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第10話 グランダール52 ③

謎の男「信じられるか? 23時30分を回った段階で、まだこの話完成してなかったんだぜ……」




「離して」


「おっと」


 抑えられた短剣を強引に振り払おうとするマリーゴールド。黒い仮面に黒いローブを身に着けた魔法使いはすぐに手を離した。更に数歩距離をおいてから動きを止める。


「なんで邪魔をするの?」


「俺はあんたを救ってやったんだぜ。失格になりたいのか?」


 視線をのたうち回る出場者へと向けながら黒い魔法使いは言う。好機と思ったのか、すぐさま治療班が駆けつけ、暴れる出場者を抱えて離脱した。


「無用な殺生は避けるべきだと俺は思うんだが」


「悪いのはあちらだもの」


 口元から垂れた血を拭いながらマリーゴールドは答える。


「最初に倒れた出場者もか? あいつはまだあんたに何もしていなかっただろう」


 最初に倒れて身動き1つしなくなった出場者も、既に決戦フィールドにはいない。治療班によって離脱させられ、今頃は医務室で治療を受けていることだろう。


「別に。殺してないんだからいいでしょう? 致死性は無いし」


「……やはり毒だったか」


「そうよ?」


 マリーゴールドは、自らの手の内を隠さなかった。


「私が持つ幻血属性は『毒』。そして私が今、身に纏っているのは『劇薬の衣装(パープル・ドレス)』。全身強化魔法じゃないから、防御力は上がってないの。貴方なら一撃で私を倒せるかもね」


 こてん、と首を傾げながらマリーゴールドは言う。


「やってみる?」


「いや、遠慮しておこう」


 黒い魔法使いはそれを辞退した。


「女性に手をあげる趣味は俺には無いからな」


「そう。でも残念ね」


 マリーゴールドは、その顔から一切の表情を失くして言う。


「私には、貴方を襲う理由がある。邪魔をした報いは受けてもらうわ」


 突如、黒い魔法使いの足元から紫色の槍の群れが発現され、360度から一斉に貫いた。


「あら?」


 かに見えたが。


「あっぶねー。何だよ今の不意打ち。喰らったら死んでたんじゃね」


 うまく回避した黒い魔法使いが冷や汗を拭う。


「避けたのね。凄いわ」


 マリーゴールドが両手を軽く振った。手のひらから禍々しい紫色をした何かが噴き出す。


「『毒茨の鞭(パープル・ウィップ)』」


「……やる気満々じゃねーかよおい」


 少女の両手から生えたそれは、ゆうに数十メートルはあった。


「私と勝負をしましょう?」


 マリーゴールドは周囲へと視線を巡らせながら笑った。


「そろそろね」


「何がだ」


 黒い魔法使いがそう尋ねた直後、


「うぐっ!?」


「がっ!?」


「あがっ!?」


 周囲で戦いを始めていた出場者たちが次々と悲鳴を上げて倒れ始めた。その光景を見た出場者たちがまたパニックになる。


「こいつぁ……」


 周囲の悲鳴や怒声を聞きながら、黒い魔法使いはその惨状へと目を走らせる。


「最初にばら撒いた毒が猛威を振るい始めたの。みんな馬鹿みたいに巻き上げるんだもの。そんなに死にたいのかしら。致死性、もうちょっと上げてもよかったかな」


「おい――、うお!?」


 咄嗟に後退する。それが正解だった。反論しようとした黒い魔法使いの目と鼻の先を、『毒茨の鞭(パープル・ウィップ)』が奔り抜ける。標的を見失ったそれは、しなるようにして一番近くにいた出場者の背中を捉えた。絶叫を上げて地面へと転がる。不意打ちで喰らってしまった出場者の背中からは、紫色の煙が吹き出していた。魔法服は溶かされ、覗いた背中はひどく爛れている。


