第20話 その戦いの結末は。
※注意※
今回は2話同時投稿をしています。
☆
勝負は、一瞬だった。
マリーゴールドが動きを止めた直後、俺は“神の書き換え作業術”を発現。
転移した先は。
アリサ・フェミルナーの、真正面。
それは、この試合で見せてきた俺の戦闘スタイルからすれば、あり得ない選択肢。
俺が転移した直後、アリサ・フェミルナーは後ろを向いていた。俺の姿が視界から消える前から行動に移っていなければ、このような状態にはならない。
アリサ・フェミルナーは、俺が戦闘開始直後に『移動術』を使うと判断し、左右、頭上、背後、様々な選択肢から、もっともスタンダードな方角を迎撃対象として選んだのだろう。
おそらく、あの時の師匠の助言が無ければ、俺は背後へと転移していた。
裏の裏をかく。そんな感じで考えていたかもしれない。
皮膚が破れ、血が噴き出す手をかざす。
無防備な、アリサ・フェミルナーの背中へ。
感謝の念を込めて。
ここで摘むと言っておきながら、明らかな助言の類をくれた女性へ。
蒼い瞳が、ゆっくりとこちらへと向く。
だが、もう間に合わない。
これは、ただ対象を圧し潰すだけじゃない。
これは、姫百合可憐の空間掌握力から閃いた技法。
俺の膨大な魔力を周囲へとまき散らすことで、空間を強引に掌握。
対象の魔法発現すらも妨害する、最強の力技。
それを。
今の俺の。
今のMCの。
最大出力の魔力で。
「“不可視の弾圧”」
俺の解放した莫大なる魔力が。
文字通り、アリサ・フェミルナーを圧し潰した。
★
砂煙が晴れた先。
決戦フィールドの現状を見て、誰もが息を呑んだ。
度重なる天蓋魔法からの弾幕、出場選手の魔法や体術によって隆起したフィールドに、もはや平らな所など残っていない。それでも、その中央へ刻まれた新たなる超巨大クレーターに比べれば、周囲の被害など些細なものだった。
そのクレーターの中央には、伏したまま動かないアリサ・フェミルナー。
彼女の纏っていた雷属性の全身強化魔法『迅雷の型』が無ければ、その身体が原型を留めておくのは不可能だっただろう。そう思わせてしまうほどの破壊の痕が、そこにはあった。
呆けていた救護班が我に返り、慌てた様子でアリサの救出に動く。それをしり目に、フィールドの端へと避難していたマリーゴールドが、クレーターを生み出した張本人であるメイカーの元へと駆け寄る。
彼女は、頬を濡らしながらも迷わずに魔法を発現した。
治癒魔法。
マリーゴールドが泣きながら紡ぐ契約詠唱は、彼女の魔法となり力となってメイカーの腕を癒す。その光景を、エルトクリア大闘技場の誰もが黙って見届けていた。縋りつくようにして魔法を行使するマリーゴールドを見て、誰もが口を挟めなかった。
七属性の守護者杯委員会がアギルメスタ杯本戦のルールとして掲げた勝利条件は、満たしていない。それでも、エルトクリア大闘技場の誰もが決着はついたと判断した。
それは運営側も例外ではない。
試合終了のコールが鳴り響く。
静寂から、散発的な拍手へ。
散発的な拍手から、纏まった拍手へ。
アギルメスタ杯第一試合レッドグループは、これを以て終了した。
本戦2日目。
決勝進出は、T・メイカー。
3,4位決定戦進出は、マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ。
★
「さて、っと。それじゃあこっちも準備しますか~」
あくまでも軽いノリで。
天道まりかはゆっくりと席を立った。それに倣い、従者である浅草唯も立ち上がる。
決戦フィールドの中央付近に立つ2人を見て、まりかはその目を細めた。
「……相手にとって、不足はない」
まりかや唯が出場する第二試合の開始時刻は、18時。まだ12時も回っていない時刻ではあるが、暇を持て余すのはあくまで観客のみ。
これから運営側は荒れに荒れた決戦フィールドの修繕をしなければならないし、出場選手は自らの出番に向けてコンディションを整えておかなければならない。
席を立ってトイレに行く者、昼食を求めに行く者。
その場で弁当を広げる者、今の試合の議論を始める者。
賭けに勝った者、負けた者。
騒ぎ出す者、仮眠をとり始める者。
カメラ片手に本社へと連絡を入れる者、密談を始める者。
各々が好き勝手に行動を始め、エルトクリア大闘技場が喧騒に包まれる。
その中で。
迷いの無い足取りで、まりかと唯は選手控え室を目指す。
当事者たちからすれば、息を吐く暇もない。
アギルメスタ杯本戦第二試合。
ブルーグループが、始まる。
第4章 スペードからの挑戦状編〈中〉・完
※〈下〉は4月中旬~下旬頃からの公開予定です※