無題3
「で、コイツをどうしろと?」
「危険度を計れ。必要だと判断すれば殺せ、と」
その想像以上の要求に、少年は手にしていた写真を取り落としそうになった。
「……いくところまでいけっつーのかよ。まだ学生だろうが」
写真の写る人物は少年のとは違うデザインではあるが、制服を着ている。
「年齢、性別、外見、国籍。それらはあくまで人物像を作り上げる上で必要な飾りです。本当に見るべきはそこではないでしょう?」
とんっ、と。白い少女は日傘を持たぬ右人差し指で自分の胸を叩いて見せた。
「……まあ、そりゃあそうだがよぉ」
気乗りしないというのはこういうことか。少年は白い少女が最初にぼやいていたセリフを思い出し納得した。確かに、この写真に写る人物が学生だろうが何だろうが関係はない。それでどれだけ自分たちの気持ちが乗らなくても、だ。
そこまで考えて、少年はすっぱりと気持ちを入れ替えることにした。
「どーでもいいか」
写真に写る人物がこの先生きようが死のうが自分の人生に影響を与えるとは思わない。殺す必要があるのなら、殺してしまえばいい。それだけだ。
「貴方のその気持ちの良い割り切りには感服させられますね。見習いたいものです」
「簡単だぜ。自分以外をただ見捨てりゃいい。それだけだ」
白い少女のあからさまな皮肉を少年は皮肉で返した。白い少女の眉間にわずかだがしわがよる。
「ふぅ、結構です。貴方の思想についてわたくしがとやかく言う筋合いはありませんもの」
「結構な心がけだ」
少年は自分の学園の長が淹れた紅茶をやや乱雑に飲み干した。放るようにカップをソーサーへと戻す。
「でー、この写真の奴が危険だっつー理由は」
「どうやらこの者、『黄金色の旋律』と繋がりがあるようなのです」
「……」
その単語を聞いて少年の動きが止まった。
「……あー」
低い声で唸る。
「そりゃあ殺したがるだろうなぁ」
それは禁句とまで言われている単語だった。
「情報を絞り出して血祭りにあげろ、と」
「そういうことです。加えて、仮に繋がりが無くとも我が国のパワーバランスを揺るがしかねませんので」
「バランスぅ? 随分とでかく出たもんじゃねぇか」
途端に少年の表情が胡散臭いものでも見るかのように変わる。
「青藍の序列に変動があったのはご存じ?」
「知るか。興味もねぇ」
「これだから……」
白い少女は呆れたと言わんばかりに日傘をくるくると回した。それを見た少年の口角が歪む。
「続きを言え」
「不動の三席が一、青藍の2番手が破れました」
「はぁ?」
少年の口がぽかんと開かれた。
「青藍、紅赤、黄黄。3つのバランスが崩れることを危惧しているようですね」
「……あぁあぁ、あぁあぁあぁあぁー。なるほどなるほどなるほどねぇ。そりゃああっちの方の口出しか」
「もちろん」
「ひゃあはははっ!!」
食べようと摘まんでいたクッキーを指で砕き、少年は笑う。
「博愛の偽善者が!! 自分の立場が危うくなっちゃうから助けて、って素直に言えねぇのか!! くっそくだらねぇ仕事持ち出してきやがって!!」
「あら。助けてと素直に持ち出されたら、貴方は助けるのかしら」
「助けませぇーん!!」
両腕を広げて断言する少年に、白い少女はそっとため息を吐いた。
「なら旋律との繋がりも怪しいもんだなぁ」
「それはどうかしら」
白い少女は優雅にティーカップを口に運びながら言う。
「最初にこの件を持ち出したのはあちら。ただ、素性を洗って怪しいとおっしゃられたのは主らしいですよ」
「……ほぉ?」
少年からふざけた態度が消えた。しかし、口元から覗く笑みはそのままだ。
「少しは楽しめる、……か?」
少年の暗い暗い笑みに、白い少女は何も応えなかった。