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これは戦いではない、捕食者が非捕食者を捕らう狩りである

投稿が遅れたことを謝罪します。予約投稿がズレてました……

緋翼連理(ヒヨクレンリ)

二度の戦闘と他のプレイヤー達から聞いた話を纏めて分かった事は、あの機体の真の恐ろしさはプレイヤースキルが大部分を占めているということだ。

あのアシンメトリーな配置のブースターによって可能とする不規則機動はロボゲーで対応できる動きではない……というのがプレイヤー達の総評だ。

実際のところ動き自体はそう複雑なものではないが、それを機衣人(ネフィリム)という上着を着た状態で対処するのが非常に難しいのだ。


「それがロボゲーの特徴なんだけどな」


話は変わるがオイカッツォ……奴には苦手なゲームカテゴリがある。それこそがロボゲーであり、反応、対応、操作にロボというワンクッションを挟むロボゲーは格ゲーとは似て非なるものだ。

故にこそ、カッツォのやつはロボを操作するタイプの格闘ゲームは専門外であるとぼやいていたし、それを承知の上で奴をロボゲーでフルボッコにしたこともあったが……今現在の問題はルストだ。

機体武装からも分かるが奴の得意な距離はショートレンジとミドルレンジ、それでいて遠距離狙撃も普通に回避する操縦スキルは伊達に絶対王者として君臨してはいない。

だが言い換えればそれは向こうも俺を倒すためには最低でも中距離まで近づいて来なければならない。


「どちらにせよあのモルドって奴がついてる以上、キングフィッシャーじゃ勝つのは難しい」


聞けば、あのモルドというプレイヤーが所謂オペレーター的な存在らしく、今朝の試合でも俺の動きをルストへと伝えていたらしい。

オペレーターとしての相方を使わないソロプレイヤー相手ならともかく、もう一つ目があっては機動力でのかく乱の効果は半減かそれ以下まで落ち込むだろう。

過疎ゲー故、オペレーター付きのプレイヤー自体が少数なのもあるが、緋翼連理の最強伝説を影から支えるのがモルドというわけだ。


「おうキングフィッシャー、こいつを受け取ってくれや」


「ナニコレ」


「ランキング戦での緋翼連理のバトル記録だ、明日の朝再戦するんだろう? 参考にしてくれや」


「……いいの?」


「俺ぁお前さんのファンなんだ。あの機衣人(ネフィリム)……イカした姿を見せてくれよ」


「カニだけどな……まぁいいや、明日の朝を楽しみにしてな」


古参プレイヤー達は皆、無敗の不死鳥が沈む姿をどこかで願っている。現環境に於けるトップスリーの内の二人……へっぽこナイトの「キングスギャンビット」にスーパー玉男の「跳弾猟犬」を打ち破った俺というプレイヤーに様々なプレイヤー達が緋翼連理の情報を持ってきてくれた。

というのもルストが掲げるポリシーの中に「負けるまで機体を変えない」というものがあり、緋翼連理以外の機体が見たいと望むプレイヤーが多い事が俺を支援する理由の一つらしい。


「別にランキング戦以外くらい別の機体を使ってもいいだろうに、ルストも意地になってるから緋翼連理以外を使わなくなってる、って相方のモルドのやつがボヤいててな……それにボスキャラにしたって見飽きちまうからなぁ」


「そうそう、緋翼連理自体はそこまで飛び抜けた構築でもないのに勝てないんだよなぁ……へっぽこナイトなんか緋翼連理をガンメタした構築なのにフルボッコにされるしさぁ」


「うるさいよ! 玉男とルスト以外には普通に勝ってるだろ!」


「正直言ってかつてのランカー喰いに託すのも癪ではあるんだけど、今のネフホロは実質ルストvs他プレイヤーみたいなものなんだ、戦うなら勝ちを狙って欲しいんだ」


そう言ってランキングに名を連ねるプレイヤー達の後押しも受けて最終調整を経た翌日の朝、俺は崩壊したニューヨークをモデルにした廃墟でバトル開始の合図を待っていた。













「あれが、キングフィッシャー……サンラクの新しい機体」


『機体ネームは「フィドラークラブ」……確か望潮(シオマネキ)の英訳だっけ? フィドラーっていうのはバイオリン奏者って意味で鋏を動かす姿がバイオリンを……』


「毛ガニだろうとヤドカリだろうとなんだっていい、()の環境が反映されたあの機体なら、もしかしたら私を……」


『…………どうやら向こうもこっちを呼んでるみたいだよ』


破壊音と共にビルの一つが崩壊する。少なくともこのゲームにおいてフィールドオブジェクトが自然崩壊することはない、ましてや巨大建造物が崩壊したということは、何者かが明確に攻撃を加えた以外に他ならない。

