何をすべきか、何を目指すべきか、何に頼るべきか
「はぁ……」
結局のところ、ガンメタ決められて虐殺されたフィドラークラブは見事に蟹鍋にされ、キングスギャンビット丸パクリの機体で俺を虐殺したルストはそれはもういい笑顔を浮かべていた。
「これからよろしく」
「いやなんというか……すいません」
「ああ、いいよいいよ……これに関しちゃ俺が油断してた」
まぁ、後出しジャンケンできて勝つためのモチベーションがあるならそりゃあメタを張るよな。とりあえずキングスギャンビットをメタる構築を絶対に作ることを心に誓いつつ、俺は改めてルストへと向きなおる。
「上手いこと乗せられたが……本命はここからだろう? 確かに俺は、というか俺とあと二人いるんだが、その三人で所有権を持つSF的な装備がある。その二人を説得できれば使えるかも……しれない」
即ち、俺だけを説得しても意味はない。ルストが強化装甲を、引いては戦術機獣に乗りたいと願うのであれば、妙なところでシビアなオイカッツォと、ラスボスたるペンシルゴンを説得しなければならない。
その点で言えば言葉ではなく
とりあえずユニークを自発できていないオイカッツォはこれで黙らせることができる。俺がログインしていない間に奴がユニークを見つける可能性は……見つけたら見つけたで恐らくもっと
問題はペンシルゴンだ、自称「ポーカーの勝率七割」が現実味を帯びる奴を説得することは並大抵の事ではない。気づいたら向こうの有利になる約束を取り付けられていた、なんてこと多々ある。
であればユニークモンスターの情報は有力ではあるのだが、俺から言わせて貰えば
「決定打が足りない」
「決定打?」
そう、これを知る者は少ないがユニークモンスターへ繋がるシナリオにはEXがつく。そして恐らく現状これを知るのは俺くらいの情報がもう一つ、それこそが「ユニークモンスターへ繋がるかもしれない」という曖昧な情報を信じた理由でもある。
「一応聞くけど、その「深淵のクターニッド」に繋がるシナリオの内容を聞いても?」
「……モルド」
「はいはい……ええと、ユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」はフィフティシアで受注できるユニークシナリオです。内容としてはNPC「自称大海賊
スチューデ」の依頼で幽霊船を追う、というものです」
「あー、敬語はいいよ」
「あ……じゃあそうさせてもらうよ。僕達はフィフティシアでこのシナリオを受注だけはしたんだけど、その時にその幽霊船……クライング・インスマン号の情報を聞いたんだ。その自称大海賊曰く、幽霊船は攫った人間を「深淵の盟主」に捧げるんだって」
深淵の盟主……成る程、確かにそれ自体は別のユニークシナリオでも本命のEXに繋がっている確率は高そうではある。
だがこれでは足りない、「かもしれない」では交渉材料になり得ないのであれば推測を確定させなければならない。
「やっぱり決定打が足りないな……」
「だからその決定打って、何?」
「ユニークモンスターに直接関わるシナリオには後ろにEXが付くんだよ。だから交渉材料とするならユニークモンスターへ「繋がるかもしれない」、じゃなくてユニークシナリオに「繋がる」っていう決定打が必要だ」
つまりはだ。
「その「深淵の使徒を穿て」をクリアして、ユニークシナリオEXを発生させなければ交渉材料にはなり得ない」
「あっ、サンラクサンですわ!」
なんだかとても久しぶりに感じるシャングリラ・フロンティアへとログインした俺は、びょっ! と飛びついてきたエムルを頭に載せつつ、驚くべき情報を聞くことになった。
「ラビッツに……俺以外の人間が?」
「はいな! シークルゥおにーちゃんが「実にあっぱれな人間にゴザル!」って連れてきたんですわ!」
「そうか……そうかぁ……」
ここに来たということはつまり「兎の国からの招待」のフラグを立てたプレイヤーが俺以外に現れたということ。
それ即ち、ユニークシナリオEX「
「不味い……これは非常に不味いぞ……」
切り札とは自分だけが持っているからこそ他の手札と隔絶した効果を発揮する。もしもそのプレイヤーが「兎の国からの招待」の情報をネットで拡散などしようものなら、俺が持つアドバンテージが霧散しかねない。
所詮シャンフロの1プレイヤーでしかない俺にはプレイヤーに、それも同じクランやフレンドならともかく、面識のない赤の他人に対して箝口令を敷くことは出来ない。
