公立麻場高校1年F組の召喚事情
暇つぶしに書いた短編です。暇なときにでもどうぞ。
その日、いつものように帰りのホームルームを終えてさあ帰宅しようと言う時にそれは起きた。
突然地面が光り輝いたと思ったら大きな魔法陣が現れ、クラス全員を飲み込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ようこそ異世界の勇者様がた!」
光が消えると目の前にはかなり豪華なドレスを着た少女と俺たちの足元にある魔法陣を取り囲むように同じ黒いローブで統一したなにやら杖を掲げた集団に出迎えられた。
「混乱している方も多いと思うので、ざっと説明しますね。
まずここは異世界『アルトニア』の人族の国『バルライト』の首都『バルライト』にある王城です。
そして私はバルライト王国第十八代国王が娘第一王女のティアラと申します。
皆様をお呼びしたのは他でもありません、我が国と敵対する魔族の国『アルバレス』にいる魔王を倒して貰う為です。
魔族は悪逆非道の限りを尽くす悪魔のような種族で、我が国も長年戦いを繰り広げてきましたが、ついに魔族に破れ、最後の望みを掛けてあなた様がたをお呼びしたのです。
皆様、どうかどうか私共を助けてください。」
なかったらしい王女様の説明を聞いた俺たちは異世界に召喚された事に怯えるでもなく喜ぶでもなく、ただだだ呆れていた。
「はぁ〜で、王女様?」
「はい、引き受けて頂けますか?」
学級委員の永山が代表して話し始めた。
そして一言
「はい、引き受けます!」
「おお、ありがとうございま「…と、言うとでも思ったか?」す!…え?」
「何なの?他世界から計41名もの集団を無断で拉致した挙句そいつらに自分達では解決できない事を押し付けるとか馬鹿なの?死ぬの?ああ、この国滅びかけだっけ?」
あまりの言われように王女様も流石に顔が引きつってる。
「貴様!王女様に何と無礼なことか!」
周りにいる黒ローブの連中で一番豪華な格好をしてる奴が叫んだ。
「五月蝿い黙れ!」
「なっ!くっ…」
永山に一喝された黒ローブは何かに怯えたように押し黙った。
「んで?俺ら勝手に呼び出したりしたんだから当然返せるよな?まさか呼び出す方法はあるけど返す方法は知らないとかアホな事ぬかすわけじゃないよな?」
「す、すみません!帰還の方法はあるにはありますが、それも魔王城の書庫にあると言い伝えられており、現状あなた方を返すことは出来ません。」
王女様は申し訳なさそうに俯きながら震える声で答えた。
それを聞いた俺たちは一斉にこういった。
「「「「「「「はい、ダウト!」」」」」」」
「へ?」
「おい、『観測者』、『世界観測』は終わったか?」
「おう、バッチリだ!結果から言うとこいつら帰還方法は秘匿しているだけで本当はすぐ帰れるな。あっ!それと魔族についても全部嘘。むしろこの国が周辺諸国を隷属させまくって今魔族、エルフ、ドワーフ、そして他の人族の国と戦争状態になってるな。しかもだいたいこの国が悪い。」
「「なっ!」」
王女様と黒ローブはかなり驚いていた。
国家機密を含むことがあっさりとバレたからである。
「んで、『鑑定師』の方はどうだ?」
「ええ、その王女さっきから私達に魅了の魔法を掛けてるわね。それにこの部屋も思考力低下の香が焚いてあるわ。極め付けはこいつらさっきから『洗脳魔法』の準備をしてるわね。」
「「「「「「「なあっ!」」」」」」」
今度は王女様と黒ローブ全員が驚きの声をあげた。
「ほぉ〜。と言うことはつまりこいつらは『悪』ってことでいいな?」
「「「「「「「異議なし!」」」」」」」
「さぁ、と言うわけで…蹂躙だ!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
「『魔法部隊』は結界を貼って詠唱開始!
『勇者組』はさっき『観測者』の調べた情報を『思考共有』で送るから王族を抑えろ!
『戦闘集団』は近衛騎士を含む城の騎士団全員を抑えろ!
