オマケ とある白石先生の文化祭模様
思いの外字数が。
ほぼ一話分の文量に……。
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「さあ、気合をいれていきましょ~う!!」
文化祭開始まであと10分。
クラスのみんなの気合いを入れるために、檄を飛ばします。
中条君がこの場にいないので全員ではないのですが、生徒会のお仕事なのですからしょうがないですよね。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
私の掛け声に全力で以って応えてくれるA組のみんな。
でも、なんかちょっと……。
「うおおおおおおおおしっ!! うおおおおおおおおおおおっしぃぃぃぃっ!!」
「っしゃあああああああ!! だらっしゃあああああああ!!」
「うおっしゃああああああああああ!! るおっしゃあああああああああああああ!!」
ちょっというか……。
「ああああああああああああああああああ!! たぎってきたぁぁぁぁ!!」
「負けてたまるか!! たまるもんかぁぁぁぁ!!」
……。
かなりみんなのテンションがおかしい。
負けてたまるかって、誰に?
★
文化祭開始のぎりぎりまでクラスのみんなと過ごし、教員室へと戻ってきました。
けど、なにか様子が変です。文化祭は無事にスタートを切れたはずなのに、教員室がざわざわとしています。
「どうやら、生徒会館の会議室にある窓ガラスが破損したようでして」
「えええええええっ!?」
思わず大声をあげてしまいました。
生徒会館の窓ガラスが割れた!?
なんで!?
午前10時。
無事に文化祭が始まったことに安堵していたところで、凶報です。
教頭先生が今、電話で詳しい情報を聞いているようなのですが、どういうことなのでしょう。生徒会のみなさんは、みんなみんな模範的な生徒さんなので普通はそんなことありえないはずなんですが。
教頭先生が受話器を置き、重苦しいため息を吐きながら椅子に座りました。
みんなの視線が教頭先生に向かいます。
「……どうやら外からおもちゃを投げ込まれたらしく、それで破損したようだ。容疑者は既に確保済み。これから御堂君がこちらへ連れてきてくれるらしい。長瀬君、指導室を開けておいてくれたまえ」
「分かりました」
指示された長瀬先生が素早く教員室を後にします。
「ほらほら。もう済んだことです。生徒会の面々が解決してくれたのですから。みなさん、各自仕事に戻ってください。私たちのせいで文化祭が失敗した、なんてことは許しませんからね」
手を叩き、教頭先生が集まっていた先生たちを散らせます。
先生たちも難しい顔をしながらも、徐々に自分の席に戻ったり、教員室を出て行ったりと行動を始めました。
それにしても。
おもちゃを投げ込まれた? いたずら? このタイミングで?
……中条君は大丈夫でしょうか。
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私の最初のお仕事は見回りです。
お仕事なのでいろいろなところを見て回らないといけないのですが、やっぱり最初は自分のクラスのところへ来ちゃいました。これはしょうがないですよね?
混雑する廊下を押し合いへし合い、ようやくA組のところまでやってきました。
「くそっ! 駄目だ! まだ売り上げで負けてる!!」
「落ち着け。確かに有利なのは向こうだ。雰囲気的に回転率が高いのは向こうだからな。こっちは落ち着いた雰囲気を売りにしているだけに、回転率が悪い」
「何言ってんだよ将人!! 落ち着いてられるかよ!! これで負けてみろ!! 中条に春が来ちまう!! そんなのはぜったいに許せねぇ!!」
順番待ちの列は順調に伸びているようで、今のところ問題無いように見えるのですが、文化祭実行委員に選ばれた本城くんが何やら揉めています。
「あのぉ」
何かトラブルでもあったのでしょうか。
そう思い、声を掛けてみることにしました。
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私は今、とても怒っています。
本城君の話によると、中条君はどうやらC組の女の子と賭けをしていて、お互いのクラスの売上げで勝負し、勝った方が何でも言うことを聞くという無理難題を突き付けているそうです。
許せません。
女の子の想いをそんな形で弄ぶなんて!!
これはお説教が必要なようですね!!
しかし、肩を怒らせながら歩き回っているのですが、一向に中条君が見つかりません。
一度生徒会館にも顔を出してみたら、会計の蔵屋敷ちゃんから中条君は見回りに出ていると教えてもらいました。
つまり、これはもう歩き回るしかないわけです。
でも、ぜったいに見付けます。
見付けたらおしおきです。
窓ガラスが割られたっていうから心配していたのですが、無駄だったようです。混乱に乗じてそんな賭け事をしてるなんて。
心配して損しました!!
