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第19話 選抜試験、終わる。




「……め、滅茶苦茶疲れたぞ」


「ふふ。お疲れ様」


 生徒会館会議室。

 空いている椅子に腰を下ろす。副会長がすぐに紅茶を淹れてくれた。


「ありがとう」


「いえいえ~」


 そう言いながら自分のカップにも注ぎ、一口。


「ん~、ジャスミンはやっぱり香りが良いわねぇ」


 そんな事を口にする。


「……タフだな」


「ん? 何が?」


「いや、ちっとも疲れてなさそうだからさ」


 同じような激務……。いや、午前中から仕事をしている分、俺より遥かに大変だっただろうに。副会長はいつも通りケロリとしている。


「疲れてるわよ、もちろん。ただそれを表に出さないだけ」


「……表に出さない?」


 俺の疑問に副会長が頷く。


「どうせ口に出したって疲労が軽減されるわけじゃないでしょ? だったら最後まで胸を張って、自室でうだ~っとするわ」


「……なるほど」


 流石は副会長。こういったストイックな部分は俺も見習うべきかもしれない。


「いや~、今年も大変だったねぇ。お疲れ様!!」


「お疲れ様でした」


「お、お疲れ様です」


「お帰りなさ~い」


 片桐を除いた残りのメンバーが戻ってきたことで、一気に会議室がにぎやかになった。


「外が真っ暗だと思ったらもう18時じゃないか。道理でお腹も空くわけだ」


「今年は目立ったトラブルも無く何よりでしたわ」


「よ、良かったです~」


 各々の感想を述べながら入室してくる。


「中でも一番の収穫は中条君の正規メンバー入りだ!!」


「ひゅ~ひゅ~」


「喜ばしい事ですわ」


「……」


「……どうも」


 会長からの突然の振りに副会長の気の抜ける茶々、会計の無難な台詞に書記からの無言の拍手。正直、どう反応するのが正解なのかまったく分からない。


「そんなニューフェイスな中条君に朗報がある!!」


「……なんでしょう」


 これでふざけた内容だったら殴り飛ばす。


「今日は選抜試験お疲れ様でしたの打ち上げ兼、中条君加入を祝うパーティを執り行う!!」


「ほう」


 それは確かに朗報だ。


「なんと学食を貸し切っている!!」


「暴動が起こっちまうだろ!!」


 思わず叫ぶ。後片付けで多少のタイムラグがあるとはいえ、皆が皆食事を終えているとは思えない。

 努力はした。苦労もした。それでも駄目だ。試験を受けていない生徒会がそんな事してみろ。生徒会館取り囲まれるぞ。


「あはは、平気よ中条君」


 そんな俺の心配を余所に、副会長が朗らかに笑う。


「今日は部活動・委員会、全部お休みなの。だから今日ばかりは例外を除いて学園生は皆寮棟へ帰ってるわ」


 例外とは俺たち生徒会の事か。


「会長がおっしゃった貸切とは寮棟にある食堂ではございませんわ」


「なるほど。本館の学食ですか」


 めちゃくちゃほっとしたわ。


「そういうわけだよ。学食のシェフには腕によりをかけるようお願いしてあるからね。遠慮無く食べまくってくれたまえ」


「……会長。俺、会長の事誤解してました」


「そうだろうそうだろう」


「たまには役に立つんですね」


「ぷっ」


 俺の言葉に副会長が噴き出した。会長ががっくりと項垂れる。


「俺ってそんな風に思われてたのか」


「自業自得という言葉がこれほど似合う殿方というのも珍しいですわね」


「……うわぁ」


 蔵屋敷先輩の止めの一言に、花宮はあんぐりと口を開けた。


「さあ、撤収しましょう!!」


 ティーカップを下げながら副会長が言う。


「帰り道は長いけど、その分美味しいご飯が待ってるわよ~!!」


「お腹ペコペコですー。あ、そ、そういえば片桐さんは……」


