第28話 はいはい、お食べなさいな
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
――――翌日。
「――――おうりゃっ!!!!」
いきなり襲いかかってきた象豚の群れ。
弥生はいつもの岩の槍で全部を串刺しにした。
ここは猫人たちの住む旧三方地区から少し北東。
犬人たちが住むとされている旧美浜地区。
ここも魔獣に荒らされ、食べ物はほとんど残っていなかった。
「……しまった、けっきょく襲われるんだったら素直に樹海に向かえばよかった」
「この辺りもすっかり食べ尽くされていますね。樹海は恵みが多く豊かですが、そのぶん競争レベルが高いです。しかし弥生様ならば何も問題はないでしょう」
「う~~~~~~ん、でもなぁ……」
地上最強生物である弥生。
だけどもその性格は基本ものぐさ。
喧嘩は売られない限り売ったりはしない。
昨日の沼襲撃は主食確保という使命があったからスイッチが入っただけで、そうでなければできるだけ争いは避けて通りたい性分であった。
なので魔物の巣窟とされている北の樹海をさけ、安全な場所でのほほんと採集作業をしたかったのだが、やっぱり考えが甘かったようである。
「それによく考えたら……犬人たちも飢えてるのよね。ただでさえ少ない食料を横取りするのはさすがに気が引けるわ……」
「はい。強者には強者の狩り場が相応しいと思います」
「……わかった。じゃあ大人しく樹海にいくけど、また明日にしよう。もうお腹へっちゃったわ……ごくごく」
水分補給代わりに水割り清酒を飲む弥生。
おつまみは彭侯が作ってくれた干し芋。
「そうですね。では捕れたての象豚をここで焼いて……」
「いや……もう象豚はお腹いっぱい。まだまだウチにあるし……」
「……ではこれらはまたここに置いておきますか?」
「そうね、きっと美味しく食べてくれるでしょう」
しとめた象豚、12頭。
重さにして50トンほどの肉。
それらを一箇所にかためて、また看板を立てた。
『みんなで食べてね。仲良くね』
そして龍の鱗も貼り付けておく。
「どうせなら魚が食べたいわ。また海に行きましょう」
「わかりました」
変身する弥生。
その背中に乗る彭侯。
護身用に作ってもらった鋼の槍を背負うその姿は、見惚れるほどドラゴンナイト。
そんな勇ましき二人を岩陰から隠れ見る、無数のつぶらな瞳。
大小様々な犬の群れ。
みんな痩せて毛並みはボロボロ、皮の下に骨も浮かんでいる。
神様が飛んでいくのを目に涙を浮かべつつ見送ると、感謝の言葉を表すように大きく大きく遠吠えをした。
「……ん? いまなにか聞こえたよね?」
「そうですね。感謝を知るものは護るに値します」
湖を越えて海までやってきた二人。
秋晴れの空。
涼やかな光に照らされ海面がキラキラと宝石のように煌めいていた。
上空にとどまってしばし、どうしようか思案をめぐらせる弥生。
「……どうせ入江にいっても、まだ魚はいないわよね」
「そうですね。大王ホタテダコを仕留めてまだ日が浅いですから。他の釣り場に行かれてはどうですか?」
「いやまぁ……のんびり釣りって腹具合でもないんだよね。だからここは手っ取り早く……」
「いやっほーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」
ザババババババババババババババババババババババババババババババッ!!!!
海面スレスレを低空飛行。
空気を切る衝撃で海水を巻き上げながら爆速滑空する弥生。
くるんと巻いた尻尾には彭侯に作らせた麻紐製の漁網がひっかけられていた。
近海での釣りをあきらめ、ちょっと沖に出て、漁をすることにしたのだ。
「や……弥生様……もうちょっとゆっくりお願いできませんか? も……森から離れると私……ち、力が弱くなりますので……」
ヘロヘロになりながら弥生の首にしがみついている彭侯。
網の抵抗も良い感じに重くなってきた。
「こりゃあ大漁ね。よしよし、それじゃあ浜に戻りましょう」
「……ぜんぶ鰯でしたね。……それにしてもちょっと捕りすぎではないですか?」
「網が大きかったのよ。半分はあんたのせいよ」
先日の入江まで戻ってきた弥生たち。
さっそく浜辺に網を広げてみたのだが、中身はすべて鰯。
しかもその量はあまりに多く。二人ではとても食べ切れそうになかった。
「べつにいいよ。私、鰯好きだし。海の魚感もあるにはあるし」
「……干物や塩漬けにするにしても、まだまだ余りますね……。どうでしょう弥生様。いっそのこと缶詰でも作ってみましょうか? 弥生様なら――――って、また看板ですか?」
彭侯の提案を無視して、さっさと看板を立てている弥生。
そこには『生物ですのでお早めに。食べすぎちゃだめよ』と書かれ、龍の鱗もしっかり貼り付けられていた。
「だって、缶詰とか面倒くさいし。それに魚なら冬でも捕れるでしょ? だったら無理して独り占め保存しなくても、みんなで分けたほうがいいじゃない?」
そしてさっさと焚き火の準備を進める弥生。
「ああ、料理は私がやりますから。弥生様は休んでいてください」
「そお? じゃあよろしく~~~~♪」
やがて鰯の焼ける香ばしい香りと、弥生の「うめぇ~~~~~~~~!!」という叫びが、潮風とともに秋空に広がった。
そんな二人を磯の岩陰から覗き見る真っ黒な瞳、瞳、瞳。
カワウソ人と呼ばれる亜人たち。
彼らは二人が去るまで手を合わせつつ静かに拝み。
そしていなくなったあと、残った鰯の山をありがたく浜の岩場へと運んで行ったのだった。
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