孤児院
転生してから12年。俺は孤児として生きていた。
転生後も意識としてはこの人格が残り、ある意味子供の癖に色々な知識を持っているに等しい状況である。
現状前と違うと言い切れるところが二つある。
一つはここが魔法がある世界だということ、人数は少ないが魔術師という存在がいる。
二つ目は聖恨?俺にはただの入れ墨に見えるがそれが左手の甲にあるということ。
魔方陣のようなそれは洗っても落ちず、成長と共に一緒に大きくなっている。
これは、特典なのかそれともあの神様の祝福なのかはわからない。
そして今日おそらく一つ目の人生の転換期がくる。
12歳、その年は孤児院から出て一人立ちしなければならない年だということ。
俺は孤児院の応接間に呼び出される。
1度も入ったことのない孤児院で唯一のお金のかかっている部屋。孤児達の部屋は6人部屋で装飾品もないし、寝起きできるだけといった感じ。
だけどこの応接間は、船を象った置物に、絵画、立派な机にソファーそして凝った衣装かけ。聞かなくてもわかる、ここはお偉いさん用の部屋と言うところだろう。
時間はそろそろだろうしきっと応接間の中には俺の今後の人生を決める人間が揃っているのだろう。
転生前に神とやらと話しているからなんとなく分かる。
転生してからこの体の中に確かに感じられる感覚。きっと魔力だ、そして聖恨もある。
魔術師は少ないらしいってのは孤児院の職員の言葉の端々でわかっているし、手の甲に魔方陣まで着いているんだ。
将来性のある孤児の引き抜きとかだろう。
応接間の扉の前についた。ノックを3回、コン、コン、コン
すると中から院長の声。
「入りなさい」
少し強張った声色をしている。もしかして想像してるより大物なのか?
「失礼します。」
応接間の中には院長と甲冑を着て赤のマントを掛けた中年の男が座っている。そしてその中年の男の後ろには同じ衣装の青年が立っている。
俺は一人がけの椅子の前まで進んでたったまま止まる。院長を右にして中年の騎士っぽい男の正面という位置どりになる。
「ん?」
中年の男が不思議そうな顔になり小首を傾げるがすぐにそうかそうかと納得した顔になり、座りなさいと言う。
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
俺は言葉のあと椅子に座る。
「院長から少しばかり君の話は聞いている。まだ子供のわりに教養がみえ、さらに毎日体力作りとしか見えないような運動を毎日欠かさず行っていようだね?さらには聖恨と思わしきアザがあるという。君は軍に入りたくはないかね?」
お偉いさんでも軍隊のお偉いさんか、体力作りはあって損はないと思ったら筋トレと平行してやっていたが、切った張ったの世界に行きたいとは思わないが何故だろう。行かないとならない気がする。
「お引き立てしていただけるなら、是非とも軍にて微力ながら役に立てたらと考えていました。」
「そうか、ちなみに懸念が一つだけあるのだが聞いてもいいかね?」
「どうぞ」
中年の男は少し笑いながら
「君は友達がいないそうだね?」
「へ?」
一瞬間抜けそうな顔になってしまう。院長もずっと強張った顔であったのにあーあという顔になっている。
俺は気を取り直し
「いないのではないのです。作らないのです。」
「なぜ?」
「私にとってもこの時期は大切な時期でした。子供らしく遊びながらお友達を作るよりも、成長を妨げないように体を作りこの時を待つ方が大事でした。」
中年の男の笑みは途切れない。
「ほう?そうまでしてしたいことがあるのか?」
ここはきっとこう言えばいい気がする。
「したいことと言いますかなりたいものがあります。それは世界最強。」
中年の男から笑みが消える。1度目を閉じ再び目を開けたとき。
ぶわっと前髪が持ち上がるのではないかというくらいの目に見えない力、とでも言うべき圧力が体を通り抜ける。
体に力が入らない、意識が遠くなる。まるで静かに眠りにつくような......
「これ..は?魔力っ...ってや...つか」
もう目も開けてられない。ゆっくり体から支える力さえも抜けていく。遠い意識のなか声が聞こえる。
「おい、見たかクリストル?こいつ一瞬でも俺の気に耐えたぞ?」
「そうですね、見込みはかなりあるでしょう。それよりもさっきこの子は魔力といった気がするのですが?」
そこで完全に俺の意識が途切れた。
次に目が覚めたときは知らない部屋のベッドの上だった。
「ここは?俺は確か甲冑の男に魔力を当てられて」
周りを見渡すと見るからに孤児院とはいえ違うとしっかりとした作りの部屋だった。調度品と呼べるようなものは飾ってある絵画と、銀色の水差しくらいのものてあとはいちいち少し高そうな椅子や机といった物が並んでいる。
ガチャ
部屋の扉が空き一人のメイドが入ってくる。ショートカットの大人しそうな人だった。メイドは少し目を大きくしたかと思うと少々お待ち下さいと言い部屋から出ていく。
しばらくするとメイドはあの中年の男を連れて戻ってきた。
「おう、小僧目が覚めたのか!」
男は嬉しそうに近くの椅子に座る。
「はい、目は覚めましたけどここは一体?」
男はそうだそうだと答える。
「ここは俺の屋敷でな、俺の名前はロベルト.ミュラー。2日前から小僧の里親になった男だ。」
というとこの男が俺の新しいお父さんということか。
「ありがとうございます。結局俺も自己紹介できませんでしたね。ユーリ、今日からいや2日前からユーリ.ミュラーってことですね。」
「ユーリか、いい名前だ。俺は分かるとは思うが軍の人間でな。無理強いはしないがユーリにも軍に入ってもらおうと思っている。嫌じゃないよな?世界最強?」
「もちろん」
俺は笑って答える。
「ふっっ、2日前に気に当てられて昏倒した割にはまだ言えるようだな。」
ん?気に当てられた?
「すいません。気に当てられたと言いました?あれは魔力ではないのですか?」
「魔力、か、まさか本当にあのときいっていたのか。俺が放ったのは魔力ではない。俺には魔力は宿っていないのでな。あれは気力だ。体に宿った気力を放ったに過ぎない。魔力というのは持っているものはそんなに多くない。魔術師と言うのはそれだけで重宝される。お前もしかして」
「はい、おそらく俺は魔力を持っています。保有量が多いか少ないかはわかりませんが確かに感じています。ほとんど体力作り以外の経験が俺に気力が宿る訳がないと思うので間違いないかと。」
そういうとロベルトは少し目を閉じて考える。
「魔力のことは俺ではどうにもならん。近々魔術師の知り合いに頼んで見るがお前は騎士になりたいか?それとも魔術師として生きていくか?」
「両方で」
「本当にか?魔術師は一生を捧げても大成出来ないものもいると聞く。大成できねばただの宝の持ち腐れだぞ。」
不敵に笑って見せる。
「目指すは世界最強なので」
男も笑う。
「そうだったな。とりあえず今日は休め。明日から俺が稽古をつけてやる。」
「ん?俺は軍に入るのでは?」
「無力なまま軍に入ってどうする。それに入団できるのは15になってからだ。あと3年あるんだぞ。」
そっか、俺はまだ子供だったと思い直し
「それではまた明日お願いします。」
ロベルトは軽くてをあげ部屋を出ていった。