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お見舞いって必要?

登場人物の名前が出ないのはお約束(笑)


作中、役不足なる言葉が出てきますが、力不足という誤字ではありません。その通り、役に見合わないとの意味で使っています。よろしくお願いします。

 イケボはイケメンと相場が決まってる。テンプレというなかれ。世の中持ってる人は持ってるのである。ちっ。


 さて、この乱入者であるイケボなおっさん、金髪碧眼の超美形、なにそれズルいを地でいけるタイプだ。自分の魅力を十分知ってる、絶対。


 てか、国王陛下だそうで。マジか!! てかなんでそんな人が公爵家にいるんだよ!?


「構わぬ。今日は見舞い故な」


 立ち上がって礼をしようとしたら、手で制されてしまった。怪我人に考慮してくれたということかな。


「父う、」

「今は国王としてここにいる」

「も、申し訳ありません、陛下」


 ……あんまり似てない親子だね。さすがに国王ともなれば公私混同はしないみたいだけど、息子を見る視線が冷ややかすぎないか、これ?


「どうしてそなたがここにいる、第一王子?」

「は。アナスタシア、嬢に聞きたいことがありましたので」

「彼女に何ら関係のない出来事で、怪我人のもとに押しかけたというのか」


 押しかけたという事実だけなら、国王さまも変わらんがなー。


「は。い、いやしかし、怪我人とは聞いておりませんでし」

「報告は上がっていたはずだが」


 優雅にソファーに座る様もカッケー。しかし、なぜ私の隣なんだ!?


「婚約者候補の令嬢に関する事柄は全て、私にもお前にも、同じ報告が上がっている。アナスタシア嬢の怪我もその日には王宮中が知っていた。お前以外は」

「は……」


 もしや、たんこぶひとつで私は傷物令嬢になるのだろうか。


 しかし、王宮中に知れ渡った話を王子が知らないってどんだけお花畑だったのか。


「父う」

「今は職務中だ」

「陛下。しかし、い」

「私は発言を許可した覚えはないが、なんだ、アナスタシア嬢?」


 王子主導だといつまでも話が進まないんだよね。公私を分けるのも下手くそだし。


 めんどーなんだよ、話はスムーズに分かりやすくが仕事の鉄則だろ、と私は陛下に挙手したのだった。


「発言をお許し頂いても?」

「よかろう」

「ありがとうございます」


 隣にいる陛下にぺこりと頭を下げて、前に向き直る。


「さて、先程から話しておりますように、私が学院入学式の朝に階段から落ちたのは、皆さま以外は周知のことだったようです。ですので、今も名乗ってくださらない、今日が初対面のそちらのご令嬢を虐めるのは無理がありますし、私は殿下の婚約者候補からは外れておりますので、嫉妬とかそんな理由もございません。学院に調査依頼をなさりたいのなら止めませんが、虐めの証拠がそちらのご令嬢の証言だけとか仰るなら、せめてご自分たちで少しお調べになってからの方が宜しいかと思いますが、いかがでしょう」


 私の発言に、後ろの少年ふたりは顔色を赤から青、そして白に変えていく。どうやら王子の暴走のようだ。


 入学したその日に落とされるとか、王子チョロいなー。


 涙目のご令嬢と、ご令嬢を抱きしめて庇おうとする王子。


 私は超分かりやすく簡潔に説明したぞ? これで理解しないなら、王子辞めた方がいんじゃね? ご令嬢も逃げ時見誤ったら終わりじゃん。


 私の説明に、ふむと陛下が頷く。さすが理解が早いねー。


「なるほど。我が愚息はアナスタシア嬢に冤罪を被せに来たのか」

「え、冤罪など……っ」


 言い返そうとした王子は、冷たい陛下の視線に固まった。うん、冷気半端ないっす。寒いっす!


「そなたに護衛がついているのは知ってるな」

「は、はい」


 話が飛んだな。いや、関係あるのか。


 頷く王子は、自分の後ろをチラと見やる。


「そのふたりはそなたの従者候補に過ぎぬ」

「え?」


 ですよねー。


 護衛と陛下は言った。仮にも王族を守護するのに、なんの訓練もして無さげな貴族の子供では役不足だろう。盾にはなれるかもだけど。


 そして王子になにかあったら、そのふたりの命でも責任はとりきれない。それくらい王制は絶対だ。


「そなたの視界に入る所にも、入らない所にも、護衛はついているのだ」


 それくらい知っとけよと目が語ってますね、ごもっとも。


「学院でそなたに関わる人物も、最初に調査が入る」

「え?」

「観察対象ですむか、要注意人物に指定されるかは宰相が判断する」

「は?」

「その報告書も我々に届いているはずだ」

「へ?」

「要注意人物にそこな庶民の娘の名もあったはずだがな」

「……え?」


 つまり、王子がちゃんと報告書読んでれば、全てが回避できた話だってことか。


「男爵の庶子で下町育ち。男爵家に引き取られてすぐに学院に入学。父親にはそこそこな家柄の婿を探すように言われたが、狙うは大物と子爵令息を足がかりに伯爵侯爵子息と踏み台を作り、ついに王子に到達。その日数僅か1日。入学式の夕方には王子殿下の隣でにこやかに笑っていたとか。男を手玉に取る世界で生きてきた女性なら、貴族の子供は簡単に御せるだろうね」

「お帰りなさい、お父さま」

「ただいま、アナスタシア。大変だったね、お疲れ様」


 報告書片手にラスボス登場とか、とーさまカッケェー。


 てか、字が読めるならその報告書読みたい、マジで。あー、読み書きの練習用に欲しいって言ったらくれるかなぁ。


「王子、貴方が大事に抱きしめてる女性ね、御歳26歳だよ?」

「「「「!!??」」」」


 ……マジで!? 10歳サバ読んでるってこと!? スゲェ。


 それを聞いた王子は、ソファーから転がるように降りて距離をとった。驚いてるとこ悪いが、気づかなかったの? いや、気づかないか、ナチュラルメイクっぽいフルメイクだもんな。


 前世なら全盛期な年頃だし、童顔ならいけると思ったのかも。父親に放り込まれたって言ってたし。


「……なんのことでしょう。私は16歳ですが」


 ニッコリと微笑む姿は、確かに若者にはない貫禄がある。場馴れしてんなー。そこはオドオドして涙目にならんといかんのではない?


「むしろ王子にはこれくらい肝の据わった方がいいのかも?」


 ポソりとした呟きは、しっかり陛下に聞かれていたらしい。


 身分は高位貴族の養女になれば問題ないし、教育次第では王子を支えてなおかつ社交界も牛耳れるだろう。


 オドオド涙目のご令嬢に王子妃とか無理ゲーだよ? 可愛さとか儚さとかで伏魔殿のトップになんて立てないよ?


「ふむ。ならばあとは愚息の覚悟だけか」


 陛下が呟いたけど、愚息って貴方が言いますか?




 その後、第一王子は陛下の護衛さんに担がれて去って行った。側近候補の丁寧な謝罪と、ご令嬢の土下座を見守った陛下はご機嫌で帰って行ったけど、帰り際「面倒はもうかけぬ故、楽に過ごすが良い」とお土産をくれた。


 王宮パティシエのスウィーツうまー! と舌鼓を打ってる私に、第一王子婚約の知らせが届くのは、もうすぐ。



腹黒真っ黒渋いイケメンはアナスタシアさんの好物です。

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