ、俺に服を着(さっさと呪いを)させてくれ(解け犬っころ)


俺を見つめるリュカオーンはしばらくの間沈黙していたが暗闇の中に狼の姿を一瞬とらえた瞬間、突如として俺の体に衝撃が走り、宙へと吹き飛ばされて……明らかに口と思しき圧力に身体を捉えられた。風前の灯である体力で生きているということは突然のロスタイムではなく、イベント的表現であることは分かるが心臓に悪すぎる。


「さ、サンラクサーン!?」


「うわ、ぬめる! やばい、飴玉体験会!」


「なんか余裕そうですわ!?」


余裕なんじゃなくて状況の理解が追いつかなくて思考を経ずに思ったことを直接口に出してるだけです。というかロクな準備もせず徹夜敢行だからちょっとテンションが妙な方向に突っ走ってるかもしれな……ぎゃああ舌の上で転がすな! 頭は鳥だがテイスティングしたって鶏肉の味はしないんだよ! あっ、やばい落ちる落ちるリュカオーンの胃袋に落ちちゃう! ここまで来て奴の夜食になるのは嫌だぁぁぁぁぁ!!


「おべぇっ」


んべっ、とでもSEがつきそうな雑な吐き出しによって俺は地面へと吐き捨てられた。畜生……地面にこびりついたガムの気持ちを理解できた……せめて紙に包んでゴミ箱に捨ててやろうな…………だが今の行動はなんらかの処理を行うためのモーションであろう。そして俺の要望とリュカオーンが俺にしたことを踏まえれば一体俺にどんな変化が起きたのかはステータス画面を見れば分かるはずだ。






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PN:サンラク

LV:99 Extend

JOB:傭兵(二刀流使い)

1,000マーニ

HP(体力):80

MP(魔力):50

STM (スタミナ):100

STR(筋力):100

DEX(器用):100

AGI(敏捷):100

TEC(技量):80

VIT(耐久力):1601

LUC(幸運):129

スキル

縷々閃舞(るるせんぶ)

一念岩穿(いちねんいわうがち)

・フォーミュラ・ドリフトLv.1

瞬刻視界(モーメントサイト)

・アガートラムLv.1

・トライアルトラバースLv.1

・遮那王憑き

・グラビティゼロLv.1

・フリットフロート

月狼の誇りマーナガルム・プライド

・致命秘奥【ウツロウミカガミ】

・バーンアウトLv.1

・ライオットアクセルLv.1

・血戦主義

・レテ・バニッシャー

・ダーティ・ソードLv.1

・壊刀乱魔

・致命剣術【半月断ち】参式

・戦極武頼Lv.1

・剣舞【紡刃】

・パーシスタンド

・メロスティック・フット




装備

左右:煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)

頭:規格外特殊装甲頭機殻【艶羽】(VIT+1200)

胴:リュカオーンの刻傷

腰:発掘研磨腰帯【古兵】(VIT+400)

足:リュカオーンの刻傷

アクセサリー:格納鍵インベントリア

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・リュカオーンの刻傷

夜の帝王の分け身を打ち破りし者を、最早リュカオーンは餌として認識しない。

それは自らの手で仕留めるにふさわしい「敵」の証明であり、最強種が認めた強者の刻印である。

魂に刻み込まれた呪いは黒狼の真なる姿を打ち破る他に解く術無し。

「リュカオーンの刻傷を持つキャラ以上のレベルのモンスターが積極的に戦闘を選択します」

「リュカオーンの刻傷を持つキャラ以下のレベルのモンスターは積極的に逃走を選択します」

「リュカオーンの刻傷を持つキャラはあらゆる「呪い」を無効化します」

「リュカオーンの刻傷を持つキャラはNPCとの会話で補正がかかります」

「リュカオーンの刻傷を持つキャラは改宗(コンバーション)することができません」

「リュカオーンの刻傷が付与された部位に装備したアイテムは一定時間で破壊されます」






違う、そうじゃない。

要するに「私の餌だから手ェ出すな」から「こいつは私が認めるくらい強いよ」に変わりました。

「本当に御座るかぁ〜?」と強モンスターが積極的に殺しにきます。

そしておめでとうサンラク! 時間制限つきで服を着ることができるよ! 制限時間オーバーしたらギャグみたいに服が破壊されるけどね!


リュカオーンの奇妙な沈黙はその場で「刻傷」の内容が生成されているローディングだったりします。

AIがプレイヤーの言葉を判断して思考しているわけです、ムダニ=ハイテクノロジー!

これはNPCがプレイヤーの言動を理解、学習しているシステムの応用です。例えばプレイヤーがNPCに「私に似合う服を選んで!」と頼んだ場合、NPCはサーバーからプレイヤーの戦闘傾向や素行をロードして大体の傾向から服のタイプを決定します。

要するに日頃の行いやその場の行動、ロールプレイが割とシャレにならない重要要素なのです。

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