オマケ 花園舞が教える、本城将人でも分かる『じゅもんえいしょうのしくみ』
~花園舞が教える、本城将人でも分かる『じゅもんえいしょうのしくみ』~
ここからは私が受け持つわ、花園舞よ。よろしくね。
今回は魔法使いの基礎、呪文詠唱について勉強していくわ。
(手元の資料を見る)
えーと。……「花園舞が教える、本城将人でも分かる『じゅもんえいしょうのしくみ』」? 本城将人ってのがどこの魔法使いだかは知らないけど、こういう使われ方をするってことはその程度の輩ってことね。
(※本城将人は花園舞のクラスメイトです※)
みんなも大丈夫よ。分かりやすく説明していくつもりだから。
それじゃあ始めましょうか。しばらくの間、お付き合い願うわね。
《そもそも呪文詠唱とは?》
一般的に魔法使いっていうのは、呪文詠唱をすることによって魔法を発現させるわ。呪文詠唱とは、読んで字の如く呪文を詠唱することよ。呪文を詠唱することで、魔法使いは自らの体内にある魔力の生成器官に『音』という刺激を与えるの。当然、呪文の種類によって『音』の内容は変わるし、刺激も変わるわ。それによって発現する魔法の姿かたち、そして性質を変えているってわけね。
《詠唱の仕組みについて教えて?》
詠唱は2つの要素によって成り立っているわ。ずばり、『始動キー』と『放出キー』よ。この2つを組み合わせることで、魔法使いは魔法を発現させ行使させることができるの。ただ、慣れてくると部分的にであったり、場合によっては全てを省略して魔法を発現させることもできるようになるわ。
すべての呪文を詠唱することを『完全詠唱』、一部分を省略することを『詠唱破棄』または『省略詠唱』、すべてを省略することを『無詠唱』または『完全省略詠唱』と言うわ。
《『始動キー』について詳しく教えて?》
そうねぇ。『始動キー』とは、魔力を始動させるために用いるキーを指すわ。これは別にどんな『キー』、……つまり言葉ね? を用いても構わないの。『始動キー』の役割は、自らの体内にある魔力生成器官に刺激を与えて循環・活性化させること。つまり、「今から魔法を使うからよろしくね」って起こしてあげることなの。人間、生きていれば常に魔力を放出し続けているわ。微量だけどね。だけど、魔法を発現させるには、それとは比較にならないくらいの魔力が必要なの。だからこそ、呪文詠唱時、まず初めに『始動キー』を唱えることで、魔法発現がよりスムーズに行えるようになるというわけ。
魔法使いを目指す人が、一番最初に頭を悩ませるのがこれかしらね。
だってこれからの魔法使い人生の中で、一番口にするのがこの『始動キー』なのよ? そりゃ決めるまで悩むってモンでしょ。どんな『音』がもっとも効率良く生成器官に刺激を与えられるかっていうのは、個人によって違うの。だからみんな『始動キー』が違うのよ。
生成器官が活性化する瞬間って、自分だと分かるものなの。言葉では表現しにくいんだけど……、なんかこう、……ふわっとする感じ? ごめんなさいね。うまく言えないわ。ともかく、ふわっとくるような文字を探し当てるまで、ひたすら声を出し続けるの。色々な文字の羅列を適当に試してみて、しっくりくる奴をかき集めたら、今度は色々な順番で繋ぎ合わせてみて、……で、完成。
今説明してて思ったんだけど、『始動キー』探してる人って事情を知らない人から見れば、ただ意味の分からない言葉を延々と呟き続けている残念な人ってことに……。
……、……。『始動キー』を作る時は、人目が無いところですることをお勧めするわ。ああ、あと、お金を出せば専門の人からぴったりの『始動キー』を作ってもらえるから、私としてはそっちをお勧め。
ちなみに。『詠唱破棄』の中でも、この『始動キー』を省略して直接『放出キー』を詠唱して魔法を発現させることを『直接詠唱』と表現したりもするわ。熟練者じゃないと、急に『放出キー』で刺激された生成器官がびっくりして失敗しちゃうけどね。
《『放出キー』について詳しく教えて?》
こっちは発現された魔法の姿かたちや種類に直接関わってくるわ。『始動キー』によって活性化した魔力を、魔法という形に変化・放出させる役割を持つのが『放出キー』よ。
ここまで言えば分かると思うけど、『放出キー』は『始動キー』と違って個人によって違いは無いわ。この『キー』は魔法を形作る言わば『核』なの。魔法の源泉、ということね。
この『放出キー』は、『呪文大全集』っていう辞書に一括して登録されているわ。そしてそれを管理しているのは世界魔法協議会。魔法関係を取り仕切る最高機関ね。日本にある日本魔法協議会の上位機関ということになるわ。この国の魔法教育も『呪文大全集』から引用して行われているの。『呪文大全集』に載っていない『放出キー』があれば、それはもう『オリジナルキー』ということになるわ。もしそれが個人技に頼った魔法でなく、複数人が使用できるものだと証明されれば、『オフィシャルキー』として『呪文大全集』に連ねることも可能よ。
