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駆けろ、焦燥を燃料に

あまり使いたくはない手札ではあったが、俺はなんとしても明日までにフィフティシアに到着しなければならない。

その為には去栄の残骸遺道を、そしてその先にあるイレベンタルから続く無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)を早急に走破しなくてはならない。

それをソロで敢行することが如何に困難なことであるかはさすがの俺でも理解できる。であれば増援が必要だ、それも俺が急いていることを過剰に問い詰めてこない助っ人がだ。


「あの人怖いんだけどな……まぁ、手段は選んでいられない」


半ば道具として利用するようで少しだけ申し訳ないが、ペンシルゴンが言うように利用できるものは何でも利用するべきだ。それを使い捨てるのか、成果に応じて餌を与えるのかは結果次第……これどう考えても悪役的思考な気がしてならないが、今の俺はちょっと手段を選んではいられない。

それに元々、明日までにフィフティシアに向かわねばならなかった以上、助っ人の存在は必須だったのだ。


「合流場所はイレベンタル……よし、行くか」


エムルはラビッツに残している。あいつには任務……「アキツアカネ」なるプレイヤーがログインした時点で俺に報告する、あわよくば俺が「アキツアカネ」に会うまで足止めをする、という重要な任務を任せている。

「致命兎叙事詩」という切り札が切り札として機能するかどうかの分水嶺はあいつにかかっていると言っていい。

「アキツアカネ」……一体何をしでかして(・・・・・)ユニークシナリオ「兎の国からの招待」のフラグを立てたのかは知らないが、相当のプレイヤースキルを持ったプレイヤーであることだけは間違いない。

そんな相手にどうやってユニークシナリオ……というか「ヴァイスアッシュ」というNPCについて箝口令を敷くか。

そもそもなぜここまで必死になってラビッツの情報を隠そうとしてるのか自分でも分からなくなってきた、どちらにせよ「兎の国からの招待」を発生させる難易度クソ高いし、バレたところで兎御殿にプレイヤーが増えることはそうそうないとは思う。

だが今はプレイヤー関係で面倒な地雷を抱えているんだ、ここで「ヴォーパルバニー関連のユニークモンスターがいる」なんて判明してみろ。きっと今以上にプレイヤーが俺に押しかけてくるだろう。


「アイテムで釣る……いや、難しいな。いっそのこと身内にしてしまうというのはどうだろうか」


そもそも俺は完全なソロプレイヤーではない。クラン「旅狼(ヴォルフガング)」……俺、オイカッツォ、ペンシルゴンの三人で一つのコミュニティを作っている以上、一人は皆の為に(ワン・フォー・オール) 皆は一人の為に(オール・フォー・ワン)というわけではないが最終的に「旅狼」が大勝利すればいいわけだ。

であれば件の「アキツアカネ」氏を「旅狼」に引き込んでしまえばユニークシナリオEX「致命兎叙事詩」の独占は実質的に破綻しない。どちらにせよユニークシナリオEXを一人でクリアできるなんて思っちゃいない、いつかはバラさなければならないことではあった。

だが、アキツアカネ氏以前に俺はルスト&モルドを「旅狼」に加入させるよう外道二人(あいつら)に推薦するつもりだった。勝負で負けてさらに誘惑にも負けたという面を差し引いてもルストとモルドは戦力になると判断してのことだ。

聞けばあの二人、フィフティシアまで到達しただけあってシャングリラ・フロンティアでも結構な強さを持っているらしい。確かルストがLV.85でモルドがLV.87なんだとか。


「あ、そうだ」


レベルといえば、俺のレベルは今どうなっているんだろう。水晶群蠍を大量に落下しさせ、金晶独蠍を倒した以上俺は莫大量の経験値を獲得したはずだ。ふとそれを思い出しステータス画面を開いた俺は、去栄の残骸遺道ど真ん中でステータス画面を開き……絶句する。


「ちょ、おま……………………」







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PN:サンラク

LV:99 Extend(150)

JOB:傭兵(二刀流使い)