ちくしょう、そもそもあのクソ激高難易度のフラグ発生条件を満たす奴が現れるとは……どうする、ペンシルゴンのように策を練らねば切り札がシャンフロ全プレイヤーに開示される、なんて面倒なことになるぞ。
ただでさえSF-Zooという不発弾を抱えているのに、ラビッツにユニークシナリオEXがあるなんて発覚した日には黒狼やライブラリまで出張ってきかねない。ペンシルゴンに相談するか? いや、その前にルスト&モルドとの約束がある、いやしかしそれよりも最優先事項はもう一人のラビッツ入国者の対処であって……
「だぁーっ! 頭がこんがらがる!?」
「ぴゃああ!?」
ぐわんぐわんと俺が頭を揺さぶったことで、頭の上に載っているエムルが悲鳴をあげるが、今の俺はそれどころではない。
「エムル、そのもう一人のプレイ……じゃない、開拓者の名前ってわかるか?」
「ええと……確か「あきつあかねどの」ってシークルゥおにーちゃんは言ってたですわ」
あきつあかねどの……秋津茜殿? 殿は敬称として「
「すまん、ちょっともう一回寝る」
「ふぇ!?」
「すぐ起きる!」
「それ寝るって言うですわ!?」
「仮眠だよ仮眠!」
ログアウトし、すぐさまインターネットで「兎の国からの招待」「ユニークシナリオEX」で検索。五分ほど調べて、どうやらまだネット上でその情報が明らかになっていないことを確認する。
すぐさまログイン、なにやらあわあわしているエムルを頭に載せつつ自室を出て廊下を駆ける。
「エムル、そのアキツアカネってやつ……もしくはシークルゥってやつに会いたいんだがどこにいる?」
「アキツアカネサンはおとー……カシラが戻ってくるまで寝る、ってお部屋ですわ。シークルゥおにーちゃんはふらっといなくなるからわかんないですわ……」
く、今すぐ会うことはできないか。時は金なりとは言うが一秒経過するごとに焦りが俺の身体を焼いているようにすら感じるぞ。自分の力ではどうしようもない展開にこれほどやきもきさせられるとは……いや、落ち着け……落ち着け……
「そうとも、これは乱数だ……「アキツアカネなるプレイヤーが情報を拡散しない」という乱数を引けるかどうかの……ああああちくしょうめっちゃ低乱数としか思えない!」
「乱数って何ですわ!?」
「世界のルールだよ!」
そう叫びつつ、心を落ち着かせるために割りと全力で頬を両手でぶっ叩く。他のゲームと比べても「感覚」のリアリティが優れているとはいえ、過剰な痛みはゲーム全体で規制されているため痛みとは違う痺れが頬を撫でる。
落ち着いたとは言い難いが、思考に余裕はできた。今どうにもならないことに悶々としてもどうにもならない、出来ることをするんだ。
積み上がったやるべきこと、やったほうがいいこと、やらなくてもいいこと……猫が遊んだ後の毛糸玉以上にこんがらがった思考の欠片を並べて揃えて整理して、より大局的なプレイチャートを作り上げる。
「エムル、とりあえず俺はやらねばならないことがあるのでソロで走らなければならない」
「は、はぁ……」
「であるからして、エムルお前に重要な任務を言い渡す」
「じゅ、重要………アタシにどんと任せるですわ!」
俺は
「ビィラック! 例のブツは完成してるか!?」
「お、おぉ……ワリャか…………くくく、出来ちょるわ……わちの最高傑作……その名も!「ギル──」
「これだな! いい出来だ、もらっていく!」
「ちょお!? ワリャ、もう少し話をじゃな……」
「あとで使い心地と一緒に小一時間感謝の言葉を送るからさ! じゃあな!」
背後で「おどりゃああああ……りゃぁぁぁぁぁ……りゃぁあ………!」とキレたやまびこが聞こえてきたが、無視だ無視。
「ここから先は
その為にやるべきことは一つ。俺はエムルに頼んで
ここらへん、プロット書いてて「主人公やること多すぎだろ(笑)」と個人的にニマニマしてました
・ヴォーパル魂
実は隠しパラメータとして存在していおり、特定条件を達成した上でなおかつ「一定値以上のヴォーパル魂」を達成することでユニークシナリオ「兎の国からの招待」が発生する。
例えばそれは「夜の帝王に果敢に挑み、死の瞬間まで致命の攻撃を当て続ける」ことであったり、例えばそれは「天空の覇王に果敢に挑み、彼の竜王の弱点に致命の一撃を当ててみせる」ことであったり………
実は「アキツアカネ」はすでに作中に登場しています。