『遊撃組』はいつものアレの準備だ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
「….のよ?」
「ん?」
「なによ、何なんなのよこれは!何で私達の奴隷になるはずのあんた達が私達に歯向かってるのよ!」
王女様が何か言ってると思ったら屑みたいなこと喚いてるだけだった。…って実際屑か。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〜30分後〜
「『魔法部隊』は『弱化魔法』による国全体の弱体化完了。続いて『崩壊熱魔法』による軍事施設の破壊お呼び『結界魔法』による国土大結界の構築完了しました!」
「『勇者組』は王族を捕獲お呼び隠し通路の封鎖完了!
あっ!ついでに王族の秘匿していた資料一覧も抑えてきた。」
「『戦闘集団』は近衛騎士を含む城の騎士団全員の制圧完了!メイドの中にも『暗殺者』が混ざってたからついでに倒してきた。…と言うかこの城かなりの割合で『暗殺者』混ざってたけど大丈夫?」
「『遊撃組』より、『提供者』による『世界投影』の準備完了!『究極召喚師』による『強制神核術』の準備完了!いつでもいけます!」
「よし、じゃあやるか!
『世界投影』開始!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、異世界『アルトニア』のあらゆる種族の人々は見た、空に浮かぶ巨大な青白い板を、それは科学の発達していないこの世界の人にはわからないと思うが、俺たち地球人にはしっかりとわかる。それは巨大なスクリーンだ。
そして空に投影されたスクリーンに俺たちの姿が映った。
『親愛なる?異世界『アルトニア』に生きる者達よ。まずは俺たちが誰かと言う説明からだな。まず、俺たちは異世界『地球』より人族の国『バルライト』によって召喚された41にんの勇者だ。
ああ、勘違いしないで欲しい。別に俺たちは『バルライト』に従って他国を攻め滅ぼす気など丸でない。
まあ、こう言っても信用出来ないだろうが、今から言うことはを聞いてくれれば信用してくれるだろう。』
そう言って永山が話したのは『バルライト』が今まで行ってきた悪事についてだった。
『獣人国王子誘拐未遂事件』『魔国要人暗殺事件』そして今回の『勇者召喚及び洗脳未遂事件』などなどでるわでるわこの国本当におわってんなあ。
『今まで話してきたことは全て事実だ。実際『バルライト』の王城は既に俺たちが落としている。
さては、これで君たちも我々を信用してくれただらうから本題に入ろう。
とは言っても別に宣戦布告とかでは断じてない。基本的に俺たちはこの世界に不干渉を貫くつもりだ。
今日俺たちが君たちに呼びかけたのは他でもない君達が信仰しているこの世界の神『女神イシュタル』についてだ。この際俺たちが召喚された事は置いとくとして本来異世界から勇者を召喚する事は神によって禁じられている。
また、神本人もやれば特殊な例外を除いて禁じられている。わかるか?つまり『女神イシュタル』は神に定められた法を破ったんだよ。しかも『勇者を召喚ならば必ず己の力を分け与えなければならない』というもう一つのルールすら破っているんだよ。
その証拠として俺たちがこの世界に来た時なんの力も与えられなかった。
まあ、大方元から特殊な事情で力のついている俺たちなら力をつけなくても問題無いとでも思ったんだろうが、それでも力を分け与えないのは重罪だ。よって今から『女神イシュタル』を『神界法』に基づいて裁かせてもらう。
…おい、準備はいいな?では行くぞ!』
『『強制神格召喚』いでよ『女神イシュタル』!』
スクリーンの向こうが一層強く光り輝いたと思ったらその中から人影が見えて来た。
『えっ!ちょっ!これはどういう事ですか?』
見えて来た人影はまさにこの世界の人たちが信仰している『女神イシュタル』だった。…だが、何処か違和感があるような。
『へぇーあんた信者に自分の姿教えるときに胸盛ってたんだ(笑)』
『えっ!いやっ!これは違うの!』
あっマジだ!教会とかの石像と全然違う。
『んな事はどうでもいいんだよ『女神イシュタル』『神界法』に基づきお前の『神格位階』を『無承認勇者召喚』及び『能力付与不実行』の罪により147から47に引き下げる』
『えっ!そんな!なんで!私何も悪く無いじゃ無いですか!』
『…お前もしかして『神界法』を知らないのか?』
『失礼な!しってますよ!でもあんなのなんでわざわざ守らないといけないのよ!
