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テンプレって必要?

お久しぶりです、よろしくお願いします。

 ズキズキと頭が痛くて、目が覚めた。


 ぶつけたのかなんなのか、ものすごく痛い。


 そして、目覚めた私が見たのは、豪華な天蓋付ベッドの天井ときた。


「なんじゃこりゃぁ……」


 掠れた声で、そう言うしかなかった私の心中を誰か察してほしい。




 落ち着け私。


 仮にこの部屋がホテルだとしよう。でも、私にはここに来た記憶がない。


 それに、現代日本のアラサー社畜の私が、こんな豪華なホテルに泊まれるわけないし、ホテルだとしたら一泊何百万レベルの部屋を借りようとも思わない。だって払えないし。


 そして、夢とは言えない頭の痛み。包帯が巻かれてるようなので、外傷を負ったのは間違いない。しかしその記憶もない。詰んだ。


 まさか、流行りも終わりかけの異世界転生とか言わないだろうな、ァアん?


 いやいやいや、神様に会ってないからナイナイナイ。……しかし、私の視界に入る髪の毛はどう見ても銀色である。マジか。


 痛みを堪えて起き上がってみる。天蓋のレースを捲って部屋を見……るんじゃなかった。


 見るからに高級感溢れる上に可愛らしい家具。ピンクを基調としたインテリア。おまけに私、ドレスかと思う程のワンピースを着ていた。え、まさかこれパジャマとか言う? ないわー。


 誰かいないかな、この状況の説明を求む。答えはドッキリか私の幻想か妄想かしか受け付けない。


 しかし、ベッドから降りた私の足はへろりんと崩れた。力が入らないとか、なんなのなにかしたの私。


 でも、ベッドから出たおかげで、鏡が見えた。銀髪に菫色の瞳のキツめ美少女がこっちを見てる。


 見てる? え、いや、ウソ。


「なんじゃこりゃぁ……」


 誰かドッキリと言ってくれよ、とおーあーるぜっとした時、ドアがガチャりと開いた気がした。


「お嬢さ、まぁ!?」


 恥ずかしい体勢でこんにちは。気絶してもいいですか。ところでお嬢さまって誰?





 ここはどこで私は誰? とお約束かましたら、悲鳴をあげたお姉さんが人を呼んで大騒ぎになった。詰みすぎじゃない? 私。


 後から来た、落ち着いた雰囲気のお姉さまに起こしてもらって、ソファーに座らせてもらって、お茶を出してもらってる間にお医者さんが来てた。お仕事早。


 そこで知る現実。私は公爵令嬢アナスタシア・ポートガーナ。16歳。ポートガーナ公爵家の一人娘だそう。王立学院入学式の朝に階段から落ちて意識不明五日の重体だったらしい。


 コウシャクレイジョウ? 爵位的に上のお家よね。けど、公爵令嬢とか、現代日本にはない。銀髪も日本人にはありえない。


 いやいや、待って。マジで待って。え、なにこれ現実? じゃ私マジで異世界転生? アラサー社畜どこ行った!? マジかマジなのかそうかー。


「……階段から落ちた理由は何だったの?」


 現実逃避じゃないけど、疑問を口にすると、アナスタシアさんの記憶喪失に動揺してたお姉さま方が、さらに目を泳がせた。なんかやらかしたのかね。


「学院の制服のせいかと思われます、が」


 本人の記憶がないからわからない、と。正論ですな。言い難いのにスマンな、お姉さん。


「制服?」

「こちらです」


 クローゼットからトルソーが運ばれてきて、え、制服なのに三人がかりとか、どんだけ重いの?


「あー、なるほど?」


 いや、確かにこれはコケるわー。私なら動けないだろうなー。アナスタシアさん気合い入りすぎだわ。


 (くるぶし)までのロングワンピースはモスグリーン。ジャケットは紺。そのままで十分可愛い制服は、金持ちのステータスを表すためか、改造するのが普通なのだそう。


 アナスタシアさんは、スカートにレースだけじゃなく、小さな宝石とか縫い込んでた。リボンや刺繍とかこれでもかと施されたスカートは、詰め込みすぎて逆に品のない仕上がり具合。ジャケットは、元の紺色が分からないくらいに刺繍入のレースだらけ。かなりの重さがあると見た。


「なんだか、残念な仕上がりね……」


 これきて学院とか、私なら恥ずか死ねると思うんだけど。どうやらアナスタシアさん、さらに気合いのドリ、縦ロールヘアでご出陣される予定だったらしい。コケて正解だったんじゃね、これ。


 お茶に痛み止めが入っていたらしく、痛みは大分引いてきた私に、お姉さまもとい、侍女長さんが新しいトルソーを持ってきた。


「では、()のお嬢さまなら、どうなさいます?」


 まっさらなモスグリーンのワンピースに紺のジャケット。なんの手も入ってない制服が、ゴテゴテ制服の隣に並ぶ。あ、こういうの好きよ。


「そうね……まず、リボンを紺色のタイにするわ。下の所に刺繍を、銀糸がいいかな、小さく紋章とあとは蔦を這わせるとキレイかも」


 色が濃いから、軽く見せるのに、スカート部分に同色のレースを重ねて、裾に銀糸で刺繍を入れてもいいな、うん。


 ジャケットは、シンプルに銀糸で袖口と裾だけ刺繍したら、もう十分可愛いと思う。


 つらつらと想像を語ってる間に、侍女さん達の手が動いてた。


「わぁ」


 想像通りの制服が出来上がってる。スゲェ。


「素敵です!」

「ホントにステキ。みんな器用なのねー」


 アナスタシアさん、センスないなら侍女さん達を頼れば良かったのに。


 プライドかな、いらんもののせいで大怪我アンド魂どっかいっちゃうとか、運無さすぎじゃない?


 ため息を呑み込んだところで、紅茶のカップに手を伸ばしたら、廊下が騒がしくなった。またアナスタシアさん関連ですかね。


「アナスタシアの意識が戻ったとは本当か!?」


 銀髪紫眼のイケおじさまが、ドアが壊れる勢いで入ってきた。誰や。


「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」


 侍女さん達の息の合った挨拶への返事もそこそこ、私の肩を掴んで顔を近づけてきた。だから誰や。


「アナスタシア! 無事か!?」

「ひょっ!?」


 変な声が出たけど聞き流して欲しい。ちょっと恥ずかしいわ。しかし、おじさんとはいえイケメンが間近とか緊張するわー。


「あのー、どなたですか?」

「!!??」

「アナスタシアさまは、記憶を失っておられます、旦那様」

「なんだと……!?」

「アナスタシアさま、こちらはポートガーナ家当主であり貴女さまのお父上でございます」

「お父上……」

「いつものようにお父さまと言ってくれ、アナスタシア!」


 すまん、いつものがわからんから無理。



ありがとうございました。

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