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第11話 グランダール52 ④




『さあ!! みなさまお待たせ致しました!! 魔法世界が誇るエルトクリア大闘技場!! 決戦フィールドその中央に集まるのは!! アギルメスタ杯予選を勝ち抜いてきた猛者たちだああああぁぁぁぁ!!!!』


 マリオが咆哮する。それに応えるかのように、観客席から怒号のような歓声が起こった。


『4日間にわたって執り行われてきたアギルメスタ杯予選!! 総勢400名!! その4つのグループから見事本戦出場の権利を勝ち取った精鋭!! カルティさん一言お願いします!!』


『うん。毎度盛り上がる「七属性の守護者杯」だけど、これだけの面子が揃う機会はそう無いと思うよ』


 カルティは集まった面々に1人ひとり目を向けながら言う。

 エルトクリア大闘技場決戦フィールド。直径約400mの中央に、本戦出場を決めた面々が横一列で並んでいた。


 Aグループより勝ち上がったアリサ・フェミルナーに藤宮誠、Bグループより勝ち上がった浅草唯、一人分のスペースを空けてCグループより勝ち上がった天道まりかと龍、そしてDグループより勝ち上がったマリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラとメイ・ドゥース=キー。その前に実況解説の2人組が立つ、という構図である。


『それでは!! アギルメスタ杯本戦の試合形式と組み合わせの発表!! と、いきたいところですが!! せっかくですので1人ひとりに意気込みと自分が注目する選手でも語ってもらいましょうかね!!』


『まあ、こういう場面で引っ張るのはお約束だよね~』


 2人の軽快なトークに笑いとヤジが飛ぶ。マリオはそれらに手を振って応えながらマイクを差し出した。


『さて、左から順番に行きましょうか!! 激戦のAグループを見事勝ち抜いたアリサ・フェミルナー選手です!!』


『Aグループは今回のアギルメスタ杯予選の中でも、一番展開が読めない試合だったね。優勝候補筆頭だった牙王選手に幻血属性「霧」を操るサメハ・ゲルンハーゲン選手、そして火属性と浮遊魔法を巧みに使い分ける奇術師Mr.M選手。その猛者たちを押し退けてここに立った感想なんかもあると嬉しいかな』


 マリオの言葉にカルティが続く。マリオは笑顔で頷きながらアリサを見た。


『では、アリサ選手!! お願いできますか!?』


『そうですね……』


 向けられたマイクを口元に近づけながらアリサは言う。


『この「七属性の守護者杯」に参加したのは初めてだったのですが……、想像していた以上にみなさんのレベルが高くてびっくりしました。正直、予選突破は余裕だと考えていましたので』


『そりゃそうでしょう!! 実況している私もびっくりしましたからね!!』


 オーバーリアクションを交えながら話すマリオに、一部の観客席から笑いが起こった。


『特にAグループは戦いの相手、戦況も二転三転していたからやりにくかったんじゃないかな?』


『その通りです。特に牙王選手との戦いでは何度もヒヤリとさせられました。最後は同じグループで戦った藤宮選手と共闘という形をとりましたが、本戦で当たった際には全力でぶつからせてもらいます』


 挑発的な眼光と笑みを向けられた藤宮だったが、本人は口元に笑みを浮かべるだけで目を閉じたまま開けようとはしなかった。アメリカ合衆国魔法戦闘部隊、それも隊長格からの宣戦布告にも拘わらず、一切の動揺を見せない日本の剣士に対し、アリサは心の中で賛辞を贈る。


『これは本戦の試合形式、組み合わせにも期待がかかるところだね』


『そうですね!! それでは本戦への意気込みと注目選手を教えて頂けますか!?』


『本国の名に恥じない戦いをお約束致します。注目しているのはT・メイカー選手ですね』


 アリサの言葉に会場が沸いた。「アリサちゃんこっち向いてー」とか「アリサ様一生ついていきます」とか聞こえてくる。


『なるほど!! ありがとうございま――』


『あぁ、それと……』


 マイクを下げようとするマリオの手を掴み、アリサは続ける。


『先ほど、身の程を弁えぬ発言をした輩……。彼の実力も気になるところですね』


 表情はにっこりとした笑顔だったが、声色はまったく笑っていなかった。冷淡なそれに、会場が静まり返る。標的にされた黒い魔法使いメイは、我関せずといった風情で直立したままだ。