★
校内を歩き回ってみましたが、中条君は見つけられませんでした。
人も多いし、同じ廊下ですれ違っていても気付かなかった可能性もあります。
「うーん。どうしましょうか」
そう悩んでいると、A組のクラスがある廊下へと戻ってきていました。
わ、わざとじゃないですよ? 無意識のうちにです。そりゃあクラスのみんなのことは気になりますから、ここに来たかったという思いはありましたけど。
そんなことを考えながら歩いていると、すぐ隣の扉が開きました。
「ありがとうございました~。あれ? 白石先生じゃないですか。こんにちは~」
「はい、こんにちは」
C組の女の子から声を掛けられたのでお返しします。
そういえば、このクラスも私のクラスと一緒でメイドさんなんですよね。
「順調なようですね」
「はい~、見ての通りですよ!! あ、そうそう。中条君にありがとうございました、って伝えておいてもらえますか?」
「え? あ、はい。何かあったんですか?」
中条君にお礼?
なんだ、中条君。ちゃんとお仕事してるんですね。
お説教は必要ですけど、仕事は仕事でちゃんとしてくれているようで、少し安心しました。
「いえいえ、何かあったわけじゃなく。ただ、ご利用ありがとうございました~、って意味ですよ」
……。
「明美~!! 何してんの早く運んでー!!」
「あ、ごめ~ん!! じゃあ白石先生、失礼します。お疲れ様です!!」
「え、ええ。お疲れ様」
……。
やっぱりお説教は必要なようですね。
★
「中条なら、さっきまでいましたよ。ここに」
クラスに戻ってみると、そんなことを言われました。
すれ違いでしたか。
それにしても、クラスの様子はちゃんと確認しにきてくれてるんですね。
そういう心遣いは大切だと思うのです。
生徒会で出られないからと言って割り切るのではなく、クラスの一員としての自覚があるのはたいへん結構なことだと思います。
お説教は必要ですけど、少しだけは大目に見てあげてもいいです。
やっぱりクラスのことになると、ちょこっと甘くなっちゃいますね。
私の悪いくせかもしれません。
「まあ何と言うか、客としてですけどね。なんか、『五光』の双子のお嬢様と、花園さんと姫百合さん囲って談笑してましたけど」
……。
★
教員室での仕事を終え、少し遅めの昼食を取り、再び見回りを始めました。
今度は外を重点的に回ります。
クラスのみんなのことは気になりますが、ひとまずぐるりと一周してみましょう。
中条君も見つかるかもしれませんしね。
そんなことを考えながら屋台の通りを歩いていると、
「白石先生!! これあげます!!」
「こっちもおすそわけです!!」
「ちょっと作り過ぎちゃって!! 持っていってください!!」
屋台で食べ物を作っている生徒さんから、色々ともらってしまいます。
最初のうちはお金を払おうとしていたのですが、「いらないですいらないです」と言われてしまい、お金を出しても受け取ってもらえず、そのうちに両手がふさがって財布が取り出せなくなり、それでも押し付けるようにして渡され、ジェンガのように積み重なり、そして……。
「え? ありがとうございます。あ、ど、どうも。ちょ、持てない。ま、あ、も、もうそんな……、ああ~!?」
「おっと」
正面を歩いていた男性にぶつかってしまいました。
タワーのようにして積み重ねられていた食べ物たちは、当然のように落下して……。
しませんでした。
「あぶねーあぶねー。ははは、落っこちるとこだったなー」
「危ないじゃないよチャールズ。すみません。お怪我はありませんか?」
「あ、は、はいっ。大丈夫ですっ!!」
ぶつかってしまって男性に抱き着いたままだったことに気付き、すぐに離れます。
顔が真っ赤になってしまっているでしょうが、しょうがないのです。
だって、落っことしたはずの食べ物が……。
「う、浮いてます」
ここは魔法学園。
そして私は魔法の先生。
それでも驚きました。
不意打ちだったのに。こんなにたくさんの食べ物が一気に落っこちたのに。
1つも取りこぼさずに浮遊魔法を発現するなんて!!