「大丈夫。きちんと連絡してありますわ。自力で歩ける程度には回復されたそうですから」


「そ、そうですか。良かったです」


「中条君、中条君」


「はい?」


 蔵屋敷先輩と花宮のやり取りをそれとなしに眺めていたら、後ろから肩を叩かれた。


「夕食の前で申し訳ないんだけど、少しだけ付き合って貰えないかな」







 副会長・蔵屋敷先輩・花宮を先に学食へと向かわせた会長は、生徒会館の扉の施錠を確認してから俺の下へと歩いてきた。


「お待たせ」


「いえ」


「歩きながら話そうか。道は長いしね」


「そうですね」


 2人で一歩を踏み出す。まさかこの男と並んでこの階段を下る日が来ようとは。

 街灯の無い山道に、ポッとオレンジ色の炎が灯る。


「……屋外での魔法は使用禁止ですよ」


「君がそれを言うのかい? 大和とじゃれてクレーター作ったり泉に亀裂を入れたりした君が」


「それ、やったの両方とも大和さんですからね」


 そこだけは断言させてくれ。断じて俺ではない。


「聞いた事あるかい? 連帯責任という言葉は」


 ……濡れ衣だ。


「それで、何の用でしょう?」


 これ以上突っ込まれたくなかったので、強引ではあるが話を変える事にした。苦笑される。会長も俺のそれが露骨な話題逸らしだと十分理解した上で、敢えて乗ってくれるようだと思っていたら。


「いや、調子はどうかと思ってね」


 こんな事を言い出した。


「は?」


 急に何を言い出すんだこの男は。俺が正規メンバーに加わったことで、メンタルケアでも受け持つつもりか。


「うん。調子はどうかと思ってね」


「……悪くは無いですよ。まあ、明日筋肉痛にはなるでしょうが」


 無系統を用いぬ慣れない戦闘のせいで、かなり疲労している自覚がある。


「いや、そっちじゃなくてね」


「はい? じゃあどっちですか」


 と言うか何の話だ。


「うん。だから、幽霊の話」


「……」


 一瞬、時が止まった。いや、階段を下る俺の足が止まった。


「もうお終いって話、しましたよね?」


 この男もちゃんと聞いていたはずだ。


「うん、したね。けど君は未だに1人でウロチョロしてるじゃないか」


 ……何で知ってんだよ。

 俺の怪訝な表情から疑問でも読み取ったのか、聞いてもいないのにこの男は勝手に語りだした。


「寮棟の正面玄関を使わないのは正解。あれ開くには学生証が必要だからね。使うと個人が特定されてしまう。だから、自室のベランダから身体強化魔法で出入りする手法は間違ってはいないよ」


「……」


「まあ、誤算があったとすれば、君の部屋の真上が俺の部屋だったって事かな」


 マジかよ。全然気付かなかった。


「特定できたのかい?」


「……いえ」


 もう隠しても無駄だろう。俺は素直に答える事にした。


「でも、相手の実力にはある程度の見当を付けてるんだろう?」


「……なぜそんなことを?」


「君が沙耶ちゃんを追い出したからさ」


 全て筒抜けってことかよ。


「ふむ」


 俺の反応を見て、会長が何やら考え込む。


「不審人物がいるというのが間違いないのなら、もう教員に投げてしまおうか」


「え?」


「俺たちの仕事は学園の警備じゃないからね。言うまでも無く俺も君も学生だし、相手が悪戯好きの学生ってわけじゃないなら可笑しいだろ? これはもう魔法警察の管轄だよ」


「……た、確かに」


 そうだよな。今、俺の立場って学生なんだもんな。会長の言葉に違和感を感じるのは間違いだ。


 ……ただ。

 仮に侵入者の目的が俺だったとすると。

 侵入者が捕らわれ、侵入した目的を言われるとまずいかもしれない。

 最悪、俺の事がバレてしまう可能性もある。むしろ高いくらいだ。


 師匠に連絡して警察に根回ししておくか?

