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 数多の宝物殿を擁するゼブルディア帝国において、トレジャーハンターの地位は高い。


 人外魔境を踏破し十分にマナ・マテリアルを吸収したハンターは単騎で騎士団の一軍をも上回る力を誇る。もともとゼブルディア帝国は国風として力を重視する傾向がある事もあり、二つ名を持つような高レベルのハンターにもなれば、上級貴族から声がかかることも珍しくない。


 ロダン家はゼブルディアで長く続いたトレジャーハンターの名門だ。


 その源流は、かつて現帝都の近辺に存在したレベル10の宝物殿――【星神殿】に現れ、四方千里を灰燼に帰した異星の神を討滅したトレジャーハンター、ソリス・ロダンに始まる。

 当時のゼブルディア帝国が国力の全てを尽くしてもどうにもならなかった【星神殿】の攻略を讃え、時の皇帝は一トレジャーハンターだったソリスに爵位を与えることを検討したが、ソリスは己をただの冒険者だと称し、それを辞退した。

 皇帝はその謙虚な立ち振舞をハンターの模範と讃え、ロダンに『勇者』の称号を与えた。それ以来、帝国で勇者を名乗ることが許されているのはロダンの一族だけだ。


 アーク・ロダンはそんな一族の末裔であり、幼少期から一流のハンターとなるべく教育を受けてきた。


 ソリス・ロダンは苦手分野の存在しない万能の英雄だった。その血を引くロダンの一族は代々各分野に対して高い才覚を誇り、アークもまたその例にはもれない。

 並のハンターならば足踏みするような高レベルの宝物殿を踏破し、二つ名を手に入れ、今では若手ながら、帝国最強のハンターの候補として名が出ることすらある。


 ロダンの一族は権威ではなくその武勇によって血を誇る。いつしか、アークの名はかつてその先祖が与えられた『勇者』の名で呼ばれるようになっていた。


 ロダンは帝国では特別な名だ。ハンターとして活動を開始した当初からその名は注目の的だった。

 貴族から招待されるのもこれが初めてではない。


 権力と離れる事はロダン家の家訓の一つだ。だが、同時にトレジャーハンターとして円滑にやっていこうとするのならば、帝国上層部との繋がりを完全に断つことはできない。


 アーク達、『聖霊の御子(アーク・ブレイブ)』は【白亜の花園(プリズム・ガーデン)】攻略の功績を讃えられ、帝都から遠く離れたサンドライン侯爵領にやってきていた。


「これがかの有名な『空の花』、か。見事なものだ……」


 落ち着いた真紅のコートを羽織った壮年の男が花瓶に生けられた透明な花弁を持つ奇妙な花の束を眺め、感嘆のため息をついた。

 今回、アーク達を呼び出したパーティのホスト、サンドライン家の当主である、ネイハム・サンドラインだ。


 ゼブルディア帝国の西方に広大な領地を与えられた上級貴族の一人であり、かつてその領地に存在する宝物殿の攻略を請け負った縁から、特に懇意にしている家でもあった。

 ゼブルディアの貴族の中には優遇されているハンターに対して強い嫉妬を抱いている者も少なくない。

 そういった者達と比較すればサンドライン侯爵は決して付き合いづらい人間ではないのだが、人外魔境を踏破するハンターについて――逆にかつて帝国を救ったロダンに対してどうしようもない憧憬のようなものを抱いているらしく、事ある毎に呼び出される事には閉口していた。


 透き通るような無色の花弁を持つ花は宝物殿産の代物だ。

 まるでガラス細工のように透き通っているが普通の草花のような質感を持ち、細やかな造形はどんな細工師にも生み出せない程美しい。


「マナ・マテリアルで構築された代物です。宝具でもない。外の世界では長く形は保てないでしょう」


 【白亜の花園(プリズム・ガーデン)】の最奥に腐るほど自生している花だ。その神秘的な見た目に反して、『空の花』は特に何か力があるわけではない、アーク達高レベルのハンターにとっては取るに足らない品である。

