第15話 グランダール49 ③
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振り下ろした脚の軌跡に沿うようにして雷鳴が轟く。痛恨の一撃を見舞わされた牙王を中心として、決戦フィールドの一部が大きく隆起した。
『決まった!! 決まったー!! アリサ選手の踵落としが炸裂ーっ!!』
『しかも全身強化魔法「迅雷の型」を纏った一撃だよ。これは致命傷かもしれないね~』
マリオとカルティの言葉に、観客席から歓声と悲鳴があがる。一部からはアリサの技能を賞賛する拍手が送られた。
その賛辞を一身に受けたアリサは、
「……これは」
自らが引き起した惨状から視線を外し、周囲を見渡す。
変化は直ぐに訪れた。
アリサは舌打ちしてから、その身に宿した全身強化魔法を解除した。
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『良い感じで盛り上がって参りましたね!! カルティさん!!』
『そうだね~、んん? アリサ選手が魔法を解除したね』
『おや? 本当です、せっかく発現した全身強化魔法を……、ん? カルティさん、何か視界が悪くなってきていませんか?』
マリオの指摘通り、直径400mもある決戦フィールドを、ぼんやりと白い靄のようなものが覆い始めていた。
『ご安心ください!! 決戦フィールドと観客席の間には高度な魔法障壁が展開されておりますので!! 魔法世界に充満する濃密な魔力を吸い上げて展開されている魔法障壁です!! ちょっとやそっとじゃビクともしませんよ!!』
観客席の最前列がざわつき始めたのを見て、マリオが先制して補足する。
『カルティさん、この現象は何なんでしょう?』
『どうやら誰か広範囲系の魔法を発現したようだね~』
「くそっ!? 急に視界がっ!!」
「これじゃあ、どこに誰がいるのか分からねぇ!?」
決戦フィールドの一部でも、動揺の声があがる。
『妨害系の魔法だよね。でも対象者ではなく全体に効力を……、煙? いや、これは……霧かな?』
『そう!! これは霧です!! いるでしょう!? 幻血属性「霧」を操る魔法使いがーっ!! グループ「無音白色の暗殺者」所属!! サメハ・ゲルンハーゲンだーっ!!!!』
「ちぃ、闇雲に武器を振るうわけにも――がっ!?」
「ひっ!? 今、そこにっ――ぎゃあっ!?」
「く、来るなーっ!? ――ひぐっ!?」
血に濡れた大振りの鎌が出場者を襲う。音も姿も無き襲撃者に、成す術無く鮮血が吹き荒れる。
「……大丈夫。命まで獲りはしないヨ。こんな公の場で惨殺なんて品がないからネ」
白き襲撃者は言う。
「があっ!?」
また1人。
脚を狙われた出場者は、鎌の餌食となり地面に伏した。
「ふひひ。視界を奪われた魔法使いなど、ただの赤子も同然だヨ」
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「……また面倒な魔法を持ち出してきたヒトがいるみたいね」
乱れた金髪を掻き揚げながらアリサが呟く。
霧属性の空間掌握型魔法。
これは決して出場者の視界を奪うことだけが目的では無い。自らの雷属性の魔法を封じるために使用されたのだということを、アリサは直ぐに察した。
現段階でアリサが使用した魔法の種類は3つ。
RankC『雷の球』。
RankB『迅雷の貫通弾』。
RankA『迅雷の型』。
どれも雷属性を付加させて扱う魔法だが、決戦フィールドを覆うようにして展開されている霧属性の魔法とは、どれも相性が悪い。
ただ、相性が悪いと言うのは、優劣の話ではない。
アリサは無言のまま、そっと自らの頬を撫でた。
指先が濡れている。
濃度の濃い霧の中で、自らの雷属性の魔法を発現させればどうなるか。
