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第17話 縁と紫

「困るんだよねぇ。そういう大切な話を、俺抜きでされちゃあ」


 芝居がかったセリフと共に、男はゆっくりと会議室へ足を踏み入れる。

 不敵な笑みをそのままに、片桐と俺の脇をすり抜けて御堂の前に立った。構図としては、俺の前に背を向けて立っている形になる。


 男は御堂の両肩に馴れ馴れしい所作で両手を置き、顔だけ振り返った。

 そして、こんな一言。


「妹への求愛行為は、まず兄である俺から通してもらわないと」


 ……。

 言っている内容のぶっ飛び具合に、思わず絶句した。


「確かに妹は美人だ。それは自他共に認めるところだろう。けどね、俺はまだ妹に特別な男を作らせるつもりは無いんだよ。と言うのもね、まだまだ不肖の我が妹は手に余るところが多くて……。あ、不肖と言っても――」


「いい加減肩から手を退けなさい!!」


「あふんっ!?」


 どこから取り出したのやら。

 御堂は手に持つ巨大なハリセンで男の顔面を横薙ぎに払った。眼にも止まらぬスピードで放たれたそれは、俺の目の前に立つ男を横向きに吹き飛ばす。男は勢いよく会議室の床を転がって、壁に激突し動きを止めた。