 今回いくつか摘んで持ち帰ったのも、宝物殿の最奥に至った記念代わりであり、特に理由あってのものではない。


 といっても、【白亜の花園】は並のハンターで攻略できる宝物殿でないことは間違いない。

 マナ・マテリアルが抜けきり空気に溶け消える一時のみ形を保っていられる『空の花』は貴族たちにとって、優れたトレジャーハンターに伝手を持っているという証明でもあった。


 宝物殿内部に存在するアイテムは一部を除いて外の世界では長く形を保てない。

 外の世界では『空の花』と呼ばれもてはやされるそれも一時の幻影だ。時が来ればその欠片一つ残さず消え去るだろう。


 一時期、クランハウスのラウンジに腐る程生けてあったのを思い出し、アークは表情に出さず胸中で笑みを零した。


 アークの言葉に、侯爵は何も答えず、ただ顎に手を当て目を細めた。


「儚いな。だが、だからこそ、美しい。ああ、このような花が咲き乱れる花園――是非死ぬまでに一度見てみたいものだ」


 ……残念ながら難しいだろう、と、言葉に出さずにアークは思う。


 【白亜の花園】はハンター以外が立ち入られる環境ではない。濃霧のように立ち込める花粉は立ち入る者の身を蝕み、環境に適応した『幻影(ファントム)』は咲き乱れる無数の花々に隠れ虎視眈々と侵入者の命を狙っている。

 地形が平坦なことだけは幸いだが、たとえ数百人からなる騎士団を護衛につけても踏破は不可能だろう。分野が違うのだ。


「例えば、どうだろうか。アーク。帝都最強と名高い君が護衛としてついてきてくれれば――」


「閣下。あの地は閣下のような高貴な立場の人間が立ち入る場所ではありません。もちろん、『幻影(ファントム)』は倒せますが――ただの人間に適応できる環境じゃない。私達も今回は――少しばかり苦労しました」


 即答するアークに、サンドライン侯爵は一度口惜しそうに唸ったが、無理を通すつもりはないようだった。自分の立場を理解しているのだろう。


 ゼブルディアでは時折、考えなしの貴族が私兵を引き連れ宝物殿に立ち入り、遭難する事がある。

 足手まといをつれての探索は本来のそれよりも遥かに難易度が高い。それが護衛対象なら尚更だ。ハンターにとっては貴族の伝手を作るいい機会だが、だいたいの場合、救出対象は死んでいる。


 そこで、サンドライン侯爵はまるで話を切り替えるかのように首を大きく振った。

 深い、どこか人懐こい印象を抱かせる笑みを浮かべて言う。だがその眼だけは信じられないくらいに鋭い。


「して、アーク君。例の話は考えてくれたかね?」


「……」


 アークは度々、サンドライン侯爵に専属のトレジャーハンターにならないかスカウトを受けていた。


 ゼブルディア帝国においてトレジャーハンターは最強の手札でもある。いくら高レベルの宝物殿が無数に存在していても、そこから宝を持ち帰るだけの実力を持つハンターがいなければ意味がない。

