悪役令嬢って必要?
テンプレてんこ盛り。ヤラれる前にヤルぜなアナスタシアさん返り討ち?
「アナスタシア! 話がある!」
アポ無しで押しかけて来た上に、やたらと上からエラソーなこの男、なんとこの国の第一王子だそうだ。無理矢理屋敷に乱入した阿呆なのに。
金髪碧眼なお約束な見た目はともかく、中身が残念仕様もお約束ですかそうですか。アナスタシアさんよりもないわー。
先導もなしに私の名前を怒鳴りながら屋敷をズカズカ進んできた阿呆共は、止める人達を押しのけて扉を叩くように開けた。
私は応接室でお医者さんの診察中だったので、そのまま先生が同席すると仰ってくださった。侍女長さんが後方支援(とは名ばかりの超前衛)につく。
向かいに座った殿下の隣には、ふわふわなピンクゴールドの髪を肩で切りそろえた少女。貴族ならロングヘアが当たり前な世界なので、庶民かと思われる。その後ろに殿下の取り巻きらしい少年がふたり。
人数多いな。ちょっとは遠慮しろやー。てか挨拶もない上にどうぞもしてない椅子に座るとか、マナーどうなってんの?
「最初によろしいですか」
先手必勝じゃないけど、引っかかったことがあったし、マナー関係ないんだよね?
「なんだ」
ふんぞり返った殿下。偉そうだけど、利口には見えない。
「私、殿下の婚約者候補ではありませんので、名前の呼び捨ては遠慮くださいますか」
「は?」
「ただの候補のひとりだっただけですし、辞退してますので関わりはありませんよね」
「は!?」
「臣下の娘とはいえ、呼び捨ては礼儀に反するのでは? 王族がそれでは下への示しがつきませんし」
「え、は」
「そもそも、先触れもなく屋敷に押しかけ、尚且つ未婚の令嬢の部屋へ押し入ろうなど、犯罪ではありませんか?」
「え?」
「未だに挨拶もありませんし」
「あ」
「ひとりに多勢で圧をかけるなど、犯罪への助長をするなんて、王族の方のする事とは思えませんが、どう思われます?」
「は、え?」
「そして、私は学院入学の日に階段から落ちてケガをしたので、今まで学院に通っておりませんが、まさか学院での出来事が今日のこれに関係してはおりませんよね?」
「……はい」
向こうに喋らせたら、グチグチグダグダ長くなるに違いない。更にこちらの説明に耳を貸さない恐れあり。てか、聞く耳持ってない疑惑大。
「私と皆さまは学院で1度も会っていないはずですが、どうして確認もせずにこのようなことを? そして、なにがあったのか簡潔に説明願えますか」
私の頭には包帯が巻かれてるのだが、それにすら気づかないお子さま方は、リーダーたる王子が崩れたらグダグダだ。
「そんな……! 私にあんなことをしたのにどうしてそんなウソを……!?」
うん、スゲェ演技だな、おい。
王子の隣に堂々と座る、ノーマル制服のお嬢さんはまだ臨戦態勢だった。
「私は貴女とは今日この時が初対面ですが」
「ウソよ……!」
一々……がウザ、いや演技がおじょーずだわー。
「私が学院に通ってないことは、こちらのお医者さまが証言してくださいます」
「いかにも、アナスタシア嬢は学院入学式の朝から今日まで、この屋敷からでてはおりません。王宮筆頭医師であるわたしが証言致します」
まさかのお偉い先生だった件! てか、そんな先生がなんで私の治療を?
「報告を聞いた、アナスタシア嬢のお父上である宰相閣下のあまりの取り乱しように、国王陛下がわたしを遣わせたのですよ」
「まぁ。お気遣い感謝致します」
たんこぶの治療に国のトップのお医者さまとか、申し訳ないわ恥ずかしいわ。
「それが私を虐めたこととなんの関係が……!?」
だから虐めてねえっつうの。あらやだ、言葉遣いがよろしくないわ、ほほほ。いや、これ疲れるな。
お嬢さんよ、往生際が悪すぎでないかね。どうしてもアナスタシアさんを悪者にしたいようだけど、分が悪いぞ?
「虐めてないことの証明ですけど? そもそも初対面ですし、私貴女のお名前も存じませんが」
名乗れや。覚えるかどうかは別だがな!
「ウソよ……!」
だから名乗れと。いい加減ウザっ!!
「……王宮筆頭医師がそう言うなら、間違いないだろう。ただ、イベリアが虐めを受けたのも事実だ。学院に調査を依頼することにしよう」
「殿下……!?」
「きちんと調査した方が、イベリアも安心だろう?」
「それは……でも」
「アナスタシア、嬢も調査するが構わないな? 偽りはすぐに明らかになるが」
理解したふりでさらに脅しとか、ウケるー。
「どうぞ、好きなだけなさってください。調査されて困る秘密などございません」
なんせ残念令嬢だからね!
「その必要はない」
バリトンボイスが乱入した。聞いた事のない声だけど、私の周りは一斉に顔色をなくした。
……誰やねん?
なんで頭に血が上ったお子さまって人の話聞けないのかなー。