『な、なるほど!! ありがとうございました!!』


 若干頬を引きつらせながらマリオが下がる。気を取り直して、その隣の青年へとマイクを向けた。


『それではアリサ選手と同じくAグループを突破しました藤宮選手です!! あの優勝候補の牙王選手を退けて本戦出場を決めた1人!! 一言お願いできますか!?』


 歓声と共に、牙王に賭けていた一部からヤジが飛ぶ。藤宮はさして気にした様子もなく、朗らかに口を開いた。


『そうでござるなぁ……。まあ、拙者は全力を尽くすだけでござる。注目選手は、……特に意識はしていないでござるな』


 日本語で答えられたそれをマリオが英語で通訳する。一部のヤジを感嘆の声が埋め尽くした。


『意識していない……、ですか。なかなか強気な発言とも取れるのですが!?』


『拙者は、与えられた役割を精一杯尽くすだけでござるよ』


『なるほど!! 至ってシンプルですが、その精神こそが重要ですよね!!』


『先ほど同じグループで勝ち上がったアリサ選手から宣戦布告のようなものが叩き付けられたわけだけど、それについて最後にコメントをもらえるかな?』


 マリオに続いてカルティがマイクを向ける。そこで、ようやく藤宮は片目だけをうっすらと開けた。


『闘技場で向かい合った以上、遠慮は不要でござる。その際は、受けて立つ。それだけでござるな』


『いい覚悟だね』


 藤宮の答えに満足したのか、カルティがにやりと笑う。


『ありがとうございました!!』


 マリオが通訳し、会場からは拍手が鳴り響く。カルティが次へとマイクを向けた。


『それではBグループを突破した選手に移ろうかな~。2人のうち1人しか来ていないけどね~』


 会場から拍手とブーイングが飛ぶ。


『エルトクリア魔法学習院より初参戦した院生だね。浅草選手!!』


 カルティからの紹介に応え、唯がぺこりとお辞儀をした。会場からは拍手と共に「がんばれー!!」「かわいー!!」といった声が聞こえてくる。


『今回はどうしてアギルメスタ杯に参加を? そもそもエルトクリア魔法学習院がよく許可を出したね?』


『申し訳ございませんが、参加理由についての質問は黙秘させて頂きます。しかし、この場に立った以上、歴代の英雄に恥じぬ戦いをすることをお約束致します』


 腰に差した剣の柄を軽く叩き、唯はもう一度、今度は深く頭を下げた。その姿勢に観客席からまばらな拍手が起こる。


『なるほど。それじゃあそれについての質問は控えようか。そういえば……、浅草選手が勝ち残ったBグループといえば、今この場にいないとある選手がやりたい放題に暴れまわった予選だったね』


 カルティのその言葉に、観客席から笑いが起った。


『専門家たちも首を傾げる謎の魔法を連発していたT・メイカー選手だったわけだけど、その中で勝ち残った感想なんかもらえると嬉しいな』


 マイクを向けられた唯の表情が、ほんの少しだけ歪められる。


『正直なところ、まだまだ未熟であるこの私が本戦へと進めたのは、あの男の気まぐれによるものが大きかったと考えています』


『ほう? それはまた随分と自分に厳しい考え方だね』


『事実ですから。だからこそ、この借りはぜひとも本戦で返したいと考えています』


『それじゃあ、やっぱり注目選手はT・メイカー選手?』


『そういうことになります』


 唯の答えに、拍手が鳴り響いた。


『浅草選手!! ありがとうございました!! それでは次に参りましょう!! あ、ちなみに浅草選手と天道選手の間に1人分の隙間があるのは、決して2人の仲が悪いせいじゃあないですからね!! 念のため!!』


 マリオのジョークに笑いとヤジが飛ぶ。


『えー、さて!! 勝手に2人の仲を邪推してしまったわけですが!! 今度はCグループのお二人に参りましょう!! まずはCグループ出場者を幻血属性「天」で恐怖のどん底に突き落とした張本人!! 天道まりか選手です!!』