アギルメスタ杯のルールでは、戦闘不能の者と戦う意思の無い者へ、故意の攻撃を禁止している。雷属性の魔法を発現し、それが霧を伝って標的以外の戦う意思が無い者が感電した場合、それは故意の攻撃となり得るのか。
現状、アリサに確認する術は無い。
「……ひとまず、ここは離れた方がよさそうね」
一寸先は闇ならぬ、濃霧。もう自らがカチ割ったフィールドの隆起すら目視で確認できないところまで濃霧のレベルは進んでいる。
この状態で牙王から標的にされてはたまらない、とアリサはその場から姿を消した。
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『んー、これはちょっと実況しにくい状況ですねー』
『濃霧状況を語ったところで観客のみなさんは納得してくれないからね~』
マリオとカルティの場繋ぎの会話に、一部の観客席から笑いが起こる。
決戦フィールド内も、この状況にどう動いていいのか手を拱いている出場者が多いようで、先ほどまでの地鳴りのような咆哮や剣戟、炸裂音は落ち着いてきている。戦いを継続している場所もあるようだが、それはごく一部だ。
決戦フィールド脇で待機し、気絶した者や戦いを放棄した者を戦線から離脱させる担当、いわゆる大会側の魔法使いも、この状況下で何をするべきか首を捻っていた。
しかし。
その視界の悪い決戦フィールド内では。
着実に、事態は進行している。
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「むっ?」
剣戟音。
サメハ・ゲルンハーゲンは、自らの鎌が血肉を斬り裂く音ではなく、同じ刃を持つ何かに弾かれた音を奏でたことに眉を吊り上げた。
ただでさえ細いキツネ目を、更に細めて後方を見据える。濃霧の中、その眼はゆらりと動く影を捉えた。
「いやぁ、助かった助かった。アリサ殿の雷撃を纏った鎧をどう攻略しようかと頭を悩ませておったのだが、……これはおぬしの技でござろう?」
「……随分とふざけた口調の輩がいたもんだネ」
大振りの鎌を担ぎ直し、サメハは低く四つん這いのような構えをとる。ふざけた口調、と罵倒しておきながら、サメハは対峙している人間が相当な手練れであることを肌で感じ取っていた。
視界がほぼゼロのこの状況下。
無音で近付き、完全なる不意打ちだったにも拘わらず、対峙する人間はそれを弾いてみせたのだ。
「おや、日本語が理解できるのに、この口調を知らぬとは。これは先祖代々伝わる日本最強の戦闘集団『サムライ』の口調でござるよ」
飄々とした声色の主はそう語る。
サメハの目に映るその影は、決して構えているようには見えない。しかし、隙があるようにも見えなかった。
「我がパーティメンバーに日本人が1人いるからネ。しかしその口調は知らぬナ。時代錯誤も甚だしいことは理解できるガ」
「時代が進むことが過去の文化を忘れることと同義ならば、……それは実に悲しいことよな」
「ほざケ!!」
サメハが動いた。
地面を滑るようにして動くサメハは、一瞬にして対峙する人間の足元まで距離を詰める。
「しぇアッ!!」
一閃。
地を這うようにして横薙ぎに振るわれた鎌は、対峙する人間の足を斬り裂かんと迫り、対象者からは最小限の跳躍で躱されてしまった。
「ふンッ!!」
振るった鎌の遠心力をそのまま生かすべく、サメハは身体を一回転させつつ鎌の刃の軌道を上げる。
斜め一閃。
肩から首を一刀の元に斬り捨てんとする一撃も、対峙する人間は着地と同時に半身を流して躱した。
「良い太刀筋でござる」
「なめるナ!!」
振り上げられた鎌が後方の地に突き刺さる。その反動を利用したサメハの身体が宙に浮いた。振り上げられた足を掌で弾いた対戦者は、そのまま音も無く一歩下がって腰の得物に手を添える。
そして。
「日本『五光』に名を連ねる主が岩舟。拙者はその護衛、藤宮誠と申す」