他の神だってやってるじゃない!
それにあんた達は元から力を持ってるんだから無条件に力を貸しなさいよ!』
『きゃんきゃんうるさいんだよ!ちっとは静かに喋れよ!
それとお前は『神界法』を破った神の末路を知らないようだな。それに勇者召喚をやっていいのは勇者側との相互承認があってこそ許可が下りるものであって勝手にやるからこう言うことになるんだよ。
それにそんなぽんぽん力を貸したらなんの意味もないだろ。そんなこと言うなら自分でやれよ。
はぁー、もういいちゃっちゃとやっちまうかおい『断罪者』『捕縛師』』
『あいよ!ほれ『神狼縛る絶対の鎖』』
『きゃっ!何やこれ!ほどきなさいよ!』
『ではいきますよ…『断罪』!』
『きゃあああああ!』
スクリーンが光に包まれて元に戻るとそこにはへたり込んだ『女神イシュタル』の姿があった。
『はい、終わりました。今この神にできる事は信徒に声を届けることや小さな雨を降らせたりする奇跡ぐらいですね。』
『お知らせします。先程この世界における神の位階序列の変動が発生しました。これにより『主神:享楽と怠惰の女神イシュタル』の位階が『副神:大地母神セレスティア』が下回ったため、主神が『大地母神セレスティア』、副神が『武神:アルサート』になりました。尚、『享楽と怠惰の女神イシュタル』は位階序列13位となったため権能の剥奪及び弱体化が執行されました。』
『おっ!世界の声じゃん。この世界にもあったのか。』
『なっ!なんでこんなに位階序列が下がっているのよ!』
『そんなのお前が怠けてる間に他の神がしっかりと位階上げをしてたからだろ。つかよく『享楽と怠惰の女神』が主神になんでなれたな。まぁ大方自分の事を『愛と自由の女神』だ。とか言ってる騙してたんだろうけど。
まぁいいや、おい、仕事終わったから帰るぞ!
ああそうそうあんたの位階がそんなに下がったのは俺たちが帰還に必要な力をさっき一緒に徴収したからだよ。』
『なっ!神から力を奪うだなんてあなた達本当に何者なの⁉︎』
『ん?俺たちか?俺たちは『公立麻場高校1年F組』又の名を『異世界召喚組』だ!』
そして勇者達は光に包まれて異世界アルトニアから消え去ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2025年、都内のある高校から生徒1クラス分の人数が忽然と姿を消した。最初は誘拐だなんだと騒がれたが、結局警察が全力を尽くしても一切手がかりをつかむ事は出来なかった。後に現代の神隠しと言われたこの事件は、ある日唐突に生徒全員の帰還という事で解決となった。
帰還した生徒達の証言によれば『ちょっと異世界救ってきた。』と言う余りにもふざけた答えだったためはじめは誰も信用しなかったが、彼等の見せた魔法としか言いようのない現象を目の当たりにする事で大半の人は信じざるを得なかった。
そして彼等は言った。
『俺たちはこの力を悪用するつもりは毛頭ない。俺たちはこの力を俺たちのように無理矢理異世界に召喚される人たちを守るために使いたい。』
そして彼等は異世界召喚のシステムを解明し、それが防げぬものとわかれば次に彼等がとった行動は『召喚に介入して自分たちが代わりに異世界に召喚されて向こうの事情を解決してくる』というものだった。
この試みは大成功を収め、世界じゅうで起きる失踪事件が翌年から半分にまで減った。
彼等は学業の傍ら異世界に行き、多くの事件を解決した。
同時に彼等は異世界の知識を、こちら側に持ち込む事で多くの技術的ブレイクスルーを巻き起こした。
この多大な功績により彼等は『現代英雄』という名で呼ばれた。(因みに本人達は『そんな厨二くさい名前はやめてくれ!』と、全力で懇願した為今は名前が変わっている。)
そんな彼等を我々はこう呼ぶ。
『異世界召喚組』と。