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第6話 言伝

「あ、生徒会」


 朝。目が覚めた俺の第一声はこれだった。寝ぼけていた頭が一瞬にして覚醒する。それほどまでに、衝撃的な事実を思い出した。

 手元の携帯電話を開いて見る。目覚ましが鳴るよりも早く目を覚ましていた。どんな夢を見ていたのかはまったく覚えていないが、今頭の中を巡っている情報からも、明らかに思い出したくない類の悪夢だったに違いない。


「……昨日、待ち合わせてたんだよな」


 現実逃避はここまでにして、昨日しでかしてしまった失態を口にしてみる。

 ……やべぇ。何も言わずにすっぽかした。

 まあ、昨日は色々と大変だったからな。……いや、昨日()か。


 ともかく、そんなことは言い訳にならない。

 放課後、もう一度教会を訪れてみるべきか思案し、直ぐに却下する。今日来てくれるかも分からないし、まずは生徒会の人間がいるクラスに行ってみる他ないだろう。別にあそこに生息していた謎のシスターと関わりたくないという理由では無い。断じて無い。


 ……誰に弁明しているんだか。ともかく、片桐さんとやらに謝罪しなければ。

 ……。

 そこまで思考を巡らせて。


「あー」


 ……サボりたい。







 青藍魔法学園名物『勧誘期間』。

 ――――魔法選抜試験、グループ登録期限まで。後、5日。







「会いに行くのは止めとけ」


 朝の登校途中。いつも通り寮の前で待っていてくれた3人組と合流し、生徒会の件について持ちかけたところでそう言われた。出端から挫かれた気分だ。


「どうしてだよ。『余り狙い』でいく為には、早めに手を打っとかなきゃ駄目なんだろ」


「そうじゃない……。いや、そうなんだが……今はそうじゃないんだよ」


 言ってる意味が分からない。

 修平らしくも無い。いや、思わせぶりな発言はこいつの十八番だったか。


「お前、昨日騒動を起こした自覚はあるのか? 今生徒会の面々に自分から会いに行くのは、捕まえておいて下さいって言ってるようなものだぞ」


「もしかしたら、喧嘩売ってるように見えるかもね」


「おいおいおい」


 修平の言葉に次いで告げられたとおるの言葉に、堪らず異議を唱える。


「流石に言い過ぎじゃないのか? 教師の招集には、ちゃんと応じてるんだぞ」


 招集に応じてるだけで、期待には応えてないけどな。


「実はねぇ、それで済むだけの問題でも無いんだよ」


 ……残念ながら、とおるの返答は更に不安を煽るものだった。


「正直、運が悪かったとしか言いようがない。聖夜、あの4人組覚えているかい?」


「いや、もう顔も忘れた」


「……お前、本当に大物だよな」


 とおるの質問に即答した俺を見て、将人が唖然としながらそう呟いた。


「まあ、覚えてなくてもいいや」


 とおるは苦笑しながら、説明の為に再度口を開く。


「あの4人組はね、“2番手(セカンド)”を師と仰いでるメンバーの一部なんだよ。今、生徒会と揉め事を起こしているあの“2番手セカンド”のね」


「……あのってどのセカンドだ? セカンドって、2番目って意味だよな。何に対するセカンドなんだ?」


「……ああ、聖夜にはそこから説明が必要だったよね」


 とおるが何かを諦めた表情でため息を吐く。

 はいはいはい。すみませんね、無知で。こちとらそれどころじゃないんですよ。

 俺が何を思っているのか大体想像が付いたのか、修平が苦笑した。


「“青藍の2番手”。ようは青藍魔法学園で、2番目に強い奴ってこと。それを略して“2番手(セカンド)”って呼んでんだよ」


 将人が横から解説を入れてくれる。


「上から5番までの生徒に与えられる、一種の称号みたいなもんさ。普段の魔法授業、試験の結果などから総合的に判断されて、魔法選抜試験ごとに更新されているんだ」


「毎回トップが代わるってわけか」


「ところがどっこい! そういう訳でもねぇんだ」


