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第4話 グランダール50 ⑦




「おーおーおーおー、これまた派手にやられたなぁ」


 現場に到着したウィリアム・スペードの第一声がこれだった。その現場で作業をしていた者たちは、声の主に気付くと一斉に跪く。


「あー、いいからいいから。作業を続けてくれ」


 鷹揚に笑って見せたスペードは、手で払うような仕草でそう応えた。跪いていた者たちが立ち上がり、順に作業へと戻っていく。


「御足労頂き、ありがとうございます」


「おう。調子はどうだ、ギリー」


 ただ1人、作業へと戻らなかった者。

 魔法聖騎士団(ジャッジメント)・ノア警備隊隊長であるギリー・ウォーレンは、銀色に輝く兜を脱いでスペードに応えた。その表情は芳しいものではない。だからこそ、それが答えとなった。


「なるほど」


 周囲はひどい有様だった。フェンスが張られ、立ち入り禁止となっていた一帯のコンクリートは隆起し、元の風景などまるで残っていない。

 スペードはひとつ頷き、傍に立つ巨大な柱を見上げる。その柱も、ところどころに傷やヒビが入っており、今は修復作業が行われていた。


「運転はしているようだな」


「先ほどからです。支柱の中心部まで亀裂が入っていないのが救いでした。運行に支障は無いとのことで、高速鉄道は全線で運転を再開しております」


「そうか」


 スペードはそう答えながらしゃがみこむ。瓦礫のひとつに手を触れた。


「……魔力で特定は難しそうか」


「鑑識も呻いておりましたよ。時間が経ってしまっているというのもありますが……」


「魔力とは言い難い、別の何かが付着してやがるな」


 魔法を発現すると、魔力の残滓がその場に残る。やがては消えゆくそれも、犯行現場の貴重なサンプルとなるのだ。本来なら、人の指紋と同じように証拠として活用できる代物だが、今回に限って言えば役に立たなかった。

 残滓が消えてしまうほどの時間が経ってしまった、というのがひとつ。

 そして、原因はもうひとつ。


「……最近問題になってるやつか」


「ええ、いわゆる“瘴気”と呼ばれているものです」


 魔力ではない、何か。

 魔力のようでいて魔力とは言い難い、何か。

 それを、魔法聖騎士団(ジャッジメント)は“瘴気”と称していた。

 その“瘴気”が、大切な証拠となる魔力を覆い隠してしまっているのだ。もっとも、正体不明とはいえこの“瘴気”も大切な証拠になるわけだが。


「この黒い染みも相変わらずだな」


 スペードが目をやった先をギリーも追う。そこには、血痕が飛び散った後のような染みがあった。ただ、それは人の血痕というにはあまりにもどす黒く、不快な匂いのするものだった。


「限りなく人間の血に近いようですが、やはり違うそうです」


「そうか」


 報告を聞きながら、スペードはゆっくりと立ち上がる。


「あんたも大変だな、ギリー。こんなわけの分からん事件に走り回らされてよ」


「とんでもございません。魔法世界の民が住む町、箱舟(ノア)を守ることが私に課せられた使命ですから」


「ま、無理しない程度にな」


 ギリーは本来、荒っぽい気性である。それをスペードはよく知っている。にも拘わらず、こういった場面で出てくる真面目くさった発言に、スペードは思わず苦笑してしまった。

 苦笑された理由をギリーは正確に察していたが、それとは違うことを口にする。


「指揮をお取り願えますか」


「いや、その役目はお前に任せる。俺はあくまで戦闘要員だ。生憎とそっちの能力は自信がないんでね」


 スペードの言ったことは、一応は事実だった。

 もともと、スペードは「魔法聖騎士団(ジャッジメント)では対応しきれない敵がいたときのため」という理由で派遣されている。そうでなければ、スペードはいくらクィーンやクローバーからの頼みだからといって首を縦には振らなかっただろう。分を弁えている、といえば聞こえはいいが、実際のところはただ面倒くさいからだ。


「承知致しました」


「捜索・調査についてはお前に一任する。つまり……、だ」


 ギリーが頭を下げる。それを見つつ、スペードは更に続きを口にした。


「捕縛・討伐は俺の役目だ。結果が出たら真っ先に俺へ知らせろ。アギルメスタ杯期間中ってことで、お上はみんな気が立ってやがるからな。さっさと叩き潰せとお達しが来てるんだ」