突き刺さった鎌を抜き、細身の身体でありながらそれを悠々と振り回すサメハへ、藤宮は言った。
「以後、お見知りおきを」
藤宮が笠を指で弾く。
直後、目にも留まらぬ速さでの戦闘が開始された。
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「どこへ雲隠れしやがった、あの女ァァァァ!!!!」
遠くから、怒りの咆哮が聞こえてくる。
アリサは、ため息を堪えながら背後からの襲撃者を音も無く沈黙させた。
「逃げといて正解だったわね。雷属性が使えない状態であの獣を相手にしたくないし」
しかし、いつまでも逃げ続けているわけにはいかない。
視界の悪さが牙王との直接戦闘回避に一役買っているのは事実だが、同時にアリサの得意魔法を縛る枷であることも事実。
「……まずはこっちを潰さないとね」
地に伏した襲撃者に意識が無いことを確認してから、アリサはゆっくりと歩き出した。
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剣戟に火花散る。
2人の周囲にも出場者はいる。しかし、この2人の戦闘スピードについていけるほどの手練れは、残念ながらいなかった。
「ちぇえイッ!!」
大振りの鎌が空を裂く。自らの足元すらはっきりと黙視できない濃霧の中で、藤宮は的確にサメハの攻撃を回避していた。
片足を上げる。首を逸らす。横へスライドする。一歩後退する。上半身を傾ける。そして回避できない一撃には剣を添える。
あくまで最低限。
最低限の動きで、一撃で致命傷になり得る攻撃を回避する。
「なぜダ!? なぜ俺の攻撃が避けられルッ!? 見えてはいないはずダ!!」
サメハは焦りを覚えていた。自らの魔法服は、この濃霧に隠れるための白。手にした鎌も刀身から柄まで全てが白。
隠密性をここまで高めておきながら、相手には一撃を加えられる気配すらない。
そして。
「ッ!?」
藤宮の一振り。
間一髪で首を逸らすことに成功したサメハの頬に、一筋の線が走る。
通常の倍以上の間合いを空けたサメハは、じっとりと濡れる頬に手を添えた。鮮血が地面へと滴る。それをゆっくりと舐めとりながら、サメハは目を細める。
「解せぬナ」
「何がでござるか?」
抜身の刀身で自らの肩を叩きながら、藤宮が問うた。
「貴様、先ほどから身体強化魔法を使用しているようだガ、回避と攻撃、それぞれ一瞬だけのようダ」
「おぉ、そこまで見えているのでござるか。流石でござるな」
「安い称賛はやめロ」
自らの身長を超える柄を振り回し、サメハは言う。
「貴様の剣、一体型MCではないナ。魔法剣士ではないのカ」
「我が剣技に魔法を用いるのは、相手の身体速度に合わせるためでござる」
意固地になって魔法を用いず戦えば、いいように蹂躙されるだけでござるからな、と藤宮は朗らかな声色で続ける。
「なぜその魔力を剣に這わせヌ? 今の一撃、魔力を纏ったものだったなら、俺を倒せていただろウ?」
頬に付いた傷は思いの外深く、サメハは口元を痛みによって歪めた。
「……無粋だから、でござろうか」
「……何だト?」
サメハが眉を吊り上げる。
「MC一体型の剣など、それはもはや剣ではござらんよ。MCを用いて魔法球を打ち出すそれと何ら変わらん」
「その拘りが貴様の攻撃力に制限を強いているとしてもカ?」
「制限?」
藤宮が首を傾げた。
そして。
「おぬしはいったい」
その姿が消え、
「何のことを話しているでござるか?」
サメハのすぐ後ろから、その質問を放った。
「ッ!?」
サメハが後ろを振り向いた時には、既に藤宮の姿はそこにない。
代わりに。
サメハの右腕が痛みで悲鳴を上げた。
「ガッ!? いつの間ニッ!?」
左腕で鎌を振るう。それは虚しく空を切り、直後にその左腕に激痛が走った。
「がアッ!?」
痛みのあまり、鎌を手放す。円を描くようにして飛んだ鎌は、地面を抉りながら転がった。