 修平の話に相槌を打ったところで、将人がオーバーアクションと共に横やりを入れてきた。


「今の青藍トップ3はすげぇぜ。なんせ奴らが一番最初に受けた選抜試験、2年2学期から一度もその席を譲ったことがねぇんだ」


「ほう。確かに、そりゃ凄……ん? ちょっと待て。“トップ3”だろ? 当時の3年はどうしたんだよ」


「そこだよ、聖夜。彼らの本当の凄いところはそこさ」


「奴らは自分たちの上の代を飛び越えて、最初っから3つの席に居座ったままなのさ」


 とおると修平が、苦笑いで俺の疑問を払拭してくれる。


「凄いな……」


 当時の3年だって、それなりにデキる奴は居ただろう。例え不作の年であったとしても、一度も席を譲らずにトップ3を維持できているのは凄い。


「……それが、今の3年クラス=A(クラスエー)の3人ってわけか」


「その通り。そして“1番手(ファースト)”と“3番手(サード)”が生徒会だ。“1番手(ファースト)”は現生徒会長だしな」


「ははぁん?」


 舞が最強と言っていたのはこういうわけか。超エリート校である青藍の1番手、それが生徒会長。そして、3番手も生徒会ときた。この2人を有しているだけでも、生徒会という組織が形や権力だけではない本当のエリート集団であることが窺える。


「まあ、ちょっと話が逸れたけどさ」


 とおるがそう言う。

 そして、このまま終わっておけば良いものを。


「不動の“2番手(セカンド)”が、君に目を付けた可能性はゼロじゃないってことだよ」


 最後に、要らん情報を口にした。







 青藍魔法学園の2番手。通称2番手(セカンド)と呼ばれる男は、群れることが嫌いな男らしい。


 学園入学からここまで、誰1人として親しくしている人間はいない。会話すらもあまり無く、必要最低限のみ。将人やとおる、修平たちが入学した頃からずっとそんな感じだったそうだ。そして、2年2学期からはずっとクラス=A(クラスエー)。在籍者数3人という超少人数のクラス体制であることに加え、自分以外のクラスメイト2名は生徒会の人間であるときた。そりゃあただでさえ会話しなかった人間に、会話なんざ皆無だろう。


 と、思いきや。

 青藍魔法学園1番手にして2番手のクラスメイト、あの舞が「学園最強はあの人」と口にし、極めつけは現生徒会長であると言う謎の完璧超人の人物とは、意外とよく会話しているらしい。ただ、この文章の解釈には注意が必要。ここで言う会話とは、本当に“会ったところで話している(いがみ合っているとも言う)”だけ。仲が良い訳じゃない。まるっきり正反対。犬猿の仲と辞書で調べれば『1番手と2番手のような関係を指す』と記されていそうな程、険悪な関係なんだとか。


 何が原因でそのような関係になったのかは不明。噂では1年の入学式の段階で、既にこうだったらしい。ただ、初めから“お互いの素性を知っているかのような”口論だったと、現3年の間では語られている。これも真偽は不明。あくまで噂。よって1番手と2番手の関係性も、まったくの謎。


 最初の内は口論なだけで、実害と言えばところ構わず始め、授業が何度も中断させられることくらい。現3番手が仲裁に入りことなきを得る……程度だったらしいが。今では、生徒会が力づくで介入しなければ収まらない程の騒動になるとか。そうしなければ1番手と2番手、青藍トップ2による夢の大魔法戦が始まってしまうかも、とのこと。


 ……1番手って生徒会長だろ。何で自分の組織の仕事を自分で増やしてんだよ。と、事情の『じ』の字も知らない俺は、そうため息を吐いてみる。

 ……話が逸れた。


 この群れることが嫌いな男、2番手。

 にも拘わらず、彼を一方的に慕う下級生(男子生徒)は多いらしい。そう、一方的に。そしてこれは、別に変な意味での慕う、ではない。


 腐っても2番手。魔法において絶大な力を誇る彼は、やはり男からして見れば憧れの的。自称・舎弟なる輩は結構いるようだ。生徒会は彼らを一種の派閥として見ており、不穏な動きが無いかを警戒しているようだが……。まあ、この情報も今のところは必要ない。