『その紹介の仕方酷いよー』


 まりかの苦言に拍手と笑いが起こった。まりかの隣で龍が「事実だろ……」と呻くように呟いたが、幸いにしてマイクは拾わない。


『ちなみに一緒に本戦出場を決めた浅草選手とは知り合いなんですか?』


『もちろん。私たち「ずっ友」ですから!! ねー、唯?』


 マリオからの質問に、笑顔で答えるまりか。それを見ていたカルティが唯へとマイクを向ける。


『そんなこと言われているけど浅草選手一言もらえるかな』


『ずっと知り合いでいられるかどうかは、あちらの態度次第ですね』


『ええええぇぇぇぇ!? そりゃないよ唯ぃぃぃ!!』


『おーっと、天道選手いきなり振られたー!?』


 マリオの大げさな実況に観客席が沸く。


『さて。冗談はこれくらいにしておこうかね、マリオ君』


『そうですね!! 圧倒的な力を持つ天属性を操る天道選手ですが、実際のところCグループ予選はいかがでした?』


『浅草選手と同じく学生の身でありながら出場したわけだから、それなりの覚悟はあったんだよね?』


 マリオとカルティからの質問に、まりかが頷く。


『でも、そこまで深刻に考えていたわけじゃないかな。ただ、面白そうな奴がいるといいな、とは思ってたけど』


『これはまた豪胆な発言だね~』


 カルティが目を丸くした。


『で、その面白そうな奴はいました?』


『う~ん。それは本戦で実際に戦ってみないと分からないかな~』


 そう言いながらまりかの視線が横へずれる。ロックオンされた龍は鳴りもしない口笛を吹きながらそっぽを向いた。


『なるほどなるほど!! それでは本戦に向けた意気込みと注目選手をお願いします!!』


『出るからには負けるつもりはないよ。もちろん、誰にもね。注目選手はT・メイカー選手と藤宮誠選手かな』


 まりかの答えに観客席の一部からどよめきが起こる。マリオも眉を吊り上げていた。


『……藤宮選手ですか。ちょっと意外な名前が出ましたが、それはどういった理由で?』


『まあ、理由は色々とあるけど。唯とは違う剣の使い手がどんな動きをするのかなぁ、って。今は、そういうことにしといてもらおうかな』


 まりかの視線が藤宮へと向けられる。それは、先ほど龍に向けられた時とは比べものにならないほどの鋭さを帯びていた。当の本人である藤宮は、アリサの時と同じく動揺のひとつも見せずに目を閉じて沈黙を守っている。


『なるほど。ありがとうね~。それじゃあ次に移ろうかな。天道選手が大暴れしたCグループの中で唯一生き残れた龍選手~』


『嫌な紹介のされ方だなぁおい』


 そう言いながら、照れ隠しで頬を掻く龍。拍手に対して愛想笑いで手を振り返している。


『で、Cグループでの手ごたえとしては、実際のところどうだったわけ?』


『どうもなにも生きた気がしなかったね』


 その即答をマリオが英訳し、観客席から笑いが起こる。


『珍しい契約詠唱なんかも見せてくれたわけですが、そのあたりは!?』


 マリオの突っ込んだ質問に、龍は僅かに顔をしかめた。


『そのあたりは秘密ってことで。本戦前に、そんな手の内晒したくないからな』


『そりゃそうだろうね』


 龍からの拒絶に気分を害することなく、カルティは頷いた。


『ただ、天道選手の放つあの天属性の魔法から逃れ切った実力者ってことで、注目度がうなぎ上りだからねぇ』


『うへぇ……、俺よりも注目すべき選手は沢山いるだろうに……』


『それは否定しないね』


『そこは否定しとけよ!!』


 カルティのバッサリした答えに龍がつっこむ。軽快なトークに英訳を聞いた観客席のテンションも上がる。


『それじゃあ本戦に向けた意気込みと注目選手を教えてもらえるかな?』


『あー、本戦でもそれなりに頑張ります。ただ、俺に賭けるのはお勧めしません。それで負けて借金抱えても俺は一切責任取らないんでそこんところよろしく。注目してるのはT・メイカー選手ということで』


 軽く頭を下げた龍に、観客席から笑いと拍手が鳴り響いた。


『さて!! それでは最後のグループへと参りましょうか!!』


『スピード決着となったDグループを突破した2人だね』


 マリオとカルティがその2人の前へと移動する。と、見せかけてカルティに場所を譲ろうとしたマリオだったが、カルティの素早いひじうちによって、結局彼女の前へと立たされた。


『そ、それでは、ま、ままず、ままマリーゴールド様、一言、お願い……できますでしょうか?』


 実況としての誇りと覚悟故か、違和感がありながらも何とかその言葉を言い切った。先ほどDグループ終了後のインタビューでは本当に一言で「ころす」だったわけで、マリオが引き気味になってしまうのも致し方ないと言える。

 しかし、マリーゴールドの受け答えは、先ほどとは違うものだった。


『私、王子様に会いにきたのっ』


 キラキラとした笑顔でそんなことを言う。


『お、王子様?』


 おどろおどろしい回答を覚悟していただけに、拍子抜けしてしまったマリオが聞き返す。


『うんっ。私の王子様……、あぁ、なんで今日来てくれなかったのかしら……』


 頬を染めながら身体をくねらせるマリーゴールド。


『きょ、今日来てない王子様って』


 マリオが表情を引きつらせながらカルティへと助けを求める。カルティも苦笑いで頷いた。


『うーん。……消去法でメイカー選手だよね』


 観客席からもどよめきの声が漏れる。


『以前お会いしたことが?』


 マリオがマイクを再びマリーゴールドへと向ける。マリーゴールドは人差し指を口元へと持っていくジェスチャーをしながらウインクした。


『それは秘密っ』


 星まで出そうな勢いだった。Dグループ予選中とは大違いである。マリーゴールドの外見は、それこそ黙ってさえいれば完璧な美少女であっただけに、これでエルトクリア大闘技場に来ていた男の大半のハートが撃ち抜かれた。


