【2015年のおとしだまss】JARAJARA
明けましておめでとうございます!!
今年もわたくしSoLaと『テレポーター』をどうぞよろしくお願いします!!
年末年始連続投稿第二弾!!
青藍市にある青藍山という山のてっぺんには、青藍神社という神社がある。
片道山の麓から徒歩で1時間半(車は不可)をかけなければ辿り着けない最悪の立地条件にあるそこは、ただの初詣目的ならば電車に揺られて隣町の神社に向かったほうが断然に早い。それでも、大繁盛とまではいかないながら毎年それなりの参拝客が訪れていた。
なぜなら、青藍神社にしかない特別なあるモノがあるからだ。
「今年は青藍神社にお参りに行きましょう!!」
青藍魔法学園の生徒会館会議室にて。
書記の肩書を持つ少女、御堂紫は突然こんなことを言い出した。年末、それも31日の大晦日であるにも拘わらず、書類の山に埋もれ仏頂面でパソコンに向かっていた副会長・蔵屋敷鈴音が、ゆっくりと顔を上げた。
「新年のお参りに行くのは結構ですが、生徒会はいつも隣町の神社で済ませていますわ」
お参り前にまずは登山な青藍神社は、あまり人気が無いのだ。
「そこを曲げて!! ほら、やっぱり私たちは青藍魔法学園の生徒であるわけですし!! やっぱり青藍の名を冠する神社に行かないと!! ね!! 沙耶ちゃんと愛ちゃんもそう思うでしょ!?」
「えっ!? え、ええっと、あ、あの、私、体力自信無いので……、えぇと、その」
急に話を振られておろおろする花宮愛の横。積み上げられた資料と格闘していた片桐沙耶は、ため息と共に口を開いた。
「要するに、紫さんは青藍神社のおみくじがひきたい、ということですね?」
「あははー、ばれた?」
「それ以外の理由であの神社を選ぶとは思えませんので」
そう。
最悪の立地条件を誇る青藍神社が初詣参拝者ゼロを記録しない理由。
それは。
100パーセントは言い過ぎというか盛りすぎだけどそれでも結構いやむしろ当たらないほうが少ないくらいに考えても構わないくらいかなり当たるかもしれないおみくじがあるがゆえである。
「会長が転校しちゃって不在となった今!! 生徒会がこの先どのように突き進んでいくべきかを占う大切な儀式よ!!」
「ぎ、……儀式」
ごくり、と愛のみが喉を鳴らす。
鈴音は白けた表情でパソコンへと視線を戻しながら口を開いた。
「あそこの山道は舗装されていませんわ。振袖姿で登るわけにはまいりませんので、普段着、できれば登山用の重装備で集合という形となりますが」
年始に登山用の重装備で集合し、初詣に向かう。
初日の出を見に行くならともかく、そういう目的ではない。
華やかさの欠片もないシュールなワンシーンである。
「大丈夫!! だってどうせ男の子なんて誘わないから!!」
「お兄さんはよろしいのですか?」
「沙耶ちゃん? 言ったはずよ? 生徒会がこの先どのように突き進んでいくべきか占う大切な儀式だって」
にっこりと笑って拒絶の意を示す紫。
「……あの人も生徒会に入る意欲を見せ始めているように思えますが」
「少なくとも今は違う。オーケー?」
「……はぁ。まあ、貴方が良いというなら構いませんが」
「なら決定ね!!」
こうして。
紫の半ば力押しの決断で、生徒会が初詣をする神社が決定した。
★
翌日。
午前9時。
青藍山の麓、立派な鳥居があるにも拘わらず潜ってから神社まで徒歩1時間半の場所に、生徒会の面々が揃っていた。発起人の御堂紫に加え、蔵屋敷鈴音、片桐沙耶、そして花宮愛の計4人である。他、本来ならばあと1人会計の3年がいるのだが、年末にまさかのインフルエンザが発症し、高熱で寝込んでいる。会長籍も空席の今、これで生徒会役員は全員集合ということになる。
一応言うまでもないことだとは思うが、みな振袖姿ではない。
「みんな!! 明けましておめでとうございます!! 今年もよろしくね!!」
元気なのはもちろんこの人、御堂紫。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致しますわ」
いつも通りクールな蔵屋敷鈴音。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。……新年早々何やっているのでしょうね。私たちは……」
若干笑みに強張りが覗く片桐沙耶。
「明けましておめでとうございまちゅ!! ……あ」
なんだかんだで断れなかった花宮愛。そして噛んで勝手に赤くなっていた。
そんな個性的な面々が。
「あ、途中から舗装された道ではなくなりますからね。足元には十分注意するのですよ」
そんな鈴音の号令のもと。
「はーいっ!!」
紫の元気の良い声を合図に、青藍山の山頂を目指す!!