まさか浮遊魔法なんて初歩的な魔法で、ここまで驚かされるとは思ってませんでした。
「おうそうさ。これが魔法ってやつだ!!」
ニット帽にサングラスの外国人さんが、胸を張りながら言います。
すごく流暢な日本語ですね。
「って、あんたからも魔力を感じるな。魔法使いか?」
「は、はい。ここで先生をやってます、白石はるかです」
「あー? センセイさん? おっと、これは失礼しました。通りすがりのチャールズです」
「……どんな自己紹介だい、それは」
隣の同じくニット帽にサングラスの男性がため息とともにそう言いました。……こちらは日本人でしょうか。
「あはははは。趣があっていいだろ? ほいほいほい」
通りすがりのチャールズさんは、笑いながらひょいひょいと指揮者のように指を動かしました。
すると、あちらこちらで浮いていた食べ物が、私が落っことす前のタワーの状態に戻っていきます。
「す、すごいです!!」
「え? センセイさんならこのくらいできるでしょう?」
「魔力の伝達がびっくりするくらいスムーズじゃないですか!!」
「ああ、そっちね。流石、センセイさんは見どころがちがう」
うんうんと頷きながら、通りすがりのチャールズさんが私の手元へとタワーを移動してくれます。
周囲の見物人は大喝采です。
「あ、あの」
「ん? なんでしょう。ああ、どこか運ぶんだったらお手伝いします?」
「い、いえ。……あの。こんなに食べられないので、良かったら……」
★
タワーの三分の二をお礼として差し上げ、通りすがりのチャールズさんたちとは別れました。
……それにしても、あのお顔。
どこかで見たことがあるような気がするのですが、気のせいでしょうか。
「うーん?」
首を捻りながら歩きます。
タワーはずいぶんと短くなったので、歩くのも楽になりました。
屋台の生徒さんたちには、あとでちゃんとお金を払って回らないと駄目ですね。
ともかく、一回教員室に戻りましょう。
これを置いてこないと。私、もうお昼食べちゃったんですよね。
「聖夜がようじょと歩いてたぁ~!?」
「え?」
昇降口へ向かっている最中、聞き慣れた声がしたので、そちらへ目を向けます。
そこには、本城君と、よく本城君と一緒にいる杉村君と楠木君がいました。
「どうしたんですか?」
「いやどうもこうも……って、白石先生どうしたんすか!? 成長期!?」
「ち、違いますよっ!!」
手にしているタワーを見て、本城君に飛び上がらんばかりに驚かれました。
これでも三分の一に減ってるんですよ……。
3人が手分けしてタワーを崩し、持ってくれます。
「あ、ありがとうございます」
「白石先生。将人の言う成長期は嘘でしょうけど、こんな無理するほど買い溜めしちゃ駄目ですよ。買い出しだったんですか?」
「あ、あはは。まあ、そんなところです」
杉村君に注意されてしまいました。
屋台の生徒さんたちは、みんな厚意でやってくれていることなので、悪者にはできません。
なのでそう濁しておきます。
「行き先は教員室かな。僕たちで運んでしまおうか」
「そだな~」
楠木君と本城君がそう言ってくれます。
お言葉に甘えて、一緒に運んでもらうことにしました。
★
「ありがとうございます。本当に助かりました」
教員室の先生方におすそわけとして渡して回り、ようやく食べ物が無くなりました。
手伝ってくれた3人にお礼を言います。
「いやいや、こっちもタダで食えたしお安いご用ですよ」
本城君が爽やかな笑顔でそう答えてくれました。
そう言ってくれると、私も嬉しいです。
「え、えっと。ところで……」
ずっと気になっていたこと。
さっき、中条君の名前が出ていた気がするのです。
「ああ、それなら……」
杉村君が苦笑しながら教えてくれました。
「3人で外の店を冷やかして歩いてたんですけど、なんか聖夜の奴が、小学校くらいの女の子連れて歩いてるの見かけて」
「小学校!?」
い、妹さんでしょうか? そ、そうですよね? まさかそんな……。
「でも、髪は金髪でどう見ても外国人だったんですよね」
金髪。
中条君は白い髪をしてます。
自分の魔力が高すぎたせいで色が抜け落ちちゃったって聞いてます。
もとは金髪だった? そんなことはないはず。中条君は日本人です。
「そ、その子と中条君はどこに?」