『お、おぉう……』


 マリオも撃ち抜かれた1人だったらしい。自らの胸を抱えて蹲ってしまった。その尻をカルティが蹴飛ばす。


『あいたっ!?』


『馬鹿やってないで仕事しなさいよ』


『あの笑顔とウインクを至近距離からやられたら誰でもこうなりますって!!』


 まばらな拍手が起こるが、観客席にいる大半の男は頷くだけだった。


『それじゃあ、本戦への意気込みと注目選手を教えてもらえるかな?』


『目標は王子様と結婚することで注目選手も王子様ですっ!!』


 ……。


『……あ、ありがとうございましたー!!!!』


 沈黙に包まれた会場の中で、いち早く呪縛から解き放たれたマリオが強引にインタビューを打ち切った。


『それじゃあラストだね。Dグループで勝ち残った最後の1人、メイ選手だ』


 硬直から解けた観客から順に拍手を送る。黒い仮面に黒いローブを纏った魔法使いメイは、軽く手を振ってそれに応えた。


『マリーゴールド選手と並んで予選を突破したわけですが、Dグループ予選はどうでしたか!?』


 マリオがマイクを突き出す。


『なかなかに激しい戦いだったね。その中でも俺の英断は間違って無かったね』


 メイの言う英断とは、もちろんマリーゴールドとの直接対決を避けたことだ。その言葉にブーイングの嵐が起こった。


『はははっ、俺は褒められて伸びるタイプなんだぜ』


『誰も褒めてないですけど!?』


 朗らかに手を振るメイにマリオがつっこむ。ブーイングのボリュームがワンランク上がった。


『いきなり嫌われちゃったみたいだね~』


 これにはカルティも苦笑いを浮かべるしかない。ただ、メイはそこまで深刻に考えてはいないようだった。


『別にそこらへんは気にしないから』


『あ、そうなの?』 


『俺はただT・メイカーと戦いたいだけだったんで。それが見世物になるっていうなら、勝手に見たい奴が見ればいいさ』


『……これはまたエンターテイメントからかけ離れた発言をちょうだいしましたー』


 マリオのダウナー気味な発言に一部から笑いが起こる。


『さっきのインタビューでもそんなこと言ってたね』


『そりゃそうですよ。この大会の楽しみって言ったらそのくらいしかないん――』


『あー!! それじゃあ本戦に向けた意気込みなんか教えて貰えますかねー!? 注目選手がT・メイカーっていうのは十分伝わりましたんでー!!』


 本戦出場者同士の仲が再び険悪なものになる前に、マリオが大声で話題転換を図った。


『え? 意気込み? じゃあ、T・メイカー倒して優勝するのはこの俺で――』


『はーい!! ありがとうございましたー!! 以上本戦出場者8名但し1名欠席によるインタビューでしたー!! みなさま盛大な拍手をお願いしまーす!!』


『……最後まで言わせてくれよ』


 マリオのぞんざいな対応にメイは拗ねた声で呟いたが、それを遥かに上書きするほどの音量で、拍手がエルトクリア大闘技場を包み込んだ。







『さて、前座はこのくらいにしておきまして本題に入りましょうかね!!』


『マリオ君。確かに君が言った内容は事実だけど、それは口にしてはいけないことなんだよ』


 観客席から飛んでくる拍手やヤジを軽くあしらいながら、マリオは続ける。


『それでは!! いよいよアギルメスタ杯本戦の試合形式と組み合わせの発表に移りたいと思います!!』


 今日一番の拍手が決戦フィールドへと注がれた。地鳴りのような歓声に負けないよう、マリオが声を枯らして叫ぶ。


『エルトクリア王家代理!! クィーン・ガルルガ様お願い致します!!』


 その言葉をマリオが言い切った瞬間。

 エルトクリア大闘技場内が、嘘のように静まり返る。


 入退場口から、真紅のドレスを身に纏った妙齢の女性が姿を現した。その後ろには、銀の甲冑で身を包んだ魔法聖騎士団(ジャッジメント)2人が付き従い、そのうちの1人は、銀の立方体を載せたカートを押して入場してくる。その箱は金の装飾が贅沢に施されており、その面の中央にはアギルメスタの紋章である鷹と業火が輝いていた。


