第2話 モドキ肉の香草焼き
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「さて、葡萄酒はこれで良いとしまして……」
樽に蓋をしてしばらく放置させる。
こうすることでさらに発酵が進み、風味が増して味もまろやかになる。
これも時間がかかる作業だが彭侯の能力を使えば一時間ほどで良い感じになる。
「ほんと、あんたは優秀な執事だよねぇ。私にはもったいないよ。ありがたいありがたい」
「なにをおっしゃいますやら。土の支配者であられる黄龍様がご顕在なればこそ私たちが生きていけるのです。お世話は当然のことでございます。……ところでお食事はどちらになさいますか?」
にゅるにゅると蠢くツタの先にはぐるぐる巻きにされた兎(?)と狸(?)が捕まっていた。
「……う。そ、それを食べろってか?」
「はい。煮ますか? 焼きますか? 胡椒や山椒、唐辛子など香辛料もあるていど育てておりますが……」
よく見たら兎にはツノが生えていて、狸の尻尾はサソリみたいに針が付いていた。
「……それ……なんか見たこともない生物なんだけど……」
「文明の崩壊にともなって生物の進化に急激な変化が起こったのです。なのでもう弥生様が知る動物はこの世界にほとんど残っておりません。ですが名残はありますので、これも『だいたい兎』で『だいたい狸』と思っていただいて良いと思います」
「た……食べられるの?」
「この付近の種族は食料にしているようです。好んで狩っているのできっと美味しいのだと思います」
森の精霊である彭侯は弥生が眠っている間、実体のない精神生命体として樹木と同化し生きてきた。なので新種の動物の味は噂でしか知らなかった。
ギャーギャー。ピーピーと泣きわめく兎モドキに狸モドキ。
美味い(らしい)と言われても……。
「ごめん……ちょっと可愛い系の動物を殺すのは抵抗が……」
「ほお?」
意外な返事にキョトンとする彭侯。
「昔はよく丸呑みにされていたではないですか。もっと昔はマンモスや……恐竜までも丸焼きにしてウマイウマイと……」
「それ、何千万年も前の話だよね? ……私はさ、もうすっかり1000年前の文明に慣れちゃってね。そういう野蛮なことはしないのよ」
「平和ボケですかな?」
「誰がボケじゃ誰が」
「では、肉はいらないのですね?」
ぐ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。
また盛大に腹が鳴った。
頬を赤らめた弥生は、
「み……見てないところで…………ヤッて……」
「偽善者ですかな?」
「しょうがないじゃないか。もう肉なんてスーパーで買うものだって体が覚えちゃってるんだよう」
「スーパーはもう存在しておりません。高度文明にふやかされた甘えは捨ててください」
「うぅぅぅぅ……」
「ではシメますよ?」
「ああああぁぁぁぁ……ごめんねぇ~~ごめんねぇ~~」
食べていくため。仕方がないことだ。
もう牛丼屋でコイン一つ置けば肉が出てくる時代は終わったのだ。
諦めて洗礼を受ける弥生であった。
「……まぁ村に行けば精肉屋もあるのですけれど」
捌かれた兎モドキに狸モドキ。
皮を剥がれて内臓も抜かれてしまった。
「それ、早く言わない!?」
「いったん接触を避けるとおっしゃったのは弥生様です。あ、塩どうしますか? 下味を付けたいのですが……」
「いるよ、もちろん!!」
塩味のない料理なんて料理じゃない。
弥生は精神を集中させると地下深くから岩塩の気配を見つけ出した。
そして土を蠢かせ、その塊の一部を地表へと押し上げた。
「はいよ」
「有難うございます」
世紀の大発見なのだが、二人にとってはどうでもいいようす(日本に岩塩は無いとされている)
受け取った岩塩の表面をナイフで削いで泥を落とす。
きれいになった岩塩をさらに削り、肉にふりかけた。
「胡椒も細かく砕いて一緒に揉み込みます」
板で作ったまな板の上でせっせと下ごしらえをする彭侯。
それぞれの肉を一口大に切って味をなじませている。
「かまど、これでいいよね?」
弥生は土に命令してかまどを作らせた。
上には鉄製のフライパンも乗せてある。
彭侯に操作されているツタは器用に木を削り、コップや皿、フォークなどを制作している。
「火打ち石、お願いできますか?」
「ほれ」
カチカチ――――メラメラ……。
かまどによく乾燥した枯れ草を入れる。
そこに火種を投入すると勢いよく燃え上がった。
「こうやって弥生様とキャンプをするのも久しぶりで……感無量でございます」
「……キャンプっていうか、ただのサバイバルだけどな」
じゅうじゅうと焼ける肉の音。
岩塩と胡椒。新鮮な香草で風味付けられたモドキ肉は、とってもいい香りがした。
ぐ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。
「……もう限界だ……」
「はしたないですよ」
よだれをだらだら。
1000年の空腹に野生が暴れそうになっている。
彭侯は樽を開け、ほどよく熟成された酒を確認する。
石のテーブルに葉を編んだランチョンマットを敷き、食器を並べた。
「ボトルとグラスがあれば良かったのですが」
少し申し訳無さそうに木のコップを置く。
「いらんよ。酒は雑に飲むのが一番うまい」
「はしたないですが、それは私も同感です。では始めましょう。ようこそ新たな世界へ。我々森の精霊はこれまで通り黄龍様に100年の忠誠を誓います」
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盛り塩