第13話 甘味
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「いや~~~~うまいわ。やっぱ日本酒にはこれよ」
じゅ~~じゅ~~。
フライパンで椎茸を焼き、カサの部分に醤油を垂らしている弥生。
部屋中に香ばしい香りが充満していた。
「彭侯ぉ~~。あんたもさ、こっちきて一緒にヤリなさいよ~~~~。お酢なんか明日でいいからぁ~~~~」
どぶろく、清酒。
二つを代わる代わる飲み比べ、ご機嫌の弥生。
すっかりできあがってしまっている。
龍に毒は効かないが、都合がいいことにアルコールは効くようだ。
「すぐに終わりますのでお待ちください」
「なぁ~~んだよぉ~~~~」
「お酢は、酒に含まれるアルコールを酢酸発酵させれば完成します」
「さくさんはっこぉ~~~~ぉ?」
「はい。酢酸発酵とは酢酸菌を用いた分解です。酢酸菌も空気中や果物の皮、葉っぱなど、どこにでもいます。今回はこの葡萄を使いましょう」
古代酒の中に葡萄を一粒放り込む彭侯。
ぽちゃんと、なんの芸もなく浮かび上がった。
「それだけ?」
「これだけです。あとは私の能力で酢酸菌を活性化させ発酵を早めます」
「出た、早送り!!」
んにょにょにょにょにょ~~~~。
「はい。これで完成しました」
「はやっ!?」
見た目はお酒のまま変化がないようだが、香りが変わっていた。
ツンと鼻孔を刺激する、懐かしい匂い。
お寿司屋さんのいい匂い。
さっそく指にひとすくい、舐めてみる。
「酸っぱっ!? あ、これお酢だ!! 完璧にお酢だ。きゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~すっぱうんま~~~~~いっ!!」
「はい。ちなみにワインで同じことをすればワインビネガーになります」
「まじかぁ~~!? お酢ってそんな簡単にできるのね、すごーーーーいっ!!」
「はい。またあとで作っておきますね」
彭侯は作りたての酢をひとさじ汲み上げると、豆味噌に混ぜはじめた。
それを椎茸のカサに詰め込んでフライパンに。
「焼き椎茸の酢味噌かけです。お酒との相性は――――」
「いわずもがなっ!!」
カサの中で熱せられた酢味噌からプクプクと泡が浮かんできた。
味噌と酢の酸っぱ芳しい香りが鼻孔をくすぐり、唾液を誘う。
「ぐわぁ~~~~~~~~たまらんっ!! じゅるぅ~~~~りぃ!!!!」
足をぱたぱた。待ちきれない。
火が通ったとたん――――「ぱくっ!! はふはふ!!」
口へと放り込んだ。
すると――――ドンッ。香りが弾けた!!
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~まいっ!!!!」
キリッと引き締まった酸味。
豆味噌の香ばしさと合わさって、焼き椎茸の風味と旨味が倍に、いや三倍に膨れ上がっていた。
唾液が堰を切ったようにドバドバ溢れてくる。
そこにすかさず澄んだ清酒を流し込むと――――、
「かぁ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!! 甘~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!! 生きてるぅ~~~~~~~~~~~~~うっ!!!!」
感極まって膝をピシャリ。
だらしなく胡座をかいた有様は、もうどこぞのオジサンそのもの。
「はしたないですよ」
「そうさせてるのはアンタよアンタ!! こんなもの食べさせられてオジサン化しない女子はいないわよ!??」
「……意味はわかりませんが、満足していただいて良かったです」
そして翌日。
「う~~~~~~~~~~~~~~ぃ……やっぱ露天にゃ日本酒だのぉ~~~~」
朝風呂に浸かりつつ、どぶろくで一杯やっていた弥生。
そこに彭侯が野菜を抱えて帰ってきた。
「あい、おかえり~~~~~~~~。朝からどこ行ってたの~~~~?」
「……やはり垣根をお作りしましょうか……?」
遮るものが何もない、むき出しの岩風呂。
スケスケの湯船に目を覆う彭侯。
「いやよ。この開放感がいいんじゃない」
むしろちょっと見せつけるように湯船の中で大股を開く弥生。
気持ちはわからなくはないし、この場所で誰に覗かれる心配もないが、なんとも危なっかしい気持ちになる。
小さなため息を吐きつつ、とりあえず質問にこたえた。
「ちょっと大根とさつまいもを採りに。いい具合のものが見つかって良かったです」
「大根とさつまいも? 煮っころがしでも作ってくれるのかしら?」
「……いえ。塩、酢、醤油、味噌と揃って、あと足りないものは――――」
「おう、砂糖ね」
「はい。その通りなんですが……」
「なんか問題あるの?」
「いえ……ご存知かと思いますが、砂糖は『サトウキビ』あるいは『甜菜』から作られています。しかしこの辺りではその二つとも手に入れるのが難しいのです」
「え~~~~また採りに行かなきゃいけないってやつ……むぅ……」
面倒くさそうに眉をしかめ、顔を湯船に半分、ブクブク泡を作る弥生。
しかし……それでも砂糖は欲しい。
昨日の酢味噌も砂糖が入ればさらにコクが増して美味くなっただろう。
葡萄や野いちごの果汁で甘味はつけてくれていたが、和食となるとそれも……。
「……しょうがない。背に腹は代えられないしね……どこまで飛べばいいの?」
「甜菜は北海道、サトウキビは沖縄まで行ってもらえれば……」
「ぶっ、行けるか~~~~~~~~ぃっ!!」
予想していなかった場所にビックリ、ばちゃばちゃと湯船を叩いた。
さすがにそんな所までは飛べない――――こともないが死ぬほど面倒くさい!!
「はい。そう仰ると思い、代用品を作ろうかと……」
「代用品?」
ハネたお湯でビチョビチョにされた彭侯。
髪をかきあげ、それでもはやさしく微笑んだ。
「この大根とさつまいもでひとつ『水飴』を作ってみようと思います」
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