 歩み寄るクィーンに一礼し、マリオとカルティが場所を譲る。クィーンは整列する7人の本戦出場者を前にして立ち止まり、ニヤリと口角を吊り上げた。


「よくぞ激戦の予選を勝ち抜きここまで来た。ただし、油断するでないぞ? そなたらの本当の力量が試されるのは、ここからなのじゃからな」


 そこまで言ってから、クィーンはマイクのスイッチをオンにした。


『それでは、用意させた箱から1人1つずつ、ボールをひいてもらおうかの』


 クィーンが指を鳴らすと、カートを押していた魔法聖騎士団(ジャッジメント)がそれをアリサの前へと移動させる。箱には拳サイズの穴が開いていた。

 目の前に用意されたそれに、アリサはクィーンへと視線を向けて眉を吊り上げる。


『そう身構えんでもそれにトラップは無い。アギルメスタ様の名を冠するこの大会に、そんな小細工は不要じゃからな』


 挑発的な視線とセリフで返されたアリサは、軽く鼻を鳴らしてから手を突っ込んだ。

 箱から顔を出したのは。


「……赤いボール?」


『では、さくさく行こうかの』


 アリサの疑問に答えることなく、クィーンはそう言う。カートを押す魔法聖騎士団(ジャッジメント)が、藤宮の前へと移動する。

 藤宮は青のボールをひき当てた。


 先ほどインタビューを受けた順番に、次々とボールをひいていく。最後にメイがボールをひいて、箱の中に1つのボールを残して終了した。カートを押していた魔法聖騎士団(ジャッジメント)がクィーンの後ろへと下がる。

 それを確認し、状況を静観していたクィーンが再びマイクのスイッチを入れた。


『本戦の出場を決めた諸君。ボールを前へ掲げてもらえるかの』


 その言葉に応じ、各々手にしたボールを前へと突き出す。数は違えど、掲げられたボールは2種類の色しかなかった。


『明日に執り行われる本戦の組み合わせが決定した』


 クィーンのその言葉に会場が騒めく。クィーンは後ろ手で箱に残った最後のボールを掴みとり、それを空へと掲げて宣言した。


『見よ!! 箱に残されたボールの色はレッド!! これをT・メイカーのものとする!! 本戦1日目の試合形式は至ってシンプルじゃ!! レッドとブルー!! 2つに分けられたグループ!! それぞれのグループ4人で2つの席を争ってもらう!! 1位には本戦2日目に執り行う決勝戦出場のチケットを!! 2位には3,4位決定戦のチケットをくれてやろう!!』


 会場の騒めきが一層大きくなる。クィーンはそれに構わず続けた。


『2日目のコンディションなど気にしてくれるなよ? 勝ち残ったそなたらは皆理解しているはずじゃ!! ここにおるそなたら1人ひとりが、手を抜いて勝てる相手ではないということがな!! 見事最後まで生き残り!! 決勝へのチケットを勝ち取ってみせるがいい!!』


 両手を広げ、クィーンがそう締めくくる。


 直後。

 エルトクリア大闘技場の熱気が頂点へと達した。







 アギルメスタ杯本戦1日目に執り行われる2グループ4名によるバトルロイヤル。

 その組み合わせが決定した。


【第一試合レッドグループ】

 アリサ・フェミルナー

 T・メイカー

 龍

 マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ


【第二試合ブルーグループ】

 藤宮誠

 浅草唯

 天道まりか

 メイ・ドゥース=キー


 各グループから勝ち残れるのは2名。

 最後まで立っていた者が決勝進出。

 決勝に進む者を除き、最後まで脱落しなかった者が3,4位決定戦進出。


 もともと、アギルメスタ杯にフェア精神は無い。

 予選各グループを1日ごとに消化するアギルメスタ杯は、そもそも本戦へと駒を進めた時点で既に差が生じている。Aグループの予選を通過した選手は、他の予選が行われている3日間は休養期間となるが、Dグループの予選を通過した選手は、次の日がもう本戦となるのだ。そしてその本戦を勝ち上がればその次の日が決勝もしくは3,4位決定戦となる。


 但し。

 運も実力のうち、とはよく言うが、アギルメスタはそのようなことを諭したいわけではない。




 どのような劣悪な条件下であったとしても、その全てを力で屈服させてみせよ。




 予選から勝ち上がった8名の選手。

 彼らの真価が試されるのは、まさにここからである。

次回更新日は、1月24日(土)です。


まりか「次回のお話じゃまだ本戦突入しないからね!!念のため!!」

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