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第3話 アギルメスタ01 ⑩




 その天へと掲げるまりかの右腕を見て、誰もが天蓋魔法を連想した。あの予選Cグループを恐怖のどん底へと叩き落とした、天より降り注ぐ弾幕を。


 しかし。

 まりかが天へと掲げた右腕からは、何の魔法も発現されなかった。

 藤宮の身体が、何の前触れもなく後方へと吹き飛ばされる。


『なっ!?』


 マイクを握りしめるマリオを含め、会場のほとんどの人間が絶句した。


 実際に発現されたのは、天属性の魔法球1発。

 試合開始から1秒にも満たないスピードで発現されたそれは、藤宮の身体を正確に穿ち、吹き飛ばす。その身体は地面へと一度も接触することなく200m近く吹き飛び、決戦フィールドの側壁に激突した。

 いや。


「防いだのか。やるね」


 感情の無い表情で、まりかが呟く。

 藤宮は側壁に(、、、、、、)着地していた(、、、、、、)抜身の剣を(、、、、、)身体の前に構えて(、、、、、、、、)

 そのすぐ傍へ、無属性の身体強化魔法を発現させた唯が着地した。


「余所見をするな。お前の相手はこの私だ」


 底冷えするほどに冷淡な声色で、唯が言う。その言葉が藤宮の耳に届く頃には、既に唯の剣が振り抜かれていた。


「『風車(カザグルマ)』」


 側壁の横一直線、数十mに渡って太刀筋が刻み込まれる。轟音の中、空中で宙返りしていた藤宮の着地地点に、まりかが割り込んだ。


「随分と長い空の旅だねぇ」


 唯と同じく、無属性の身体強化魔法。発現箇所は両腕と両脚。

 まりかの何気の無い腕の一振りが、藤宮の身体を再び吹き飛ばす。その身体はまたもや決戦フィールドを横断し、400mの地面を何度かバウンドしながら反対側の側壁へと今度こそ激突した。


「おぉー、いきなりやるもんだな。怖い怖い」


 すぐ隣を人間が吹き飛ばされていったにも拘わらず、メイは他人事のようにそうぼやくだけだった。実況解説、そして特別ゲストが喚きたてる中、まりかがメイのすぐ隣に着地する。


「こちらの邪魔をしないのなら、最後までキミには手を出さない」


「へぇ?」


 まりかの言葉に、メイは仮面の下で眉を吊り上げた。


「フジミヤって奴と因縁でもあるのか?」


「さぁね」


 まりかは淡白な答えしか返さなかった。そのすぐ隣を目にも止まらぬスピードで唯が駆け抜ける。


「……剣での防御が予想以上にダメージを緩和していたか。受け流す技術が高いなぁ」


 その唯の背中を見送りながら、まりかは独り言のようにそう呟いた。その視線の先、側壁に抉り込んでいた身体を起こした藤宮が、唯の一撃を剣で受ける。二撃、三撃と斬り結びが始まった。