「承知しております」


「ならいい」


 踵を返し、ギリーに背を向けたスペードは。


「運転再開が予選終了に間に合ってよかったぜ。この騒動に加えて輸送混乱まで起こってたら、クィーンに何言われるか分かったもんじゃねぇ」


 そんなことを呟いた。







「さて。それじゃあ反省会といきましょうか」


 もう見慣れてしまった教会地下の訓練場。

 そこでにっこりと笑顔を浮かべながらそうのたまう師匠。

 明らかに反省会という名のつるし上げが行われそうな空気である。美月やルーナも「できれば関わりたくない」といった表情で遠巻きに見ているだけだ。シスター・マリアは「大会で着ていた俺の衣類を洗濯してくる」という言い訳を使ってこの場から逃げ出していた。


「えーと、勝ちました」


 とりあえずそう告げてみる。


「結果報告は結構。見てたし」


 ですよね。


「あのバリエーション豊富な技の数々はどうしたのかしら。私の記憶では、RankSの魔法習得のために特訓をしていたと思うのだけれど」


 笑顔が怖い。笑顔が怖いよ。


「い、いやぁ……、なんか絶対に間に合わないなぁ、なんて思ったわけで」


「で?」


「アギルメスタ杯出場者を相手取るには、身体強化魔法と“不可視の弾丸インビジブル・バレット”だけじゃ足りないかなぁ、なんて思ったわけで」


「で?」


 ……。


「そ、それで、師匠と組手した時に見せてもらった技法、もしかしたら習得できるかなぁ、なんて思ったわけで」


「で?」


 ……、……。


「そ、そしたら、い、意外と簡単にできちゃったわけで」


「で?」


 ……、……、……。


「だ、だったら、ほ、他にも、い、色々とできるんじゃないかなぁ、な、なんて思った、わ、わけで」


「で?」


 ……。

 ……、……。

 ……、……、……い、言えない。

 浮かんだイメージそのままにどんどん技ができるものだから、好き放題作って技名付けるの楽しくなった、なんて言えるわけがない。


「……あー、師匠に言われた通り、バリエーションを増やしてみました」


「つまり、貴方が節操なしにあの技法を増やしまくったのは私のせいだと」


「あー、そういうつもりで言ったわけではないんですけど」


「で、『属性共調』は?」


「……」


 それ聞く?

 この流れでそれ聞いちゃう?


