第30話 みなぎる
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「はい。今宵の夕餉はズバリ『熊鍋』でございます」
「わ~~~~い、待ってましたぁ~~!! ん~~~~美味しそう~~~~♪」
期待通りの献立。
熊捕っておいて鍋しないなんてありえない。
そこは直球勝負でいいんだよと念じながら待っていたかいがあった。
くるくると小躍りしながら席に着く弥生。
くつくつと煮える鉄鍋。
美味しそうな味噌と生姜の香りが、まずは鼻を喜ばせてくれる。
具は大根にネギ、ゴボウ、焼き豆腐、椎茸、平茸、ぶなしめじ。そしてもちろんメインの針ヒグマ。
「肉は希少な内ロースを使っていますので、きっとお口に合うかと……」
「どれどれ……じゃあいただきますよん」
手を合わせ、食材と彭侯に感謝。
そしてさっそく肉を一口、
「パクリ――――むおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!??」
いきなりトロ~~リ、油がとろけた。
臭味は一切感じない。
むしろ手作り味噌と生姜に相まって、涼やかにすら感じる。
良質などんぐりをたっぷりと食べている。そんな豊かさも感じた。
熊肉は初めてじゃない。
太古の昔はもちろん、近代日本でもジビエ料理として人気だった熊料理。
一人旅とか、お取り寄せパックとかでたまに食べていた。
臭くて固いイメージがあるが、きちんと丁寧に処理された熊肉は一流料理にも使われるほど上品な食材。
しかしこれは針ヒグマ。
熊にして熊にあらず。ハリセンボンの要素もまあまあ入っている。
ハリセンボンは食ったことがない。
だから不安だったが、なんのなんの、めちゃくちゃ美味しかった。
「柔らかくて……噛まなくても飲める。……こ、この肉……飲めるわ!!」
じゃぶじゃぶ溢れる肉汁に溺れそうになりながら、目を白黒させる。
A5和牛にも負けない〝トロじゃぶ感〟に感動する弥生。
「熊肉には高級ブランド牛にも含まれるオレイン酸が多く含まれており――……」
「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
「あ……。え~~……っとですね。つまり舌の上で溶けやすい脂なのです」
危うく飛び出しかける弥生チョップ。
すんでのところでウンチクを飲み込んで解説を続ける彭侯。
「あと悪玉コレステロールを減少させ、体脂肪としてたまりづらく、ビタミンB群、鉄分、亜鉛も豊富で、え~~~~~~~~~~~っとようするにとても体に良い肉なのですね。滋養強壮、疲労回復。あとホルモンバランスも整えてくれて美容にも効果があります」
「がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ」
それさえわかれば充分だと、一心不乱にむさぼり食べる弥生。
赤ワインとの相性も最高。
手製のガラス瓶ごとラッパ飲みして「ぷっは~~~~~~~~~~~っ!!」
大根もゴボウもキノコも焼き豆腐も、みんなこのまろやかな脂を吸って極上のツマミに格上げされている。
「特にゴボウは良いですね。これは味噌や生姜と同じく食材の臭味を吸収し、豊かな土の香りものせてくれます。……じつは私、大好物なんですよ」
「――――んぐっ!?」
そんなことを言われ、ちょっぴり赤面する弥生。
屈託のない笑顔の彭侯。
弥生は土の化身。ほんのり土の香りがするのだ。
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもゔもゔもゔもゔもゔもゔもゔも゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ゔっ!!!!」
肉の効果か、鍋のあたたかさか。
とにかく体がぽかぽかしてくる弥生であった。
「そして私は絶好調ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!!
今日も北の樹海探索。
群れで襲ってきた鹿(?)の大群。
体長3メートルぐらいある虎縞鹿(肉食)を岩の槍にて一網打尽。
周囲を地獄の針山に変えて弥生は吠えた。
「めっちゃ力みなぎってるわーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!! もう昨日からずっと興奮しっぱなしで一睡もできんかったわーーーーーーーーっ!!!!」
「……熊肉は精力剤みたいなものですからね。それにしても効き過ぎたようです……。やはり魔獣化して効能もアップしているのでしょうか……?」
興味深く顎を揉みながら彭侯。
岩を引っ込めたあと、辺りには30体ほどの虎縞鹿が頭に天使の輪っかを浮かべていた。
「……これもまた食べきれませんね。後で配りに参りましょうか……」
「うりゃあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁっ!!!!」
――――どすうっ!!!!
ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ、ドコドコッ!!
死肉を狩りに急降下してきたプテラノドン的な鳥『コヤモリ』。
それに対し槍を対空砲ばりに飛ばして迎撃しつつ、ドラミングしている弥生。
「……これは……どれだけ肉が捕れてしまうかわかりませんね」
空には数十体のコヤモリの群れ。
命知らずな魔獣たちと、敵知らずな主人を横目で見つつ、自分は植物採集を続ける。
「……あ、これニンニクですね。……よりによっていま見つけちゃいますか」
ネギのような草を引っこ抜き、間の悪さに頬をかく。
これでますます弥生様が元気になってしまう。
自分的には嬉しいが、魔獣的には災難だろう。
合唱しつつ、あるだけ収穫してしまう彭侯であった。
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