★
当然、登山中に予期せぬ事態など起こるはずもなく、途中で「ひぃひぃ」言いながら涙目になる愛の歩調に合わせ、生徒会の面々は予定通り2時間半かけて山頂へと到着した。
つまりは午前11時半である。
「やはり空気が澄んでいて気持ちが良いですわね」
澄ました表情で鈴音は言う。
「……結構、しんどかったわね。でもアタック成功よ!!」
ハンカチで汗を拭いつつ、紫が歓喜の声をあげた。
「神社でお参りに来たときのセリフではない気もしますが……、あぁ、花宮さん大丈夫ですか?」
「はぁー、はぁー、ふぅー、ふぅー、な、……なにか、はぁー、いいま、はぁー、した、か?」
「……いえ、大丈夫ではないということはよく分かりました。む?」
愛へと向けていた視線を前に戻す沙耶。
その人物は、ほどなくして一同のもとへとやってきた。
「明けましておめでとうございます!! 青藍神社へようこそ!!」
箒片手に歓迎のポーズを決めたのは、白と赤の絶妙なるコントラストで着飾る黒髪の女性。
いわゆる巫女である。
それぞれが挨拶をかわすと、巫女は「うんうん」と元気よく頷き、
「本日はどのようなご用件で……、ああいえ、いえいえいえ!! 言わずとも分かっておりますとも。そうですよね? おみくじですよね? そうこなくっちゃですよね!? 分かってますって。はいはいこちらでございますよ~」
「ええええええ!?」
マシンガントークでそこまで言ってのけ、一番近場にいた紫の手を掴んで歩き出した。
「ちょっとちょっと!! おみくじはひきますけど!! その前にお賽銭とか!! そのお参りみたいなやつは!!」
「そんな些細なこと後回していいんですよ!!」
「些細なこと!?」
あるまじき発言である。
「どうしますか」
引き摺られていく紫をしり目に、沙耶が鈴音へ問う。鈴音はため息を吐きながら答えた。
「失敗した、という感じがひしひしとしますが……、ここまで来てしまったのです。順番はともかくお参りはきちんとして帰るべきですわね」
「了解です。花宮さん、そろそろ行けますか?」
「ふぅー、ふぅー、も、ちろんですぅ、……はぁー、はぁー」
愛の歩調に合わせつつ、残りのメンバーも紫のあとを追った。
★
ともあれおみくじである。
専用の屋台までやってくると、紫を引っ張ってきた巫女が急いで屋台のテーブルへと回る。
「いらっしゃいませ!! おみくじはこちらです!!」
すんごい笑顔でこんなことを言ってきた。
「えぇっと、従業員、はちょっと違うか。あの、ここで働いている人って他にいないんですか?」
「今日は私だけですねー。神主さんは神社の奥にいますけど!!」
「そ、そうですか」
なんとなく、これ以上聞いたら負けのような気がしてきた紫である。
「他の参拝客が見当たりません。施設の中でお参りしているのでは?」
追いついた沙耶がそんなことを言う。
しかし。
「え? うち、外からお賽銭投げて拝むだけで、中には入れませんよ?」
巫女からはこんな答えが返ってきた。
「……じゃあ、参拝客が見当たらないのは」
「おめでとうございます!! 今年初の参拝客はあなたがたです!!」
「……」
沙耶が絶句した。
「結構いい時間なのに……」
紫もきょろきょろと辺りを見渡しながらそう口にする。
時刻はとっくに11時を回っているのだ。これで今まで参拝客ゼロなのは、残念すぎると言わざるを得ない。
「……だからここへ向かう最中に1人もすれ違わなかったのですわね」
1人納得したといった表情で鈴音はそう言い、紫へと目を向けた。
「それでは、ひいてしまいましょう」
紫の肩を押しながら言う。
「そ、そうですね!! じゃあ先陣を切ってまずは私が」
「はいっ!! 一回300円です!!」
「高くない!?」
紫がつっこむ。巫女が顔をしかめた。
「何言ってるんですか。ウチのおみくじの評判聞いてます? なんて呼ばれてるかご存知ですか? 『100パーセントは言い過ぎというか盛りすぎだけどそれでも結構いやむしろ当たらないほうが少ないくらいに考えても構わないくらいかなり当たるかもしれないおみくじ』ですよ?」
「えっと、聞いたことはもちろんあるっていうか、よくそれソラで言い切れましたね……」
その巫女のテンションとおみくじの値段の高さにうんざりな紫である。
その自分とのテンションの差に、巫女は勘違いした。
「あれ? 緊張していらっしゃる? あはは、そんな大丈夫ですよ。ウチのおみくじは信頼と実績とお金が積まれた優良くじですから!!」
じゃらじゃらやりながら巫女はそんなことを言う。
ぜんぜん優良に聞こえない宣伝だった。
「一回300円。万が一わっるぅいくじを引いてしまってもご安心!!」
ドン引きなお客に対して巫女の宣伝トークは止まらない。
「なんとウチのくじ、上書き制なんです!!」
ついにはとんでもないことを口にした。
「は?」
これには流石の鈴音も口をあんぐりと開けた。
巫女はじゃらじゃらやりながら続ける。