「できてまぜぶしっ!?」


 言い切る前にぶん殴られた。


「さーてそれじゃあ再開しましょうかねぇ地獄の特訓を覚悟しなさい聖夜生きる気力すら湧いてこなくなるくらい叩きのめしてあげるから」


「ちょっと趣旨変わってないスかそれ!?」







 自らのクリアカードに不在着信の文字が表示されていることに気付いた天道まりかは、エルトクリア大図書館を抜け出してから改めて回線を繋いだ。


「ごめんね。大図書館に居てさ」


『存じておりました』


 通話相手の聞き慣れた声を聞き、まりかの顔が僅かに綻ぶ。


「その調子じゃ、大丈夫だったみたいね」


『屈辱的な勝利でしたが』


「じゃあ勝ち抜いたのは……」


『お察しの通りかと』


「まぁ、あの看板背負ってるなら、そのくらいはやってもらわないとねー」


 まりかは窓から覗く晴天へ目を細めながら言う。


『しかし、一点気にかかることが』


「なに?」


『T・メイカーの使う魔法についてです』


「どういうこと?」


『まりか様の魔法に酷似しております。いえ、むしろ、まりか様のものより……』


 言いよどむ唯。まりかは落ち着いた声色を心掛けながら口にした。


「とりあえず、一度合流しようか。学習院まで来れそう?」


『承知致しました』


 通話が切れる。

 自らの証明書としての券面に切り替わったクリアカードを見つめながら、


「お姉ちゃん……、ってことはないか。流石に」


 そう呟いた。







「契約詠唱ねぇ……」


 地獄の特訓とやらから目を逸らさせるために話した遅刻の顛末に、師匠は考え込むようにして自らの頬を撫でた。


「契約詠唱ってすっごいお金持ちじゃないとできないものじゃないの?」


「その認識で間違ってはないな」


 美月からの質問に頷く。


「けいやくえいしょうには、マジックアイテムがひつよう。それが、たかい」


「まず、基本五大属性と特殊二大属性、それぞれに聖杯が存在する。対象の聖杯と契約していなければ、その属性は扱えない」


 ルーナの説明に、そう補足した。


「『火』の聖杯と契約しているだけじゃ、『水』の魔法は使えないってことだよね?」


「そうだ。んで、まだそれだけじゃ契約詠唱は使えない。対象の聖杯と契約したら、今度は対象の魔法が記述された巻物と契約する必要がある」


「対象の魔法……?」


 美月が首を捻る。

 ここまでは知らなかったか。まあ、契約詠唱自体がマイナーな技法だ。現代式呪文詠唱、古代式契約詠唱って表現されることもあるくらいなのだ。詳細を知らなくても無理はない。

 俺もこの体質じゃなければ興味を持たなかったであろう技法だ。


「これは説明されなくても分かるだろうが、魔法にも種類がある。単純に言えば『魔法球』とか『障壁魔法』とか『回復魔法』とかだな」


「うん。……うん? 対象の魔法ってもしかして……」


 すぐに俺が言わんとすることに気付いたらしい。


「そういうことだ。『魔法球』が使いたければその巻物と、『障壁魔法』が使いたければその巻物と、『回復魔法』が使いたければその巻物と契約する必要がある」


「『まほうきゅう』にも、『だんがん』、『ほうだん』、『ついびせいのう』、『かんつうせいのう』、たくさんしゅるいがある」


「更に言うなら、『火』の『魔法球』と『水』の『魔法球』の巻物は別物だ。これがどういうことを意味するかは分かるよな」


「う、うわぁ……」


 美月が唖然とする。

 気持ちはよく分かる。巻物はいったい何種類あるのか、という話だ。


「そして1つひとつの単価が高い。熱心に収集するコレクターがいるのもそうだが、そもそも絶対数が少ない。ここ、魔法世界ではオークションがある。そこで出回ることもあるそうだが、『魔法球』ひとつに日本円にして数十万の値が付くこともあるそうだ。それこそ、『天蓋(てんがい)魔法』や各属性の聖杯にいくらの値が付くかは考えたくもないな」


「よくその男の人は契約詠唱に手を出したねぇ……」


「そうだな。よほど裕福な家柄なのか、それとも何かしらの事情、もしくは幸運が舞い込んだかだろうな」


 契約詠唱に手を出すなど、伊達や酔狂でできることではない。


「……気になるわね。その男」


 師匠がぽつりと口にした。そして、懐からクリアカードを取り出し、眉を寄せる。


「どうかしましたか?」


「んんー」


 師匠は軽く唸ってからこちらに目を向けた。


「後のことはマリアに任せる」


 は?


「貴方は次の試合までひたすら『属性共調』の特訓ということで」


「えーと、明日と明後日はアギルメスタ杯の残りの予選を観戦したいなー、なんて思っていたんですが」


「そんな余裕が貴方にあるわけ?」


 余裕は無いに決まってんだろ。


「いや、でも、相手の戦闘スタイルを勉強することも勝ち残るためには必要なわけで……」


「貴方ねぇ……」


 師匠はため息を吐きながら言う。


「貴方の今回の目標は、アギルメスタ杯の優勝じゃないのよ? もちろん、優勝はしてもらうけど」


 おい。おい!!