 ……。

 うまく言葉を紡げない俺と、呆れ顔で傍観を決め込む片桐。そして、肩で息をする御堂。

 しかし、沈黙は長くは続かなかった。

 俺たちの視線に気付いたのか、御堂は手に持っていたハリセンを背中に隠し、“上品に見せかけようと工夫された”笑いを漏らした。


「お、おほほほほほほ」


「これ、『番号持ち(ナンバー)』の序列また変わるんじゃないか?」


 目の前で“1番手(ファースト)”が吹っ飛ばされたんスけど、今。


「……この程度で序列が変わっていては、会長に“1番手(ファースト)”は務まりません」


 片桐が呆れ顔のままそう答える。

 実に色々な意味に捉えられる発言だ。あまり真意については問いたくない。


「さ、さて話を戻しましょうか!」


 これ以上語られるのはまずいとでも判断したのか。御堂が慌てた様子で会話の軌道修正に走った。背中からチラチラと覗く巨大なハリセンの先端が何ともシュールな光景だ。


「そうそう、話を戻そう」


 そして。何事も無かったかのようにケロリと立ち上がる男。

 無言で鼻血を拭う仕草も、無駄に男前だった。


「中条聖夜君、だね。2年A組、先日当校に転入してきた新顔。呪文詠唱ができないという欠点を克服する為にやってきた。間違いないね?」


「……はい」


 いきなり何を、とは思ったがとりあえず頷いておく。


「そして」


 目の前の男はニヤリと口を歪ませると。


「つい先日発生した、魔法使い誘拐未遂事件。それを阻止した立役者でもある」


 いきなり告げられた言葉に、思わず身構えそうになる。

 しかし、全てにおいて反応を示さないようにする事は不可能だったようだ。ピクリと動いた俺の表情に、目の前の男は露骨に笑みを深めた。


「間違いないね?」


「いいえ、何のお話でしょうか」


 ひとまず、すっ呆けることにする。


「これは質問じゃない、確認だよ中条聖夜君。俺は、俺たちは、ある程度の真実を知っている」


「……何の話をしているのか、見当も付かないのですが。誘拐未遂? まさかこの学園内で起こったものじゃあ無いでしょう?」


「……ほう」


 俺の応対に感心したかのような素振りで、男が頷く。

 大方俺が口を滑らせるのが狙いだろうが、そうはいくか。

 この男が、そして生徒会が何をどこまで掴んでいるかは知らないが、こちらから情報は開示すべきではない。他言無用は、ここでも適用されるはずだ。


「実はね、この学園内でなんだよ。狙われたのは我が生徒だ」


「この学園で? あれだけ頑丈なセキュリティを謳っている青藍でですか?」


 やや大仰に驚いてやる。


「ふむ」


 目の前の男は、愉快そうに顎を一撫でした。


「君の表情は、そうは語ってないんだけどね」


「盛大な勘違いですね」


「ふむふむ」


 嫌に演技ったらしいのがムカつく。


「誘拐されそうになった()の名前は、白海明莉(しらうみあかり)っていうんだけどね」


「そんな個人情報、簡単に漏らしていいんですか?」


「……いいんじゃない?」


「まずいでしょう」


 俺ではなく、後ろに控えていた片桐が即答した。見れば副会長も複雑そうな顔をしている。


「じゃあ忘れてくれ」


 ……ふざけてんのかこの男は。


「まあ、別にかまわないと思うよ。何せ今出した名前、存在しないから(、、、、、、、)


 ……。

 そうかい。まあ、実際のところ本当に違うからな。俺の反応でも見るつもりだったか。性格悪すぎだ。副会長の複雑そうな顔も、更に険しいものへと変わっている。何かを口にしようとしたみたいだが、その前に片桐が止めていた。


「あらら。これも反応無し、か」


「反応はしてますよ。貴方への懐疑心が、着々と強まってます」


「あはは、これは手厳しい」


 目の前の男は声を出して笑う。だが、一向に望んだ反応を示さない俺に飽きたのか、笑いを引っ込めて改めて口を開いた。


「君がこの事件の立役者だったのだとしたら、直ぐにでも生徒会へ引き抜きたいところなんだけどね?」


「残念ですが、その条件でしたら俺は該当しませんね」


「ふふふ、そうかい」


 男は、踵を返して会議室の奥へと進む。中央に備え付けてある木製の長机の向こう側。一番奥まったところには、更に重厚で高級そうな木製のデスクがある。

 そこに無遠慮に腰掛けた男が、こちらに振り返った。


「青藍魔法学園、生徒会長の御堂縁(みどうえにし)だ。同時に『番号持ち(ナンバー)』序列1位、“1番手(ファースト)”でもある」


「……中条聖夜です。よろしくお願いします」


 何の脈略も無い自己紹介だったが、相手に合わせてそう返す。

 そこで、違和感を覚えた。


 ……御堂?

 そして、先ほどの会話。

 無言で御堂(女)へと視線を移す。


「紫って呼んでね」


 にこりと素敵な笑顔でそう返された。どうやら血縁関係を否定したいらしい。まあ、これまでのリアクションを見ていても、明らかに兄妹で話が合わなそうではある。

 そうか、御堂。何処かで聞いたことのある名だと思っていたが。


『どうも御堂君と豪徳寺君は馬が合わないようですねぇ』


 白石先生の言葉がフラッシュバックする。

 御堂縁。

 豪徳寺大和。

 現状で、青藍2トップの2人。その片割れ。


「悲しい現実だよ。妹が兄と距離を取ろうとするなんて、ね。俺はこんなにも妹へ愛を注ぎ込んでいるというのに」


「……愛というより、偏愛ですね」


「ああ、この人って変態なのか」


「そこ、おかしな会話は慎みたまえ」


 片桐と俺が交わす会話に釘を刺してくる。


「話を戻させてもらおうかな。中条聖夜君、繰り返すようだが君があの件の立役者だったのなら、無条件で生徒会へ抱き込むところなんだけど。そうで無いなら他の条件が必要になるね」