「つまり、悪いくじを引いたらもう一度お布施をして引き直せばいいんですよ!! しかも今なら期間限定で同じく300円でひけちゃいます!! なんという親切設計!! これで貴方の今年の運勢も大吉間違いなしですね!!」
もうむっちゃくちゃである。
「……あくとく、……しょうほう」
ぽつりと愛が呟いた。
それでも巫女は止まらない。
ずいっと紫へじゃらじゃらが差し出される。
「紫さん、これちょっとやめておいた方が……」
沙耶がそれを押しのけようとする前に、紫が動いた。
テーブルにがまぐちから取り出した100円3枚を叩き付ける。
「受けて立つわ!! 上書きなんてセコい真似しなくても、一発で大吉ひいておしまいよ!!」
「ちょ」
「じゃあ300円確かに頂きましたー!! それじゃあいきましょう!! パパーッといいのを出して気持ちの良い一年を迎えしょー!! はいっ!! はりきってどーぞ!!」
止めようとする沙耶は完全にスルーされ、紫の手にじゃらじゃらが渡る。
「いよぉぉぉぉしっ! いっくわよおおおお!!」
淑女らしからぬ気合いの入れ方と共に、紫が勢いよくじゃらじゃらやりだした。
何の飾り気もない木の棒がひょっこりと顔を出す。
「さあいくつの数字が出ましたか!? 教えてください!!」
「えっと、『26』です」
巫女はそれを聞くと屋台の陰でごそごそと何かやってから戻ってきた。
「はいどうぞ!! これが今年のあなたの運勢です!!」
四つ折りに畳まれた和紙。それを震える手で受け取る紫。なにせこれは100パーセントは言い過ぎというか盛りすぎだけどそれでも結構いやむしろ当たらないほうが少ないくらいに考えても構わないくらいかなり当たるかもしれないおみくじなのだ。緊張しないほうがおかしいだろう。
ゆっくりと開かれるおみくじ。
そこに書かれていたのは。
【小吉】
願 事:ささやかに願えば叶う見込みあり。
待 人:望むべからず。
失 物:見つからない。新調せよ。
旅 行:時が悪い。
商 売:うまくいく。……ときもある。
学 問:地道に励め。
方 向:北西に運あり。
争 事:避けよ。
求 人:思わぬところにあり。
転 居:避けよ。
病 気:焦らず休むべし。
恋 愛:時が悪い。
縁 談:避けよ。
「……」
「これはまた微妙な……」
フリーズしたまま動かない紫の肩越しから覗き込んだ沙耶が率直な感想を漏らす。そこで紫のフリーズが溶けた。
「なにこれー!? 特にこの商売!! なんの慰めよ!!」
「『避けよ』とか『時が悪い』とかばかりですね。小吉ってここまで悪い運勢でしたか?」
憤慨する紫に、一歩引いた沙耶がとりあえずで会話を繋ぐ。
「ちょ、ちょっと待って!?」
何かに気付いたのか、紫が更に大きな声をあげる。そして震える声で言った。
「……これ、本当に当たっちゃうの?」
何も言えなくなった沙耶が目を逸らす。
そこで、巫女が囁いた。
「ウチの神社、上書き制ですけど?」
「……そ、そうよ!! その手があったわ!!」
「え、ちょ、ちょっと紫さん?」
急いでがまぐちを取り出す紫。
沙耶の静止もむなしく、新たな300円がテーブルへと叩きつけられる。その300円を受け取った巫女は、厳かに頷いた。
「……なるほど。つまりあなたはまだ抗おうというのですね? 自らに定められしその宿命から!! 気に入りましたっ!! 私は気に入りましたよ!! あなたのその度胸!! 負けん気を買いました!! そこまでの覚悟をお持ちなら、こちらも勉強致しましょうとも!! 本来、このおみくじは増額制。それを!! なんと!! 先ほどと同じ300円で提供しようではありませんか!!」
「さっきあなた期間限定親切設計で同じ値段って言ってたでしょう!!」
恩着せがましいそのセリフに沙耶が横から食いついた。しかし、その程度でこの巫女は動じない。
「……ふふふ。よくぞ見破りましたね!! その通り!! 貴方はもう一度同じ値段でおみくじがひける!! さあ!! 300円を!! 確かに!! 受け取りました!!」
巫女の手から再び紫へとじゃらじゃらが渡る。
「この貴重な300円は、きっとあなたに新たなる道を指し示してくれるでしょう!! では、いきますか? いきましょう!! どこまでも遠くへ!!」
「いよっしゃああああ!!」
面倒くさい巫女の掛け声と共に紫が渾身の力を振り絞ってじゃらじゃらした。
「さあいくつの数字が出ましたか!? 教えてください!!」
結果は。
【大凶】
願 事:悪いことなら叶う。
待 人:仲の悪い者なら来る。
失 物:もっと失くす。
旅 行:やめとけ。まじで。
商 売:それ以上身をすり減らすべからず。
学 問:手遅れになる前にやれ。
方 向:どこも良くない。勉強机に向かえ。
争 事:はっきり言って分が悪い。だが、諦めてはいけない。諦めたらそこで敗北は決定してしまう。あがけ。必死に。本気を出せ。自分ならやれると言い聞かせろ。やれる。やれる! やれる!! と、思ったところで結局は負ける。
求 人:求めるのは自由。
転 居:それで何が変わるわけでもない。