 その光景を見据えながら、まりかが口を開く。


「『(テン)羽衣(ハゴロモ)』」


 それは。

 全属性最強と謳われる、天属性の全身強化魔法発現。


 余波に巻き込まれるより早く身体強化魔法を発現させ、後方へと跳躍していたメイが口笛を吹く。


「流れるような魔力操作、そして魔法の発現。知ってはいたが、やっぱすげぇな。お前、学校に通ってていいレベルじゃねーよ」


 まりかは、その言葉に応えなかった。

 僅か一歩で藤宮の背後を取る。


「むっ!?」


 唯と目にも止まらぬスピードで剣を交えていた藤宮の視線が、背後へと向いた。交えていた藤宮の剣の切っ先が、唯ではない方向へと向けられる。

 その隙を。


 ――――浅草唯は逃さない。


「『風車(カザグルマ)』!!」


 瞬き1つあれば、その剣は振り抜かれている。それほどの速度で放たれたそれは、藤宮の身体を横へ両断する太刀筋を描いた。

 それを藤宮は左手で抜いた鞘で弾く。


 まりかの拳は、自らへと視線を向ける藤宮の後頭部を、正確に吹き飛ばすコースで放たれた。

 それを藤宮は右手に握られた剣で受け流す。


「なっ――」


「――にっ」


 隙と呼ぶにはあまりにも刹那の硬直時間。

 しかし、その隙を。


 ――――藤宮誠は逃さない。


「『電光刹華(でんこうせつか)』」


 闇属性の付加能力は、吸収。

 光属性の付加能力は、反射。


 それらを引力と斥力に変えて。

 藤宮の剣速は、人間の知覚できる速度を遥かに凌駕した。


 刹那の間に瞬く小さな光。

 唯の右頬が薄く切り裂かれ、鮮血が噴き出した。

 まりかの左肩に切っ先が抉り込み、嫌な音を鳴らした。


「ぐっ!?」


「あっ!?」


 間一髪。

 藤宮の切っ先がまりかを斬り捨てるよりも早く、まりかは宙を蹴って後退した。


 天属性の付加能力の1つ、浮遊。

 肩から吹き出す血を手で抑え、まりかは目を見開き藤宮を凝視する。背後を取った後も、まりかは決して油断をしていたわけではなかった。どのような反撃が来てもいいように、最大限の注意を払っていた。その警戒こそがまりかの窮地を救ったと言えるが、それで納得できる類のものではない。


「今の、……スピードは」


 まりかの呟きには応えず、藤宮は刀身で自らの肩を叩いた。


『に、2対1で絶望的かと思われた藤宮選手がまさかの迎撃成功ォォォォ!?』


『こいつぁ驚いた……。これが日本の従者のレベルだって? 信じられないな』


 マリオが喚く横で、マークも震えた声で呟く。


『そう、……だね。今のは光属性と闇属性の連用、かな。口にするほど簡単にできる技術じゃあないけど……』


 カルティが信じられないと言わんばかりの表情で言う。


 しかし、それが正解だった。

 藤宮が今発現した魔法1つひとつは、決して高度なものではない。

 闇の引力と光の斥力、引力で剣を引き寄せて斥力で剣を放つ。この2つを交互に使うことで、剣速を限りなく早くしただけのこと。


 しかし、カルティの言う通り口では簡単に説明できるものの、それが実践できるかと問われれば、大多数の魔法使いは首を横に振るに違いない。1つひとつの魔法は高度なものではない。しかしそれを組み合わせて実戦に用いるとなると話は別だ。

 光属性と闇属性は同時に使用することができない。両者が共に反発し合い、無に帰してしまうからだ。つまり、この剣技のキモは属性の切り替えスピード。つまりは『属性変更(カラーチェンジ)』。


 聖夜のそれに勝るとも劣らぬ速度で行われるそれは、藤宮の技量の高さを物語っていた。


「T・メイカー殿のように、全身強化魔法を無詠唱でこの速度、とはいかぬが……」


 深く被る笠の奥から覗く鋭い眼光が、まりかを射抜く。


「この程度の魔法の連続発現なら、自信があるでござるよ」


 後ろから振るわれた剣を、藤宮は視線を向けることなく回避した。


「よくも!! まりか様をっ!!」


 顔を、肩を、肘を、腹を、足を。

 唯が鋭く狙う斬撃を、藤宮は的確に対処する。


「天道まりかが血を流したのは誰の責でござるかな」


「うるさいっ!!」


 鼻先を殺ぐ一撃も、藤宮は後ろへ軽く下がるだけで回避した。


「『(テン)羽衣(ハゴロモ)』、『天門(テンモン)(フタツメ)』、『開門(カイモン)』」


 膨大なる魔力が、決戦フィールドの一角から吹き出した。


「下がれっ!! 唯っ!!」


 即座に止血を完了させたまりかが吼える。


「こいつはここでっ!! 叩き潰すっ!!!!」


 唯が主の言葉に従って後方へと跳躍した直後。

 隕石が飛来したかのような轟音をまき散らし、まりかが藤宮のいる場所へと着弾する。

 いや、しようとした。


「『電光刹華(でんこうせつか)』」


 藤宮の剣を握る手が僅かに発光する。

 それは、高速で突っ込んでくるまりかの首筋を殺ぐ一刀。

 一刀の元に斬り捨てる、最悪の一手。


 それを。

 最速で薙ぐ太刀筋に匹敵する速度で以て、まりかが回避した。


 その速さは、藤宮の目で追えなかった。横を取っていたまりかの動きが回避から攻撃へとチェンジする。藤宮の身体を粉々に吹き飛ばす威力で放たれた、膝蹴り。それを藤宮の逆手で握る鞘が受け流す。