 思案気な顔をしつつ、チラリと横目で窺って来る仕草。正直、かなりムカつく。


「……兄さん」


 俺が言葉を返すよりも先に、現状に耐えかねたのか御堂(女)が一歩を踏み出し口を挟んだ。


「兄さんだって中条君の現状は知ってるんでしょう? ここで生徒会役員になれるかなれないかで、彼の待遇が大きく変わるかもしれないのよ」


「知ってるさ。だけど、関係無いね」


 笑みを崩さぬまま、御堂(男)は答える。


「自分の立場を悲観し勝手に燻ってる男の人生録なんざ、興味が無い」


「っ」


「兄さんっ!!」


 その言葉に、思わず動きかけた身体を強引にその場へと押し留める。

 沸騰しかけた思考を、無理矢理制御する。


 落ち着け。

 落ち着け。

 何を言われようと、この件に関して俺は反論できない。この男が言っているのは事実なんだ。


「へぇ……」


 その一連の様子を眺めていた御堂(男)は、感心したかのようにそう漏らした。


「キレて突っ込んでくるかと思っていたんだけど。想像に反して冷静だ」


「……他人から言われる筋合いは無いが、事実ですから」


「クールだね」


 若干冷やかさも織り交ぜながら、御堂(男)は笑う。


「……兄さん、彼のことも少しは考えてあげて。こうして苦しんでいる一因は、これまで何もできなかった私たち役員にもあるのよ」


「言ったろう、関係無いってね」


「兄さんっ!!」


 再度、隣で御堂……もう面倒臭い。紫が吠えた。


「俺はね、生徒会長なんだよ」


 怒る妹を窘めるように、男は言う。


「個人の意見には、確かに耳を傾けるべきだ。可能なら助力する事も必要だろう。けれどね、それで大衆を巻き込んでしまったら、元も子も無いんだよ。彼の個人的な感傷程度を理由に彼を生徒会へ招くのなら、この先どれだけの生徒を同じ理屈に当てはめて生徒会へ勧誘するつもりだい? まさか全校生徒を勧誘するつもりじゃないだろうね」


「っ」


 男の正論に、紫が唇を噛む。


「だから、別の条件が必要なんだよ。彼にしか成し得ない、生徒会へ与えるメリットがね」


「メリットならありますよ」


「へぇ、どんなだい。沙耶ちゃん」


 これまで傍観していた沙耶が一歩進み出て口を開く。


「既にご存じかとも思いますが、彼には力があります。2番・5番を倒した実力は本物と言えるのでは?」


「“5番手(フィフス)”はともかく大和(セカンド)をその勘定に入れるのはどうなんだい? あんな喧嘩の真似事で勝者を気取られてもねぇ」


「ああ、あの時の視線は貴方のものでしたか」


「お、君も気付いていたのかい」


 俺の言葉に、少し興味を惹かれたのか視線を向けてくる。『君も』ということは、大和さんも気付いていたということか。流石だな。


「まあ……。気配を隠そうともせず、あれだけ堂々と視線を向けられれば」


「ふむ。気配の察知能力はそれなりにあるようだね」


 そこらの学園生では気付かれない程度には隠していたつもりだったんだけどなぁ、と呟きながら男が数回頷く。そこで、おもむろに立ち上がった。


「よしっ」


 ……何がよしなのか全然分からない。


「条件を与えよう」


 含み笑いを漏らしながら、じっと俺を凝視してくる。いい加減うんざりしてきたので、無言で先を促しておく。


「君には、首輪になってもらおうかな」


「……は?」


 急に話が飛んだ気がする。……何だって?

 怪訝な顔をする俺に、男はもう一度丁寧に言い直した。


「君にはね、大和の首輪になってもらいたいんだよ」


 それを聞いて、俺はこの男が何をさせたいのかを悟った。


「大和と随分親しそうじゃないか。あの男が一個人相手にあれだけ興味を持つのも珍しい。彼の素行には生徒会も手を焼いていてね。君が大和の監視役になってくれればこれほど嬉しいことは――」


