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無題1
きっかけは、何の変哲も無い校内放送に用いられる電子音。
その少年に友達らしい友達は1人もいなかった。
クセのある黒髪を無造作に肩まで垂れ流し、じっと見詰めていると深い深い闇の底まで引き摺り込まれてしまいそうな黒い瞳をした少年は、その校内放送を何を考えているか見当も付かぬ無表情で聞いていた。
その放送は、少年の呼び出しだった。
何かをした覚えは無い。
少年は他者との繋がりを嫌う傾向にあり、とりとめの無い会話は疎か最低限の挨拶さえも交わさない。最悪なコミュニケーション能力の保持者でありながら、逆に言えば他者との衝突も無く何ら問題など起こしていないはずだった。
勉学についても、魔法の実技についても問題ない。
少年は、その学園において序列1位の実力者だった。
校内放送をしている声は、少年の良く知っている教員のもの。しかし、少年の知っている声色では無かった。のっぺりとしていると言うか、覇気が無いと言うか。とにかく自分の意思で話しているわけではないような、そんな声。
ガタリと音を立てて少年は席を立つ。
昼休みであるにも拘わらず、突然の放送に教室内はひそひそ声でいっぱいだった。
少年は構わず扉へと向かう。手をかけ、開く。廊下に出て後ろ手に扉を閉める。
案の定と言うべきか。
少年に声をかける者は誰もいなかった。