62,000マーニ

HP(体力):40

MP(魔力):50

STM (スタミナ):100

STR(筋力):70

DEX(器用):70

AGI(敏捷):90

TEC(技量):65

VIT(耐久力):2

LUC(幸運):104

スキル

・獣鏖無尽→選択可能

・グローイング・ピアス→選択可能

・インファイトLv.MAX

・ドリフトステップ→選択可能

・セツナノミキリ→選択可能

・ハンド・オブ・フォーチュンLv.MAX

・グレイトオブクライム→選択可能

・クライマックス・ブーストLv.MAX

・八艘跳び→遮那王憑き

・リコシェット・ステップLv.MAX

・ヘイト・トランプルLv.MAX

・スカイウォーカー→選択可能

孤高の餓狼(トランジェント)月狼の誇りマーナガルム・プライド

・オフロードLv.MAX

・致命刃術【水鏡の月】玖式→致命秘奥【ウツロウミカガミ】

・イグニッションLv.MAX

・オーバーヒートLv.MAX

・ニトロゲインLv.MAX

・デュエルイズム→血戦主義

・衝拳打Lv.MAX

・テンカウンター→レテ・バニッシャー

・パワースラッシュLv.MAX

・一振両断→壊刀乱魔

・致命剣術【半月断ち】参式

・武頼闘気Lv.1

・剣舞【紡刃】

・パーシスタンド

・アクロバットLv.1

・メロスティック・フット




装備

右:兎月【上弦】

左:兎月【下弦】

頭:凝視の鳥面(VIT+2)

胴:リュカオーンの呪い

腰:無し

足:リュカオーンの呪い

アクセサリー:格納鍵インベントリア

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そう言えば腰装備つけるのずっと忘れていたな、とか数時間ひたすらスキルを起動させ続けていただけあって新しく覚えたスキル以外のほとんどがスキルレベルMAXか次段階を選択可能になっているな、とか様々なことが頭をよぎるがやはり一番目を引くのは現状たどり着くことができる最大レベル「99」の後ろに追加された拡張(Extend)の文字。

ウェザエモンと戦っている真っ最中に行われたというアップデートでレベルキャップが開放された、というのは知っている。であればこの拡張を意味する「Extend」はレベルキャップ開放の前段階と考えるのが妥当か。

いや、それよりも99、レベル99である。金晶独蠍だけでレベルが20も上がるとは思えない、仮にソロ討伐だとしてもだ。だとすればやはり落下死した大量の水晶群蠍は俺に経験値をもたらしていた、これはヤバいんじゃないか?

実質インベントリアがあればお手軽レベリングである、バカバカしすぎて鰻やらロブスターやらを釣ってる場合じゃないぞ。くそ、ラビッツを出る前に気づけていたらエルクのところに寄っていたんだが…………というかこれ、レベルキャップを開放しないと新しくスキルを覚えることも、スキルを強化することもできないのではないだろうか。

上限に達して拡張までしてしまった(サンラク)という存在(アバター)が、さらなる高みを目指すためにはレベルという限界をぶち破れということか。色々と一段落ついたらレベル上限について調べてみよう。


「邪魔!」


雑魚に構っている時間はない。一旦ステータス画面の確認を切り上げて寄ってきたゴーレム……ゴーレムだよな? どう見ても三角木馬以上でも以下でもないなんだか邪気を纏っていそうなゴーレムから全力ダッシュで逃走する。

ステータスやらスキルやらは色々と検証と整理の必要があるものの、レベル99に到達した今の俺ならばフィフティシアまでの全力ダッシュもやりやすくなるというもの。

そこらの雑魚など脇目も振らず、エリアの性質上入り口が巨大骨格の首側であるなら出口は尻側であることは自明の理であり、ただまっすぐ進めばいいというシンプルさは今の俺にとっては大助かりだ。

聞く話によるとフォスフォシエからフィフティシアへとまっすぐ進む「フォスフォシエルート」以外に二つある「ファイヴァルルート」と「シクセンブルクルート」に立ちはだかるエリアは出口まで一直線ではないエリアばかりであるという。もしそちら側を選んでいたら、フィフティシアに着くまでに消費する時間はもっと多くなっていただろう。