病 気:表現しにくい事態となる。……備えよ。
恋 愛:身の程を弁えよ。
縁 談:敢えて記さず。
紫は、燃え尽きた。
「ちょっと紫さん!? お気を確かに!!」
崩れ落ちる紫に沙耶が飛びつく。紫は目も虚ろに震える声でこう続けた。
「……沙耶ちゃん、お願い。……あとは頼むわ」
「え、ええー」
これだけの惨状を見せておきながら、まだひけというのか。
どうやって断わろうかと考えていた沙耶だったが、思わぬところからそれは遮られた。
「早くひいてしまいなさいな。その後に私と花宮さんもひきますから」
「えっ!?」
驚愕の表情を浮かべる愛を気にもせず、鈴音は続ける。
「お参りだけなら他でもできたのです。せっかくここまで来たのですからやることはやってしまいましょう」
鈴音から視線を巫女へと戻すと、そこには満面の笑みを浮かべながらじゃらじゃらを差し出しており、
「……わかりました」
沙耶は諦めて300円を取り出し、じゃらじゃらと交換した。
結果は。
「ど、どうだった!? 沙耶ちゃん!?」
いつの間にやら復活していた紫がなぜか呆然とおみくじを見つめる沙耶へと詰め寄る。
「沙耶ちゃん?」
「えっと、しょ、しょうきちでした」
「なんでそんなに言いにくそうなの? 確かにお世辞にも良いとは言えない内容だったけど、私の大凶よりもマシなんだから別に」
【勝吉】
願 事:負けん気を持てば叶う。
待 人:勝気でいれば来る。
失 物:ポジティブでいれば見つかる。
旅 行:誰にも負けない計画を立てよ。
商 売:上場せよ。
学 問:勝て。
方 向:全方位へ突き進め。
争 事:決して手を緩めるな。
求 人:呑み込め。
転 居:一気にいけ。
病 気:負けるな。
恋 愛:選び抜け。
縁 談:勝ち取れ。
「しょうき、……しょうきち!? ダジャレ!?」
「しかもそのほとんどが気合いでなんとかしろ、という文面ですわね」
紫の隣で沙耶の手元を覗き込んでいた鈴音がそんな感想を漏らす。
「でも私の小吉よりも全然良いじゃない!! なんで私の小吉よりもそんなダジャレの勝吉の方が上なのよ!!」
「えぇっと、……すみません」
沙耶は「もう紫さんって小吉じゃなくて大凶ですよね」という言葉をぎりぎりのところで飲み込むことに成功した。
「あ、ご、ごめん。別に沙耶ちゃんに謝ってほしかったわけじゃなくって……」
「まったく、見ていられませんわね」
頭を下げる沙耶とわたわたする紫。その2人を視界の端に追いやり、鈴音がため息を吐く。300円を巫女へと差し出した。
「こういうものは無心で振るのですわ」
じゃらじゃらと出した数字を淡々と読み上げ、巫女に数字を告げる。
結果は。
【大々吉】
願 事:叶う。感謝を忘れるべからず。
待 人:来る。笑顔で迎えよ。
失 物:見つかる。近場を探せ。
旅 行:国内にすべき。
商 売:軌道に乗る。
学 問:成功する。平常心で取り組め。
方 向:どこでも外れはないが、東が良い。
争 事:鷹揚な心持で迎え撃て。
求 人:現れる。礼を忘れるべからず。
転 居:魔力の濃い場所へ行け。
病 気:あっという間に治る。
恋 愛:成就する。が、待つが吉。
縁 談:周囲に惑わされなければ吉。
「だ、大吉ぃ!?」
「い、いえ、紫さん、よく見てください!! これは大々吉です!!」
「まあ、こんなものですわね」
驚愕する後輩2人に「ふっ」と大人の余裕で髪をかきあげる鈴音。
しかし、そこへ待ったをかける人物がいた。
「ちょおっと待ったあああああああああああああ!!」
そう。
他ならぬ巫女である。
「う、運がいいですよ!! そこのあなた!! 今なら期間限定!! そう!! 今なら期間限定で!! 大吉以上のおみくじをひかれた方だけ!! 超特別出血特大な大サービスで!! もう一回タダでおみくじがひけます!!」
「えぇー」
白けた声で答えたのは鈴音ではなく紫だった。
「期間限定で?」
「そう! その通りです!!」
「大吉以上のおみくじをひいた人だけ?」
「そう! その通りです!!」
「超特別出血特大な大サービスで?」
「そう! その通りです!!」
「もう一回タダでおみくじがひけるの?」
「そう! その通りです!!」
「上書き制なのに?」
「そう! その通りです!! あっ」
紫の指摘とジト目を受け、滝のように汗を流す巫女。
その一連の流れを眺めていた鈴音は。
「まあ、別に構いませんけど」
「あ、鈴音さん!?」
沙耶の制止もむなしく、鈴音は本当にもう一度じゃらじゃらをした。
数字を聞いた巫女が嬉々として四つ折りの和紙を持ってくる。
結果は。
【超吉】
願 事:叶う。
待 人:来る。
失 物:坐して待て。
旅 行:素晴らしいひとときとなる。
商 売:繁盛。
学 問:己が道を往け。
方 向:南が良いが、北も良い。東も悪くなく、西でも構わない。
争 事:向こうが折れる。
求 人:現れる。
転 居:どこでも構わないが、菓子折りを持参せよ。
病 気:瞬く間に治る。
恋 愛:成就する。全力でイケ。