「えーっと?」


「あれ、早く回収しないと死ぬかも。最初に散布したやつとは比べ物にならないくらいの劇薬だし」


「治療班さーん!! あそこの人早く回収してー!!」


「貴方も、他の人に気を配る余裕があるなんて素敵ね」


「あっぶな!? お前!! そんな危ないモンを俺に振んなよ!!」


「これは勝負だって言ったでしょう?」


 黒い魔法使いからの抗議を素知らぬ顔でやり過ごし、マリーゴールドは言う。


「貴方が死ねば私の勝ち。貴方が私を殺せば貴方の勝ち」


「これさあ生き死に賭けた決闘じゃないんだけど!?」


「もちろん、私たちの決着がつく前に他の有象無象が死に絶えて予選が終了しても貴方の勝ちよ」


「表現酷くね!?」


 黒い魔法使いは思わずつっこんだ。マリーゴールドの顔に影が宿る。


「貴方は私の邪魔をした。だから代わりに死んでちょうだいね」


 直後。

 少女の両の手から生える2本の鞭は縦横無尽に荒れ狂い、決戦フィールドを蹂躙し始めた。







「おー、やってるやってる」


 まりかは両手で望遠鏡の真似事をしながら決戦フィールドを見渡した。

 ここはエルトクリア大闘技場の10階席。Dグループ試合終了後に本戦出場者のイベントが控えている今日、選手控室にてモニター観戦をすることもできたが、まりかの鶴の一声によってわざわざ観客席までやってきたのだった。


「……相変わらずの熱気ですね」


 ややその圧力に辟易しながら、唯は言う。


「お祭りなんだから当たり前でしょー!!」


 周囲の歓声に負けないくらいの音量でまりかが叫ぶ。反対にこういったお祭り事が大好きなまりかは嬉しそうだ。趣味が合わない以上理解し合えないと分かっている唯は、反論することなく決戦フィールドへと目を向ける。そして顔をしかめた。


「あの方はできれば本戦には進んで欲しくないのですが……、無理でしょうね」


「なぁに!? ガルガンテッラのことー!?」


「そうですよ!!」


 自分の独り言が主に届くとは思ってなかったのか、それを耳聡く拾ってきたまりかに唯が叫び返す。


「ただでさえ面倒くさい輩ばかりが集うというのに!! これ以上はごめんです!!」


「はっはっはー!! 確かにイロモノばかり揃ってるよねー!!」


 朗らかに笑う主に「あんたも十分そのイロモノ枠だよ」と従者はつっこまなかった。自分もそれなりに特殊な立場にいると自覚しているからだ。


 “アメリカ合衆国魔法戦闘部隊『断罪者(エクスキューショナー)』3番隊隊長”アリサ・フェミルナー。

 “日本五大名家『五光』の従者”藤宮誠。

 “世界最強の魔法使い率いる『黄金色の旋律』”T・メイカー。

 “浅草流剣術の使い手”浅草唯。

 “天道家現当主”天道まりか。

 “契約詠唱の使い手”龍。


 今回のアギルメスタ杯の本戦がどのような形式をとるのかは分からないが、一筋縄でいかないのはまず間違いない。そこへ更に“『七属性の守護者』ガルガンテッラの末裔”まで加われば、近年稀にみるどころか『七属性の守護者杯』開催以来の大混戦となるであろう。

 ほぼ確定された最悪の未来に、唯は哀愁の漂うため息を漏らした。







「こりゃ、長期戦はまずいな。何人死ぬか分かったもんじゃねー」


 黒い魔法使いは呻くように呟く。その間にも自らの身体スレスレのところを劇薬を携えた鞭が通り過ぎた。

 この鞭が厄介なのは、触れただけで猛毒に侵されることだけではない。なんと伸縮自在なのだ。それも決戦フィールド全域をカバーできる程度にはマリーゴールドの力量はあるらしく、おかげで生き残っているDグループの出場者ほぼ全員が回避に回らざるを得なくなっている。

 そうこうしている間にも、また1人、また1人と出場者は絶叫を上げて倒れていく。


「うふふ、ふふ、ふふふ。そうよ。みんな死に絶えちゃえばいいんだわ。そうして私と王子様は2人で幸せに暮らすの。ふふ、ふふふ」


 マリーゴールドは見た者の背筋を凍らせるような表情でそんなことを言う。


「……ありゃ駄目だ。もう救いようがねーな」


 その言葉をきちんと聞き取っていた黒い魔法使いは、頭を振ってから周囲へと目を走らせた。

 大半がマリーゴールドの毒牙に掛かり、もう半分を切っている。治療班は致死性の高い魔法の前に成す術無く、救出活動も進んでいないようだった。このままでは、大量の死人が出ることは想像に難くない。


