暴虐と呼ばれた悪魔

作者:

 昔々、その昔、『暴虐』と呼ばれた悪魔がふたり。名を、ボツリヌスとウェルシュといいました。


 昔々、蜂蜜が有名な領地を治めていた男がいました。度重なる飢饉に、領地はすっかり貧しくなりました。男は家族を守るために、大金が必要でした。


「『暴虐』よ、どうか我の願いを叶えたまえ。いずれ生まれる私の孫娘を、あなたの花嫁に捧げよう」


 『暴虐』は、男の願いを聞き届けました。その代りに、男の孫娘――罪なきカンピ・ロ・バクターを、花嫁に捧げるかわりに。



 男は程なく死にましたが、男の息子夫婦――つまり、かわいそうなカンピの両親は、娘の行く末を案じて方々手を尽くしました。


「私にお任せください」


 やっと見つけ出した悪魔専門の魔術師は、ある秘策を夫婦に授けました。


「『暴虐』は『サンソ』が嫌いだ。その膜で覆えば、カンピ嬢に手は出せませぬ」


 両親は魔術師に言われたとおりに、『サンソ』の膜で娘を覆いました。


 怒ったのは、『暴虐』の二人です。


「契約違反だ!」


 ボツリヌスは怒りました。腹いせに、領地の蜂蜜を食べられなくしてしまいました。


 ウェルシュも怒りました。腹いせに、みんなで食べるご飯に毒を混ぜてしまいました。



 ボツリヌスとウェルシュの怒りは、まだ続いているのです。