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レガシー・メイド・トゥ・黒兎

お知らせ

111話にてレベルアップの際に得られるステータス割り振りポイントを

ポカ1「間違えてレベル÷5してしまう」

ポカ2「量を勘違いしてレベル×10してしまう」

など諸々ミスを続けていたので顔を洗って頭をすっきりさせてからまとめました。

レベルアップ20×5+ボーナス50で150です。ご迷惑おかけしました。

俺が調べた限り、去栄の残骸遺道のエリアボスは「オーバドレス・ゴーレム」である。

所謂神代時代製のものではなく、自然発生したゴーレムであり、朽ちた神代製の残骸を鱗のように身にまとった姿はまるで着飾っているようにすら見えるという。

であれば眼前のこいつはオーバドレス・ゴーレムではない。情報を集めた際に聞いた残骸遺道を徘徊し、侵入者を撃滅するレアエネミー「オメガセルユニットゴーレムS(セキュリティ)S(スローター)」、それこそがこのゴーレムの名だ。


「レアエネミーを相手にしている余裕なんざ無い。無い、んだが………」


フィフティシアまで走り抜けるに当たって、ボスの情報はおおよそ調べ尽くしてある。オーバドレス・ゴーレムに関しては上手くいけば一分程度で倒せる可能性がある。そしてオーバドレス・ゴーレムの攻略に関しては手順が決まっている。

であれば、今の(サンラク)がどこまで戦えるのか…………そのための試金石(サンドバッグ)としてこのオメガセルユニットゴーレム……長い、オメガ箱は丁度いいのではないか?

意見の一つとして頭に浮かんだことではあるが、身体は正直じゃねえかへっへっへ……は冗談として、既に身体は動いている。


「使い心地の感想を小一時間語らないといけないからな、試運転はしないといけないよなぁ……」


兎月をインベントリにしまい、早急にステータスを割り振る。アレ(・・)が要求するステータス制限は……マジかよ耐久力300だと!? いや待て待て、装備で上げられるんだから実は無理ゲーでしたとかじゃない……戦角兜【四甲】を装備することで追加される耐久力が……よぉぉぉぉぉし500!ありがとうクアッドビートル! いやマジでありがとう!

あとは150のポイントで最低限の要求ステータス「STR100」と「TEC70」を満たし、キリよくそれぞれのステータスを上げつつ残ったポイントを全部幸運にぶち込んで……条件は満たされた。

古匠(ビィラック)によって現代に甦った神代の技術。遥かなる太古よりの遺産として名付けられた遺機装(レガシーウェポン)親愛(クソッタレ)なる水晶群蠍クリスタル・スコーピオン金晶独蠍ゴールディ・スコーピオンの素材、そして綺羅星の如きレア鉱石から作られたそれは、オメガ箱と巨大骨格の陰に光を遮られてなお、ギラリと黒曜の輝きを放つ。


甦機装(リ・レガシーウェポン):ビィラック……その名も【煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)】! ビィラック、最高の仕事だぜこりゃあ……」


思い出すのは俺が水晶巣崖へと再チャレンジに向かう直前、ビィラックが水晶群蠍の素材で遺機装を作りたいと俺に申し出てきた時、何を作ればいいかと聞かれて俺が答えた言葉。




──────作るのなら、双剣じゃなくて格闘用のガントレット的なものを頼む。




「気炎万丈! いいねいいね、最高に燃えてきた!!」


ガギィン! と俺の両腕を肘まで覆う、水晶群蠍と金晶独蠍それぞれの頭部を模した籠手(ガントレット)をぶつける。その大きさたるや、片方の拳部分だけで人の頭とほぼ同じ大きさだ。そのSFチックな見た目も相まってメカ腕にすら見えるそれは、初陣にて勝利を掴むべくただの鋼ではあり得ない駆動音を静かに響かせる。

一見するとただの漆黒のガントレットのようにも見えるが、黒曜の装甲の隙間から見える水晶の輝きは右に黄金、左に蒼銀の輝きを秘めている。


「いい加減素手で殴るのは勿体無いと思っていたんだ。」


スキルインファイト、そしてハンド・オブ・フォーチュン……この二つのスキルを俺は常に素手で使用していた。

オイカッツォのように「素手であること」に意味があるのならばそれは仕方のないことだ、だが傭兵にそんな縛りは存在しない。それはつまり俺はずっと最低威力(・・・・)で格闘攻撃を放っていた、という事実に他ならない。だからこそ俺はビィラックに格闘用装備を作って欲しいと望んだ、だがそれ以外にも理由はある。

俺はこれまで数多のクソゲーをプレイしてきた。そしてそれぞれが異なる攻略法を必要とする以上、様々な武器を扱ってきた。それは銃であり、剣であり、槍であり、杖であり……当然拳も使ってきた。

およそどんな武器でも三十分くらい練習すれば使いこなす自信はあるが、そんな俺にも「得意な武器」というものは存在する。例えば、人外格ゲーでメインで使っていた格闘術とかな。