しかし、サメハにその鎌を取りに行く猶予はない。続けざまに右脚と左脚にも激痛が走り、サメハは現状への理解が追い付くよりも先に跪いた。
「これ、……ハッ!!」
「捉えたでござるよ。サメハ・ゲルンハーゲン殿」
藤宮の声が、聞こえる。
「なんだト?」
痛みに脂汗を滲ませながら、サメハは周囲へと目を走らせる。しかし、その眼で藤宮を捉えることはできない。
刀身で自らの肩を叩きながら、霧隠れした藤宮は飄々とした声色で言う。
「おぬしは今、拙者に4回斬られたでござる。棄権されよ。勝負はついた」
「フ、ふふフふ」
ざわり、と。
サメハの全身の毛穴が逆立った。
「……そうカ。ふ、ふふフふ。ふふふふふふフふふふフふフふふふふ」
それは。
引き裂かれたかのような狂気の笑み。
「……それで隠れたつもりカ。それで、……勝利したつもりカ」
肩を震わせながら、サメハは呟くように言う。
周囲を覆っているのは、サメハの魔力によって生成されている霧。その霧に触れている存在は、例え目視で確認できていなくとも、サメハ自身は知覚できる。藤宮の魔力をこの戦闘で知っていたサメハは、無音で己に近付いてくる藤宮の存在が、手に取るように分かっていた。
「認めよウ!! 貴様はこの技を使うに値すルッ!!!!」
「む?」
藤宮の周囲。揺蕩う霧に含まれた水分が、瞬時に凝固する。
そして。
「『白霧の狂乱槍』」
視界360度。
藤宮の身体を貫かんとする槍の群れ。
それが、ただ一点。藤宮の心臓を狙い撃つ。
鋭い連撃が、音も無くその攻撃を完了させた。
「が、……ア?」
――――はずだった。
「藤宮流剣術・『空蝉』」
ぐるん、とサメハの眼球が上を向く。
「身体強化魔法は、瞬発力の底上げだけでも十分な効力を発揮するのでござるよ」
その声を、サメハは薄れゆく意識の中で聞いていた。
「楽しかった。安心召されよ、峰打ちでござる」
鞘へと得物を収める音が小さく鳴り響く。
その音と同時に、サメハの身体は地面へと崩れ落ちた。
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藤宮によるサメハ撃破と同時に、エルトクリア大闘技場の決戦フィールドを覆っていた霧が晴れ始める。
『おおっ!? 霧がっ!! 霧が晴れていきますよっ!?』
『どうやらサメハ選手を撃破した猛者がいるようだね~』
『決戦フィールド脇に控えていた救護班が、次々に倒れた選手の回収に向かっています。選手のみなさん!! 救護班は魔法服の上に黄色のゼッケンを付けておりますから!! 攻撃対象にしちゃ駄目ですよ!!』
『戦う意思の無い者、ということで失格にさせてもらうからね~。救護班の皆さんも、誤射にはくれぐれも気を付けるように』
実況解説コンビのマリオとカルティがスラスラと注意事項を述べていく。
『サメハ選手はどこでしょうかー。あー、結構負傷者も多いですねー。お子様連れの方は、お子様に悪影響が出ない程度の観戦にさせておいてくださいね!!』
『出血している選手が多いね~。サメハ選手の毒牙に成す術無く掛かったか、はたまた濃霧のなか我々の与り知らぬところで激戦が繰り広げられたのか』
カルティが唸るように言う。その直後、マリオが実況席から立ち上がって叫んだ。
『いた!! いました!! サメハ・ゲルンハーゲン選手!! だ、脱落だ脱落ーっ!! 今、救護班に回収されていきますっ!!』
『“白い死神”の異名を持つサメハ選手が、誰に撃破されたのかが気になるところだね~。自分の得意フィールドでやられちゃったわけだし、それを破った選手がこの中にいるってことだもんね』
白塗りの大鎌と共に決戦フィールドから退場させられるサメハを見つめながら、カルティは頬杖をついた。
『カルティさんのおっしゃる通りです。濃霧の中でいったいどのような戦闘が行われたのか。非常に気になるところではありますがっ!!』
