第37話 可能性は無限大
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「本日の夕餉はこちら――――『手打ちうどん』でございます」
「そっちかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
コトリと置かれた一杯のうどん。
弥生は両目を覆って大げさに絶叫してしまった。
「……どうかされましたか?」
「いや……その……うん。オッケーオッケー……違うの。……ちょっとまた、ど真ん中火の玉ストレート狙ってたから……盛大に空振っただけ……」
「パンが出てくると思いましたか?」
「思いましたとも」
にっこり笑い合う二人。
同じ笑みだが『してやったり』と『してやられたり』の違いがあった。
「……私も最初はそうしようと思ったのですが。やはり記念すべき麦料理一品目は和食にすべきかと。なので心を込めて打たせてもらいました」
ホカホカとあたたかな湯気を上げる、出来立て手打ちうどん。
白くプリプリとした麺は太からず細からず、角の取れた丸四角麺。
具はキノコとワカメ。昆布出汁。
寒くなってきたこの季節には、たしかにパンよりこっちが嬉しい。
1000年の目覚め一発目にワインを持ってきた矛盾はこの際置いといて、雰囲気を出すために用意してくれたのだろう割り箸をパキンと割って擦り合わせる。
「では、冷めないうちにどうぞ」
「はい。いただきつかまつる」
まずはお出汁を――――ずずずずず―――……もわぁあぁぁぁぁぁあぁん……。
しみる昆布の旨味成分、ワカメの香り。
温かさで体中がもあああんとなった。
この時点でもうパンよりコッチが正解と完全降伏したのだが、まだまだ、肝心の麺に口をつけていない。
「す~~~~はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
息を整え、覚悟を決めて、いざ麺を持ち上げる。
半透明の外側に、白い芯がぷるんと映える。
ふーふーの儀式を終え、さあひとすすり。
「ずるるるるるるるるるるる――――っ!??? ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
吸い込んだとたん、汁を巻き上げ仰け反る弥生。
口いっぱい、鼻いっぱいに広がる小麦の香り。
大地の恵みを凝縮したその風味は、昆布が放つ海の香りにのっかって存在感を倍化させ、食欲を爆発させる。
その欲望のままに吸い込めれる麺は――――ふわぽにょふんわり麺っ!!
うどんと言えば讃岐。
讃岐と言えば圧倒的なコシとモチモチ感。
しかしこの麺はあえてその王道を外し、コシなしモチなし、ふわぽにょアリ。
ふわふわとした雲のような食感に、ぽにょぽにょ柔らかすぎる喉越し。噛むと口の中でぷりゅぷりゅと弾け、しかしギリギリの食感を残し、お汁とともに喉へと落ちていく。
その時の快感は、まさに筆舌に尽くしがたし悦楽!!
「……き……貴様……。こ、これは大阪……――いや、福岡のうどんだな……!?」
「さすが弥生様。御名答でございます」
わかっていただけたと、満足に会釈する彭侯。
初手であえて王道を避け、正道をも避け、覇道を行った。
その攻撃的な選択に、美食家として戦慄を感じ、嬉しくも思う弥生。
不敵な笑いを浮かべると、|ほとんど一吸いで一杯を平らげたのだった《ドゥルルルルルルルルルルルルルルルル》。
「こ……小麦ぃ~~~~小麦最高~~~~~~~~……」
けっきょく六杯を平らげてしまった弥生は、圧倒的満足感に溺れテーブルに突っ伏してしまっている。
あるだけの麺を全部食べてしまい、それでもまだ箸を握りしめたままなのは未練なのだろう。
主食は米さえあればいいと、少しでも思っていた自分がおりました。
だけどもごめんなさい。
やっぱり小麦も最高でした。
思い出してしまった私はもう、お米だけでは満足できません。
両方を求めてしまうフシダラな私を、おかあさんどうか許して――――、
「弥生様」
「はっ!???」
飽満に満たされ脳が混乱していたところを呼び戻され、ビク起きする弥生。
少し呆れた顔をしつつも彭侯は一つの桶を持って立っていた。
「最後の大麦なのですが――――」
「――――!??」
大麦…………!?
そうだ、まだそれが残っていた!!
そしてそう聞いて、出てくる答えは一つしかないっ!!
弥生はボケた頭を再起動し、さらなる大正解を導き出す!!!!
「ビィィィィィィィィーーーーーーーーールゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「――――――――と、行きたかったのですが、ホップがありませんでした」
「ずこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
会心の期待を瞬殺され、椅子ごと側転する弥生。
ごろごろごろごろ――――どぅわぁぁああぁぁああぁぁあああぁぁん……!!
壁まで転がって、飾りと化していた銅鑼にぶち当たった。
「じゃ……じゃ…………じゃあ何を作るっていうのよ……」
希望も興味も失って白目を向ける弥生。
そんな主人を面白がるように彭侯は言った。
「はい。なので麦焼酎を作らせていただこうと思います」
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