「お断りだ」


 ペラペラと喋る男の言葉をぶった切り、簡潔にそう告げる。


「……何だって?」


 呆けた顔ではなく、むしろ思わせぶりな笑みを濃くする男に、思わず吐き気を覚えた。


「大和さんを売れってか。学園の治安維持だか何だか知らないが、随分とつまらない真似をするんだな。生徒会ってのは」


「ちょっと、それは――っ」


 紫が何かを言い掛ける前に、片桐がそれを制止する。

 何だか、完全にシラけてしまった。


「帰るぞ」


 返事を待つことなく、扉へと向かう。しかし、俺が扉を潜るより先に――。


「合格だ」


 そんな言葉が男の口から飛び出した。


「あ?」


 その見当違いとしか取れない発言に、思わず振り返る。

 そこには、先ほどと同じ笑みを浮かべたまま、腕を組みつつこちらの様子を眺める男の姿があった。


「合格、だよ。君がこの条件で簡単に乗ってくるような人間なら、入れないつもりでいた」


「まったく、兄さんったら。そういう冗談でも生徒会の評判を下げる事言わないでよね」


 紫がため息交じりに抗議する。

 ……ああ、紫が文句を言おうとしたのは俺じゃなく、この男の方にだったのか。


 まあ、そりゃそうか。

 綺麗事を本気でポンポン並べられるような女が、あんなことを容認できるはずがないだろう。

 プリプリと怒る紫に対して、男は朗らかに笑った。


「評判を気にしている内は、ただの大根役者だよ。実績があれば人は必ずついてくるんだ」


「信頼を勝ち得るには相当な努力と時間が必要よ。対して失うのは一瞬だわ」


「お堅いお堅い。これだから我が妹は。君も何とか言ってやってくれよ、このカチコチの副会長様にさ」


「……お前、副会長だったのか」


「今更!?」


 紫が見えない衝撃を受けて床へと倒れ込んだ。


「……私って、いったい」


「あー、すまん。そんなに落ち込むなよ」


「というわけでまずは見習いからだね。雑用係A君、手始めにこの館を掃除してくれたまえ。塵1つ残さず」


「は?」


 何ふざけたこと抜かしてんだこの男は。


 いっそのこと、ここでもう一度序列を変動させてやろうか。


「いやいや、だって君が言ったんだよ? 何でもするって」


「……何のお話で?」


 俺の質問に口角を歪ませる事で応えた男は、おもむろにポケットから小さな機械を取り出した。そして、スイッチらしきものを押す。


『「よろしく頼む」「こちらこそ」「せいぜい役に立って下さいね」「ああ。見合う成果は挙げてみせるさ。雑用でも何でも言ってくれ」』


 ピッという電子音と共に、音が途切れる。


 ……。


「……さて、辞めるか」


「中条君は既に生徒会から逃れられない!」


 ……うざ。


「あー、あー、もういいからいいから!」


「中条さん、ひとまず今日はこれで結構です。今後についてはまた日を改めてお話します」


 実の兄の愚行に耐えかねたのか、紫が立ち上がった男を再び生徒会長の席へと押し戻す。それを皮切りに片桐がこちらの方へと振り返ってお開きの旨を伝えてきた。


「……いいのか? あれ」


「いつものことですから」


 影が差したように、諦めの境地にでも至っているのか片桐がそんな事を言う。


「……苦労してるんだな、お前も」


「理解頂き恐縮ですが、これからは貴方も他人事ではなくなるんですからね」


 げ、そうか。


「その分のメリットは保証しますよ。ほら、貴方はまず最初にすべきことがあるでしょう」


 背中を押しやりながら、片桐は会議室から俺を退出させる。


 最初にすべきこと。

 それは何か、なんて聞くまでもない。

 舞や可憐に頭を下げる。

 そして。


『アピール』。


「生徒会役員は試験を免除されます。が、貴方はそれを望んで受けたわけではありませんよね」


「ああ、分かってる」


 確かに。生徒会のメンバーに選ばれた以上、俺は試験を受ける事無くクラス=A(クラスエー)配属が確定された。だが。俺が。舞が。可憐が。俺たちが望んだものは、そんなものじゃない。


 俺の答えに満足したのか。


 片桐は。

 初めて。

 少なくとも。

 俺が見る限りでは、初めて。

 少しだけだが、微笑んだ。


「この期に及んで尻込みなんてしませんよね?」


「……俺を誰だと思ってやがる」


「問題児・雑用係・蛆虫」


「最後の1つだけは断固として抗議していい?」


「それは結果を見てから聞きましょう」


 階段を下り、正面玄関の大きな扉を開ける。既に日は落ちかけており、薄暗い風景が広がった。

 眼前には、先の見えぬ階段。


「負け犬は、生徒会にはいりませんから」


「そんな立場に甘んじるつもりはねーよ」


「良いお返事です」


 振り返る。片桐は正門にて直立不動でこちらを窺っていた。


「明日、またお会いしましょう」


「俺のこと、嫌いなんじゃなかったのか?」


「それは、これからの貴方次第です」


 左様か。

 踵を返し、目の前の階段を下り始める。

 片桐が何か言っていたかもしれないが、よく聞き取れなかった。しかし、今はそれでも構わない。生徒会に入る以上、これからは少なからず縁もあるだろう。その時にでも聞けばいい。


