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大志の灯火を抱いて 其の七

ここでユニークモンスターに無謀にも挑みかかったシステム的にはフレンド同士な臨時で結成されたパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ!!


レベルマックスになってティッシュ装甲からボンドで補強された段ボール装甲くらいにはランクアップした俺!

俺何人分の装甲かも分からない問答無用の最強プレイヤーなレイ氏!

以上だ!


「相変わらずエグい動きしやがる……っ!」


ステップで身体が浮いた瞬間を狙ったのかはたまた偶然か、普通の回避では避けきれないタイミングで振られた前脚による攻撃を、切り札とするには少々心許ない回数しか使えないインベントリアによる転移を切って回避する。

リュカオーン相手に遅延は得策ではないと判断し、格納空間に移動し次第即帰還。前脚を振り抜いたままこちらを睨め付けるリュカオーンの足元へと自ら飛び込む。


「そのまま下を覗き込んでろ!」


致命秘奥【ウツロウミカガミ】によってヘイトのみがその場に取り残され、リュカオーンの視線は眼下へと縫い留められる。

その隙に転がるようにして横へと離脱、武器を切り替えつつ叫ぶ。


「レイ氏!」


「アポカリプス……!」


漆黒の魔剣が赤黒く煮えたぎったマグマの様なエフェクトをまといながらリュカオーンの後脚に叩きつけられる。

流石のリュカオーンもこれを四、五度も繰り返されれば平然とは出来ないらしく、戦闘を始めてようやく一度目の怯みモーションを行う。

攻撃チャンスを逃すはずもなく、レイ氏が後ろへと飛び退いたのを視界の端に確認しつつ煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)でワンツーラッシュを叩き込む。

四度ほど攻撃を叩き込んだ辺りで、怯みモーションから立ち直ったリュカオーンは忌々しげにレイ氏を睨みつけると、俺など御構い無しにレイ氏へと飛びかかった。


「スイッチ!」


「はい……!」


ここで役割が切り替わる。今度はレイ氏がリュカオーンのヘイトを受け持ち、俺がアタッカーを請け負う。


「脇腹貰ったぁ!」


ハンド・オブ・フォーチュン系列、幸運のパラメータを参照するという特性に加え、クリティカル成功でさらに補正が加わる攻撃スキル「アガートラム」の銀光(エフェクト)を帯びた右拳が金銀入り混じった輝きと共にリュカオーンの右脇腹へと叩きつけられる。

だがこれだけでは足りない、左拳をリュカオーンが向かうであろう予測地点へと突きつけ晶弾を射出。黒き狼がその座標と重なる寸前で地面に突き立った晶弾を成長させ、水晶柱のジャベリンで巨体を迎撃する。


「多少は怯むくらいしてくれよ……!」


「大丈夫、です……! 剣舞【流旋】!」


そんなものは障害たり得ぬと言わんばかりに、前脚の動きを妨害する位置に生やした水晶柱を踏み潰してレイ氏へと飛び掛るリュカオーン。

だが大剣の刃ではなく、その腹を突きつけるような奇妙な構えを取ったレイ氏は回転を利用した流れるような動きでリュカオーンの飛び掛かりをいなして避ける。

一瞬の沈黙、リュカオーンは一切の疲労もダメージも感じさせない動きでゆっくりと俺たちの方へと振り向く。


「こういう時なんて言うんだっけな……」


「暖簾に腕押し、糠に釘……でしょうか」


全くもってその通りだ。可視化された奴のHPゲージが欲しい……いや、むしろ見えたほうが心折れるか。

リュカオーンの行動に合わせてタンクとアタッカーを目まぐるしく切り替えていく。言い換えれば片方は絶対に攻撃に参加できないこの作戦は時間がかかることは承知していたが、やはり実際にやるのと覚悟を決めるのではつらさが違う。


「レイ氏……今どれくらいだ?」


「……あと、六回です」


「そうか……分かった」


戦闘に突入する前、明らかに高額そうな強化アイテムを惜しみなく使い潰すレイ氏から伝えられた「切り札」の存在を思い返す。



───魔王天帝サタナエルのユニークスキル「アポカリプス」、天帝魔王(サタン)のユニークスキル「カタストロフィ」……両スキルを「五回ずつ使用する」という条件を満たすことで使えるスキルがあります。