 そのため、各領の貴族たちは優秀なハンターの獲得に躍起になっていた。アーク達は特にその注目の的だ。


 専属とはいわば貴族お抱えのハンターである。一定の報酬と引き換えにその依頼を最優先で請け負うハンター達の事だ。


 自由度は低くなるが、ハンターにとっても決して悪い話ではない。

 貴族の専属というのはハンターにとって一種のステータスである。


 物質的な優遇を受ける事もできるだろう。コネによって優れたメンバーを得ることができるかもしれない。立ち入りが制限されている宝物殿に入ることができるかもしれない。

 危険な宝物殿を攻略し続けなくても一定の報酬を得ることができるのも魅力の一つだ。


 何より、貴族の専属というのは探索者協会が重視する『信頼』という意味で最上位に近い。


 強国、ゼブルディアの支配層のお墨付きなのだ。ただその専属になったという事実だけでレベルが上がる事すらあり得る。


 だが、アークは穏やかな笑顔で首を横に振った。


「光栄な話ですが」


「ふむ……ロダンは貴族に仕えない、か。ソリスも面倒な家訓を立ててくれた物だな」


「私達にはまだやらなければならない事がある。ご容赦下さい」


 初代ロダンは英雄の名に相応しい人物だったが、権力層との間で度々面倒な諍いが発生したらしい。

 どの時代でも力だけではどうにもならないものがあるものだ。そして、その家訓が恐らくロダンの血筋が絶えることなく長く続いている理由の一つなのだろう。


 だが、アークが貴族に仕えない理由はそれだけではない。

 アークはまだ自らの求めるものに至ってはいなかった。


 貴族の中には、サンドライン侯爵のようにアークをこそ帝都最強のハンターだと主張する者は少なくない。

 贔屓目もあるだろうが、それは決して間違いではない。

 ハンターと言えど、老いれば力を失う。最強のハンターもいつまでも最強ではいられない。まだ二十代半ばのアークは将来性も高い。


 ハンターの中でも最強の名は――二分している。


 サンドライン侯爵が憮然とした表情で言う。ここ数年で瞬く間に広まったその名を。


「『千変万化』、か」


「……」


「『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』。名はよく聞く。勇名も、悪名も、な。よもや、ロダンを脅かすハンターが現れる日が来ようとは――」


 青天の霹靂だった。ライバルはいなかった。

 帝都にやってくるハンター達は皆、各地で名を上げた者ばかりだ。だが、その中ですらアークは突出していた。

 もちろん、強さだけならばアークを超える者は何人か存在する。だが、それはいずれ追いつけるだろう者達だ。


 かつて、アークは上だけを見ていた。それで十分だった。


 誰が想像できようか。最強の血筋を持ち、最高の環境で最大の努力をしたアーク・ロダンのライバルになりうるものが同年代に現れようとは。


 サンドライン侯爵はロダンを脅かす、と言った。その言葉は誤りだ。

 ロダンの辞書に『脅える』などという単語は存在しない。


 匹敵し得る才が現れたのならば、正々堂々、真正面から迎え撃つのみだ。むしろただ一人で走り続けるよりも、望む所である。


 そこでアークは、その青年の顔を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情で言った。


「しかし閣下。彼は……『千変万化』は心の底からやる気がないのです」


「むうッ……!?」


 珍しく気の抜けたアークの声に、サンドライン侯爵は何とも言えない表情をした。



§ § §



 見るに堪えない光景だった。椅子の代わりにしているストーンゴーレムの硬い感触も気にならない。


 倒れ伏しぴくりともしない女魔導師の喉元に指を当て、シトリーがため息をつき、こちらに困ったような視線を向ける。


 鼻の曲がるような酸っぱい臭い。

 ラウンジは散々な有様だった。各テーブルには酒精の気配もないのにまるで酔いつぶれたように魔導師達が伏し、ストーンゴーレムが吐瀉物を雑巾で掃除している。


 僕はシトリーの事をよく知っている。彼女は聡明で誠実でそして慎重だ。

 そして、彼女が当初予想した様に、八人の魔導師では僕の宝具をチャージしきる事は出来なかったらしい。


 シトリーの訓練は言葉よりもずっと険しいものだった。

 恐らく、魔導師として長い間ハンター活動をしてきた彼らでも魔力枯渇をこんなに短い期間に連続で味わった事はなかったのだろう。そして、シトリーの作った特製ポーションがさらにその気力をそぎ取る。


「……うーん。困りました。もう魔力をチャージする元気もないみたいです。あ、もちろん、約束した通り生きてはいますよ? 脈はあります。ただ意識が――どうしても戻らないだけで」


「うんうん……そうだね」


「魔力もちゃんと回復してます。ポーションは実際にうちのパーティで何度も何度も使っている物ですし、心配はいりません。魔力上限もちゃーんと増えてます。ただ意識が――どうしても戻らないだけで」