 ともかく、昨日俺が殴り飛ばした4人組はそういったよく分からん派閥にいた人間だったらしい。とおるが危惧していた事柄とは、つまりこのことである。


「ま、群れることが嫌いな人って話だし……。敵討ちとかで出張る人間じゃないとは思うけどな」


 とは修平の弁。


「ただ、警戒するには越したことないと思うよ。噂とは言え、事実とは(、、、、)違う噂(、、、)が流れているんだからね」


 これはとおるの弁。


「聖夜が“2番手(セカンド)”と戦ってるのは見てみたいけどな。そうだ、聖夜。いっそのこと“2番手(セカンド)”に喧嘩売りにへぶぼべっ!?」


 ……。


 あの場面に立ち会った3人は誤魔化されませんでしたよ、ということなのだろう。学園中で噂になっている騒ぎの原因については、話してはいないものの何となくそれぞれに心当たりはあるようだった。


 ただ、やっぱりこの3人は人間関係を構築する上での線引きがうまい。話したくないという俺の心情を聞きもせずに、この件の原因については追及してこなかった。

 少し突き放された感じにも取れる、その対応。

 だが、今の俺にとってはこの距離感が一番有り難かった。


「ふんっ」


 そして、対照的に今一番有り難くない距離感なのが、これ。

 早朝の下駄箱にて。舞は俺と目が合うなり踵を返して行ってしまった。

 ……ふんっ、て。本当に声出している奴、初めて見たぞ。


「おいおい、聖夜。お前、まだ引きずってんのか?」


「……ほっとけ」


 修平からの呆れ声を、手で払う。


「でも、早めに何とかしておいた方がいいよ」


「そうだぜ、聖夜。お前はちょっと問題を抱え過ぎだ」


 自覚はしているが、どう下ろしていいか分からないんだよ。

 言外にそう吐き捨てて、ため息を吐きながら上履きに手を伸ばす。

 何となく、靴の中を覗いてみる。……お約束のように画鋲が入っている、なんてことはないか。流石に。だよね、皆高校生だもん。するはずないよね、そんな幼稚なこと。

 そう考えながらも、無くて良かったと安堵しながら履き替える。

 そこで、修平と目が合った。にやりと笑われる。


「お前、本当に分かりやすくて良い奴だな」


「ほっとけ」


 もう一度、同じ言葉で返した。







 他のクラスとは違って無遠慮な行動は起こさないとはいえ、やはり関心が無いわけでは無いらしい。今日の2年A組は、何とも言えぬ微妙な空気が漂っていた。休み時間だろうが授業時間だろうが、時折向けられてくる好奇の視線が何ともむず痒い。


 そして。

 それを一番発してくるのは、隣に座る可憐なわけなのだが。


「っ」


 うんざりしてそちらに目を向けると、がばっという音が聞こえてきそうなほど勢いよく、顔ごと逸らされた。

 ……うん、遅いから。見られてるの、ばっちり見たから。


 昨日は咲夜と話したのだろうか。昨日の夜、咲夜とは何とも言えぬむず痒い感じの別れ方をしてしまった。あの咲夜の言葉を聞いた後は、お互い一言も口を利かずに寮で別れたのだ。今思い出してみても、相当恥ずかしい。咲夜もそういった発言をしたという自覚があったのか、逃げるように女子寮へと駆け込んでいったからな。

 あ、また目が合った。


「っ」


 ……はぁ。憂鬱だ。







「……片桐さん片桐さんはっと」


 昼休み。

 挙動不審な可憐や険悪なオーラを醸し出している舞から昼食を誘われるということは当然無く、俺は当初から予定していた生徒会の片桐なる人物を探して廊下を歩いていた。


『おいおいおい。今朝の俺らの話聞いてたか?』


 教室を出る前に修平から言われたことを思い出す。とおるや将人も同様の意見だったようで、「片桐って奴を探してくる」と言った俺をまるで珍獣でも見るかのような目つきで見送っていた。