 光属性の反射が発現した。

 瞬く閃光と共に、振り抜かれた刀身が弾き返される。

 先ほどと同じ太刀筋を通って返ってくる。

 速さを優先したが故か、刀身は反転していなかった。

 刃ではなく峰がまりかを襲う。それを刹那の時間で察知したまりかは、右の手のひらを添えることで威力を殺した。

 そして。


「っ、らぁぁぁぁ!!!!」


 まりかの右足の蹴りが、藤宮の腹部を穿つ。


「ぐっ、ぷっ!?」


 この一撃は、藤宮も対処できなかった。地についていた両足が浮き、後方へと吹き飛ばされる。飛んでくる藤宮の身体を唯が斬り捨てようとして、それよりも先に吹き飛ぶ藤宮の上を取っていたまりかが、そのまま地面へと叩き落とした。


「があっ!?」


「きゃあっ!?」


 地面に藤宮の身体が抉り込む。

 一方で、その余波で唯も吹き飛ばされていた。空中で回転し、地面を削りながら着地する。

 その耳に。


「んー、見てるだけってのも暇だし。そろそろ手を出すぞ」


 この状況にそぐわぬ、気の抜けた声。

 放たれた回し蹴りを、唯は最小限の跳躍で回避した。頬から滴る血を左手で拭いながら、刀身を襲撃者へと向ける。


「メイ……、ドゥース=キー!!」


「正直、この試合の相手なんて誰でも良いんだわ。俺が決勝にいければさ」


 なびく黒のローブを手で払いながらメイが構えた。


「そんなわけで、いっちょやろうぜ、“アサク――”」


 メイがセリフを言い終える前に、唯が飛びかかる。身体強化魔法によって威力と速度が底上げされた膝蹴りは、メイの左腕が防いだ。


「そこをどけ!! お前にかかずらっている暇などない!!」


「そんな冷たいこと言うなよ、“アサクサの剣士”さん」







 背中を中心として急激に全身へと広がった激痛の波。

 固い地面へと抉り込む自らの身体。


 そして。

 無慈悲にも空から降ってくる天道まりか。

 1秒にも満たない刹那の時間で、藤宮は決断を下した。


「『業火剣乱(ごうかけんらん)』」


 地面に埋まった藤宮の身体から、膨大な魔力が溢れ出す。

 それらは瞬く間に燃え盛る炎となり、炎は剣の形を成した。

 数えるのも億劫になるほどの剣の群れは、不規則な回転運動を以て射出される。


 その全てが、落下してくるまりかのもとへと殺到した。


「っ!?」


 眼前に迫るは、炎の奔流。傍から見ただけでは、もはや剣が何本あるかも分からないほどの凶器の群れ。

 それを。


「うっ、うわあああああああああああああああああああああ!!!!」


 咆哮1つ。

 手のひらで、腕で、膝で、脚で。

 目にも止まらぬスピードで、まりかが迎撃する。

 身体を捻り、急所を狙う連撃を回避する。


 一瞬であっても時間が稼げれば、それで十分。

 藤宮へと突っ込むはずだったまりかの身体が、その寸前で向きを変える。


 天属性の付加能力の1つ、浮遊。

 宙を蹴り、まりかの身体が上昇する。

 迫りくる炎の剣のうち、自らに害を成す軌道を描くものだけを的確に打ち落とし、まりかはその死地を回避した。


「……見事」


 敵でありながら、その反応速度と的確な対処には惜しみなき賞賛を。

 藤宮が汚れた剣道着を叩きながら立ち上がる。その周囲には、まりかに打ち落とされなかった炎の剣の残りが、藤宮を中心として円柱状に展開された。


『防ぎ切った!? 天道選手が防ぎ切りましたよっ!! カルティさん!!』


『凄まじい反応速度だね!! でも、藤宮選手も本気になってる!! これは面白くなってきたね!!』


 まりかが、宙に浮いたままその手を天へとかざす。


「『二天(にてん)』!!」


 咆哮と共にそれは発現された。

 予選Cグループ出場者を余すことなく蹂躙したそれが、再びエルトクリア大闘技場に顕現する。


 透明色によって描かれた幾何学模様。

 舞い落ちる雪と重なり、神秘的な雰囲気すら漂う魔法陣。

 しかし、その実態は。


 天属性の天蓋魔法。

 それが、2枚。


『来たー!! 天蓋魔法だー!! それを単身で複数枚!! そしてこの発現速度!! マークさんどうですか!?』


『T・メイカーもめちゃくちゃだったが、天道まりかも負けず劣らずの化け物だよな』


 呻くようにマークは答えた。


「相も変わらず反則的な発現スピードでござるな……」


「ボクの動きについてこれるお前が言うなっ!!」


 振り下ろされた腕。

 その動きに呼応して、透明色の弾幕が降り注ぐ。

 そのうちの一部が、藤宮ではない別のところへと向く。

 その場には。


「っ、惜しかったな」


 唯を退場せんとするメイの一撃は、まりかの天蓋魔法によって遮られた。体勢を崩し膝をついていた唯が、地面を蹴って後退する。メイは、飛来した天属性の魔法球を素手で叩き落としていた。

