生徒会副会長ですが堪忍袋の緒が切れました。
※読む人によっては逆ハーやぶりっ子批判に見えたりと少し引っかかる言葉が登場しますのでご注意ください。
みなさま、初めまして。
私は某高校の生徒会で副会長を務めている犬山洋子です。
実によくある名前すぎてつまらない?"子"なんて現代っ子らしくない?
黙らっしゃい。
私としては気に入っているのです。
子、と言う漢字は一から了…つまり生まれてから死ぬまでを意味するとも解釈できますからね。
まともな名前をつけてくれた両親には感謝しています。
外見上は女子高生にしては後述の理由で遊んでいないので地味かもしれませんが、成績だって運動神経だって人並みにはあるし、割とまともに育ったという自負もあります。
ただ、軽い厨二病と隠れオタクを発症しているので女子高生らしく遊ぶよりも二次元充実するために青春を使ってはいますが。
それはさておき。
どうしてそんな私が生徒会なんぞという面倒な組織に身を置いているのか。
本当はね?
同類の集まりやすい図書委員会とかに入りたかったんですよ。
でも当時の生徒会の先輩がたまたま中学時代お世話になった先輩で、その人に言われて生徒会執行部員として入ったわけです。
それで黙々と仕事をするという極当たり前のことをしていたにも関わらず、何故か出来る子だと認められ、生徒会役員、しかも副会長にまでなってしまったのです。
一応は先輩からの指名があった後、生徒会選挙に立候補して投票を経る必要があるのに、何故。
とにかくそんなわけで副会長職をバリバリと半ばヤケクソでこなしている私ですが、最近悩みがあります。
それは。
私以外の生徒会役員が仕事しねぇ。
繁忙期じゃなくても役員は少しずつやるべき仕事がある。
特にうちの高校は生徒の自主性、社会性を高めるためという目的で生徒会の自治に重きを置いている。
だから何かしらやることはあるんだけども…。
「おい、ワンコ。これもやっとけ」
乱雑に書類を私の方に投げてくるのは蟹沢獅雄。
これでも生徒会長である。名前だけはご立派だと思う。
ただ、私の苗字をもじって犬扱いしやがるのだけはいくら先輩だろうと腹が立つ。
「会長、これは会長の仕事では」
「俺は今忙しい」
「…そうですか」
もう諦めたので、さっき目を通していた書類に視線を戻す。
「これ計算間違ってるけど」
「えー…あー…よーちゃん直しといてー」
こちらに一瞥もくれずにそうのたまいやがったのは会計の鈴鹿優馬。
お前の計算ミスを何故私が直さんとならんのだ。
イラッと来て、奴の机の上に置いてやった。
「…これ、読めないんだけどふざけてる?」
書記の魚住蛍太。
普段は書記になるくらいだしこんなに汚くないはずなのに、汚くて読めない。
「なら先輩直しといてー」
自分の仕事を押し付けないでほしい。
まずそもそも先輩ではあるし君よりは仕事してるんだから最低限の敬語は使え。
そんなやつの仕事をフォローしてやる義理はないとそのまま提出の方に回すことにした。
「ふふっ、頑張って副会長」
男共3人にチヤホヤされながら鼻を通したような似非アニメ声で言いやがるのは、自称私の親友らしい庶務の星宮乙女。
親友になった覚えはないし、っていうか庶務って何庶務って。
生徒会選挙の時なかったのにも関わらず、今年から増やすとかなんとか顧問が言って、いきなり入ってきた彼女がその役職についた。
生徒会以外にも何か男を侍らせてる時があって、リアル逆ハー乙、と同朋と笑っていたが、こうまで来ると笑えない。いや、ワロエナイ。
自分の仕事が終わると同時に、我慢も効かなくなった。
「…っお前ら…いい加減にしろよ…?」
私が机に手をついて立ち上がると大きな音を立てて、椅子が倒れた。
「おいワンコ、うるせ」
「何がワンコだ、うるせぇだ?人の苗字で遊ぶガキみてぇな奴がいっちょまえに人に仕事押し付けてんじゃねぇぞ無能会長。そもそもぺちゃくちゃとお喋りしてるそれのどこが忙しい。言ってみろ」