 確かに暴力事件を起こした昨日の今日で生徒会に会いに行くのは、多少の気まずさがある。『余り』を確実に手に入れる為というだけならば、少し時間を置いても良かったのだが……。


 しかしながら、こちらは自らの都合で向こうを呼び出しておきながら、勝手に約束をすっぽかすという最低の行為をしでかしている。謝るのは極力早い方が良い。

 廊下をふらふらと彷徨う。そうしている間にも、俺に向けられる好奇な視線は嫌でも感じてしまう。中には、恐怖が入り混じった視線を向けてくる奴もいた。目が合うなり「ひっ」という声を漏らして、何処かの教室に駆け込んでいく。


 もともと目つきが悪い事は自覚しているが、そこまであからさまにされると流石にショックだ。怖いんなら最初っから見てんじゃねーよ。こっちが泣きそうだぞ。

 ……面倒臭い噂を流されたものだ。もっとも、顔とか殴ったのは本当なんだけどさ。


「あ」


 そこで、大切なことを思い出した。


「……よく考えたら、俺、顔見たって分かんないじゃん」


 片桐なる人物と会ったことがないのだから、当たり前だ。よく考えるまでも無くそうに決まってる。なんで今更そんなことに気が付いてんだよ。

 辺りを見回してみる。……周囲を歩いていた生徒たちは、一斉に目を逸らした。

 人に聞ける雰囲気であるはずがない。


「……出直すしかないのか」


 向こうがこちらを見つけてくれれば、何かしらのアクションを仕掛けてくれる可能性はゼロではない。が、それも向こうが俺の風貌を知っていれば話だ。それに、現状で他の教室に堂々と顔を突っ込む勇気も度胸も無い。

 仕方が無いな。他に手を考えねば。


 ……本当に泣きそうだ。







 結局、何の収穫も無しに教室に戻った。

 成果を聞きに来た3人組に事情を説明すると、案の定将人が腹を抱えて笑いやがったのでその口を強引に塞いでやる。


「……まあ、その判断は妥当だと思うぞ」


「僕もそう思うよ」


 将人が蹲る横で、修平ととおるは俺の戦略的撤退に関してこう評価した。


「ただでさえ悪目立ちしてるんだ。他の教室に単身で乗り込めるほど感覚がマヒしていたのなら、一度療養を勧めようかと思ってたんだ」


「そうだね。いくら聖夜が図太い神経の持ち主だって言っても、限度があるよね」


「ねぇ、俺を苛めて楽しい? ねぇ、楽しい?」


「ぶぼっ!? 何で俺を殴るんだよ!!」


 すまん。何か手ごろな所にいたから。

 その光景を見て、修平が笑った。


「ま、それだけ元気があるならまだ平気そうだな」


「……この程度で潰れるほど、俺は弱くねーよ」


 吐き捨てるようにそう呟いて、自分の席に着いた。横の席はまだ空席。可憐はまだ昼食から戻ってきてはいないらしい。ちらりと斜め前方の席を窺って見れば、舞の席も空席だった。

 そこまで確認して、ふと視線を感じる。振り向けば修平が俺の様子を見て、にやにやと笑みを浮かべているところだった。


「弱くねぇと言ってるわりには、やってることは女々しいよな」


「……将人にではなく、お前に殺意を覚えたのは初めてだぜ」


「その発言おかしいだろ!!」


 俺と修平が睨み合う横で、将人が絶叫した。


「修平、そう言う言い方は良くないと思うよ」


「修平だけじゃなく聖夜の言い方も責めてくれよ、とおる!!」


 そんな他愛のない話をしている時だった。


「失礼する」


 前触れなど、何も無かった。

 ガラッという音を立てて、教室の扉が開かれる。

 その光景を見て、とおるに詰め寄っていた将人の動きが止まった。俺と修平の間に入り、宥めようとしていたとおるは手を広げたまま固まり、修平はからかうような笑みを引っ込めて無表情になる。