 いや、それだったら俺がとっとと処理してしまった方が……。


「ふむふむ」


「へ?」


 思わせぶりに頷いている会長に、思考していた頭が停止する。


「協力しようか?」


「はい?」


 思わぬ申し出に目が点になった。


「俺も協力しようか? 結構手こずってるみたいだからさ」


「いや、今警察云々の流れじゃ無かったんですか?」


 どんな掌返しだ。


「うん? だって自分の手で解決したそうな感じだったからさ。もちろん教師には話すし、警察にも依頼はするだろうけど。こっちはこっちで調査を続けるかって事さ。一度引き受けたからには最後までやり通す。そういう心構えは嫌いじゃないよ」


「は、はぁ……」


 凄い勘違いをなされてる。


 ……待て。これっぽっちも考えていなかったことだが、これは使えるかもしれない。

 教師や警察に話がいくのは仕方が無い。ここで止めて何かあったら責任取れないし、相談するのを引き留めるというのもおかしい。

 ようは警察よりも先に捕えて処理してしまえばいいだけの話だ。無論、師匠に連絡して根回しもして貰うが。


「まあそういう事です。協力は結構です。ただ、警察の邪魔にならないよう俺は引き続きコソコソ動いてみますよ」


 そうしておこう。


「そうか、分かったよ。けど無茶はするんじゃないぞ。戦闘に発展しそうになったら必ず回避すること。君はあくまで原因を突き止めるところまでだ。それは約束してくれ」


「もちろんです」


 もちろん嘘ですけど。


「よし。じゃあ学食に行こうか」


「はい」


 階段を下る足を再開させる。

 ネックだった選抜試験も終わったし、気合い入れていかないとな。







 鍵の掛かった厳重な扉をノックする。


 夜更け。時計の短針は頂上をとうに過ぎている時刻。

 本来ならノックしても無駄だと思うだろうが、縁はこれで中の住人がやってくる事を知っていた。

 少し間を置いたのち、軋んだ音を立てながら扉が開かれる。


「こんな夜更けにレディの自宅に押し掛けるなんざ、どういう了見かね」


 中から顔を出したメリッサは迷惑そうな表情を隠そうともせずそう告げた。無論、その程度でめげる縁ではない。


「おやおや。この教会はいつから君の私物になったんだい? 迷える子羊の訪問は昼夜問わず、だろう?」


 縁の物言いにメリッサは露骨に顔をしかめたが、


「……貴方が本当に迷っているのなら、ね」


 そう言うと、素直に教会の中へと促した。







 教会内をそのまま素通りし、生活部屋へ。


 教会に設けられている生活スペースは決して大きな作りではない。むしろ最低限の機能しか有していないこじんまりとしたものだ。

 扉を開けると一直線に伸びる廊下。それも5秒あれば端に着いてしまう程度の短いもの。廊下には左右に2つずつ扉が付いている。キッチン、風呂・トイレ、居間、寝室。娯楽のようなものは何1つ無い。縁が通された居間にも木製のテーブルと椅子が2つだけ……のはずだった。