縁 談:己が感性、疑うべからず。
「ち、ちょう……きち?」
自らが口にした単語が信じられないと言わんばかりの紫。
「まさか、大々吉の更に上が存在するとは……」
驚愕の表情を隠そうともしない沙耶。
「うわぁぁ、蔵屋敷先輩すごいです……」
ようやく落ち着いてきて会話に参加できるようになったもののいきなりのインパクトに驚きが一周回って逆に平坦な感想しかでなくなった愛。
「ふむ。良い一年を迎えられそうですわね」
あくまで淡々としている鈴音。
そして。
「そ、そんな馬鹿な……。いったい、どれほどの確率だと……」
真っ白になっている巫女。
「み、見てよ沙耶ちゃん!! 失物のところに『坐して待て』って書いてあるわ!! 自分で探す必要ないのよ!! 失くしたものが向こうからやってくるってこと!? 方向だって長ったらしく書いてあるけど全方位イケイケじゃない!!」
「争事も、『向こうが折れる』とあります。流石は鈴音さん。その威光は留まることを知らない……」
「れ、恋愛の『イケ』がカタカナなのは、わ、わざとなのでしょうか……」
「ま、待ってください!!」
その声に、わいわいきゃーきゃーと超吉おみくじに群がる3人の動きが止まる。制止した本人である巫女は血反吐でも吐きそうな悲痛の表情でじゃらじゃらを差し出した。
「も、もう一度……、も、もう一度……」
「なんであなたが乞う側に回ってるんですか……。というか、体調は大丈夫ですか?」
呆れ声で沙耶が問う。
「へ、平気ですとも、……絶好調、……ですとも」
「いや、全然そうは見えないのですが。……鈴音さん?」
沙耶の前にずいっと一歩を踏み出した鈴音がじゃらじゃらを再び手にした。
「確かに、大吉以上をひいた人はもう一度おみくじがひけるのなら、またひくことはできますわね」
「え、鈴音さん。まさか」
紫の言葉に鈴音は頷く。
「別に。このようなもの、何度やっても結果は一緒ですわ」
鈴音は、澄ました表情で三度目のじゃらじゃらをした。
そして。
結果は、全然同じじゃなかった。
【超最大超最強の超吉】
願 事:なんでも叶う。
待 人:望めば誰でも来る。
失 物:そもそも失くさない。
旅 行:どこへでも行け。
商 売:貴方の辞書に『失敗』という言葉は無い。
学 問:望むがままに。
方 向:東西南北すべて良し。
争 事:好きな結果を選べ。
求 人:望めば誰でも来る。
転 居:必要は無いが、しても良い。
病 気:患うはずがない。
恋 愛:選り取り見取り。
縁 談:吟味すべし。その資格あり。
その和紙は、金色に輝いていた。
鈴音がそれを受け取り中身を開く前から、結果は分かりきっていた。
巫女は鈴音の手にそれが渡ると同時に力尽きた。
「ち、超最大」
「超最強の」
「超吉」
後輩3人組が震える声でそのタイトルを読み上げる。
そこに記された文字1つひとつから後光が見えるようだった。
3人は眩しさのあまり目を細める。
「……嘘よ。そんなの、……嘘。あはは、だってありえないじゃない。どんだけ低い確率だっつの。天文学的数字よ。天文学的。月の軌道が急に変わって火星の衛星になるくらいあり得ないわ。あはは」
屋台の机で突っ伏しながら巫女がそんなうわ言を垂れ流す。
「で、大吉以上の私はもう一度ひけばよろしいので?」
「もう結構です!!」
お引き取り下さいと言わんばかりの勢いで巫女が吼えた。「仕方ありませんわね」みたいな調子で鈴音が肩を竦め、そして。
「それでは花宮さん。最後はあなたです」
「えっ!? こ、この流れで私もひくんですか!?」
「当たり前です。何のためにここまで来たと思っているんですの?」
「……あーい。300円でぇーす」
「み、巫女さんのテンション投げやり……」
「あー、私のことは巫女ちゃんでよろしくでぇーす」
巫女さん、改め巫女ちゃんがだらけた様子で愛から300円を受け取り、じゃらじゃらを渡す。
「え、えいぃっ!!」
振ろうとした瞬間にじゃらじゃらがすっぽ抜けて華麗に宙を舞い、巫女ちゃんの頭に直撃した後に数字が出てくるという予定調和な出来事をこなしつつ、できたたんこぶをさすりながら巫女ちゃんが四つ折りの和紙を持ってきた。
「結果は!?」
なぜか本人よりも必死な紫が叫ぶようにして聞く。
結果は。
【吉】
願 事:ほどほど
待 人:ほどほど
失 物:ほどほど
旅 行:ほどほd
商 売:ほどほお
学 問:ぼとほそ
方 向:ほどほど
争 事:同上
求 人:同上
転 居:同上
病 気:同上
恋 愛:同情
縁 談:同上。
「……えーと」
「こ、これは」
「あらあらあらまあまあまあ」
何とも言えない空気が場を支配した。「こんなタイピングミスありえねーだろ」とか「『同上』とかこんなところでサボんな」とか「ていうか『どうじょう』にしたところで『ほどほど』からたいして短縮されてねーだろ」とか「『同上』と『同情』でうまいこと言ったみたいなことしてんじゃねーよ」とか「そもそもこんなゴミに300円の価値なんてあるはずねーだろ」とかいろいろと言いたいことはあったが、3人は何も言わずに引き下がった。