興奮冷めやらぬ表情のまま席に着いたマリオが叫ぶ。
『さあ!! 出場者100名から一気に減ったぞ!! 残りは約20名といったところ!!』
『「猛き山吹色の軍勢」リーダーの牙王、アメリカ合衆国「断罪者」三番隊隊長アリサ、奇術師Mr.M。流石と言うべきか、本命選手はきっちり残っているね~』
『生き残りは約20名!! 勝ち残れるのは2名!! さあさあさあ!! ここからが見どころだぞーっ!!』
マリオの煽りに、エルトクリア大闘技場が沸いた。
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「小娘ェ!!!!」
「……見付かっちゃったか。まあ、見つかるわよね」
距離は約200m。
生き残りは19名。それでもその姿を一瞬にして補足した牙王が吠える。相対していた選手を体術のみで気絶させたアリサは、瞬時に周囲へ目を走らせ自らの魔法を発現させても大丈夫かを確認した。
そして、その一瞬の確認が命取りとなった。
「エル・ライクネルティ――、……はっ!?」
僅か2歩。
約200mの距離を僅か2歩で詰めた牙王が、その巨体からは想像できぬ程の速度で拳を振り被る。
その鉄拳は、アリサの知覚できる速度を遥かに上回っていた。
「――うっ!?」
間一髪。
一瞬にして距離を詰めてきた牙王から放たれた拳を、アリサは屈み込むことで間一髪その直撃を回避する。しかし、アリサの長い金髪は間に合わなかった。
ズパッッッッ、と。牙王の拳は、凄まじい音を立ててアリサの髪を両断する。
「ただの打撃じゃないっ!? ……切断、風属性!?」
「正解だ小娘」
牙王が右足を振り上げた。それは、アリサ本人を狙ったわけではない。その足は、決戦フィールドの地面を抉るようにして振り上げられた。
「っ、うぐっ!?」
バックステップでその蹴りを躱そうとしたアリサ。実際に牙王の足からは逃れられたものの、それによって撒き散らされた土や小石は避けきれなかった。咄嗟に顔をガードすべく腕を十字にする。土や小石は、ショットガンの如くアリサの全身をくまなく襲った。
腕や足、脇腹の魔法服が裂け、素肌が晒される。頬や額が裂け、鮮血が舞う。
それでも牙王は止まらない。
「全身強化魔法が貴様だけの専売特許だと思うなよ」
大した受け身も取れず、背中から倒れるアリサ。その際、不覚にも頭を強く打ち付けたのか、アリサは一瞬ではあるものの意識を手放してしまった。
――――それは、致命的なまでの隙。
「とどめだ小娘ェ!!」
跳躍。
牙王の振り上げられた足が、仰向けに倒れたアリサを狙う。
踵落とし。
先ほどアリサが雷属性の全身強化魔法『迅雷の型』で行った一撃を、牙王は風属性の全身強化魔法『疾風の型』にて再現した。
いや。
――――しようとした。
「むっ!?」
牙王の踵が、今まさにアリサへと打ち付けられようとしたその刹那の時間に。
藤宮の日本刀が介入した。
牙王の『疾風の型』が、強制的に解除される。
「っ!? ば、馬鹿なっ、――がっ!?」
その後の掬い上げ。
牙王の視界は訳の分からぬまま一回転し、その巨体は頭から地面へと撃墜させられた。
「藤宮流剣術・『泡沫』」
天地が逆に映る視界の中に、笠を深く被り、着古した剣道着を着用した青年が現れる。
「意識の無い女性を襲うのは、褒められた行為ではないでござるな」
「今のは貴様の仕業か糞餓鬼がァ!! 戦場で甘っちょろいことォ――」
牙王はすぐさま起き上がり、迎撃の構えをとった。
瞬間。
「現状、もっとも脅威なのは貴方だ。悪く思わないで頂きたいものですな」
牙王のこめかみに、ステッキの先端。
「『遅延術式解放』、『業火の弾丸』!!」
攻撃特化の火属性攻撃魔法。
RankB『業火の弾丸』が、奇術師Mr.Mの遅延魔法によってゼロ距離で炸裂した。