「いつの間に小型テレビなんて取り入れたんだい? 学園の予算から出した覚えは無いんだけど」


「私のポケットマネーからよ。なに、文句あるわけ? シスターは俗世間に塗れちゃいけないっての?」


「……テレビについてはそこまでどうこう言うつもりは無いけれども。俺の考えが正しければ、俗世間に塗れてはいけないと思う」


 縁のもっともな回答に、メリッサは舌打ちした。


「とんだシスターもいたものだね」


「ほっときなさい。このくらいはないとやってけないっての」


「最近、携帯電話を新調したそうだね? それも最新機種のスマートフォン」


「……」


「しかも、パソコンも近日導入予定だとか」


「……何で知ってんの?」


「何でだろうねぇ」


 縁の思わせぶりな発言に、メリッサはぐるりと首を回して先客(、、)を睨み付けた。


美麗(みれい)ぃ~?」


「ふふふ。つい口が滑ってしまったわ」


 長い黒髪に端整な顔立ち。

 魅惑的なボディラインに清楚な佇まい。

 日本屈指の大魔法使い。

 “氷の女王”姫百合美麗は、悪びれた様子も無くそう答える。


 メリッサはもううんざりといった風情で対面の席に腰を下ろした。同時に美麗が席を立つ。それをやんわりと縁が手で制した。


「一番の若輩者……、いえ。それ以前に、レディに席を譲らせるほど男を捨てちゃいませんよ」


「あら、レディだなんて。嬉しい事を言ってくれますね」


「けっ。しわくちゃだろうが生物学上女と証明できりゃ誰でもレディよ」


 不貞腐れたようにメリッサが言う。


「……貴方もそれさえ無ければねぇ」


「それさえ無ければ!? それさえ無ければ何なわけ!?」


 呟いた一言に過敏に反応され、美麗は苦笑いを浮かべた。ちょっとだけ泣きそうな顔をしながら、メリッサは縁を見る。


「エニィ、私、魅力無いかなぁ」


「いいや。十分に魅力的だよ」


「うむ。ならよし」


 甘ったるい声から一転、ケロリと立ち直るメリッサを見て、美麗は聞こえないようにそっとため息を吐いた。


「で? こんな時間に何の用よ」


「いや、念の為に伝えておこうと思ってね」


「何を」


「近々ここに魔法警察を招き入れる」


 メリッサの表情から気怠そうな色が消えた。


「教会にまで手が及ぶとは考えにくいが……。見られたくない物もあるだろう?」


「目的は何です? 初耳ですが」


 美麗が問う。

 この学園の運営を担っているのは姫百合家。


 人払いの結界を展開し、ある種治外法権のような空間を生み出している学園に外部から介入があることは滅多に無い。故に公的権力が介入するのであれば、まず姫百合に話が通っていないのはおかしい。この質問は当然のものであると言える。


「学園に異物が紛れ込んでいる」


「……異物? まさか幽霊騒動の件じゃないでしょうね」


「ちょっと待って下さい。幽霊騒動ってどういうことです? 私は何も聞いていませんよ」


 縁とメリッサで勝手に話が進みだしたのを見て、美麗がストップを掛けた。


「あぁ、直接管理してるわけじゃない貴方に話が行ってないのは当然か。理事長である泰造(たいぞう)君なら小耳にはさんでるかもしれないけどさ」


 そう評価しつつも説明する気は無いらしい。視線が向けられたことで自分が説明するしか無いと縁は直感した。


「幽霊騒動とはここ最近生徒間で囁かれている噂話です。夜、部活や委員会などで遅くなった学園生が、帰り道で見ると」


「まさか幽霊を、と言うのではないでしょうね」


「そのまさかですよ。青い影、乾いた鈴のような音を聞いたという学園生もいます」


「……鈴の音? そっちは私も初耳だわ」


「問題はそこでは無いでしょう」


 メリッサが挟んだ口は美麗によって即座に両断された。無言で口を尖らせるメリッサを無視し、美麗が続ける。


「御堂君。その噂を真に受けているわけではありませんよね?」


「もちろん噂通りの幽霊では無いと思っていますよ。ただ、そうなると答えはあと1つしかない」


「そちらもあり得ません」


 縁の断言に美麗が首を横に振った。


「現在この学園に展開されている結界は非常に高度なものです。絶対に破られない、と評価するつもりはありません。ですが、何ら痕跡を残さず突破するのは不可能です」


「では幽霊を肯定しますか? 残念ながらこの二択以外には考えられません」


「なぜです。教員、警備員の巡回。もしくはそもそも見間違い、聞き間違いだったという線はないのですか?」


「残念ながら前者は違いますね。教員・警備員といえど門限を越えた徘徊は禁止されていますし、警備や業務上やむを得ないと判断した場合では警備員室にある帳簿に記入する必要があります。そして、ここ数週間では警備員の定期巡回以外使用された跡がありません。無論、その定期巡回とは学園生の目撃時間より更に後の深夜です」