愛は受け取ったそのおみくじを見つめたままぷるぷるしている。
「どぉーしますぅー? もっかいひいときますぅー?」
完全投げやりモードな巫女ちゃんが問う。
「私がひくわ!!」
それに答えたのは愛ではなく紫だった。
「……紫さん。悪いことは言いませんからやめておいたほうが……」
「とめないで沙耶ちゃん!! 女にはね!! 引き下がれないときがあるのよ!! 大凶のまま今年一年が始まってたまるもんですか!!」
「はぁーい、じゃあ300円頂戴しましたぁー。じゃあはりきってどぞー」
「巫女さん!! あなたは接客としての心構えがまるでなってませんね!!」
「わたしぃ、巫女ちゃんどぇーす」
「馬鹿にしてるんですか!?」
沙耶が巫女ちゃんに説教をしている間に気合い一閃じゃらじゃらする紫。出た数字を告げられ緩慢な態度で用紙を取りに行く巫女ちゃん。それに更に憤慨する沙耶。
そんな感じで出た結果は。
【凶乱】
願 事:取り乱すべからず。
待 人:取り乱すべからず。
失 物:取り乱すべからず。
旅 行:取り乱すべからず。
商 売:波乱万丈。
学 問:取り乱すべからず。
方 向:方位磁石すら狂う。
争 事:大乱戦ドロップショットシスターズ。
求 人:取り乱すべからず。
転 居:取り乱すべからず。
病 気:取り乱すべからず。
恋 愛:浮気、不倫はするな。刺される。
縁 談:取り乱すべからず。
「きょ……」
「凶、乱……」
和紙を広げた姿勢で固まる紫の肩越しから見えたその言葉に、愕然と呟く沙耶と愛。
「争事の『大乱戦ドロップショットシスターズ』とか、……もう何が言いたいのかまるで分らないのですが」
「れ、恋愛に、さ、『刺される』って。ひ、ひぃ……。ゆ、紫さぁん」
「基本的に取り乱しさえしなければどうにかなるようですが、……しかしこれはまた」
鈴音の一言に、紫が再起動を果たした。
「も、もう一回よ!!」
「紫さん、もうやめましょう。ギャンブルとかで泥沼に嵌る典型例みたいな人になってますよ」
「あと一回!! あと一回だから!!」
「だからそういう言い訳が……」
沙耶の説得むなしく、紫のがまぐちからまた300円が消える。
巫女ちゃんから受け取ったじゃらじゃらをじゃらじゃらしながら紫は唄うように叫ぶ。
「さあ来なさい!! 超吉!!」
「目標高すぎません!?」
結果は。
【びっくらほい】
願 事:びっくりするくらい叶ったり叶わなかったり。
待 人:びっくりするくらい来たり来なかったり。
失 物:びっくりするくらい見つかったりまた失くしたり。
旅 行:びっくりするくらい良かったり悪かったり。
商 売:びっくりするくらい儲かったり倒産したり。
学 問:びっくりするくらいうまくいったりいかなかったり。
方 向:びっくりするくらい北が良い。
争 事:びっくりするくらい負ける。
求 人:びっくりするくらい求められる。
転 居:びっくりするくらい転々とする。
病 気:びっくりするくらい患う。
恋 愛:びっくりするくらい振られる。
縁 談:びっくりするくらい縁がない。
「なるほど今年の私の運勢は『びっくらほい』か、って『吉』って単語くらい入れなさいよおおおおお!!」
鮮やかな1人ノリツッコミで手にしたおみくじを地面へと叩き付ける紫。
「……ぜ、前半はどっちもどっちのような内容でしたが、後半は酷いですねこれ」
「求人に至っては求められる側ですわね」
愛と鈴音が冷静な評価を下している傍で、沙耶は必死だった。
「紫さん!! もうやめましょう!! これ以上はっ!!」
「えぇい!! こんなところで引き下がれるもんですかぁぁぁぁ!!」
「分かってるんですか!? 貴方はたかがおみくじに1200円も使ってるんですよ!?」
「たかがおみくじ!! されどおみくじよ!!」
「言ってる内容むちゃくちゃだって理解できてます!?」
「女にはね!! 引き下がれないときがあるのよ!!」
「その言い訳さっきも聞きましたけど!?」
沙耶に羽交い絞めにされつつも必死にがまぐちから300円を取り出す紫。放り出されたそれを残像すら見える速度で巫女ちゃんがキャッチした。
「あぁっ!?」
「じゃらじゃら下さい!!」
「……ふふふ。その不屈の精神は見上げたものですお客さん!! 私、感服いたしました!!」
不敵な笑みを浮かべてそんなことを口にしだす巫女ちゃん。
「い、いきなり調子が戻るのですね、貴方は」
「ええ!! なんかこの方のくじ運見てたら急に元気が出てきまして!!」
「本当に見下げ果てた方ですね貴方は!?」
「早く!! じゃらじゃら!!」
巫女ちゃんと沙耶のやり取りすらもどかしいと言わんばかりに、巫女ちゃんの手からじゃらじゃらを奪い取る紫。
「ふーっ、ふーっ。平常心平常心。私ならやれる。私ならやれる」
「……平常心の紫さんなら、こんな無駄遣いはしなかったはずです」