「いや、歩いてるのを遠目に見ただけなんで。ただ、少なくとも新館、本館があるこっちには来てないと思います」
……。
「そうですか」
「まあ、俺の見間違いかもしれませんけどね。とおると将人は見てないんだろ?」
「うん」
「あったりめぇだ!! 俺がそんなの見かけてたら聖夜の奴とっつかまえてその場で尋問だぜ!! ……って、白石先生?」
「ちょっと用事を思い出したのです。3人とも、休憩時間にありがとうございました」
ひとまず、生徒会館に向かいましょう。
★
「まだ戻っておりませんわ。 幼女? はて、そのような報告は入っておりませんが」
またしても空振りでした。
生徒会館会議室で待機していた蔵屋敷ちゃんは、怪訝そうな顔でそう答えてくれます。
「白石先生?」
「お仕事中に失礼しました。蔵屋敷ちゃんも頑張ってくださいね」
「は、はぁ……」
新館、本館には向かっていなかった。
生徒会館にも来ていない。
そもそも報告すらされていない。
小学生くらいの女の子。
金髪の外国人さん。
中条君が連れていた。
……。
★
「一回、聖夜にはがつんと言ってやった方が良いようね」
「わ、私が悪いんです!! さ、最近、中条せんぱいの前だと緊張してうまく話せなくて……。だから、中条せんぱいは悪くないんです!!」
生徒会館からの帰り道。
教会前の噴水のところで、聞いたことのある声と、よく知っている名前が私の耳に入りました。
そこには、メイド服姿の花園さんと姫百合さん。それから浴衣姿の女の子がいました。
「こんにちは。花園さん、姫百合さん」
「あ、はるかちゃん」
「あら、白石先生。お疲れ様です」
花園さん。そのはるかちゃんって呼び方やめてくださいね?
「こ、こんにちは」
浴衣姿の女の子が、少しだけおどおどした感じで頭を下げてきます。
あら? この子……。
「私の妹で、咲夜といいます」
「姫百合咲夜です」
もう一度頭を下げる女の子。
ああ、似ていると思ったら妹さんだったんですね。
……妹。
中条君が連れていたという女の子は……。
そ、そうだ。
「今、中条君のお話していませんでした?」
「え? あ、はい」
花園さんは、何か言い難そうに私から目を背けました。
あ。
そ、そうですよね。
生徒さんの話にいきなり首を突っ込む教師ってなんだか……。
「え、えっと。今日、私、中条せんぱいからお昼をごちそうしてもらって。そのお礼をどうしようかって相談させてもらってたんです」
姫百合さんの妹、咲夜さんが説明してくれます。
むりやり言わせてしまう形になってしまいました。
「そ、そうだったんですか。すみません。変に首を突っ込んでしまって……」
わざわざ人通りの少ないここまで来てから話しているのです。
人に聞かれたくない話だったに決まってます。
私のばかばかばか!!
★
3人に別れを告げて、すぐにその場を去りました。
「……悪いことをしてしまいました」
探し人の名前が出ていたので、思わず口を挟んでしまいました。
教師失格です。
……。
それにしても。
「目撃情報はいっぱいあるのに、どうしてこうも会えないのでしょうか……」
思わず、愚痴のようにそう呟いてしまいました。
最初は生徒会館の窓ガラスが割られたって言うから、心配していたのに……。
いつの間にかC組の女の子と賭けをしてるだとか、C組のメイド喫茶で遊んでただとか、A組のメイド喫茶で女の子と遊んでただとか、そんな情報ばかりが集まるようになって……。
……。
「……ん?」
外国の少女を連れて行方不明になっただとか、生徒会にそれは報告していないだとか、お昼は姫百合さんの妹さんにごちそうしてあげてただとか……。
……。
……、……。
……、……、……。
「すぅ~」
大きく息を吸います。
「はぁ~」
吐きます。
「すぅ~」
吸います。
「はぁ~」
吐きます。
「すぅ~」
吸います。
「はぁ~」
吐きます。
……。
よし。大丈夫です。
ちょっとだけ落ち着きました。
さて。
……チョーク、用意しておきますか。
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結局、その日は中条君に一度も会えませんでした。
あとがきは活動報告で、というスタイルに変更しました。