「ちょい待ち。何で貴方がその帳簿の使用履歴を知ってるわけ?」


「生徒会長だからです」


「……」


 当然、生徒会長といえど閲覧できるものではない。それを理解していながら敢えて断言する縁にメリッサは絶句した。


「……なるほど。ひとまず前者については納得しました。それで後者については?」


「この件が確信できるものであると判断したのが、中条聖夜君だからです」


 その言葉に美麗とメリッサは目を見合わせた。


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかい、メリー。彼は何者なんだい?」


「言っとくけど。“不可視の弾丸インビジブル・バレット”をあの子に教えた事に対して、私は何ら罪悪感抱いてないから」


「はい?」


 反応したのは縁ではなく美麗。


「……教えたのですか?」


 質問はメリッサへ、視線は縁へ。縁の顔から笑みが消えたのを見て、美麗は答えを待たずして確信に至った。


「また無茶な真似を……。それに、珍しい事もあったものですね」


「何がさ」


「貴方が特定の生徒に対して深入りするのが、です。自分の素性に繋がる事はトコトン隠蔽している、貴方が」


「あの子は特別でしょ」


「深入りしているのは認めるのですね」


「そして、それは美麗さん。貴方にとってもそうですね?」


 美麗とメリッサの会話に縁が割り込んだ。2人の視線が縁へと向く。


「まさかここまで来て、ただの学生だなんて下らない嘘は吐かないですよね?」


 縁からの質問に、メリッサは頬を掻いた。


「あの子は既にライセンスを取得してる」


「……魔法使いの証を? Class『C』をかい?」


「いんや、『B』」


 メリッサからの端的な回答に、縁は乾いた笑いを漏らした。


「冗談はよしてくれ。努力云々以前の話だよそれは。彼は呪文詠唱ができないんだろう? いくらこの学園の編入試験をパスできる天才だからって、この国では……。あぁ、……帰国子女」


「流石、頭の回転が速い」


「海外で取得した、そういうわけかい」


「そういうことです」


 縁の答えを美麗が肯定する。


「そうなると彼……。ますます凄いじゃないか。Class『C』ですら大学履修終了時の到達目標だよ」


 魔法使いの証はその取得者のレベルに応じて5つに分けられる。一番下のCから始まり、B、A、S、Mと上がり、別枠にLがある。

 聖夜の持つClass『B』は、社会人になってから取得を目指すレベルの試験だ。それを学生の内に、それも“出来損ない”に分類される魔法使いが取得しているのは、極めて異例であると言えるだろう。


「で。彼が何者なのかますます気になり始めたわけだけど」


「つーか貴方、私とあの子の会話盗み聞きしてたでしょ」


 脈略の無い突然の振りにも縁は動じない。


「聞こえが悪いなぁ。たまたま耳に入っただけだよ」


「たまたま? わざわざ教会の裏手の木陰に回った貴方の下に、たまたま会話が聞こえてきたって?」


「そうそう」


「……それで納得してもらえると本気で思ってるのなら、アタシゃ貴方を本気で尊敬するわ」


 縁が誇らしそうに胸を張ったのを見て、メリッサはこれ以上の追及を止める事にした。彼女も、あの段階で聞かれてる事に気付いていたのだから。


「それで、彼がかのリナリー・エヴァンスと親しい件についてなんだが」


「……メリッサ?」


 美麗の顔から微笑みが消え、鋭い視線がメリッサへと向けられる。それをメリッサは素知らぬ顔で受け流した。


「だってぇ~、ある程度の情報は流しておかないと、エニーに弾かれちゃうと思ったんだもぉん」


「ある程度? 彼女の名前を出す事がある程度、ですって?」


「まあまあ落ち着いて下さい、美麗さん。メリーの言うとおり、ある程度の素性が判明しなければ生徒会に招き入れなかった、という考えは事実でしたから」


「……」


 縁の言葉に、美麗が押し黙る。


「そして、俺は更に邪推するわけですが」


 縁は思わせぶりな笑みを浮かべながら続ける。


 そして。

 彼から発せられたその言葉に。

 美麗は完全に無表情となり、メリッサは更に笑みを深めた。

第2章 魔法選抜試験編<下>・完

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