肥えた価値観をクソゲーで濯ぐ
「あれ、サンラクじゃん。「便秘」は卒業したんじゃなかったの?」
「相変わらずいつ来てもいるのなモドルカッツォ。久しぶりに理不尽ゲリラリズムゲーやりたくなってな。あ、そうだフェアクソクリアしたぞ。」
「マジかよ!俺ラスボスで投げたわ。」
「覆面海パンかつ素手で三十分くらい殴り続ければラスボス余裕だぞ。」
「覆面海パンがパワーワードすぎるんだよなぁ……オッケー今晩倒してくる、俺もフェアカスブン殴るんだぁ……」
デイリーのログイン人数が百人以下という、なぜ未だにサーバーが残っているのか不思議なレベルで過疎っているため、もはや殆どのプレイヤーが知り合いだ。
今の俺は半裸の鳥仮面サンラク……ではなく、イアイフィスト流免許皆伝の
神ゲーを長時間プレイしたせいで禁断症状が出たのでクソゲー成分を補給……
というわけではないが、少し思うところがあったので久しぶりにクリアしたクソゲーの対戦環境に戻ってきたのだ。
ベルセルク・オンライン・パッション、略してベンP、便秘。
シャンフロを買う前の俺が購入し、やり込んでいたゲームである以上このゲームはクソゲーであると断言できる。
元々クソゲーの片鱗が見え隠れしていた「ベルセルク・オンライン」の続編としてサービス開始されたパッションであるが、ダウンロード版のプレイヤーはまだマトモにプレイできるにも関わらず、なんとパッケージ版は最早別ゲーレベルのバグまみれのクソゲーだったというフェアクソとは別方向でのレジェンドオブクソゲーだ。
「モドルカッツォ、軽く
「おk、ルールは当然……」
「「
俺が飛ばしたバトル申請を同じ穴のムジナ……クソゲーが一周回って超次元バグゲリラリズム格ゲーと化した便秘にほぼ常駐している
周囲にバトル開始のメッセージウィンドウが表示され、俺とモドルカッツォを囲むようにバトルフィールドが構築される。
「お、バトル成立したのか。」
「モドルカッツォと……お、サンラクじゃん!!」
「サンラクって確か卒業したんじゃ……?」
「クソゲーマニアは定期的にクソゲニウムを補給しないと死ぬからな、戻ってくると信じてたぜ。」
散々な言われようだが、対戦をするにも過疎りすぎて逆に対戦が成立しない領域に到達したこのゲームでは誰かがバトルを始めれば自然とこの場にいる全員が観戦にやってくる。
それも現状このゲーム最強のプレイヤーたるモドルカッツォのバトルともなれば尚更に。
「お前がフェアクソに挑んでいる間、俺はさらなる研究の果てに新技を生み出した!ストレート勝ちしてやるから覚悟しとけよ!!」
「ハッ、俺はイアイフィスト流免許皆伝闘士として脳死居合拳最強説をより確実にするんだよ!!」
ゴングが鳴ると同時に、モドルカッツォの身体が
「うわキッモ!!」
「喰らえ!R18触手アタック!!」
首や手足が数倍に「伸びた」モドルカッツォの手が宣言通り触手のように俺へと襲い掛かる。
それに対して俺はポケットに入れた拳を居合のように抜き放って襲い来る手……手?を弾く。
そして次の瞬間、俺とモドルカッツォの姿が消え、互いに全く別々の場所へと瞬間移動する。
「本当反応速度がイカれてんなお前、今の掴み攻撃ディレイ入れたのに普通に対応するとか……。」
「イアイフィスト流は12フレームあれば理論上ボスの即死攻撃もノーダメでカウンターに持ち込める最強スタイルだからな、ていうかそれ感覚どうなってんだ?」
「首と手足がワカメになった感じ?」
「おいバカ覆面海パンを超えるパワーワードを出すんじゃない!!」
このゲームがクソゲーながら未だにニッチな人気がある理由がこれ、なんでもありならぬ通称「
このゲームをパッケージ版でプレイすると……普通のゲームなら致命傷レベルのバグ、例えばアバターの形が崩壊する、突然瞬間移動する、一時的に無敵状態になる……などの明らかに製作の設計外のバグを
これにより「便秘」は
一応このゲーム、本来は格ゲーでストーリーモードもあるのだが人外バグが敵MOBにも適応されるせいでどうしようもないくらいに収拾がつかなくなっている。
人間の動体視力を完全に凌駕する6フレーム、秒に換算すると驚異の0.1秒で発生する射程距離フィールド全体とかいうラスボスのパンチは予備動作に合わせてカウンターをしないと攻略不可能という極まりっぷりだ。
そしてついたあだ名が「超次元バグゲリラリズム格ゲー」、突発的に発生する
一応フルダイブゲームである便秘では既存の格ゲーの常識は全く通じない。
何せそもそもの前提である「自分が人の形をしている」という基本をぶち壊さなければならないのだから。
そして俺がこのゲームに戻ってきたのは、巡り巡ってシャンフロのためなのだ。
VR格ゲーの登場で既存のディスプレイとアケコンでプレイする格ゲーマーはほぼ絶滅しました。
実際にキャラクターとして体を動かすVR格ゲーではリアルでも強いやつが有利……というわけではなく、「ゲームで体を動かすことが得意」なプレイヤーがVRゲームにおける強者です。
そのため、リアルでは貧弱でもVR内ではパルクールもかくやな動きができるプレイヤーも存在します。主人公はその類です。