「神ゲーにクソゲーの要素を持ち込むことは非常に心苦しいが……だが言わせてもらうぜ箱野郎」


向こうもまた戦闘態勢に入ったオメガ箱に左拳を突きつけ、四本角の兜越しに不敵な笑みを浮かべて俺は告げる。


「イアイフィスト流の真髄ここにありってな、1ラウンドでノックアウトしてやる」


その言葉が合図となったわけではないが、互いに動き出したのはほぼ同時だった。

積み重ねた紙束を一枚ずつずらしていくように、手札として引いたカードを扇状に持つように、腕に相当する箱部分が薄い板状にスライドして板を並べた鞭状の腕が振りかぶられる。どこかで見た覚えがあると思ったが、蛇腹剣に似ているのか。

俺を断裁せんと、板の羅列が刃のように振り下ろされる。だがその程度の素直な軌道、ぬるめの速度、細すぎる当たり判定に引っかかるほど耄碌しちゃいない。俺に当てたいなら当たり判定をあと二メートル拡張した上で12フレーム以下にしてから出直してこい。

顔を守るように構えたボクシングフォームのまま横にステップ、そしてオメガ箱の「腕」攻撃が地面に着弾したと同時に一気に距離を詰める。


「さぁ、火力検証だ」


超至近距離攻撃に補正を入れるインファイト、そして幸運の数値でダメージ判定を行うハンド・オブ・フォーチュン。俺が持ちうるスキルの中ではニトロゲイン、クライマックス・ブーストのコンボに匹敵するズッ友コンボである一連のスキルを起動。

左足を前に踏み出し体を後ろに傾けるような姿勢で助走から拳を振りかぶる体勢に。お前単体でもボスキャラ張れるよと言いたくなる三メートル程度の巨体……狙うは四つある節脚の付け根。

左足に全体重をかけ、地面を踏み込み右腕を振るう。この大陸における後半エリアのレアエネミーといえど、こちとらレベル99である。ソロであることを差し引いても脚の関節という耐久力が削られがちな部位に高火力を叩き込まれては素知らぬ顔でノーダメージとはいかない。

生命なく、魂もない故に「呪い」を恐れない過去の箱人形。例え相手が自身より強い相手であってもそのゴーレムが為すべき任務が変更されることはない。侵入者の排除、ただそれだけがオメガ箱……オメガセルユニットゴーレムS(セキュリティ)S(スローター)の存在意義。

だがな、キャラを立たせたいなら最低ライン感情を持つくらいしないとロボは生き残れないんだよ。

ちなみに主要人物を守るために半壊、もしくは全壊するまで自身を犠牲にして機能停止の間際に花を見て情緒ある台詞を言えればロボキャラでも人気投票上位は間違いなしだ。つまり何が言いたいかというと所詮レアエネミーとして出てきたお前はワンチャンすらないってことだ。

金晶独蠍を模した右拳が四つある節脚の一つ、膝に相当する部分にクリーンヒットする。無論クリティカルを外すようなヘマはしない、ガントレットを通して右腕に伝わるのは会心の手応え。

ヒビの入った膝関節は今の一撃が奴の耐久を上回っって大打撃を与えたということ。オメガ箱は自身の足元にいる敵を抹殺せんと動き出すが、こちらの方が三手(・・)早い。


「へし折る!」


右腕を振り切った余韻を強制的にねじ伏せ、左腕に力を込める。ハンド・オブ・フォーチュンの火力は見込めないが、今の俺のSTRは幸運に匹敵する火力を発揮できる。真下からすくい上げるようなアッパーカットを亀裂の入った膝関節へと叩き込む。

ベギョリと亀裂がさらに広がり、張り詰めていた節脚から力が抜ける。砕けて千切れなかったのは破壊属性を帯びていないからか。だが重要なのは脚の一本を破壊したという事実だけだ、スキル込みクリティカル二発確定か……スキルなしクリティカル二発確定だったらよかったんだが、贅沢は言っていられない。


「ただでさえ寄り道なんだ、速攻で片付けさせてもらうぜ!」


俺はさらなる一撃を残る節脚に放ちつつ、ただ一人強敵へと挑むのだった…………






二十分かかった。大ガバじゃねーか!!

感想欄で質問された内容ですが、説明すべきと考えましたのでここで説明します。

ユニークモンスターによって付与される「呪い」ですが、例外的にその効果を受け付けないモンスターが存在します。

まずエリアボス、例えそれが貪食の大蛇であったとしても彼らが逃走することはありえません。

そしてボスではないモンスターの中にも逃走しないモンスターが存在します。それが「そもそも命を持っておらず、なおかつ生物でもないゴーレムなどのモンスター」です。ここで注意すべきはこれに該当するゴーレムは「神代製のゴーレム」のみで、「自然発生ゴーレム」は該当しない、ということです。

ちなみにアンデッドなどのモンスターは「肉体に残留した本能が反応して逃走する」という判定です。

ぶっちゃけ後付け設定なのですが、意外にユニークモンスターの設定と噛み合ったのでこれでいきたいと思います。



・遺機装の表記について

基本的に遺機装:「何由来であるか」 「装備名」となっています。

古匠によって新造されたものは発掘される過去に作られたものと差別化され、甦機装(リ・レガシーウェポン)と呼称されます。

ですので実はインベントリア内にあった武器は厳密には遺機装ではないんですね、ペンシルゴンがそこらへんを知る由もないので普通に遺機装呼びしていましたが。

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