 その光景を視界の端で捉えていたまりかが舌打ちする。


「……面倒くさい。やっぱりあっちもあっちで相当なやり手だったか」


「余所見をしていて良いでござるか」


「っ」


 脊髄反射でまりかが首を逸らした。その僅か数mm単位傍を、藤宮の切っ先が奔り抜ける。まりかのくせっ毛が数本持っていかれた。


「お前っ」


「その程度で回避に成功したと思わぬことでござる」


 藤宮の周囲で展開されていた炎の剣が、不規則な回転をしながらまりかへと迫る。


「せやぁぁぁぁ!!!!」


 それを拳と蹴りでまりかは次々と破壊していく。

 藤宮は距離を空けるまりかを追わなかった。炎の剣を足場とし、別の方向へと跳躍する。

 その先には。


「『泡沫(うたかた)』」


 天属性の天蓋魔法。

 藤宮が振るった刀身が触れた瞬間、猛威を振るっていたそれが、音も無く消失する。


「吸収、闇属性かっ!?」


「気付いたところで、もう遅い……」


「『五天(ごてん)』!!」


 残り1枚へと照準を定め、藤宮が炎の剣を足場として再び跳躍したのとほぼ同時。

 まりかが新たなる天蓋魔法を発現させた。

 その数は4。


『ご、5枚!? 今大会最大数の天蓋魔法がいきなり発現んんんん!?』


『……これ、大会終わったら「魔法聖騎士団(ジャッジメント)」からスカウト来るんじゃないかな』


『「トランプ」から来てもおかしくねぇだろこれ。なんでこんな奴が学校通ってんだよ……』


 合計5枚の天蓋魔法が、宙を駆ける藤宮の周囲を囲うように展開される。


「むっ」


「これでっ!! 終わりだっ!!」


 藤宮を包囲する天蓋魔法。全方向から天属性の弾幕が一斉射出された。


「『業火剣乱(ごうかけんらん)』」


 周囲に展開されている炎の剣だけでは足りない。

 瞬時にそう判断した藤宮が、再び数え切れないほどの炎の剣を発現する。同時に射出された。襲いくる天属性の魔法球と接触し、次々と爆ぜていく。

 藤宮の口元に笑みが覗いた。藤宮は迎撃用と足場用とで器用にそれらを使い分け、最悪の包囲網をスルスルと掻い潜っていく。

 標的としていた天蓋魔法が目前へと迫り、藤宮が剣を構えた。


「『泡沫(うたかた)』」


 そこへ。

 天道まりかが乱入した。


「むっ!?」


 藤宮の剣は、既に動き出している。

 まりか自身の天蓋魔法による全方位からの弾幕、そして藤宮の『業火剣乱(ごうかけんらん)』。最悪の騒乱と化したその場所へ、まりかは躊躇いなく自らの身を投じた。

 放たれた切っ先を、まりかは素手で抑え込む。


「おぬしっ」


「ボクの装甲!! 吸収し切ってみせろ!!」


 まりかの手のひらから、鮮血が噴き出した。

 それは、藤宮の『泡沫(うたかた)』が、まりかの『天ノ羽衣』を吸収し切ってしまった証明。

 しかし。


「『(テン)羽衣(ハゴロモ)』、『天門(テンモン)(ミッツメ)』、『開門(カイモン)』!!」


 凶刃がまりかの手を両断するよりも早く、新たなる魔法が発現された。


「ボクの手はっ!! 魔法はっ!! そんなに安くないっ!!」


「むっ、むぅぅぅぅぅ!?」


 吸収を続ける藤宮の魔法。しかし、その刀身が握られたまりかの手のひらの中で危険な幅で振動を始める。

 それでもまりかは手を離さない。


「ボクを誰だと思ってるっ!!」