「…お、おい…?」
「よーちゃん、落ち着い…」
「落ち着いて黙って仕事してた結果がこれだろうがよ。自分のミスを人に直してもらおうなんて甘えてんじゃねぇぞアホ会計。暗算でミスっても計算機一個使えばすぐ直せるだろ」
「……ごもっとも」
「せ、先輩…どうしちゃったんですか…?」
「こういうことになったらやっと先輩扱いして敬語使えるようになんのかバカ書記は。人が自分の仕事してるってのにめんどくせぇからって自分の仕事押し付けようとしやがって何様のつもりだ?二年から選ぶっつってたのを、自分から書記をやりたいって言ったのはどこのどいつだ?」
「…僕です」
「ちょ、ちょっと洋子ちゃん、言いすぎだよ!」
「名前で呼ぶな馴れ馴れしい。私はお前の友達になった覚えすらないのに勝手に親友名乗って都合のいい時だけ利用しに来て、お前本物の友達できたことねぇだろ。男ばっかにチヤホヤされて、お前はリアル乙女ゲー主人公か。生徒会に入ってきていきなり役職につくんなら一番責任の軽い庶務の仕事くらいまともにしろよ」
「ひっ酷い…っ」
目に嘘泣きの涙を溜め出す星宮。
「ピーピー泣きゃあ騙されると思ってんじゃねぇぞ。涙が通じんのはそこの馬鹿共とテメェが普段侍らせてるアホ共だけだよぶりっ子女」
「ワン…犬山、お前少し疲れてるんじゃねぇのか」
「ああ疲れてるよ当たり前だろ何言ってんだ?!この一ヶ月まともに仕事した記憶があるとは言わせねぇぞ」
「……」
「何か言いたいことでもあんのか」
「…いや、ねぇです…」
「じゃあ私から言わせてもらう。お前らとっとと自分の仕事しろ!仕事しねぇ、もしくは仕事する気がないなら出てけ!!」
しん、と静まり返る生徒会室。
誰も動かないし、何も言わない。それすらもイライラする。
「…そっちがその気なら、分かった。もう私が出て行く。職務怠慢でリコールでもなんでもされてしまえ」
荷物を全部持って、ドアまで歩く。
「お前、自分の仕事は」
「そこに全部終えてあります。あとは会長、会計、書記、庶務の仕事しか残っていません。それでも私が帰ることに何か文句がおありで?」
「…いや、ない」
「そうですか。では、さようなら」
スパンっと思いっきりドアを閉めてやる。
もう堪忍袋の尾は切れたんだ、知ったことか。
ずんずんと廊下を歩いて昇降口に向かう私の周りにはもう誰もいない。
当然だ。生徒会は基本的に生徒全員の下校を見回ってからじゃないと帰れないんだから。
ま、その見回りも最近は私しかしてなくて、他のやつらはさっさと帰ってたけどね。みんなで。
「…ちゃん、よーちゃんってば!!」
強引に肩を掴まれて振り向かされる。
鈴鹿はわざわざ追ってきたらしい。
「…何」
「えっと…」
未だにすごい剣幕になっているらしい私に怯んだのが分かった。
それでも手を離さない分、見た目よりはヘタレてないらしい。
「そりゃ、乙女ちゃんにばっかり絡んでで悪かったよ…でも仕事は」
「ちゃんとやってたなら、あんな簡単なミスを、常に数学の成績が上位な鈴鹿がするわけないでしょ」
「…まだ、怒ってる?」
「もう怒ってないって言ったらどうせまたやるよね?」
「……」
「会長や書記はもう生徒会として見捨てるからいいんだけどさぁ…アンタは私を怒らせる原因、もう一つあるって分かるよね?」
「…うん」
鈴鹿が私を怒らせている、生徒会以外の原因。
それは。
「一年の時から何度も何度もしつこく告白してきて、断り続けたってのにこれから好きにさせるからと小っ恥ずかしくも人の多いところでまた告白し宣言して頷かざるを得ない状況を作り、付き合うように仕向けたのはどこの誰だっけ?」
「…俺です」
察しのいい方は分かっただろうが、私と鈴鹿は付き合っている。
彼氏と彼女の関係というやつだ。