「……仕方ないか」


 黒い魔法使いは覚悟を決めた。


 標的は。

 触れただけで猛毒に侵されてしまう『劇薬の衣装(パープル・ドレス)』を纏った少女。


 ではなく。


「うおっしゃあああああああ!! お前ら悪く思うなよおおおお!!!!」


 周囲で回避に徹しているその他の出場者たち。


「はっ!? おま、がふっ!?」


「ちょ、こっち来んなぶっ!?」


「や、やめ、へぶしっ!?」


 無属性の身体強化魔法を自らの腕と脚に発現した黒い魔法使いが、マリーゴールドの振るう鞭を回避しながら周囲の出場者たちを次々と沈めていく。

 その光景を見て一番驚いたのはマリーゴールドだ。


「え? ちょっと、貴方、まさか……」


「そう! そのまさかさ!!」


 屈み込んで頭上を通り過ぎる鞭を見届けた黒い魔法使いが、手頃な場所で悲鳴を上げていた出場者をまた1人沈ませる。


「俺はお前とは戦わない!! だって面倒臭いからな!!」


 どーん、と効果音が付きそうな勢いでそう言い放った。


『え、え、ええええぇぇぇぇ……』


 これには言い放たれたマリーゴールドよりも、実況のマリオの方が落ち込んだ。


『カルティさん、これはどう思いますか?』


『どうもなにも……。生死を賭けた魔法使いとしては賢明な判断だろうけど、選手の決断としてはエンターテイメント性に欠けるよね』


 カルティが律儀にそう返答する。


「ふははははは!! エンターテイメントとか知るか!! そんなのはT・メイカーやテンドーなんかに任せていればいいのさ!!」


 高笑いをする黒い魔法使い。最低な人任せ宣言をしながら、回避一辺倒で身動きの取れない出場者たちを次々に沈ませていく。


「ほんとう……、癪に障るヒトね。貴方」


 ゆらり、と。

 マリーゴールドの上半身が揺れる。


 先ほど殺し損ねた紫色の槍の群れが、再び黒い魔法使いへと殺到する。突如地面から湧き出たそれらを、黒い魔法使いは動揺することなく回避していく。


「ははは!! 同じ技が二度目も通じるとでも思ったのかね!? この俺に!!」


「……めんどうくさい」


 若干の苛立ちを織り交ぜながら、マリーゴールドが吐き捨てるように言う。その両手を地面へと叩き付けた。


「死んじゃえっ!!」


 猛威を振るっていた『毒茨の鞭(パープル・ウィップ)』が霧散する。しかし、その訪れた平穏は僅か一瞬だった。


 直後。

 決戦フィールド全域から、紫をした棘が出場者たちを貫いたのだ。先ほど黒い魔法使いを襲った時のような、槍ではない。人の髪の毛程度の細さのそれらが、出場者たちの足元から一斉に顔を出した。


 決戦フィールドに立っていた出場者、伏した出場者たちを余すことなく貫いた棘。

 それは10cmにも満たない短い棘。

 しかし、当然その棘にも、猛毒。


「……まさか、逃げられるなんて」


 攻撃の発信源である少女は、呆然と呟く。

 その視線は空にあった。


「発現前の魔力の兆候を読み取れば、回避は造作もねぇ。もっとも、すげー魔法であることには変わりね-んだけどな。決戦フィールド全域とか有効範囲広すぎだ」


 跳躍と浮遊魔法で辛くもその魔法攻撃から逃れていた黒い魔法使いは言う。マリーゴールドはその姿を殺意の篭った瞳で睨み付けた。


「早く降りて来なさい。めいいっぱい苦しめて殺してあげるから」


「それを聞いて降りる奴の気が知れんよ。それにお前、馬鹿だろ」


「……なんですって」


「この勝負、俺の勝ちだぜ」


『Dグループ!! 試合終了ぉぉぉぉ!!』


 マリーゴールドの問いは、マリオによって遮られた。


『何というスピード決着!! 勝ち残ったのは“ガルガンテッラの末裔”マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ様と、“謎の黒仮面の魔法使い”メイ・ドゥース=キー選手だー!!』