 2人の周囲では、藤宮の『業火剣乱(ごうかけんらん)』とまりかの天蓋魔法による弾幕が相殺を繰り返し、派手な衝撃音を次々と発生させていた。


「ボクは天道まりかだっ!!」


「う、うおおおおぉぉぉぉ!?」


 ついに。

 吸収量が限界を突破した。


 藤宮の手から、剣の柄が弾き飛ばされる。

 既に刀身は、粉々となって吹き飛ばされていた。


 血だらけになった左手に構わず、まりかは右拳を握りしめる。


 剣を弾き飛ばされたままの状態で、硬直状態に陥っている藤宮。

 その周囲で展開されていた『業火剣乱(ごうかけんらん)』が迎撃を止めてまりかへと殺到する。


 しかし。

 まりかの方が早い。




「天道の名を!! 舐めるなァァァァ!!!!」




 まりかの拳が。

 藤宮の腹部を貫いた。







「強いっ!!」


 迫るメイに牽制の一閃を浴びせ、唯が後退する。

 ちょうど空いた2人の間。

 そこへ、藤宮の身体が着弾した。


「おっ!?」


「これはっ、藤宮誠!?」


 向かい合っていた2人の身体が、僅かに硬直する。

 唯の思考が現状を即座に理解し、無意識のうちに宙で君臨する自らの主へと視線を向けた。


 当然、そこを狙われる。


「余所見しちゃ駄目だろ? 負けてーのか?」


「っ、『結結陽炎(ゆいむすびカゲロウ)』!!」


 唯は、強襲してきたメイの位置を不覚にも特定できなかった。

 だから、自動で敵を迎撃してくれる技を使う。

 背後を取っていたメイから繰り出された連撃その全てを、唯の刀身が弾き返した。


「おおっ!? やるもんだなお前さんも!!」


「舐めるな!! 『群青雷花(ぐんじょうライカ)』!!」


「うおおおおっ!?」


 直後。

 唯が発現した『結結陽炎(ゆいむすびカゲロウ)』の迎撃の際に接触した箇所、その全てが苗床となり、稲妻を纏った青白い花がメイの身体に咲き乱れた。







 天蓋魔法からの弾幕は止んでいる。標的だった藤宮が、宙から落下したからだ。まりかが顎で指示した方向へ、天蓋魔法の照準が変更される。

 新たなる照準も、当然の如く藤宮。


 実況解説は「まりかが藤宮を撃破したか!?」と騒ぎ立て、観客席も拍手喝采となっている。

 しかし、まりかは地面で大の字になって倒れる藤宮を見ても、警戒を解かなかった。藤宮の愛刀は既に粉々に砕け散り、復元は不可能。

 しかし、『業火剣乱(ごうかけんらん)』はまだ解かれていなかった。

 まりかを狙った全ての迎撃には成功したが、残りは再び倒れたままの藤宮の周囲へと展開されている。


 魔法を維持する余裕がまだあるのなら、最優先で潰すべき。

 唯なら、メイ相手にもう少し持ち堪えてくれるはず。


 そう決断したまりかが、その腕を振り下ろす。

 天蓋魔法が呼応する。

 無慈悲の弾幕、その全てが倒れる藤宮を狙う。

 これで終わらせる、とまりかは思った。

 しかし。







 再び地面に抉り込む形となった藤宮は、血の垂れる口元を歪めた。

 ぐしゃぐしゃに潰れてしまった笠を震える指で撫でながら、口にする。


「『業火剣乱(ごうかけんらん)』、『凶器乱舞(きょうきらんぶ)』」


 直後。

 再び、試合の流れは変わる。

次回の更新予定日は、5月8日(金)です。

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