「お、おい、大丈夫か!? しっかりしろ!!」


 肩を竦めるシトリーを押しのけ、今まで息を呑んで試練を見守っていた男ハンターがピクリとも動かない仲間の肩を激しく揺する。

 その様子は、宝物殿探索中に発生した仲間の死を信じきれず、死体にすがりついているかのようにも見えた。


 心が痛い。ゲロ吐きそうだ。


「どうやら彼らは意識がないと宝具の魔力をチャージできないみたいです。訓練が足りていない。残念ですが、ここまでですね」


 死屍累々の様子を見ても顔色一つ変えず、シトリーが言ってのける。


 用意された魔力回復薬はまだ一瓶しか減っていない。むしろ八人で一瓶減らせたのは凄いと言うべきか……。


 宝具のチャージは全然終わっていなかった。結界指のチャージすら半分もいっていない。

 そもそも結界指をチャージできるだけの魔力を持つ魔導師はフュビルさんを除いて二人しかいなかったせいだ。

 その分他の五人には他の宝具をチャージしてもらったので無駄ではなかったが、この様子だと僕は事前に、ルシアが長期不在になった時のためのチャージ手段を確保しておくべきだったようだ。


「? どうかしましたか? 嘘は……ついていませんが」


 白濁した泡を吐く仲間を抱き上げ、茶髪のハンターがシトリーを睨みつける。シトリーはその視線に対して数度瞬きして不思議そうに首を傾げた。

 シトリーに悪気はない。無論、魔導師達を使い潰す気もなかっただろう。彼女は昔からそういう子だった。


「ごめんなさい。まさかこんな事になるとは……ですが、皆さん納得の上でしたし、魔力もちゃあんと増えているので『問題なし』と言うことで」


 声は穏やかだったが、そこには反論を許さない強かさがあった。

 射殺すような視線を向けてくる他のメンバーを見回し、シトリーが申し訳なさそうな表情をした。


 そもそも、今回の訓練(?)は本人の納得なくしてできるものではない。


 フュビルさんが倒れ伏すのを見て、及び腰になっていた他の魔導師達。

 それを一人一人、成長のため、パーティのため、辛いのは今だけ、死にはしないと、手を変え品を変え口先で丸め込んだのは確かにシトリーである。


 だが、それで決意を固めたのは本人だ。


 まぁあんな言い方され、皆の前で仲間のためだなんだと言われたら立場的に断る事は難しい気もするが、それは置いておく。


 ハンターの行動は自己責任だ。シトリーの行いを見て、彼女を悪く言う者はいないだろう。内心――どう思っていたとしても。

 そして本人がパーティのためにやると言っているのに、外野がそれを止める事はできない。


 つまるところ、悲しい話だが、彼女がいつまでたっても《最低最悪(ディープ・ブラック)》などと呼ばれ続けているのには理由があるのであった。


「ひ、ひどすぎる……だ、だいたい、本当にそのポーションは、本当にただの魔力回復薬なのか!? たった数滴で魔力が全回復するなんて、聞いたこともないッ!」


 震える声で抗議の声を挙げるメンバーに、シトリーが傷ついたように目尻を下げる。


 とても加害者に見えない庇護欲を煽る表情に、今の今まで親の仇でも見るような目を向けていたメンバーが動揺した。

 ハンターには見えない華奢な体つきに、震えるような声は、彼女を古くから知る僕からしてもちょっと申し訳ない気分にさせてくる。


「酷い……私のポーションを疑うなんて。ちょっと希少な素材を使い希釈率を変えているだけで、れっきとした魔力回復薬(マナ・ポーション)です。とても高価なものですが……研究室で調べてもいいです」


 ウッドゴーレムが木箱から一本のポーションを取り出す。一般的にハンターが使う物よりも一回り小さな瓶に納められたそれを、シトリーは軽く振って皆の前に置いた。


 どす黒い液体はあまりにもあからさま過ぎて逆に毒物には見えない。


「そもそも、魔力が全回復したのは……非常に言いづらいんですが……その……皆さんの魔力が少なかったから、です。ルシアちゃんは……一本では回復しません。まぁ、確かに魔力回復薬は低性能の方が味がマシなので、次はもう少しマシなポーションを用意します。次があれば、ですけど……」


