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第9話 異常事態発生?

 ……そろそろ食い終わっちゃうんですけど、俺。


 修平に300円を献上したお蔭で、今日も俺のメニューは素うどんのみ。

 残金は50円。……晩飯どうしよう。

 ラーメン頼まなくても替え玉(50円)だけって注文できるのかな?


 そんな場違いなことを考えつつ、器を持ち上げだしを啜っていたところで、ようやく今回の昼食会発起人である可憐が口を開いた。


「まずは自己紹介かしら。中条さんにきちんとご挨拶をした記憶がありませんし……。たぶん、花園さんは、妹とは直接の面識が無かったと記憶しておりますので」


 可憐がちらりと舞の様子を窺う。

 舞はそれに鼻を鳴らすことで応えた。

 ……もうちょっと淑女らしく振舞え。


「私の名前は姫百合可憐、貴方がたと同じクラス。この子は姫百合咲夜。私の妹で、1年Aに在籍しております」


「姫百合咲夜です。よろしくお願いします」


「花園舞よ。姫百合可憐、聖夜と同じ2年A組にいるわ。よろしくね」


「花園様のことは、お姉さまからお聞きしております」


「様はいらないわ。聖夜と同じ感じで結構よ。それで? 姫百合可憐からお聞きしているっていうのは?」


「え? 魔法がとても凄い方だって……」


「そ、そう……」


 舞が頬を少しだけ赤らめた。


「なに急に照れてぐあっ!?」


「ど、どうかされたんですか? 中条せんぱい」


「い、いや……別に」


 舞の奴……。

 テーブルで死角になってるからって、思いっきり足を踏んできやがった。


「私、照れてないわ。聖夜」


「そ、そうだよね」


 顔赤くしているくせによく言う。


「俺は言うまでも無いとは思うが……。中条聖夜だ。昨日付けでこの青藍魔法学園に転校してきた。よろしくな」


「よろしくお願いします」


「はいっ。よろしくお願いします、中条せんぱい」


 丁寧な返しで可憐が、ニコニコと笑いながら咲夜が返してくれる。

 お互いの自己紹介が終わったところで。


「昨晩は咲夜がお世話になりました。まずはお礼を言わせて下さい」


 可憐が、お辞儀の教本にでも載りそうな完璧な姿勢で頭を下げる。その言葉に舞が「昨晩って何よ」という視線を向けてくるが、ひとまず無視する。


「いや、たまたま足が向いた先に咲夜がいただけで、あまり気にすることじゃない。一緒に帰って来ただけだからな。それより、咲夜。お前、いつもあんな時間まで出歩いてるのか?」