《『放出キー』の種類について教えて?》
種類、種類ねぇ。
属性関係の話なら、無属性に加えて、基本五大属性である『火』『水』『雷』『土』『風』、特殊二大属性の『光』『闇』、あとは『幻血属性』ね。『幻血属性』って言うのは、今言った以外の属性で、一部の人間にしか発現できない属性のことよ。可憐の『氷』なんてのが良い例ね。
あと、難易度で分けるならRankFから順番にE、D、C、B、Aときて、上にS、Mと続くわ。これは魔法使いの試験にも関係してくるところなんだけど、ここらへんの説明は機会があればまた、ね。
《『放出キー』って英語……ではないよね?》
随分と『放出キー』関連が続くわね。まぁ、『放出キー = 呪文 = 魔法』と言っても過言では無いわけだし、無理もないかもしれないけど。
そうね。英語ではないわ。『始動キー』と同じで、過去の偉人たちが色々な『音』で生成器官を刺激して試してみたんでしょうね。その努力の結晶が『呪文大全集』に詰め込まれているわけ。
もっとも、似たような発音のものもあるし、全てを否定することはできないわ。言霊……、の力を信じているわけじゃないけど、何かしらの繋がりはあるかもしれないわね。
《『完全詠唱』『詠唱破棄』『直接詠唱』『無詠唱』、それぞれのメリット・デメリットを教えて?》
じゃあまずは『完全詠唱』からね。
メリットとしては、『始動キー』や『放出キー』に慣れていない初心者であっても扱いやすい点かしら。最低限、その呪文に足る実力を有していれば、誰でも発現できる技術が『完全詠唱』よ。もう1つは、『完全詠唱』をすれば魔法の威力が上がることね。1つひとつ丁寧に発音していくことで、発現された魔法が濃密なものになるの。作業を丁寧にこなしたから立派な物ができました、って感じかしらね。
デメリットとしては、時間が掛かること。『完全詠唱』すると、それなりの長さになるわ。だから発現まではどうしても時間が掛かってしまうの。
次は『詠唱破棄』ね。
メリットとしては、『完全詠唱』に比べて発現スピードが速くなるわ。たとえ1音であっても、省略できるならそれに越したことはない。だって、その一瞬で勝負が決まっちゃうかもしれないもの。
デメリットとしては、どうしても『完全詠唱』と比べると、発現する魔法の威力が劣ることね。同じタイミングで発現されたら、省略された方の魔法が負けるわ。まぁ、その魔法使いの発現量とか発現濃度にも左右されるから、一概には言えないかもしれないけどさ。
次は『直接詠唱』ね。
とは言え、内容は『詠唱破棄』とたいして変わらないわ。発現スピードが速くなる分、威力が落ちる。ただ、『詠唱破棄』と違って『始動キー』も省略しているから、より早く、より弱くなるわ。
最後に『無詠唱』ね。
メリットとしては、上2つとは比べ物にならないくらい早く発現できることね。魔力練って発現するだけだから、そりゃ早いわ。それに、発現される瞬間まで相手にどんな魔法か悟らせないっていうのも強みかしら。
デメリットとしては、『詠唱破棄』や『直接詠唱』よりも更に魔法の威力が落ちるということ。あと、相当な実力者でないと実現できないこと。無詠唱でしかも実用できるほどの威力を出せるなんて、もう大魔法使いの領域だと私は思うわ。もちろん、難易度の低い魔法なら、ある程度の実力者でもできるとは思うけどね。
……こうして改めて考えてみると、やっぱり聖夜って凄いわ。身体強化魔法ってかなり難易度が高い魔法なんだけど、平然と発現しちゃうし。……私より強いし。
《『完全詠唱』『詠唱破棄』『直接詠唱』『無詠唱』で、具体例を挙げてみて?》
そうねぇ。それじゃあ私が愛用している火属性の『ファイナス』で。この魔法はRankAに分類される攻撃呪文よ。本来なら大学過程で学ぶやつで、攻撃特化の火属性なだけに絶大な威力を誇っているわ。
自慢はこれくらいにして、と。
まずは『完全詠唱』からね。
ルー・ルーブラ・ライカ・ラインマック・アダファリア・リース・ファイナス
これが『ファイナス』の『完全詠唱』よ。
私の『始動キー』は「ルー・ルーブラ・ライカ・ラインマック」。そこに『ファイナス』の『放出キー』である「アダファリア・リース・ファイナス」を繋げた形になるわね。
次は『詠唱破棄』。
ルー・ルーブラ・ライカ・ラインマック・ファイナス
私の『始動キー』は変わらずそのままで。『ファイナス』の『放出キー』の一部である「アダファリア・リース」を省略した詠唱になるわ。
続いて『直接詠唱』。
ファイナス
これだけね。一気に時間短縮される分、威力も相当落ちるわ。
……。
えーと、『無詠唱』はやらなくていいわよね?
