大志の灯火を抱いて 其の十二
ええ、はい。単刀直入に申しますと「二万字消えました」。
腹痛とショックと復元etc...でわっちゃわっちゃしていたため、昨日は更新できず大変申し訳ありません。
少々毎日更新が滞るかもしれませんが、すでにこの章のエピローグまでは一度文章化したので頑張って記憶掘り起こして書き上げます。
ご迷惑おかけしました。
人間、やらねばならぬ時というものはどうあがいても避けられない。それはアンカーとして最後のバトンを受け取る時であったり、どうしても分からない問題に対して六角鉛筆を転がす時であったり、そして今この瞬間であったり。
「シークルゥさん! やりますよ、大仕事ですっ!!」
「エムルがヴォーパル魂を張っている中、拙者が怖気付くなど親父殿に顔向けできんで御座る!」
なんの偶然かシャングリラ・フロンティアで再会したゲームの先達。交友と呼べる程の関係ですらないが、彼らが困難に打ち勝たんとするその手助けが出来るのであれば、したいと思うのが秋津茜にとっての人情というものだ。
話には聞いていたリュカオーンの不可視の攻撃、その弱点は「光」であるという。
───恐らく本体の身動きが止められた以上、奴は分身を用いた打開を狙うはずだ。というかそうであってほしい。
「燃えてきましたよ……!!」
恐らくサンラクは秋津茜ではなく、シークルゥの戦力を以って分身を食い止めてほしいと考えて秋津茜に話したのだろう。それに対して文句があるわけではない、もしやベルセルク・オンライン・パッションで自身の我儘に付き合ってくれた親切なプレイヤーと同じ方では、と不確定な予測の為だけにシークルゥとエムルに戦闘のほとんどを任せてここまで来たのだ。
首に付けたアクセサリーの効果もあってレベルはほとんど上がることなく、この場において一番の足手まといが自分であることは分かりきっている。だがそれでも、シークルゥが不可視の分身を見据えるために「光」が必要であることを悟った秋津茜は「自分に任せてほしい」と宣言したのだ。
「本当に足音しか聞こえない……見えないけど、いますっ!」
「秋津茜殿! 拙者は何時でも出陣できるに御座る!」
「もう出陣自体はしてるんじゃないですかね? まぁいいや、行きますよ!!」
秋津茜は己の顔を覆う……あの黄金の龍に刻まれた「
左眼を交叉点として、顔に大きく刻まれたバツ印の紅い模様が秋津茜の表情の変化につられて歪む。
「刃隠心得、奥義!」
この
職業「忍者」の獲得における最終段階、見習い忍者達の師匠として様々な修行クエストを課す「隠居忍者カスミ」が卒業していく新米忍者達に餞別として与えてくれる忍術の記された秘伝書。
プレイヤーの間では「リセマラ不可の忍術ガチャ」と呼ばれる最後のクエスト報酬に於いて秋津茜が引き当てた「
そしてゲームを始めて一月も経っていない秋津茜が遭遇したドラゴンはただの一体のみ。
「すぅぅぅぅ……【
頑張って覚えた印による手の動きを完遂し、出す必要のない大声と共に七つの最強種が一体「天覇のジークヴルム」のブレスの見てくれだけが模倣された、炎を超えてビームと化した大熱波が暗い夜空に煌々たる光をもたらした。
天覇のジークヴルムが放つブレスは炎にあらず、されど強烈な光は威力が落ちどもその光量に不足なし。
本家のブレスが城塞すらも軽々と倒壊させることを鑑みれば、秋津茜の口の前に展開された陣から放たれるそれは大樹と爪楊枝ほどの差がある。だが黄金の竜王が放つ太陽の代理たりうる程の高熱に及ばなくとも、この場限定で光量を引き上げることはできる。
「ぁぁぁぁ……あっ、ごめんなさいぃ──っ!!」
「ピィイ!?」
途切れかけた声は急降下を敢行する朱雀の翼にブレスが掠ったことへの謝罪によって再び勢いを取り戻す。そして既に分身への本命、片刃の剣を持つ兎は駆け出していた。
「拙者の心眼、確かに見抜いたで御座る!」
夜明けまではまだ時間がある、だが秋津茜の放った模倣ブレスによって照らされた草原から夜闇が駆逐されたことで、不可視の狼は半透明程度までその姿を暴かれた。その爪牙が狙うはサンラク、しかし人と狼との間に刀を抜いた兎が飛び込んだ。
「刮目せよ! 我が【タケノミカヅチ】を!!」
抜き放たれた刃が向かう先はリュカオーンの分身ではなく、シークルゥの真下の地面。突き立てられた刃から可視化された力を示すポリゴンが大地へ流れ込む。そして次の瞬間、シークルゥの眼前まで迫った不可視のリュカオーンの足元から、土と草を押しのけ屹立した幾本もの「竹」が槍衾のように、格子のように、あるいは鉄壁が如く分身の進撃を食い止め、貫いたのだ。