沙耶の呟きは、幸いにして極限まで集中力を高めていた紫には届かなかった。鈴音に言われた通り、無心の境地でじゃらじゃらする紫。
結果は。
【妥凶】
願 事:ほどほどで諦めよ。
待 人:ほどほどで諦めよ。
失 物:ほどほどで諦めよ。
旅 行:ほどほどの計画を練ろう。
商 売:ほどほどで店じまい。
学 問:ほどほどじゃなく本気でやれ。
方 向:どこもほどほど一緒で悪い。
争 事:ほどほどで負ける。
求 人:ほどほどの相手が見つかる。
転 居:ほどほどの住処で手を打て。
病 気:ほどほどに患って苦しむ。
恋 愛:ほどほどで捨てられる。
縁 談:ほどほどにすら満たなかった……。
「……だ、妥凶」
その文字を見て、愛が目を丸くした。
「何事もほどほどが一番ということですわね」
全てを悟りましたみたいな優しい目で鈴音が1人納得しているが、本人は『超最大超最強の超吉』をひいて勝ち組人生の第一歩を踏み出したところなので良い話でまとまるはずがない。
「……紫さん。どうです? ここらでそろそろ妥協してみては」
「うがーっ!!」
なるべく刺激しないようにと肩におかれた沙耶の手は、紫によって押しのけられた。
「何が妥協よ!! 何が妥凶よ!! 後半になるにつれて内容がどんどん悪くなるじゃない!! 病気は『ほどほどに患って苦しむ』し、恋人からは『ほどほどで捨てられる』し!! 挙句、縁談に至っては『ほどほどにすら満たなかった……。』なんて言われてるのよ!? 妥協できるわけないでしょう!!」
「ならひけばいいじゃない!! もう一度!!」
「巫女さん!! 貴方は黙ってください!!」
唐突にしゃしゃり出てくる巫女ちゃんへ沙耶が一喝する。しかし、巫女ちゃんは物怖じひとつせず「ちっちっ」と指を振った。
「ノンノン巫女さん、私はぁー、……巫女ちゃんです!!」
箒片手にびしっとポーズを決める巫女ちゃん。沙耶は怒りのあまり激しい頭痛に襲われた。その間に紫はがまぐちから300円を取り出そうとして……。
「あ!? 嘘っ!? もう小銭が無い!?」
「そりゃそうですよ……。これまで何枚100円を使ったと思っているのです? 15枚ですよ」
よくもまあ、がまぐちに100円が15枚もあったなという話である。
「さあ、紫さん。良い機会なんですからこれで」
「両替!!」
「ちょ」
「了解!!」
ついに紫は紙幣を取り出した。巫女ちゃんはそれを目にも止まらぬ速度で掻っ攫う。
「お釣りは出せますので両替なんてみみっちいことは言わずにそのままひいちゃいましょう!! おみくじは300円なので、400円のお釣りですね!!」
「嘘仰い!! おつりは700円です!!」
「ちっ、バレましたか」
「貴方本当に神に仕えし巫女ですか!?」
「計算ミスなんて神様でもすることですよ!!」
「仮にそうだとしても貴方今舌打ちしてましたよね!?」
沙耶の言及をさらりと躱した巫女ちゃんは、さっさと700円とじゃらじゃらを紫に押し付けてしまう。
「……紫さん」
「大丈夫よ、沙耶ちゃん」
「……何がですか」
やたらと良い笑顔で頷く紫に、沙耶は胡散臭そうな視線を隠そうともせずに問う。
「これで……、最後だから」
「本当ですね。その言葉に嘘偽りはありませんね?」
「もちろんよ。私はこのおみくじに、全てを賭ける!!」
格好いいセリフと共に、紫が勢いよくじゃらじゃらをじゃらじゃらした。
結果は。
【秘密基地】
願 事:秘密の地なら守り通せる。
待 人:秘密の地で待て。
失 物:秘密の地にある。
旅 行:秘密の地なら吉。
商 売:秘密の地で構えよ。
学 問:秘密の地で励め。
方 向:秘密の地へ向かえ。
争 事:秘密の地なら勝てる。
求 人:秘密の地で求めよ。
転 居:秘密の地へ戻れ。
病 気:秘密の地で療養すべし。
恋 愛:秘密の地でコクれ。
縁 談:秘密の地でもどうしようもない。
「……」
「……」
「……」
「……沙耶、ちゃん」
「はい、なんでしょう。紫さん」
「私ちょっと秘密基地作ってくるわね」
「童心に戻りすぎです!! 落ち着いてください!!」
「も、もう一回……、それならもう一回!!」
「再燃しないでくださいよ紫さん!? さっきの誓いは嘘だったのですか!?」
「お、女には、……負けられない、……戦いが」
「そんな涙目でそんなセリフ言っても全然響かないですから!! わ、分かりました!! 作りましょう!! 秘密基地を!! 学園に戻ったら手伝いますから!!」
「う、うぅー。分かったわよ。それなら……、私もう、これでいいわ」
「そ、そうですか。賢明な判断ですね。……若干、遅すぎた気もしますが」
「ええ!? もうやめちゃうのですか!? 志半ばであなたは諦めちゃうと言うのですか!? ここへ訪れた当初のあなたの熱い志は――」
巫女ちゃんの熱い演説は、そこで途絶えた。
「黙りなさい?」
頬を痙攣させながら木刀の切っ先を喉元に突きつける沙耶に、巫女ちゃんは涙目で、
「は、はい」
そう答えた。
★
青藍魔法学園生徒会。
青藍神社でのおみくじ成果。
御堂 紫:【秘密基地】new!