「じゃあ、今の状況は?」
「それは…乙女ちゃんって生徒会入ったばっかりだし…早く馴染めるようにしてあげたいじゃん」
「早く馴染めるように、ねぇ。それでいつも誘ってもらってばっかりじゃ悪いと思って遊びに誘った私との約束を破って、会長や書記とも遊んでる彼女と遊んだんだ?」
「…放っておけなかったし…」
「だから、一人でも大丈夫であろう私は放っておいた?何で一年の時に放っておいてくれなかったの。これでもさ、少しはいい奴なんだな、とか思うようになってたんだよ?それをわざわざ裏切るような真似をして…私、約束破る人、嫌いなんだ」
悔しいことに、私はこいつを好きになりかけてたんだ。
星宮が入る前は、自分の得意な計算中心である会計の仕事を終わらせて手伝ってくれたり、一人で帰るのは危ないって家まで送ってくれたり、その途中でよくある放課後デートをしたり。
休みの日にも、ちゃんと計画立てて、私が疲れないようなデートにしてくれたり。
軽く見えて、すごく優しくて誠実なんだって思ってた。
それをあっさり裏切ったのは、こいつ自身だ。
「だから、もういいでしょ。お試しで付き合うのは終わり。放っておけない彼女のところにでも行ったら?」
「…嫌だ」
「オブラートに包んだからわかんない?別れてって言ってんの。顔も見せるな」
裏切りは、好きになったその分の好意を憎しみに変えるという。
現在の状況はそれなんだ。
「嫌だ!」
いきなり視界が暗くなって、息苦しくなった。
洗剤の匂いが鼻をくすぐる。
「…約束を破ったことは、ごめん。でも俺本当によーちゃんが好きなんだ。しつこいって言われても、何度振られても、嫌われない限りずっと好きだって言い続けようって、初めて思った」
確かに、しつこいとは思ったけど、嫌いにはならなかった。
「あの時のは…よーちゃんのこと好きだって言う奴がいるって聞いて、いてもたってもいられなくて、付き合ってるって事実だけでも作って、あとは付き合えてる内に頑張って好きになってもらおうって…ずるかったよね、反省してる」
本当にね。いきなり人の多い場所と時間を選んで告白するとは思わなかった。
それまでは人のいない場所だとか、最後の見回り中みたいな二人きりの時ばっかりだったから。
「…香水、やめたの」
「え?ああ…うん。よーちゃん、香水の匂いが苦手だって言ってたから」
私は柑橘系や制汗スプレーみたいな匂いなら平気だけど、こいつが前まで使ってたような香水の匂いは嫌いなわけではないのに、苦手だった。
暖房が入る冬の時期なんて最悪で、少し強く嗅いだだけで具合が悪くなったりする。
「ふぅん…星宮サンは、あの匂い好きなんだってさ」
同じ香水をつけている、普段の取り巻きの一人にそう言っていたから間違いない。
「じゃあ、もうつけない。捨てるよ」
「…いや、そこまでしなくても」
よく知らないけど、香水って高いんじゃなかったっけ。
「よーちゃんが嫌がるものなら、いらない」
「……」
「本当に好きなんだ。別れたくない」
「…なら、」
こういうところが、生徒会の状況をここまで悪化させたのか、と他人事のように考えて、鈴鹿が待っているであろう次の言葉を伝えることにした。
もう抱きしめられていた状態からは解放されているので苦しくはない。
「最後のチャンス。私は言った通り生徒会にはしばらく行かないで鈴鹿の帰りを学校のどこかで待つ。そうだな…副会長の仕事も貯まるし、来週一週間だけでいいか。その間に私に鈴鹿を見直させて」
この前約束を破った分、並大抵じゃ見直すことはできない。
だから、どこかで待っている私を見つけられるくらい見回りをきちんとこなすところまで生徒会の仕事をしっかりやってほしい。
そもそも私が監査委員を説得していなかったら、もうとっくにリコール入ってたくらいだし、仕事をしてるかしてないかは分かりやすい。
「えーと。要は、生徒会の仕事をきちんとやれってことだよね」
