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そして宙を舞う変態と最高火力は邂逅す

遺機装とは、用いられた素材の力を増幅し、制御する神代の技術によって製造された武器を指す。

左拳から放たれた晶弾(クリスタルバレット)は本体である左拳から放たれた特殊周波の振動を受ける事により、凡そ三メートル程の巨大な水晶柱を生成する。

この水晶柱は時間制限付きのオブジェクトであり、凡そ五秒で崩壊しポリゴンとなるが、その悪用方法はいくらでも思いつく。何せ晶弾が着弾した場所からズドンと飛び出る水晶柱である、罠にしてよし足場にしてよし……射出装置にしてもよし、だ。


「ははははは! ゲームシステムが俺の戦闘(プレイング)データを解析したとか!? 最高のオモチャじゃねーか!」


優雅……と呼ぶには少々ジタバタしすぎではあるが空中で体を捻り、ホイールを飛び越える事で時間短縮を試みる。


「華麗に着地……っとと危なっ!」


ずるんと足を滑らせ仰向けに落ちそうになる身体を、腕を思い切り前へと振り抜く事でかろうじて体勢を前へと傾ける。

危なかった、湖沼の短剣のままだったら滑り落ちていた……ちゃんと強化してやるからな。


「さぁて……四十八秒、畳み掛ける!」


インファイト+ハンド・オブ・フォーチュンのズッ友コンボ!

狭い足場ではあるが、綱の上で戦わされるよりはずっと動きやすい。振りかぶった拳をフロントフォークに叩きつけ、破壊あと一歩で耐えた亀裂にもう一発ダメ押しを叩き込んでやればバギリ、と取り返しのつかない音が響く。


「おっと、流石にヘイト(デコイ)も一分は続かないか……図が高いぞ、こうべを垂れろ!」


身体を起こし、俺を振り落とさんとするオーバドレス・ゴーレム。俺が落ちるのは割とどうにでもなるが、タイム的にあと九秒以内に死んでくれないと困る。

自ら足場としている鉄筋の上から飛び降り、落ちる先は起き上がりつつあるオーバドレス・ゴーレムの頭頂部。

さながらプロレスにおけるダブルスレッジハンマーの如く、両拳を重ねるようにして落下のエネルギーに振り下ろしのエネルギーを重ねながらスキルを二つ発動する。

一つは頭部に攻撃を当てた際に仰け反り発生率を高め、確率で気絶させる効果を攻撃に付与する「衝拳打」。そして最初から気絶効果を持ち、この攻撃で気絶させた場合気絶時間を十秒まで引き伸ばす攻撃スキル「レテ・バニッシャー」。


「気分はダンクシューット!!」


ファッションセンス皆無な泥人形の頭に黒曜の拳槌を叩き落とす。頭の頂点に命中、拳の入射角は良し、威力良し、スキル良し。

条件が満たされ、結果が連鎖する。ゴーレムに脳があるのかは知らないが、少なくともこのモンスターの核は頭にある。だからこそ背中にでかでかと弱点を背負っているこいつは、プレイヤーの間で「自殺志願者」と呼ばれているのだ。


「はっはーっ! 次の鉄槌はもっと痛いぞ!!」


真上から拳骨でどつかれたようにオーバドレス・ゴーレムが蹲るように身体を屈める。もとより着地を無視した落下であるがために、真っ逆さまに落ちる俺であったが視線の先、ついに支えを失いフロントフォークから外れたホイールがまるでスローモーションのように落ちていく。


「悪いが相打ち狙いで飛び降りたわけじゃあないんだ、くたばるのはお前だけだ」


インベントリア起動。格納空間内へと転移し、落下の勢いを一度リセットする。

何故落下ダメージがリセットされるのかを厳密に理解しているわけではないが、インベントリアは魔法ではなく神代の科学によって作られている。その辺りに魔法による転移との違いがあるのだろう。

今までも何度かインベントリアを使っているが、なんだかその度に背中を強打している気がすると背中をさすりながら立ち上がり、格納空間から退出する。再び空中に投げ出されるが、今度はちゃんと落下に備えた体勢だ。


「おっ、いい音させるじゃん」


まさしく巨大なモノ同士が激突した音と共にオーバドレス・ゴーレムの脳天にホイールが激突、見ようによってはモヒカンにも見える頭からホイールを生やした状態でオーバドレス・ゴーレムが絶叫する。