「貴方の魔法使いとしての価値を向上させる。戦闘慣れしてもらうことが目的なの。貴方、生死が掛かった戦闘が、いつも準備万端の状態で訪れるとでも思ってるわけ?」


 思ってないです。


「そりゃあ相手の能力が分かっているに越したことはない。けど、いつもそうなるとは限らない。未知なる相手の脅威を破れてこそ、それが貴方の本当の力なのよ」


「……了解です」


 頷く他無い。

 師匠は俺の反応に満足したのか、踵を返して訓練場を後にしようとする。

 が、その前に振り返ってこんなことを言った。


「マリアには特別厳しくやるように言っておくわ。予選突破して調子乗られちゃたまらないし」


「ちょっと!?」


 地獄の再来が確定した瞬間であった。







「なるほどねぇ~」


 学習院の敷地内に存在する学生寮、そのまりかの部屋にて2人は落ち合った。唯からの報告を聞き、まりかはうんうんと頷く。


「どう思われますか」


「違うね」


 まりかは躊躇いなく断言した。


「少なくともT・メイカーが変装したお姉ちゃんってことは無さそうかな」


「それでは」


「うん。天道家の幻血(げんけつ)属性ではないね。間違いない」


「……確かに、浅草の剣技に対して属性優劣は働いていなかったようには思いますが」


 まりかの断言が納得いかないのか、唯が自信の無さそうな声色で言う。


「まあ、そこはほら。使える人間じゃないと分からないもの、ってのもあるしね」


「そういうものですか」


「そうそう」


 お気楽な調子で応えるまりか。しかし、内心ではお気楽さからはほど遠い心理状態であることに、唯はすぐ勘付いた。


「……まりか様」


「なにかな?」


 笑顔で応えるまりか。それに胡散臭さを感じながらも、唯は尋ねる。


「もしやとは思いますが……、よからぬことなど考えてはいませんよね?」


「まっさかぁ~」


 手をぱたぱた振りながら、まりかは言う。


「流石に(ここの)つは解放しないって~」


「当たり前だこのアホンダラ!!!!」


 唯が吼えた。







 自分からMCへ、そしてMCから自分へと流れる魔力の伝達速度が、どんどん早くなる。

 魔力を魔法へと変換させるプロセスの無駄が、どんどん少なくなる。


 そしてそれに比例するようにして。

 俺の耳へと届く雑音(ノイズ)も、どんどん大きくなる。


「中条様?」


 シスター・マリアの怪訝そうな声色が、俺の意識を刺激する。

 ゆっくりと瞼を開ける。案の定、そこには怪訝そうな表情をしたシスター・マリアがいた。


 ……集中できていないことに気付かれてしまったか。まあ、気付くよな。


「いかがされたのでございますか? 先ほどから集中できていないように感じられますが」


「……すみません」


 予選Bグループの最中は、あまり気にならなかったはずなんだ。あの時は戦いで必死だったし。ただ、こうやって静かな所で座禅を組んで意識を集中させようとすると駄目だ。うるさい。はっきり言って耳障りだ。

 ここまで集中を乱されるようだと、MCを代えることの検討も必要か? いや、そうするとまた俺の魔力容量に合わない低スペックのMCを使わなければならなくなる。今日の予選をそのMCを使ってもう一度同じ戦闘スタイルで切り抜けられるか、と問われればNoとなるだろう。


 高スペックだが雑音(ノイズ)がひどくて集中できないMC。

 雑音(ノイズ)が無くて集中はできるが低スペックで魔法が発現しにくいMC。


 うむ。究極の二択だな。

 こうしてふたつを並べて考えてしまうほど、雑音(ノイズ)が酷くなるとはどういうことだ。昨日までは、……いや、予選の間まではそこまで気になるものではなかったというのに。


 ……。

 こうやって考えている間もさわさわさわさわ!!

 あーもう!! うるせー!!


「……中条様?」


「えっと、すみません。何でもないです」


 シスター・マリアの俺を見る目が不審者を見つけたときのそれに変わっているような気がするが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。


「何か悩み事でもございますか?」


「あー、そういうのはないので大丈夫です。それより今更なんですけど……。魔法世界って魔力濃度が高いせいで魔法ひとつとってみても馬鹿みたいな威力で発現できますけど、大闘技場内って普通ですよね? 何か仕掛けがあるんですか?」


「外界と合わせるためにという理由ではございませんが、大闘技場の決戦フィールドと観客席を隔てる障壁魔法を展開するために、周囲の魔力を吸い上げておりますから。魔法世界にしては、低濃度の箇所であるかと思います。他にも、危険地域に指定されているガルダーとここを比べても魔力濃度は違います。こうした地域ごとによって違う魔力濃度のせいで、天候はもちろん、季節すらも魔法世界は安定しないと言われております」