 そのアナウンスに意表を突かれたせいで、マリーゴールドが発現していた魔法の全てが消える。カルティはマイクに喰らい付くようにして叫んだ。


『治療班のみんな、急いで急いで!!』


 カルティの言葉で我に返った治療班たちが、慌ただしく決戦フィールドへと雪崩れ込んでくる。


『見たところ毒のようだけど、ここの治療班の腕はピカイチだからね。中には腕が吹っ飛んじゃった出場者の命を救った人もいるくらいなんだから。みんな助かるよ~』


『まあ、その人の腕は戻って来ませんでしたけどね!!』


『マリオ君、バケツ持って廊下に立ってなさい』


 人によっては気休めとも取れるやりとりだが、人によってはそれで安心できる場合もある。殺伐としかけていた観客席の空気も、それによって一気に弛緩した。


 その中で。

 マリーゴールドは呆然と決戦フィールドの中央で突っ立っていた。決戦フィールドに脅威が無いことを確信して、黒い魔法使いはゆっくりと降下し着地する。


「あんな決戦フィールド全域を対象にした不意打ち魔法を使ったら、そりゃあこうなるだろうよ。この大会に参加してくる魔法使いたちは確かにそれなりの使い手だが、あくまでそれなりだ。そんな高レベルな攻防を期待しちゃいかんよ」


 黒い魔法使いからの指摘にマリーゴールドは応えない。顔を俯かせ垂れる髪で表情は分からない。


「あん?」


 それでも、何か小声でぶつぶつと呟いているようだったので、黒い魔法使いはこっそりと耳を近付けてみた。

 すると。


「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないぜったいにゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないぜったいにぜったいにぜったいにゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないころすころすゆるさないゆるさないゆるさないころすゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないころすころすころす」


「……」


 黒い魔法使いは、静かにその場を離れた。


『さあ!! みなさんお待ちかねのヒーローインタビューのお時間ですよ!!』


『正直、待つ暇もなく終わっちゃった感じもあるけどね~』


 実況解説の2人組がやってくる。


『カルティさん!! どちらから参りましょうか!!』


『やっぱりDグループで一番存在感の大きかったマリーゴールド様からじゃないかな~』


『ですよね!!』


 マリオは輝く笑顔でマイクを突き出した。


『それではまずマリーゴールド様!! 一言お願いできますか!?』


 ぼそぼそと呟かれたそれは、残念ながらマリオが突き出したマイクの位置では拾うことができなかった。


『す、すみません。もう一度お願いできますか?』


 マリオは謝罪しながらマイクを更に突き出す。マリーゴールドの口元まで持っていったところで、それは拾われた。


『ころす』


『えっ?』


『ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすゆるさないぜったいにころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす』


『一言お願いできますか!?』


『あ、そこで俺に来るの?』


 マリオが涙目でマイクをスライドさせた先にいたのは黒い魔法使いだった。


『いやぁ、なんつーか。無事に突破できて良かったです』


 そして律儀に答える黒い魔法使い。黒いローブですっぽりと覆われた頭を掻きながら言う。


『この大会にはどうして参加を?』


 マリーゴールドを完全スルーで進んでくれた黒い魔法使いに便乗し、マリオの矛先は完全に黒い魔法使いへと移った。


『えーと、この大会に気になる奴というか、戦ってみたい奴が参加してんの知ったんで』


『ほうほう。それはどこのどなたで? 当然、本戦には勝ち上がった選手なんですよね?』


『もちろん。T・メイカー選手っす』


 その答えに会場が沸く。カルティも、「やっぱり彼には注目しちゃうよね~」とうんうん頷いていた。


『なるほど。それでは本戦でもメイカー選手1人に標的を絞って、という感じで』


『もちろん。つーか、それ以外に気を付けなきゃいけない奴なんていないんで』


 その言葉に、会場が静まり返った。

 ……近くでなおも呪いの言葉を呟き続ける1人を除いて。

 

