暴虐と呼ばれた悪魔
昔々、その昔、『暴虐』と呼ばれた悪魔がふたり。名を、ボツリヌスとウェルシュといいました。
昔々、蜂蜜が有名な領地を治めていた男がいました。度重なる飢饉に、領地はすっかり貧しくなりました。男は家族を守るために、大金が必要でした。
「『暴虐』よ、どうか我の願いを叶えたまえ。いずれ生まれる私の孫娘を、あなたの花嫁に捧げよう」
『暴虐』は、男の願いを聞き届けました。その代りに、男の孫娘――罪なきカンピ・ロ・バクターを、花嫁に捧げるかわりに。
◇
男は程なく死にましたが、男の息子夫婦――つまり、かわいそうなカンピの両親は、娘の行く末を案じて方々手を尽くしました。
「私にお任せください」
やっと見つけ出した悪魔専門の魔術師は、ある秘策を夫婦に授けました。
「『暴虐』は『サンソ』が嫌いだ。その膜で覆えば、カンピ嬢に手は出せませぬ」
両親は魔術師に言われたとおりに、『サンソ』の膜で娘を覆いました。
怒ったのは、『暴虐』の二人です。
「契約違反だ!」
ボツリヌスは怒りました。腹いせに、領地の蜂蜜を食べられなくしてしまいました。
ウェルシュも怒りました。腹いせに、みんなで食べるご飯に毒を混ぜてしまいました。
ボツリヌスとウェルシュの怒りは、まだ続いているのです。