 なるほど。

 確かに『今日の季候は夏のち秋で晴れのちくもりです』とか、最初寝ぼけてんのかと思ったもんな。魔力濃度の違いでぐちゃぐちゃになっているのか。


「そのようなことよりも……、いかがでございますか? 『属性共調』習得については」


「……さっぱりですね」


 そう言うほかない。

 火属性と風属性の同調率が規定値に達したおかげで、シスター・マリアとの組手が無くなったのは嬉しいが、それだけだ。ふたつの属性を合わせるイメージと言われても、正直ピンとこない。


 俺が習得を目指す『属性共調』には、呪文詠唱が必要ない。『属性同調』にあって『属性共調』には無いのか、と思ったが、思い返してみれば確かにシスター・マリアが発現した時も詠唱はしていなかった。

『属性同調』を発現する際、シスター・マリアは『雷化(デルティオウス)』と唱えていた。つまりはこれが雷属性の『属性同調』専用の発現キーだろう。

 対して、シスター・マリアは『属性共調』を発現する際、まず火属性の身体強化魔法を発現し、その後で雷属性の身体強化魔法を発現してふたつの属性を混ぜ合わせていた。つまり、『属性共調』としての発現キーは無いということだ。それぞれの身体強化魔法を直接詠唱で発現してはいたが、俺は無詠唱で行えるから問題はない。


 これだけを踏まえた上で単純に考えるなら、呪文詠唱ができない俺が『属性共調』の習得を目指したのは、間違いではなかったと言える。

 ただ、実際に習得を目指すとなると、そう単純にはいかないらしい。


「どうにも異なる属性を混ぜる、っていうイメージが湧かないんですよね」


 火は火だし、風は風だ。混ざり合った状態が想像できない。


「中条様、念のために忠告させて頂きますが、履き違えてはなりませんよ。貴方様が目指すべきは『共調』でございます。決して『合成』ではございません」


「え? あ、ああ、そうですよね。もちろんです」


 混ぜる、って表現が『合成』のように聞こえてしまったか。そういった意味で言っていたわけではないんだが。そりゃあ火と雷を混ぜ合わせて合成なんてできるわけがないだろう。


 ……。

 ……待てよ。

 俺が目指しているのは『共調』。ふたつの属性を並列して発現させること。決して『合成』ではない。そんなことは分かっている。そのはずだ。でも。


 混ぜる。混ぜ合わせる。

 一緒に発現するものだからそういったニュアンスで喋っていたが、シスター・マリアの言うとおり、俺はどこかでそれを履き違えていなかっただろうか。

 火は火だし、風は風。ふたつが合成されるわけではない。そんなことは当たり前だ。


 ……。

 ふたつを一緒に発現する。けど、それは『合成』するわけじゃない。あくまで別々のものを別々に発現するわけで……。


「中条様……?」


 急に黙り込んだ俺を心配してか、シスター・マリアが声を掛けてくる。しかし、今の俺には答える余裕が無かった。

 なんとなく、何かを掴んだ気がした。







 T・メイカー 様


 七属性の守護者杯運営委員会です。

 アギルメスタ杯予選 B グループへの出場、誠にありがとうございました。

 厚く御礼申し上げます。

 T・メイカー 様 へ、今後の大会スケジュールについてご説明させて頂きます。


 グランダール52 予選Dグループ  (10:00~)

          本戦出場選手の紹介(予選Dグループ終了後、準備が整い次第)

 アギルメスタ01 本戦      (10:00~)

       02 本戦      (10:00~)

       03 スペシャルマッチ(10:00~)


 グランダール52の予選Dグループ終了後に、アギルメスタ杯本戦へと進まれました8名の選手紹介を行います。また、その場にてアギルメスタ杯本選の試合形式やルール等も発表致します。そのため、やむを得ない場合を除き、極力足をお運びくださいますようお願い申し上げます。


 本大会において発生した事故について、当委員会は一切の責任を負いません。

 怪我(程度は問わない)・死亡事故についても同様とします。大会会場には、高レベルの治癒術師も多数ご用意してはありますが、全ての事故に対処できるものではございません。


 遺書等が必要な場合は、大会参加前にご用意頂きますようお願い申し上げます。


 T・メイカー 様 のご健闘をお祈り申し上げます。

次回の更新予定日は、12月19日(金)です。

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