※【小吉】→【大凶】→【凶乱】→【びっくらほい】→【妥凶】からの上書き
片桐 沙耶:【勝吉】
蔵屋敷鈴音:【超最大超最強の超吉】new!
※【大々吉】→【超吉】からの上書き
花宮 愛:【吉】
青藍神社でのおみくじへの投資金額。
御堂 紫:1800円
片桐 沙耶:300円
蔵屋敷鈴音:300円
花宮 愛:300円
★
その後。
無事にお賽銭も済ませ、「さて下山しよう」としたその時。
「あーっ!! 忘れ物!!」
突然、紫がそんなことを言い出した。
「……忘れ物?」
訝しげな表情で沙耶が繰り返す。
「さ、先に下山してて!! すぐに追いつくから!! じゃ、じゃあね!!」
「あ、ちょっと紫さん!?」
紫は一目散に駆け出し、すぐにその姿は見えなくなってしまった。
「……まさか、紫さん。もう一度ひきにいったんじゃあ」
「かもしれませんわね」
沙耶の呟きに、それを聞いていた鈴音が賛同する。
「そ、そんな、じゃあとめないと」
「大丈夫ですわよ」
あわあわし出した愛に、鈴音は素っ気ない調子で答えた。
「し、しかし」
なおも言いすがる沙耶に、鈴音は淡々と。
「紫さんとて、そこまでおバカさんではございませんことよ。きっと考えがあるのでしょう。今日、来れなかった人もいるわけですから」
鈴音はそう言って、帰り道へと一歩を踏み出した。
★
その日の夜。
「お?」
御堂縁が学生寮にある自分のポストを覗いてみると、中に何やら紙が入っていた。取り出してみる。
1枚目は、手紙。
『兄さんへ
正月早々から忙しそうな兄さんのために、お参りに行ってきました。何してるのかは知らないけど、無茶はしちゃだめだからね。それから兄さんの代わりにおみくじをひいておきました。噂によると、これは「100パーセントは言い過ぎというか盛りすぎだけどそれでも結構いやむしろ当たらないほうが少ないくらいに考えても構わないくらいかなり当たるかもしれないおみくじ」だそうです。もちろん、私はまだその中身は見てません。
今年が兄さんにとって、転機となりますように。
あかり会長の期待、裏切っちゃだめだからね。 紫』
「……まったく素直じゃない妹だなぁ」
柔らかな笑みを浮かべる縁。一部「余計なお世話だ」と言いたくなるところもあったが、それでも嬉しいことには変わりない。
「おみくじなんて他人がひいたら意味ないんじゃないか?」
そんな軽口を言いながら、四つ折りにされたそれを開く縁。
そして。
【史上最悪の最凶 ~怒髪天の魔王、天を穿つ~】
願事:失わぬことを祈れ。
待人:己すら見失う。
失物:諦めるべし。引き摺れば命を落とす。
旅行:天へと召せる。
商売:失うものが大きすぎる。
学問:終活を修めるべし。
方向:上がいい。
争事:命を落とす。できるなら避けよ。但し、避けても……。
求人:その者は、頭にわっか、背中に羽あり。
転居:上に住める。
病気:即死。
恋愛:自らを好け。世界を愛せ。
縁談:願うは安し。
「えっ?」
★
次の日。
朝一番にとある男子生徒から『外出願』が学園側へ提出された。
行先は告げられなかったものの、これから登山でもするのかと言いたくなるような重装備を身に着け必死の表情を浮かべる男子生徒に対して、受付をした者は首を縦に振る他無かったという。
以上、聖夜が転入してくる前の生徒会模様をお届けしました。
こんな話も、たまにはいいですよね。
……いいですよね?
【今後の投稿予定】
1月2日 本編第8話
1月3日 本編第9話