『え、えーと。な、なかなか大胆な発言が飛び出しましたね、カルティさん』


『本戦に勝ちあがってる面子を踏まえた上で出た発言なんだよね、それ』


『当たり前でしょ』


『う~ん。この後、本戦出場の選手にフィールド入りしてもらって、それから対戦形式を発表するんだけど……。一緒に入れて平気かなぁ~』


 カルティが苦笑いを零す。


『別に平気じゃね。試合以外で手を出してくる馬鹿なんていないでしょ。それに、出してきたところで返り討ちだし』


「……なら、返り討ちにしてみなさいよ」


『へ?』


 そのマイクに入らない呟きに、マリオが呆けた声を上げる。

 そして、その声が誰の耳に届くよりも先にマリーゴールドが動いていた。

 薄い紫の軌跡を描きながら、マリーゴールドが黒い魔法使いへと肉薄する。


 黒い仮面の奥から覗く瞳が、軽く見開かれた。

 マリーゴールドの手のひらが、手刀の形を形成する。

 黒い魔法使いの傍に立っていたカルティが、自らのMCへと手を伸ばした。


 マリーゴールドが、最後の一歩を踏み出す。

 手刀は、カルティが展開しようとする障壁魔法よりも早く黒い魔法使いを襲った。


 伸ばされた袖。

 上げられた肩口。

 踏み込んだ脚。


 計三ヶ所のローブを、無色透明な矢が貫く。




 手刀が黒い魔法使いを貫く前に、マリーゴールドの動きが止まった。




 それは、僅か5秒にも満たない間に行われた出来事。


「駄目だよ。いくら力が全てのアギルメスタ杯とはいえ、試合以外で相手を制圧しようとしちゃあ」


 決戦フィールドに、2人の少女が足を踏み入れる。


「……まりかね。余計な真似を」


「およ? ボクのこと憶えていてくれたんだ。ちょっと意外かも」


 応えた少女が指を鳴らすと、マリーゴールドの動きを封じていた天属性の魔法が解除された。


 先を進むのは天道まりか。

 手をマリーゴールドへとかざし、悠々と決戦フィールド中央に集まる4人のもとへと歩み寄る。


 その後ろに付き従うのは浅草唯。

 既に剣は抜刀され、一切の隙を見せることなくマリーゴールドを見据えている。


「なんで貴方がここにいるの」


「なんで、って。この後は本戦出場を決めた選手みんなでレクリエーションだよ?」


 まりかは後ろ手に自分たちが入ってきた出入り口を指で差す。そこには、これまでに出場を決めた選手たちが控えていた。

 そちらへ視線を向けたマリーゴールドの顔が、一瞬にして輝く。


「そ、それじゃあ私の王子様は来てるのかしらっ!?」


「え? 王子様?」


 呆気に取られているまりかには見向きもせず、マリーゴールドは微塵の影すらも感じさせないほどキラキラした笑顔で駆け出して出入り口へと行ってしまった。


「申し訳ございません。無許可でしたが、緊急事態と考え割り込ませて頂きました」


 唯が納刀しながらマリオとカルティへと頭を下げる。


『いや』


 カルティはそれだけ言ってからマイクの電源を落とした。


「助かったよ。僕の障壁魔法じゃ間に合ってなかっただろうからさ」


「ご謙遜を。それをすぐに察して身体強化魔法に切り替えておいででしたでしょう」


「ふむ。君もなかなかやるね。とても学生とは思えないよ」


 カルティはウインクを飛ばしてからマイクの電源を入れた。


『それじゃあ本戦へと出場を決めた選手全員に入場してもらおうかな!?』


 微妙な雰囲気になっていた会場が、その言葉で少しずつ持ち直し始める。小さな歓声が歓声を呼び、それは瞬く間に連鎖して大歓声となった。


『おい。俺は今、試合じゃない場面で襲われかけたんだが、それについて何か言及はないのか?』


 黒い魔法使いが言う。


『うん? 何の話をしてるのかな。分かる? マリオ君』


『さて、さっぱり。ちょうどヒーローインタビューが終わったところですがそれがなにか?』


『お前ら権力に弱すぎんだろ!!』


 黒い魔法使いの的確なつっこみも、ただのオチへと成り下がる。会場中が笑いに包まれた。







 アギルメスタ杯の4日間にわたる予選が終了した。


 Aグループからは、アリサ・フェミルナーと藤宮誠。

 Bグループからは、T・メイカーと浅草唯。

 Cグループからは、天道まりかと龍。

 Dグループからは、マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラとメイ・ドゥース=キー。


 これより。

 2日間にわたって行われるアギルメスタ杯本戦の試合形式と組み合わせが発表される。

次回更新日は1月17日(土)です。

ストック溜めてゆとりある「なろう生活」が送りたい今日この頃です。

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