第19話 それがいいね
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
それからしばらく、食卓には豪華な豚肉料理が出続けた。
象豚汁。象豚肉とじゃがいもの照り焼き 肉野菜炒め。チャーハン。トンテキ。象豚丼。象豚バラ肉の味噌鍋。角煮。チャーシュー。象豚肉と茄子の味噌炒め。ベーコンステーキ。ベーコンと山菜の炒め物。茹でソーセージ。ソーセージとベーコンのポトフ鍋。エトセトラ、エトセトラ……。
一週間後――――。
「おはようございます弥生様。きょうの朝餉は『象豚肉とじゃがいもの甘辛炒め』でございます……」
「う……うん、そうねそうね。ありがとう美味しそうだね……だね……」
ボサボサ髪にやつれた目をしつつ、弱々しく微笑む弥生。
朝のさわやかな日差しに肉の油がテカテカ光ってとっても眩しい。
いただきますの感謝をし、一口はむり。
しばらく咀嚼し、おもむろに弥生は、
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~きぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~たぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
両腕をぶらんぶらん。
二日目の昼ごはんあたりから思っていた不満を一気にぶちまけた!!
「……………………」
「あああ……ごめんごめん!! 違うのよ彭侯!! あなたの食事はとっても美味しいの!! すごく美味しい!! でもほらこの前言ったじゃない!? たまには変化球も打ちたいってさぁ~~あ~~ぁぁ~~~~~~あぁぁぁ……」
涙目になって使用人にしがみつく主人。
うるうる目が黒いビー玉のようになっている。
「いえ……あの…………申し訳ありません……」
不満な顔をするわけでもなく、もちろん逆ギレもなく、真摯に申し訳なさそうに頭を下げてくる彭侯に弥生の良心はズタボロに切り裂かれてしまう。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!?? や、やめてやめて!! そんなふうに謝らないで!! 違うから!! 美味しかったから!! トロ~~リぷりぷり角煮。しゃくしゃく油カスチャーハン。元気一杯スタミナ豚丼!! 全部最高だったの!! でもさぁ~~~~……豚ばっかやぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。油ギットギトや~~~~~~~~~~~~~~ん!!!! 今日だって朝からテカテカしてるや~~~~~~~~~~~~~~ん!! もうちょっとさぁ、こってりあっさり緩急つけて投げてきてよぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!! それだけなのぉ~~~~私それだけで、ほかはなにもいらないからぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
いやんいやんと下半身に鼻水を擦りつけてくる弥生。
彭侯は困った顔をして相談した。
「いえ、その……実は私も気にはしていたのです。しかし肉が余り過ぎて……少し見ていただけますか?」
そう言って彭侯が案内したのは離れのワイン小屋。
外観は小さな小屋だが、中に地下室への階段があって、大量のワイン樽や日本酒はそこに保存されていた。地下のほうが直射日光もなく、温度が安定しているので弥生に作ってもらったのだ。
その広い地下室の一角に、大きな長方形に切り分けられた象豚の肉が大量に保管されていた。
「うわぁ~~なるほど……これはまだまだありますなぁ~~~~……」
しとめた象豚の大きさから推測して、体重はおよそ5トン前後。
骨やら臓物を抜いた残りは2トンくらいだろうか?
肉塊の側には加工した肉(ソーセージ、ハム、干し肉)の他、大量の壺が並べられていた。これも先日、頼まれて弥生が作ったものだ。
「ソーセージやハムは持ってあと二週間。干し肉も一ヶ月程度でしょう。塩に漬けて瓶詰めにしたものは一年持ちますが……残りすべて瓶詰めというのも芸がないと思い、扱いに困っていたのです」
「ははぁ~~……そうだねぇ……」
100個はある壺を見て、ゾットする弥生。
そうなのだ、この時代にはもう冷凍庫なんてないのだ。
だから狩った獲物は腐らないうちに食べてしまわねばならない。
とはいえ無加工の精肉はまだまだ山盛り。
「私の能力でできるだけ細菌の繁殖は抑えていますが、それでもあと三日もすれば腐ってくるでしょう……今が冬ならば良かったのですが……」
「むうぅ……」
カレンダーはないが感覚的に10月くらい。
まだまだ熱い日もある。
「どうしますか? 残りすべて瓶詰めにしますか? それとも頑張って召し上がりますか?」
「無理無理無理無理無理無理無理無理」
「……では……もったいないですが葡萄畑の肥しに」
「それも抵抗あるわぁ~~~~」
1000年前は牛丼一杯30円値上がりと聞くだけでこの世の終わりを感じていた弥生。いくら養分になるとはいえ、まだ食べられる肉を土に返してしまうのは罪悪感がひどい。
「もったいないオバケが出るかもしれないしなぁ~~~~」
「懐かしいことをおっしゃいます。 しかしそうですね……もったいないと考えるならば……」
彭侯はしばらく考え、やがてポンと手を打ち、提案した。
「でしたら〝おすそ分け〟してみましょうか」
「おすそ分け?」
「はい。猫人や犬人の村に配ってあげるのですよ」
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