「ううむ、一撃でまやかしの狼を消すには至らぬで御座るか……」
「ケホコホッ……シークルゥさん、前々から思ってたんですけど、なんで刀を地面に刺すと、竹が生えるんですか……?」
「修行の成果に御座る」
自分も修行すれば水晶や竹を生やせるようになるのだろうか。
口からドラゴンブレスを放つことが出来る自称初心者は、リュカオーンとの決着をつけるべく戦う先達達の姿を見るのだった。
口からドラゴンブレスをぶっ放せる大作ゲーム、それがシャングリラ・フロンティア。
いやいやいや、なんだあれやべーな。明らかにロボゲーとかで見るようなレーザーだったぞ今の。だが不可視のリュカオーンの姿が暴かれ、シークルゥが使った……魔法? なんかやけに
「ここで決めよう!」
リュカオーンが俺を見据える。それはたまたま近くにいた俺を見ただけなのか、自身が呪いを付与した俺を見ているのか。
だが
「ぶちかませ!!」
『ポイントマーキング、攻撃ヲ仕掛ケマス』
エムルが攻撃を仕掛けたリュカオーンの後脚。即再生するとはいえ、再生中の部位は脆いのが世の常人の常と言うもの。どれだけ主役を痛めつけた強敵でも再生怪人になればワンパンで死ぬのだ。
いやそれは関係ない、今重要なのは急降下攻撃を仕掛けた朱雀の刃が、エムルによって不安定な状態となった後脚を貫き、自身を楔とするかのようにその動きを封じ込めたと言うことだ。活動可能限界を迎えた朱雀は攻撃の寸前にすでに電源落ちしていたが、加速した機体の動きはもはや止まらない。まさに捨て身の献身、ご褒美はオイルでいいのかな?
そして敢えて言わせてもらおう、この手の展開じゃお約束すぎるほどにお約束なあのセリフを……!
「この瞬間を待っていた!!」
実のところを言えば、この戦闘中右拳の機能はずっと使用されていた。それは右拳に内蔵された機能の片割れ、即ちアイテムとしての能力は二つある。まず一つは「右拳」としての能力である、月光を当てることで五分で晶弾一発分の魔力をチャージする能力。朱雀で雲を払ったのは不可視の分身を封じるという目的の他に戦闘を通して右拳の能力を万全とするためだ。
そしてもう一つ、これは
まず当然ながら、超過機構を発動するためには
次に反動。超過機構の説明文に「使用者及び武装は極めて甚大な反動ダメージを受ける」とある。極めて甚大、という単語からして調子に乗ってチャージしまくると最悪暴発して周囲ごと消し飛ぶことすらあり得る。反動ダメージ、自傷ダメージを確定で1耐える俺自身が死なずとも、武器は消し飛ぶし周囲も消し飛ぶ。
そして最後に、超過機構は一度使用すれば次に使用可能となるまでのリキャストタイムがなんと一週間後、週に一度の楽しみにしろってか。
諸々を含めて切り札と呼ぶべき
第一のエネルギー問題と第二の反動問題も含めて今回はお試しも兼ねた「蓄積80%」でぶちかます。一週間後まで再使用不可能であるが、まさかそんな早急にこれが必要になることも無いだろう。そんな定期的に世紀末な血戦してたら身がもたない。
「お前が月を避けるなら、俺が月を
右拳の各部がスライドし、内蔵された黄金の水晶が輝きをさらに増す。あの日水晶の断崖で死闘を繰り広げた金晶独蠍の心臓……
リュカオーンに逃走の術は無い、眠りについた朱雀が後脚を封じている限りやつは回避という選択肢を選べない。であれば迎撃か? 否。
「俺のほうが速い!!」
こちらの位置取り、あちらの顔の位置、タイミング、発生フレームの優位、ヘイトの混乱。全部が繋がりくっついて、「作戦」という名の蜘蛛の巣がリュカオーンをがんじがらめに縛り上げる。
さぁ、メインディッシュの前にはオードブルだ、くれぐれもこれで
「あの夜の礼だ、受け取れ……【
黄金が漆黒を食い破って、爆ぜた。
竹ミカヅチ(小声)
数タイプある「機装」の中でもシンプルイズベストに破壊力に特化した超過機構。
用いた素材が秘めるエネルギーをオーバーヒートさせて莫大な破壊力を生み出す、半ば「自爆」の意味も含む超火力攻撃。
ちなみに
どれだけ堅牢な装甲があろうが、強烈な筋肉があろうが、流し込んだエネルギーによって敵を構成する物質を「水晶」に変換して爆砕してしまう。要するに「
他の「超排撃」型は追加効果の部分が違っています。