「そ。簡単でしょ?」
「その間、接触禁止とかは…ないよね?」
「帰りを待つって言ったんだから、一緒に帰るってことでしょ」
「…うん」
こういうやり方、束縛してるみたいで本当はやりたくないんだけど。
私自身束縛とか嫌いだし、先にしていたはずの約束さえ破られなきゃ浮気するのは別に良かったし。
「言っとくけど、生徒会の仕事を疎かにしないなら、別に星宮と接するのは構わない。私は友達だと思ってないけど、鈴鹿にとっては友達なんでしょ。だったらそこまでは制限しないよ」
「…え…」
制限されると思ってたような驚き顔だな。
「本気で勘違いしないで欲しいんだけど、私は嫉妬とかで怒ったわけじゃないから。生徒会役員ってことは責任がある立場なんだ。自分の責任すら果たせない奴を誰がいいと思うの」
「思わない、ね」
「…だから、先輩から推薦されたとはいえ、自分で責任を負うと決めた生徒会での役割をきちんと果たして欲しいだけ。分かる?」
「じゃあ、さ」
「ん?」
「…乙女ちゃ…じゃなくて星宮さんと喋ってても、何も思わないの?」
「嫉妬するかってこと?友達と喋ってるのにいちいち嫉妬されても鬱陶しいでしょうが。アンタだって、私が会長や書記と喋ってても何も思わないでしょ」
「思うよ。すっげー思う!腹立つし、今すぐ邪魔したいし、っていうかよーちゃん閉じ込めたくなるし!」
二次元のヤンデレは好きだけどリアルなヤンデレはお断りです。
「分かった、あんたの愛は分かったから…」
嫉妬は愛の裏返しというし、そういうレベルなんだろう。
実行するほどの病み具合じゃなくてよかった。
「別に私もあんたが嫌いなんじゃないよ。好かれてる自信があるから嫉妬もしないだけ」
「…ホントに?」
「ホントだって」
頷くと、途端に表情が明るくなる鈴鹿。
さっき血が昇って星宮のチヤホヤ状態をリアル乙女ゲーと言ったけど、こいつが攻略対象だったらワンコ系ヤンデレというかなり厄介な属性だと思う。
「じゃ、計算ミスを直してきたら、教室に来て。見回りして帰ろう」
「…うん。やってくる!」
…ワンコは私じゃなくてアイツだよ、会長。
驕っているわけでもなんでもなく、黙々と仕事してた私の抜けた来週の生徒会はまともに回るのか不安だったけど、生徒会伝統のマニュアルに庶務の仕事の分だって書き足しておいたし、もし本当に何をすれば良いか自分たちで考えても困ってしまった時はこっそりメールしてこいと鈴鹿にも伝えておいた。
これでリコールすると監査委員から言われたら、もうお手上げだ。
来週の一週間が勝負だけど、どうなることやら分からない。
まぁ、会長も言っていた通り疲れているので、副会長は一週間休業することにします。
いかがでしたでしょうか。
一つラブコメの中編を書いていたのですが、アニメのキレ芸に感化されたこと、不憫系・苦労人系のキャラを好きになる確率が高いことから、そういったキャラの代わりに私が言いたくなったりすることを今回、息抜きがてら副会長である彼女に叫んでもらいました。
後半の流れには驚いた方もいるかと思います。
まぁ、本当に逆ハーになってたら普通振りますが、会計の彼は副会長の彼女が大好きです。文中にも書いてますがこいつがワンコです。
副会長を、前にどこかで見た別れにくい良い女の条件に当てはまるようにしたので、まんまとハマりこんでますね会計。
…若干ヤンデレ入ってるのが副会長のこれからの頑張りどころでしょう。
その前に生徒会は更生するのかというところですが。
ここまでやったなら続き書けよ!と言われるところでしょうが、短編で5000字書いたのが初めてに近いのでここで切ります。
もし続きを望んで下さるという神の声が多かったら、今回よりも短いでしょうが書かせていただこうと思っております。
それでは、拙文でしたが、お読み下さりありがとうございました。