 終わりかけているとはいえ、まだ昼休み。1人や2人が教室の扉を開閉しようが、その他大勢の人間は見向きもしない時間のはずだ。

 それでも。

 その1人の男子生徒の挙動に、クラスメイト全ての視線が向けられていた。


 急に教室が静まり返る。それに気を良くしたのか、男子生徒は得意気に他クラスである2年A組に堂々と入り込む。

 そこで、俺と目が合った。一瞬だけ肩を強張らせる。が、直ぐに気を取り直してまっすぐ俺の方へと歩いてきた。


「……将人、手を出しちゃ駄目だからね」


「うるせぇ、分かってるさ」


 ひっそりと釘を刺すとおるに、将人が乱暴に応対する。修平は何も言わずにその男子生徒を見据えたままだった。


「中条聖夜」


 あの時の、4人組のうちの1人だった男子生徒が口を開く。


「気安く俺の名を呼んでんじゃねーよ、腰抜け野郎が」


「……っ」


 今度は露骨に肩を震わせた。

 ……この程度で怯んでんじゃねーよ。何しに来たんだ。


「よくもまぁ、俺の前にノコノコ顔を出せたものだな」


 舞や可憐が不在なのは幸運だったと言える。全てを口に出来なくても、ある程度は話せる。


「悲劇のヒーロー役はもう終わりでいいのか? わざわざ俺のところに来たってことは、殴られる覚悟ができたってことでいいんだよな?」


「せ、聖夜!?」


 とおるが横で驚いた声を上げる。大方、俺がまた暴力行為に及ぶとでも思ったのだろうが、無視しておく。

 目の前の男子生徒は、とおるが俺を止めようと動いたのを見て幾分か安心したのだろう。多少震わせながらも、口を歪めて見せた。


「中条聖夜、ある方から言伝を預かってきた」


 そばにいた、とおるや将人から息を呑む音が聞こえた。その思わせぶりな発言の真意に気付いたからだろう。

 俺の頭も2人と同様の結論を叩き出したが、俺からしてみればどうでもいい結論だった。


「へぇ? 腰抜け野郎でもその程度は役に立つんだな」


「っ、貴様……」


 男子生徒が一瞬にして顔を真っ赤にした。それを鼻で嗤った俺を見て、男子生徒が口を噤む。

 が、直ぐに笑みを取り戻し、こうのたまった。


「お前はもう終わりだ。豪徳寺さんがお前を呼んでる。一緒に来てもらうぞ」


 教室中がざわめく。その言葉を受けた俺よりも、遥かに上回る動揺だった。


「……お前ら、その人に何を吹き込んだ」


 修平が、唸るようにそう質問する。男子生徒は横から口を挟まれて少しだけ顔をしかめたが、直ぐに乾いた笑みを浮かべて答えを口にした。


「別に? ただ、相当お怒りだったぜ。“関係無い奴を巻き込む”のは許せない、とかな」


 言っている意味が分からなかった。だが、それが正解なのだろう。おそらくあることないこと吹き込んだのだ。その豪徳寺という男に対して。


「お前っ」


「止めとけ、修平。昨日将人を止めた人間とは思えないぞ」


 珍しく声を荒げて一歩前へと出ようとする修平を、言葉で制する。


「……聖夜、けどな」


 俺の発言に抗議をしようと修平が口を開くが、男子生徒が掻き消すように、そして高らかに言い放ってきた。


「聞いた通りだぞ、中条聖夜! いつまでそうして座ってるつもりだ? 豪徳寺さんがお呼びだ!」


「あっそ」


「なっ!?」


 俺の応対に、男子生徒が目を丸くする。


「何だよそれ!! 豪徳寺さんが呼んでるんだ!! 一緒に来い!!」


「断る」


「はっ!?」


 目を白黒させる男子生徒。

 向こうが俺のことをどう判断して呼び出しているのかは知らないが、わざわざこちらから出向いてやる必要は無い。

 この目の前の男子生徒が俺にもたらした有益な情報と言えば、修平たちの言う2番手の名は豪徳寺というらしい、ということくらいだ。


「豪徳寺さん、だっけ? その人に伝えといてくれよ」


 なおも俺の返答に固まる男子生徒に、告げる。


「用があるんなら、あんたが来いってな」


 その発言に。

 教室中の、誰もが息を呑んだ。

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