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大志の灯火を抱いて 其の二

ちょっと全体的な修正作業を行う予定です。具体的にはVIT関係で修正を行います

攻略を続けながらも、俺はこのエリアについての考察を続ける。

なにせ今回は走り抜けるが、ゆくゆくは本格的にここを探索しなければならないのだ。知ることのできる情報は可能な限り集めておきたい。

その点で言えばサイガ……もといレイ氏は極めて優秀な教師と言えるだろう。

やはりこのゲームをやり込んだ廃人なだけあって、大抵の質問には完璧な回答を返してくれる。


(あの城……中にはレベル99でも苦戦するようなモンスターがウヨウヨいるらしいが、十中八九あそこだよなぁ……)


ヴァイスアッシュからのお使いクエスト、三つのΔ(デルタ)の名を持つ装置を集めなければならない以上、あからさまに神代文明の匂いをプンプン発するあの場所は避けようもなく調べる必要がある。

本音を言えばこのままレイ氏を引き連れて調べたいのだが、それはできないし……ううむ、ままならない。


「それにしても、凄いですね……」


「ん、何がです?」


リュカオーンの呪いのお陰(・・)で雑魚だけ寄り付かない、即ちそれでもなおやってくるモンスターは全てレベル99クラスということである。

暴走する装甲車の如きハードラッグ・ライノにトドメを刺した直後、突然の言葉に何が凄いのかと振り向けば、明らかに下手な壁より頑丈そうなハードラッグ・ライノの外殻を叩き割って肉に突き刺さった大剣を抜きながらレイ氏はこちらに感嘆を込めた言葉を投げかける。


「結構、モンスターを倒してきましたけれど……一度も被弾して、ないですから」


「まぁ見ての通り一撃喰らえば死にますからね、避けタンクに特化せざるを得ないというか……」


実際はいろんなものに手を出しすぎて中途半端なステータスになっている気がしなくもない。

だがこのゲームにおけるプレイヤーの個性とはスキルも含めてのものだ、であるならばアバターの性能はやはりオンリーワンになるのだろう……ほぼ乱数(ランダム)とか攻略サイトを書く人が悶絶しそうだ。


「黒狼にも、サンラクさんと似たタイプの方はいますが、それでもある程度はダメージを受けますし……」


「まぁ、これでも色々とゲーム慣れしてますから」


バグは人を鍛える、ラグは人を寛容にする、つまりクソゲーは人を強くする。

この持論をオイカッツォに言ったところ、爆笑した後にわざわざ笑いを抑えた上で鼻で笑いやがったが、実際俺の強みはそれなのだから仕方ない。

シャンフロでは未経験だが、あの城にぶっ刺さっている腕程の大きさのエネミーとだって戦ったことはある。

塵も積もれば山となる、だがゲームを積んだら積みゲーの山になるだけだ。


「じゃあ逆にこっちも質問ですけど、レイ氏はどれくらいこのゲームを?」


「へ? あ、その、大体一年くらいでしょう、か……」


「ほぼ古参勢じゃないっすか、流石は……えーと、最大火力(アタックホルダー)?」


「そんな、あの称号はクランの皆さんに手伝ってもらった結果ですし、私だけで成したものでは……」


謙遜するレイ氏を眺めつつ、やはりゲームにおいて見た目はプレイヤーの人間性の判断にはならないな、と改めて思う。

最初会った時はゲームの為にリアルを投げ捨ててそう、とか失礼な事も思ったものだが話してみれば普通に礼儀の正しい人だ。

個人的には若干素が出かけてはいるものの、声色はロールプレイを遵守して若干低めになっているところが好印象だ。


「あ、またハードラッグ・ライノですね……ヘイトは私が……っ!」


訂正、やっぱおっかないわ。

明らかに時速40キロは出ているであろう爆走犀を真正面から迎撃してのけたレイ氏の評価を「実はいい人だけどやっぱりどこかネジが外れている人」に変更しつつ、俺は帝蜂双剣で関節をチクチクと攻撃する。

俺も人の事を言える程安全第一なプレイをしているわけではないが、それでも実質車が突っ込んでくるのを冷静に迎撃できるのはそれに慣れるほど戦い続けてきたことに他ならない。

謙虚ではあるが、やはり最大火力は伊達ではないと言うことか……優しさの仮面の下では今もこちらの動向から俺が秘する情報を引きずり出さんとしているのかもしれないな。

ここは一旦会話の主導権を取って、ボロを出さないようにするべきか?


