準備
次の日。
朝から俺は屋敷の中庭にいた。朝はまたあのメイドが来て旦那様がお待ちですと俺の服を置いて出ていってしまった。
そして今俺は青空を見ながら芝生の上に寝転んでいる。あー空は青くて広いなぁ小さなことなんかどうでもいいや。
「ユーリいってもいいか?おまえ全然センスないぞ?」
そう、何を隠そう俺には剣の才能、槍の才能、弓の才能、ほぼだめだめだそうだ。
「ふふ、騎士なんてやめなよ。ボク弟子になったらいいよ!」
いつまにか近くにローブを纏った女の人が立っていた。
「クオリア、お前あれほど弟子なんか要らんと豪語していたじゃないか。何を今さら」
クオリアと呼ばれた女は目をキラキラさせながらだってだってとだんだん近づいてくる。
「この子の魔力の保有量はボクより少ないけど相当な量だよ!こんな才能持ってて騎士とか言われても国が納得しないって!」
「でもなぁ」
「とりあえず魔法からってことで、ね?」
ロベルトが渋い顔でこっちを見る。
「俺にはどうやら武器の才能はないようですし、魔術を使うから騎士になれないとかはないのでしょう?」
ロベルトに言ったつもりだがクオリアが答える。
「なれるなれる。なんたって僕も騎士だからね。ボクの技術を覚えればある意味剣も覚えられるしね。」
「拳って書いて剣って呼ぶけどな」
同じ同じとクオリア。
今はとりあえず強くなれなければ騎士どころか存在意義が危うい。
「ではよろしくお願いします。」
クオリアの魔術指導が始まる。
「いいね、いいね。魔力操作はほぼ完璧じゃないか!まるで何年も魔力操作の研鑽を積んできたかのようだよ。」
クオリアの絶賛で分かる通り、俺はなんの苦もなく魔力操作ができてしまった。昔からそうしてきたような懐かしさがあり、これなら出来るという確信があった。
「なんか面白くないな。」
ロベルトが少しふてくされた。
「まぁまぁ、人には向き不向きがあるからね。自分の息子が自分の弟子で騎士団ってのは夢があって良いだろうけど」
なんかすいません。
「じゃあ、次は防御の方法ね。いい?よく見ててね。」
そう言うとクオリアの中にあった魔力が中心から外に向かってぶわっと体を型どるように吸い付いた。
「じゃあロベルト!斬ってみて!」
ロベルトが分厚い剣を抜きおもいっきり振り下ろす。
「ちょっ、ちょっと」
慌てるクオリアを待たず肩口に剣が到達する。
ガギッ
剣が生身に当たったとは到底思えない音がした。チッと言うロベルトの舌打ちと冷や汗をかいたクオリアの顔。
「ロベルト!危ないじゃないか!気力が入ってなかったからいいものの本当ならボクの体は両断だったよ!!」
「とまぁ、魔力で防御された体をただの剣で斬ろうとしてもこうして斬ることはできない。方法はあるけどな。」
いい笑顔だ。
「無視するなぁ!!」
心なしか顔が赤い。
「まあ、魔術師は基本遠距離で戦うから前衛が倒れたときの撤退用かもしくはボクの魔闘士みたいな前衛もこなすようなときだけ」
「魔闘士?」
「魔術を使いながら拳で戦うボクみたいなスタイルの魔術師のことをそう呼ぶのさ!まぁこの国探してもボクしかいないけどね!」
一人しかいないってことはそもそも難しいってことだろ。俺に出来るのか??
「ささ!とりあえずやってみな!」
「はい」
魔力を外に出しながら体に張り付ける!!
「「あれ?」」
二人で声が重なる。からだの外に定着させようとした魔力が霧散したぞ?
怪訝な顔でロベルトが言う
「どうした??」
「ユーリの体に張り付こうとした魔力が霧散したんだよ。普通はあり得ない。もう一回やってみて」
もう一度やってみる。魔力を外に向かって出して体の外で
「ユーリもわかった??」
「はい。」
体の外に魔力を出したら霧散した。
「という訳で、魔術のセンスもヤバくなってきたねぇ。」
最初のテンションは何処へやらである。
「ちなみに体の外に出さない活用法って無いんですか?」
「あるにはあるよ。あるけどおすすめはしないなぁ」
「なんでです?」
「魔力ってのは基本人間がもって生まれてくるものじゃないのね。だからもともと有害って言うか体にいいものじゃないんだよ。外で纏っている分にはもんだいないんだ、だけど魔力を体の中で具体的な力、活用でもいいけどすると体が持たない。拒絶反応を起こして火傷みたいになっていく。」
そんな副作用があるのか。もともと持ってるからってなんでも出来る訳じゃないんだな。
「他にも制約はあるよ。基本的に魔術は1人1つしか行使できない。これは意識を1つにしかさけないからだね。次に行使した魔術は意識を外れた瞬間に霧散する。言い換えれば別の魔術を使おうと思ったらその瞬間に今行使している魔術の影響はなくなるってこと。例えば周りを炎の海にしたとして、剣士に切りかかれて防御魔術を使おうとした瞬間に炎の海は霧散するって具合。そして最後が重要!使いきった魔力は回復しないんだ。」
え?魔力ってのは使ったら目減りしていつか使えなくなるってことか?
「そんな顔しないでよ。ちゃんと魔力は回復するよ。ボクが言っているのは完全に使いきった場合のみだから、使いきらなきゃいいのさ!」
そこまで説明が終わったところで二人とも微妙な顔になる。それもそうか武器を扱うセンスもない、魔力を外に放つこともできない。戦闘ではほぼ無力。
「ユーリ。これからどうするかはゆっくり考えよう。」
その日の夜。
1人部屋でこれからのことについて考えている訳だが部屋にある水差しから水をコップにだし一口。
単純に武器の才能は無いことは確定。魔力も有り余っても外に放つこともできない。体の中で活用はできない。
これ結構積んでないか?でも神は言っていたよな?可能性はあるってここで俺が無力ってことはないはずだ。なんかあるはず、なんか可能性があるはずなんだ。
魔力を手のひらから放出、霧散する。
魔力を手のひらから放出、霧散する。
出来ない。
右手で目頭を押さえながら、左手でカップを持つ。
ビキッ
左手が急に冷たくなりカップから思わず手を離す。
パリン、と音をたててカップが床に落ちて割れた。何だ?割れたカップは凍っている。氷?魔術を行使できたのか??なぜ?
左手でカップを...左手か!!
俺の左手には聖恨がある!!そのための聖恨か!!でもこんなに意識を話しているのに氷が魔力になって霧散しないぞ?
もしかして氷に意識を向けて消えろと、氷が魔力になって霧散した。
でっできた!!俺の魔術は行使して意識をはずしても消えない。意識して消さないと残り続けるんだな。
もう一度だ、水差しの水をコップに移す。コップを手に取り魔力を放出、
「凍れ」
ビキッ、カップが凍る。やった!成功だ!しかしなんで水が凍らない?左手で持ったカップの水は凍りついたカップのせいで冷たそうだが、ゆらゆらと波紋が立っている。
1度カップをテーブルにおく。左の指を入れて魔力を放出。
「凍れ」
ビキッ、水も凍った。やっぱりか、左手で直接触れていないと俺の魔術は行使できないんだな。