それこそがサイガ-0というプレイヤーが「最大火力(アタックホルダー)」の称号を持つ所以であり、それを当てることさえできれば勝ちの目があるかもしれない。

その言葉を信じ、俺はレイ氏を守りつつもレイ氏を戦わせるという矛盾した綱渡りを敢行していた。


「クソ、好き勝手暴れてくれやがって……」


そもそもこいつ、どういう基準でヘイトを判定しているのかさっぱり分からない。

執拗に俺を狙い続けるから「呪い」持ちが優先されるのかと思えば、唐突にレイ氏へ襲いかかったりする。これでは狼というよりも猫だ、自由気まま過ぎておちおち息を吐くことも出来やしない。

とはいえ二兎を追う者は一兎をも得ず、リュカオーンが徹底的に一人を狙い続けないからこそなんとか今の均衡を保つことができている。


「月が隠れました!」


「来るか……!」


松明というアイテムがある。主に夜間や洞窟などの光が届かないフィールドで松明を中心に半径五メートルの明度を引き上げる、という効果のアイテムなのだが……


「基本的に薄暗い程度で普通に夜でも周りが見えるゲームで、んなアイテム常備してるわけねーだろうが…………右っ!!」


分身そのものの動きは通常の分身攻撃とそう変わりはない、だがその姿が見えなくなるだけで極悪度がうなぎ登りだ。

全神経を聴覚に集中し、砂でも詰めた麻袋を引きずるような音の発信源を探り、イメージだけで透明な死に形を与える。

見えなくてもそこにいる、透明でも質量がある。不可視の分身が出現した音、地面を踏みしめ走り出した音からおおよその位置を割り出した俺は、指差し声出しでレイ氏にそれを伝えつつ、全力でその場を離脱する。


「ぃぃいっ!?」


背筋を風が撫でる。自然現象じゃない、大質量に押し避けられた大気の流れと、大質量を動かすだけの肺活量によって漏れ出す吐息が、ギリギリのところで俺の背中を撫でたのだ。

レイ氏は……無事か、戦線崩壊が杞憂であったことに安堵しつつも俺はちらと空を見上げる。

月に叢雲花に風、なるほど確かに月にかかる雲は風流を感じる事もある、だが今の俺にとっては忌々しさしか感じない。

隠れていた月は雲より逃れ、その柔らかな光で俺達とリュカオーンを照らす。そして月光が辺りを照らした事で、俺やレイ氏が先程までいた場所に、消えゆくリュカオーン瓜二つの狼の姿を確かに認めた。


(やはり月光、というより光が途切れた瞬間だけ使用する特殊攻撃……どうする、タイミングが不確定過ぎて対策のしようがないぞ)


光、ライト……くそ、懐中電灯でもあればいいんだが。いや、それではダメだ、根本的な発動を食い止めなければいつか避けきれなくなる。

風の流れ、空模様。月の軌道にかかる雲はまだまだある、まさか気象そのものが敵に回るとは……………………


「いや、待て………あるぞ、透明分身を食い止める名案が」


「本当、ですか……?」


だがこれをレイ氏の前で使うのは……いいや違うな、使わない武器に価値はない、一度も履かない靴など無いのと同じだ。それに宝物は……見せびらかす瞬間が一番楽しい。

であれば迷う事は最早なく、俺はレイ氏にヘイトを頼みつつインベントリアを操作する。


「ああそうとも、確かに俺はパワードスーツを着ることができない。だけどな、何もかもがお預けってわけじゃないんだよ……! 真夜中に叩き起こすようで悪いが仕事だ!」


インベントリアより取り出しますは三つのアイテム。

一つ、ビィラックの手により在りし日の姿を取り戻した規格外エーテルリアクター。

二つ、それ(・・)を運用するための指揮棒でありホイッスルである規格外特殊強化装甲【艷羽】、その頭機殻(ヘルム)

そして三つ……【艶羽】に対応、いや【艶羽】が対応する赤色塗装に鋼の体躯。動力のない伽藍堂はただ主人からの命令を待つようにその翼を折りたたんでいる。


「さぁ、初仕事だ……朱雀!」


規格外戦術機鳥【朱雀】に、規格外エーテルリアクターを装備。

満天の星空、月下の草原に赤い機鳥が目覚める。

特殊裁定Mob

一部オブジェクト、アイテムなどは特殊な条件を満たすことで判定がMobに変更される。

戦術機獣であれば「リアクターを装着する」、死霊術であれば「一定数の特定モンスターのアイテムを消費する」

これらは恒常的なMobとして維持することができないという欠点があるものの、インベントリに収納可能である。

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