「に、にしてもやっぱりこうも強敵ばかりくると辟易しますね」


「そうですね……サンラク、さんはその「呪い」は解除されるつもりなのです、か?」


「んー……正直少し悩んでいます」


これは事実だ。

もういい加減慣れたとはいえ、やはり装備があるに越した事はない。デメリット以上にメリットに助けられた事も事実ではあるが、それでもやはり……せめて足の呪いくらいは解除したい。


「せめてズボンくらいは履かせて欲しいんですけどね……バッファーからの支援も受けられないっぽいですし」


「解呪するにしても、聖女イリステラに会う事自体難しい、ですからね……」


「聖女イリステラ?」


まさかプレイヤーの名前ではあるまい、だとすれば「聖女」という称号には心当たりがある。


「このゲーム……と言うよりも、世界観における宗教、「三神教」の聖女……確か、「慈愛の聖女イリステラ」が正式なNPCネームだった、と、思います……」


曰く、慈愛の聖女イリステラ……通称「聖女ちゃん」はシャングリラ・フロンティアで唯一「全呪いの解呪が可能」という規格外の性能を持つ特殊なNPCであるらしく、その力はユニークモンスターによる呪いすらも解いてしまうらしい。

だがやはりというか当然というか、高レベルプレイヤーや教会のNPC達によって囲われており、そうやすやすと会える存在ではない。


「彼女に、会うためには……教会のNPCか、その……せ、「聖女ちゃん親衛隊」の方に、頼まないといけない、ので……」


前者ならば結構な額のお布施(マーニ)を、後者ならばそもそもの伝手が必要になる。

成る程、あの時サイガ-100が解呪を条件に出したのは自分達ならば聖女イリステラと会う渡りを付けられる、という意味だったわけだ。


「んー……ま、今はそこまで切羽詰まってもないんで後回しでいいですかね」


ああでも、ユニークモンスターとこれからも戦うことを考えたらやはり防具は充実させたい。というかよくよく考えたら呪いを解除しなければパワードスーツを着ることが出来ないではないか、畜生やっぱり切羽詰まっているかもしれない。


「そろそろ日が沈みますね……できればリアルの方で日を跨ぐ前にここを越えたいところだけど……」


「エリアボスの、ところへは……もう少し、時間がかかります、はい」


やはり新大陸に続く、言うなればこの大陸のゴールであるフィフティシアに続くこのエリアは他のエリアと比べても広く、レイ氏の案内で迷う事はないとはいえ時間がかかる事は避けられない。


「まぁ、流石に明日の朝まで彷徨うこともないでしょうし程々で行きましょうか」


「そう、ですね。程々で行きましょう……程々で……」













サンラクは知らない。

サイガ-0が自分の現実リアルを知っているということを。

今現在サイガ-0の案内で進んでいる道が最短ルートではないということを。


(もう少しだけ……もう少しだけ、長く)


千載一遇のチャンスを、最短で終わらせたくはない。そんなほんの少しの我儘によって、サンラクとサイガ-0は少しだけ遠回りのルートを進んでいた。





サイガ-0は知らない。

少しでも長く話していたい、少しでも長く一緒にゲームをしたい。どんな時も楽しげな笑顔を浮かべる彼のように、いいや彼と一緒に笑いたい。

そんな恋心から芽生えた些細な裏切り、サンラクから要請の半分の不履行。


それこそが二人の……否、もはや二人だけにとどまらないシャングリラ・フロンティア全体の転換点(パラダイムシフト)であったのだと。


今はまだ、この場にいる二人のどちらも知らない。








そして、もう一つ。サンラクも、サイガ-0も知らない出来事が静かに、そして確かに進行していた。


「困った時は走る! それで大体のことは解決するんです!」


「ちょっ、待、ぴゃぁぁぁあ!!」


「諦めるで御座る妹よ、此奴はそういう性質(タチ)故なぁ」


一匹は任務の失敗に慌てふためき、一匹は溜息をつき、そして一人が走り出したこと。

噛み合わない歯車は、時間と状況が噛み合わせる。それはもう少し先のことではあるけれど。



ヒロインちゃんのセリフにやけに読点が多いのはわざと声を低くしているのと、上りきったテンションを無理矢理押さえつけているからです。


・三神教

シャングリラ・フロンティアにおける最大宗教であり、この世界を創造した三柱の神を崇めている。

万象の定めと過去、現在、未来を創り出した「運命神」

天地と万物、あらゆる生命を創り出した「創世神」

生命に過酷を強いる世界に摂理を創り出した「調律神」

これらは三位一体でありながら別々のものとして扱われており、今も世界を見守っていて世界に破滅の危機が訪れた際に神獣と共に現世に降臨すると伝えられている。

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