 それぞれのパーティに引き取られ、まだ意識を取り戻さない魔導師達を見て、シトリーが目を細める。

 もしかしたら……ただの邪推だが、時間を置いても回復する気配のない魔導師達にがっかりしているのかもしれない。


「こんなに簡単に強くなれるのに、まさかたった四回で耐えられないなんて……」


 シトリーの声にはいつものように優しさがなかった。


 確かに、手法だけ聞くと簡単なように思える。

 だが、最前線で幻影と平然と殺し合うハンターが意識を完全に失うなどそうあることではない。それも、八人もいて全員である。想像を絶する辛さなのだろう。


 それら魔力チャージの犠牲者達を見ていると、哀れみよりも先に焦燥が湧いてくる。


 ルシアは最初からその魔導の才能の片鱗を見せていた。恐らく僕達『嘆きの亡霊』の初期メンバー六人の中で最も才能に恵まれていたのは彼女だ。

 だから、全く意識していなかったのだが今の惨状を見るに……もしかしたらルシアも僕の見えない所でかなり苦労していたのかも知れない。


 帝都にやってきた時、僕がもっていた宝具はたった一個――つけるだけでほんの少しだけ体力が上がる取るに足らない宝具で、必要とする魔力もごく少量だった。

 僕の宝具のチャージは最初から今に至るまでずっとルシア担当だった。どんどん増えていくコレクションに対してルシアが嫌な顔をしたことは今までない――事もない。


 ルシアの素っ気ない声を思い出し、今更冷や汗が出てくる。

 最近なんか冷たいなあ。遅い反抗期かなあとか思っていたが、もしかしてこれが原因かな?


 確かに、最近の宝具コレクションの増加数は普通じゃなかった。宝物殿の攻略に携わらなくなった僕のやることなんて、宝具探しか甘い物の店探しくらいしかないのだから道理である。


「……僕もしかして、ルシアに悪い事してた?」


「クライさん。ルシアちゃんは試練で音を上げる程弱くありません」


 振り向き、シトリーが笑顔で即答する。試練を課した記憶自体ないんだなぁ。

 僕はルシアが帰ってきたらそれとなく機嫌を取りつつ謝罪する事を決めた。


 皆、何も言わなかった。今更抗議する権利がないと思っているのか、シトリーが僕の親友であるためか。

 ただ、何も言わなくても心情はその厳しい視線からわかる。


 本来、責められるべきは宝具のチャージを依頼しにきた僕のはずだ。シトリーに貧乏くじを引かせてしまった、か。


 その中の一人――フュビルさんを看護していたハンターが口を開きかける。

 それに被せるようにして、シトリーが呆れたような声で言った。


「何を、そんな怖い顔を……研鑽はハンターの本分でしょう。ルシアちゃんは同じ試練を自ら受け、泣き言一つ言わなかった。むしろ、皆さんは自分達の弱さを教えてくれたクライさんに――感謝するべき、だと思います」


 高慢な言葉だ。火に油を注がないで欲しい。

 そのあまりに偉そうな内容に絶句する者たちに向け、シトリーが照れくさそうに笑った。口元に人差し指を立てながら。


「才能、なんかではありません。ルシアちゃんやクライさんのレベルが、ここにいる皆さんより少しだけ高いのは――私達のくぐり抜けてきた試練が――流した汗の、血の、涙の量が、皆さんよりも少しだけ多いから、です。まさか自分よりずっと年下のハンターが乗り越えた試練に泣き言を言うつもりですか?」


 ……相変わらず弁の立つ子だ。集まった無数の視線も、そこに込められた強い感情も物ともしない。

 呆れよりも感心が先に来てしまう。ティノも目を見開きその言葉に聞き入っている。


 その内容に、先程まで口を開きかけていたハンターが口を閉じる。ここまで言われては言い返す事もできないだろう。

 皮肉なのはこのクランで最もレベルの高い僕が――全く汗も血も涙も流していない点だろうか。


 だが、それを知る者は『嘆きの亡霊』のメンバーを除いて存在しない。


 ストーンゴーレムが木箱を抱え、掃除道具を片付けラウンジを出ていく。

 シトリーが僕の腕を取り、最後に神妙な、あるいは険しい表情をしているメンバー達に振り返った。


「あ。ないとは思いますが……意識が戻って何か問題があれば、教えてください。約束は、守ります。誠心誠意、対処します、ので」





活動報告にキャラデザ紹介第四弾を投稿しました。

よろしければ、そちらも合わせてご確認くださいませ!


/槻影


更新告知:@ktsuki_novel(Twitter)

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