それはメッセージだ、俺はここにいるという宣戦布告。それを理解し、尚且つ待ち伏せの危険性を理解した上でルストは崩れゆくビルへと向かう。


『……いた! 反応……フィドラークラブだ!』


「こっちも目視した……!」


『な、なんだあれ……右腕が二倍くらいになってる?』


「…………六式断砕シザーユニット【ブックメーカー】。産廃武器というわけではないけど、少なくとも中量級機体に搭載する武器じゃない」


『それ以外にもゴテゴテしてるし、まるで重量級機衣人(ネフィリム)みたいだ』


軽量級、中量級、重量級の区別はずばり、ネフィリムの体高と装備から察することができる。

ネフィリム・ホロウ最強のプレイヤーであるルストにとって、武装から相手の情報を知ることは当然のことである。


(右腕は【ブックメーカー】、脚部は多段推進噴脚……左腕と背中は見えない、頭は…………あれは確か……)


ゴツゴツとした、キングフィッシャーと比べてずんぐりむっくりとしたフィドラークラブは右腕と半ば融合するように装着された巨大な武装ユニット。

二つのエッジで敵を挟み、圧断する対超巨大ネフィリム用の兵器を無理矢理通常機衣人(ネフィリム)に搭載した、という設定の【ブックメーカー】は大振りなモーションから放たれる一撃必殺クラスのロマン武器……それがルストの評価である。

そしてロマン武器を搭載するのならばその機体は得てしてロマンを成立させるためのギミックか、ロマンを成立させるためのプレイヤースキルを十全に発揮するための構築であることが定石である。

そして頭部の特徴的な、見ようによってはカニの目にも見える二つのアンテナを持つ頭部装備。それの正体をルストが記憶から掘り起こそうとした瞬間、フィドラークラブが動く。


「消えた……っ!」


『ルスト、光学迷彩だ! 反応はまだそこにいる!』


「仕掛ける……!」


頭部のユニットが発光し、フィドラークラブの全身がその姿を消失させる。

モルドの言葉にその正体が機衣人の姿を視覚的に消し去ってしまう「光学迷彩」の効果によるものだと理解したルストは、モルドからの報告とセンサーが示す反応からフィドラークラブのおおよその位置を把握し、ガトリングで攻撃を仕掛ける。


(光学迷彩はブースターの光で位置が分かる……!)


「そこだっ!」


放たれる銃弾の列。それはフィドラークラブのいた場所を通過し、ルストに既にそこに目標がいないことを知らせる。


だが銃弾の光に紛れるようにして、噴脚が吹かされたエフェクトを見逃すようなルストではない。

「コ」の軌道を描くように最低限の機動でガトリングを回避したことを示すブースターを刻むように吹かしたエフェクトの軌跡の先、センサーが示す位置座標に近接攻撃を仕掛ける。

成る程、確かにこの動きは並のプレイヤーに出来ることではない。だがサンラクはルストを、緋翼連理(ヒヨクレンリ)をナメすぎた。


「出直せフィドラークラブ……!」


『違っ……!』


モルドが咄嗟に発した言葉を脳が知覚するよりも速く、












あまりにもあっさりと、最強の不死鳥は八つ裂きにされ地に堕ちた。


「……………………え?」


敗北を示すリスポーン。呆然とエントランスに立ち竦むルストは、あまりにもあっさりと決着した試合にルストと同じく呆然とした他のプレイヤー達を視界に収めるが、それすらも脳が理解に追いつかない。



ネフィリム・ホロウ……不死鳥の住処に望潮の嘲笑が響く。


Q.主人公は一体何をしたの?

A.隠れんぼに「隠れた場所から動いてはならない」なんてルールは別にない



クソゲニウムは白い布に垂れた汚泥の雫のように……

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