「そっちの方が人気でそうじゃん、イメチェンしたらどうだ?」


リキャストの終わったフリットフロートを使い、虚空を踏んで落下の勢いを殺す。

五メートルから落ちるのと、二メートル半落ちるのを二回繰り返すのでは受けるダメージは大きく変わる。

若干の痺れは落下ダメージを軽減しきれていない証拠ではあるが、確かに俺は二本の足で立っており、オーバドレス・ゴーレムは愉快なことになっている車輪頭を下げて、土下座するように崩れ落ちていた。


「……「ホイールを支えるだけの丈夫さがないので、頭にホイールが落ちると重さで核が潰れて即死する」。いざ実際に見てみると、後半エリアのボスとは思えぬ間抜けな死因すぎるな」


着地した俺の眼前に、ホイールが落ちてくる。いや、厳密にはホイールに押し潰されたオーバドレス・ゴーレムの頭ごと、だ。

重量と重力によって頭を地面に縫い付けられたオーバドレス・ゴーレムは二、三度身体を震わせていたが、それが止まると同時にその全身をポリゴンへと変えて爆散した。

経験値が入らないのが惜しいと言えば惜しいが……今は急ぐ事が先決だ。


青みを帯びたインゴットに触れてアイテム化させ、インベントリに放り込みつつ俺は駆け出す。

目指すは第十一の街、イレベタンタル。そこには俺が要請して二十秒で承諾の返事を送ってきた助っ人がいる。















「……………」


沈黙、ただそのプレイヤーはそこに立っているだけである。シャングリラ・フロンティアがオンラインゲームである以上、「待ち合わせ」というものはごくごく当たり前に存在する。

であるならばそれがイレベタンタルの街道ど真ん中で立っていることも、そう不思議なことではない。

道行くプレイヤー達は「ああ待ち合わせなんだな」とそれを特に気にすることなく……とは行かない。


「あれ、サイガ-0だよな……?」


「よく分からんが先発組から外れてこっちに残ったってのは聞いてたが、なんでイレベンタルに?」


「っていうか、いつ見てもすげぇな……ユニーク装備でフル武装だぜ」


「確か鎧と大剣でそれぞれ連動したユニークシナリオで獲得される「天魔」シリーズなんだっけ?」


「噂じゃユニークモンスターにも匹敵する敵を一人で倒したとか……」


そのプレイヤーの名はサイガ-0。単体としての強さも突出していながら、運営から直々に「最大火力(アタックホルダー)」の栄誉を贈られ、未だその称号を保持し続ける……即ち、変わることなくこの世界で最も高いダメージを出したプレイヤーである。

そんなプレイヤーが何故新大陸調査船トルヴァンテ・ディスカバリエ号に搭乗し新大陸へ向かうプレイヤー達、所謂「先発組」から外れてこちらに残ったのか、何故そんなプレイヤーが一人でイレベタンタルのど真ん中に立っているのか。

なるほど確かにイレベタンタルの前後のエリアはサイガ-0のような最前線攻略プレイヤーがいて不自然な場所ではない。そしてサイガ-0がプレイヤーである以上、誰かと待ち合わせすることも間違いではない。


であるならば、おおよそ一時間(・・・・・・・)待ち続けるような待ち合わせ相手とは一体誰なのか。

まさか本人に聞くこともできず、周囲のプレイヤー達はチラチラと街道ど真ん中に立ち竦む白輝の聖騎士に視線を送るのだった。

そして彫像が如く不動であったサイガ-0が動く。その反応速度は周囲のプレイヤー達は知る由もないが、ユニークシナリオ「堕ちたる天帝」、そして「昇りたる魔王」をソロでクリアした際の全身に緊張が漲った時以上のものであり、その視線の先には待ち合わせ相手が現れたのだろう。

そしてプレイヤー達は最高峰のプレイヤーを一時間も待たせた色々な意味で勇者(・・)な相手に視線を向ける。


「あー……どれくらい待たせてしまいました?」


「……今、来タトコロデス」


嘘つけぇ!

なんだあの変態!?


果たしてどちらが取り多くのプレイヤーの胸に去来したか、喉の奥まで飛び出しかかった叫びを堪えるプレイヤー達など知る由もなく、サイガ-0は人生最大の山場、陽務 楽郎(サンラク)からのお誘い(実質デート)に臨むのだった───!!!

オーバドレス・ゴーレム裏設定

オーバドレス・ゴーレムは「周囲の物体をその性質を問わず吸収し自身の一部とする」という設定上、倒された際にドロップするアイテムは去栄の残骸遺道でドロップするレアアイテムの中からランダムで選出されたものが落ちる。

そのため、弱点発見前から狩られ続けていたりします。効率厨達がタイム短縮を突き詰め続けた結果、「脳天鉄槌ルート」の発見に至ったわけです。




そして次の話以降、ヒロインちゃんが本気を出す……?

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