《“繋ぎ”の意味を教えて?》
う。
な、何でそんな言葉まで掘り起こしてくるのよ。
(※1章の第1話、聖夜と舞の会話にて登場してます※)
私、これ苦手なんだけどなぁ。
さっき、呪文詠唱の仕組みで『始動キー』と『放出キー』の話をしたけど、正式な手段ではないその2つを繋ぎ合わせる詠唱方法があるの。それが『繋ぎ』。
簡単に効力を説明すると、自分の実力を底上げして、手の届かない難易度の『放出キー』も扱えるようになるわ。
イメージとしては、
始動キー + 繋ぎ + 放出キー
という感じね。接着剤というか緩衝剤というか、そんな役割。性質としては、『始動キー』に近いかな。発現しようとする魔法によって『繋ぎ』で使う『キー』が違うのは当然として、同じ魔法であっても個人によって『音』が違うから。うまく使えば手の届かなかった魔法が使えるのはもちろん、効率的に魔力が循環・活性化・発現されて、魔法の性能が上がったりもするわ。
デメリットとしては、当然、詠唱に時間が掛かること。『繋ぎ』って1音だけでどうにかなるものじゃないの。自分の『始動キー』と『放出キー』の間に、言うなれば『異音』を混ぜるわけだから、帳尻合わせでどうしても長くなっちゃうのよねー。だから、ずば抜けて性能が上がった!! とか実感できない限り、使いはしないわ。手の届かない魔法もしかり。詠唱時間が長すぎて役に立たないからね。身の程を弁えましょうということで。
ちなみに、いくら画期的な『繋ぎ』を見付けたからといっても、それはあくまで個人用だから『オフィシャルキー』には該当しないわ。注意してね。
《『繋ぎ』の具体例を教えて?》
え、冗談でしょ?
わ、私のはあまり参考にならないかなぁ、……なんて。あ、あはははは。
ルー・ルーブラ・ライカ・ラインマック・ガルグ・エンペラ・リストワーク・ラーラ・エスペクト・デルメリア・ボウト・アダファリア・リース・ファイナス
きゃああああああああああああああああああああっ!?
ちょ、ちょっとどこから漁ってきたのよこんなモノ!! こっ、これっ!? 『ファイナス』がまだうまく発現できなかった頃に使ってた『繋ぎ』じゃないっ!!
こ、これを、ししし知ってるのなんて、ほんの一握りの人しか……。
……、……。
……せ。
聖夜ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
《なんでこれだけ呪文詠唱について説明できるのに、『繋ぎ』がへたくそなの?》
やかましいわ!!
《最後に、優秀な魔法使いの卵である花園舞さんから、これから魔法使いを目指すみんなに一言お願いします》
……最後2つの質問のせいで、『優秀』という言葉に悪意しか感じないのだけれど。
まあ、いいわ。
身も蓋もない言い方をするけど、魔法は才能に左右される技術よ。誰にでも使えるわけじゃない。けど、誰も使えない技術というわけでもないわ。努力は必ず報われる。自分を信じて頑張りなさい。
少なくとも、詠唱という魔法使いにとって命とも言える技術が使えなくても、必死に自分を高め続けてきた奴を私は知ってるわ。……そいつは、私より強いしね。
疲れました……。