武器を振るう時間すら惜しいと言わんばかりにスタミナゲージを乱高下させながら走りつつ、俺はごちゃごちゃした思考をまとめてやるべきことをまとめて順序立てていく。

まず突発的に発生した重要事項……便宜上「アキツアカネ問題」であるが、これはとりあえずは後回しにする。アキツアカネ氏の出現をこちらで制御できない以上、エムルからの報告を待つことしかできない。

次にファイヴァルへと到着する……便宜上「ファイヴァル到達RTA」であるが、まず予定として俺一人で去栄の残骸遺道を突破する。そして本日の夕方に会うことを約束しているある人物と合流し次第、フィフティシア到達に立ちふさがる最後の関門……無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)を攻略する。

本来はこのエリアでユニークシナリオEX「致命兎叙事詩」で課されたお使いクエストをクリアしなければならなかったのだが、残念ながら今日に限っては最後尾まで後回しにすることにした。

そもそもなぜこうも急いているかと問われれば、ルスト&モルドと明日の朝8時までにフィフティシアで合流しなければならないからだ。

なにせルストに「パワードスーツを貸す」と約束した以上、俺はオイカッツォとペンシルゴンを説得しなければならない。そのための手土産としてユニークモンスター「深淵のクターニッド」の情報を用意する……まではいいのだが、ルスト達曰く深淵のクターニッドに通じるかもしれない(・・・・・・)ユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」はフィフティシアで受注しなければならない。

仲良くなったとはいえ、俺とルスト達の関係は「赤の他人」である。シャンフロ内でフレンド関係にあるわけでもなければ、メールアドレスを交換するほど交友関係があるわけでもない。つまり口約束で現地集合である、こういう時SNS的なものをやっていなかったのが悔やまれる。

要するに、だ。口約束とはいえ明日の朝七時までにフィフティシア「破落戸(ならずもの)通り」に行かなかった場合、下手をすれば深淵のクターニッドに通じる手がかりが消失しかねないのだ。


「早ければいいってもんじゃないな!」


時間にゆとりを、これ大事。

過去の自分の考え無しの突っ走りを殴って止めれたなら……と未来の自分にしかできない特権である「過去を悔いる」アクションをしていると……不意に俺を覆うように影がさす。


「なん………」


「DNAスキャン……不一致(フイッチ)、コードスキャン……不所持(フショジ)登録該当(トウロクガイトウ)セズ。最終決定(サイシュウケッテイ)、シンニュウシャ、ハッケン」


上を見上げてそれ(・・)を見てしまった俺は、走る足を急遽バックステップに変更し、戦闘態勢に入る。

そしてそれは俺の眼前へと着地し、無機質な単眼をこちらへと向ける。若干の軋みを帯びてはいるが、その戦闘力に翳りのないいくつもの箱をくっつけたものを大雑把に人の形にして、蟹や蜘蛛の足のような機械仕掛けの節足を取り付けたようなそれ(・・)は、至極単純にこれから俺に対して何をするのかを宣告する。




「ハイジョシマス」

・レベルキャップ

シャングリラ・フロンティアでは夏の大型アップデート以前までレベル上限は99であった。

しかし、プレイヤー達の手によって完成したエインヴルス王国による超大型新大陸調査船「トルヴァンテ・ディスカバリエ号」が完成したことにより新大陸への航路が開かれた。そして待ち構える未知の中で、開拓者達は新たな強さを得ることになる───

という設定により、プレイヤーのレベル上限が開放された。と言っても無条件の開放ではなく、まず前提として「レベル100以上のモンスターを倒す」条件を達成してレベル99 Extend状態になる必要がある。

そして新大陸で特定条件を達成することでレベル上限が99から150になる。

レベルキャップが開放されるまでわざとレベルを下げるなどの涙ぐましい努力でスキルを強化していたプレイヤー達の歓喜の叫びが響いたとか響かなかったとか。

ちなみにすでにレベル上限開放プレイヤーは続々と増えています、具体的にはキョージュの奥さんとか。

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