 まずは、目先のこと。


 どんな道も、まずは一歩から。

 駆け下りるように。

 けれども踏み外さぬように。

 一段一段、階段を踏みしめる。

 先は見えない。

 けれども。

 だからこそ、先に進むんだ。

 今は、今だけは。素直にそう思う事ができた。


 ――――俺の中で、何かが変わろうとしていた。







「帰りました」


「みたいだね」


 会議室に音も無く入室してきた沙耶には目もくれず、縁は窓から外の風景を眺めていた。

 その先には学園へと続く、長い長い階段。おそらく、聖夜が帰っていくところをここから見ていたのだろう。


「まったく、どういうつもりなんだか」


 紫は椅子に腰かけながら、冷めた紅茶の入ったティーカップを手に取った。


「どうせ兄さんも彼を引き込むつもりだったんでしょう? なのに何なの、あのやり口。完全に喧嘩腰だったじゃない」


「おやおやおや? 何の話をしているんだい、紫。俺がいつ中条君に興味を持っていたって?」


「隠し通せてると思ってるの?」


 カチャリとソーサーを鳴らしながら、紫はジト目で実の兄を睨んだ。

 そして、一言。


「姫百合美麗」


 その言葉に、縁の眉が吊り上る。


「相談、受けてたでしょ? うまく生徒会に抱き込めないかって。言っておきますけど、言い訳無用よ。こっちは既に確信してるから」


「……誰にも言ってないつもりだったんだけど」


「信者でもない兄さんが、教会を密談場所に指定したのがそもそもの間違いね」


「それは先方からのご指定だったんだよ」


「ありがとう。これで証言は抑えたわね、沙耶ちゃん」


「はい、誰かしらの介入はあったと推測していましたが、これで美麗さんはクロだとはっきりしました」


「……嵌められたのか、俺は」


 縁は生徒会長の椅子でがっくりと項垂れた。その仕草すら演技がかっている。まるで、“わざと知らせる為に騙された”かのように。


「何者なの、彼」


「さあてね」


「誤魔化されないわよ」


「いやいや、俺も詳細については本当に分かっちゃいないんだ」


 徐々に吊り上る紫の視線を、縁はひらひらと手を振る事で払った。


「……かなりわけアリなのかな。情報がロックされ過ぎてる」


「ロック?」


「それよりも、紫。そんな事情も知らずに、彼を生徒会に招こうとしてたのか?」


「腹黒い兄さんと違って、私は純粋に彼の力になりたかっただけよ。兄さんが別口で彼に目を付けてるって知ったのは、勧誘を決めた後だもん」


「はいはい、我ながら立派な妹ですよ」


「誤魔化されないって言ったわよね」


 半ば投げやりにそう答える縁に、紫はぴしゃりと言い放った。


「抱き込もうとしてた割には、どっちつかずの態度だったのはどうして?」


「……愛しの妹の気をひいた彼が憎かったからさ」


「誤魔化されないって、言ったわよね?」


 紫の断言に、縁はお手上げとばかりに両手を挙げた。


「妬ましいと思ったのは事実だよ」


「完全に変態ですね」


「そうじゃあない」


 片桐の侮蔑が込められた眼差しに、縁は幾分か強い口調でそう返した。反転して、続く言葉は弱めに紡がれる。


「大和と彼。今の俺にはもう取り返しようも無いものを、彼が持ってたから、さ」


 その言葉に。紫と片桐は口を閉ざした。







 青藍魔法学園名物『勧誘期間』。

 ――――魔法選抜試験、グループ登録期限、最終日。

第2章 魔法選抜試験編〈上〉・完

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