 正直、夜な夜な徘徊するような性分には見えないんだが……。


「い、いえ。いつもってことはないです。あの日は、本当にたまたまで」


 俺の問いに、咲夜がぶんぶんと首を振る。


「個人的には、いくら学園内とはいえあの時間に外をうろつくのはお勧めしないが……」


 個人的にというか仕事的に。


「私もいつも言って聞かせているのではありますが……」


 俺の言葉に同調し可憐がため息を吐く。


「あ、いえ……その。今回で、やめにしようかと……」


「え?」


「お?」


 可憐の声と俺の声が重なる。


「そりゃどうしてまた?」


 今の可憐の様子じゃ、諭しても止めなかったように聞こえた。もちろん、こちらとしては都合が良いが……。


「その……。お願いは、もう叶いましたから……」


 俺の方へちらりと一度だけ目をやり、小さな声でぽつりと呟いた。


「へーぇ。随分と青春を謳歌していらっしゃるようですわねぇ、聖夜ぁ。転校2日目にしてもう? 手がお早いですこと」


「……その問答無用で殺気を振りまく感じ、やめない?」


 隣でどす黒いオーラを放ち続ける舞に、そう告げる。


「ふんっ。貴方がどこの誰と仲良くしようが、私には関係ないけどねっ」


 めちゃくちゃ関係ありそうにそのセリフを言うんじゃねーよ。


「咲夜は今日も朝から中条さんのことばかりで……」


「お、お姉さまっ」


 可憐が苦笑しながら話すのを、咲夜が慌てたように口止めする。


 ……頼む。

 咲夜の中で俺がどのように好感度を上げたのかは知らんが、これ以上舞に油を注がないでくれ。


「ふふ……ふふふ」


 ほら、明らかにヤバそうな笑い声漏らしてるし。


「だ、だって……。初めてだったんです。私のこと、お嬢様として扱わなかった人……」


 咲夜の言葉に、舞のオーラがぴたりと止まる。


 ……なるほど。そういうことか。


『け、敬語で……しゃべらないのですね』


 あの時の、咲夜の反応はこういうこと。


 今までは、自分が名前を言えば例外なく下手に出られていた、と。

 確かに、俺は身近に舞がいる分お嬢様相手でも物怖じしなくなってるから(それが良いことなのかどうかの言及は避ける)、あまり意識していなかったことではあるが……。


 咲夜からしてみれば初めての出来事だったというわけか。


「……貴方」


 舞が口を開く。

 可憐と咲夜が同時に舞へと視線を移した。


「貴方じゃなく、えー……咲夜……ちゃんの方。どんな祈りを捧げてたの?」


「……祈りというほどのことでは」


 咲夜はその問いに顔を更に赤くする。


「お友達が欲しい、と。私のことを特別に扱わない、友達が欲しいと願ってました。叶って、良かったです」


 相当恥ずかしいのだろう。

 顔を真っ赤にしながらも、俺を見て微笑んでくる。


 ずきんと、心の奥が傷んだ気がした。


「さて、そろそろ教室に戻りましょうか」


 話がうまく収まったことを読んだのだろう。可憐がさり気の無い所作で、昼食会の終わりを告げる。


「こ、これからもよろしくお願いします。中条せんぱい、花園せんぱい」


「本日はお付き合い頂き、ありがとうございました。今後も、姉妹共々仲良くして頂けると嬉しいです」


 姫百合姉妹は席を立ち完璧なる仕草でお辞儀をした後、食器を手に取り回収場所へと向かっていった。


「……聖夜、貴方」


「分かってる。それ以上は言わないでくれ」


 舞の目線が怒りから非難めいたものへと変わっている。

 そして、俺はその理由を十分に理解しているつもりだ。


 咲夜は、俺のことを『せんぱい』と呼び、俺を対等な相手として見てくれる友達だと思っている。

 しかし実際は……。


 俺はあくまで護衛対象として咲夜に近付き、縁を持っただけに過ぎない。仮に、仮にだが。もし俺が一般生徒として、この学園に入学あるいは転校してきたのだとしたら。

 俺は、夜の見回りなんか当然しなかった。そうしたら咲夜と接することなど無かったはずだ。もしたまたま教会で出くわしていたとしても、あの状況下ならば積極的に声など掛けなかっただろう。


 雇い主とボディーガード。

 俺と咲夜は、それだけの関係だ。


 対等なんかじゃ、ない。


「……行くか」


「言わなくていいの? 先延ばしにすればするほど後が辛いわよ。貴方は自業自得としても、あのコ泣いちゃうかも」


「雇い主からは影ながら護衛をしてくれと頼まれている。何らかのアクシデントでも起きない限り、俺からそのことを告げる気は無い」


「仕事人としては満点の考え方でも……。人としては最低ね」


「知ってるさ」


 だから余計に、性質が悪いんだ。

 依頼内容を逃げの口上に使っていることが、この上なく恥ずかしかった。







「聖夜ぁー、帰ろうぜー」


 終業チャイムが鳴った直後、将人から声を掛けられる。


「……そうするか」


 音を立てて椅子から立ち上がる。先に荷物を纏め終え、席を立ったところだった可憐と目があった。


「それでは中条さん。また明日」


「ああ、また明日」


 ぺこりと頭を下げてきた可憐にそう返す。その対応に満足したのか、彼女はにこりと笑うと、振り返ることなく教室を後にした。


「……聖夜。お前、何者だ?」


「その激しく心外な問いかけは何なんだ?」


 修平からの問いに不機嫌そうな声色を混ぜて返してやる。


「いや、だって転校2日目にしてあの難攻不落の2大お嬢様と、もうそんな関係になってるなんて……」


「どんな関係だよ!!」


 とおるの著しく誤解を招きそうな発言に全力で抗議する。


「聖夜ぁぁぁ!! このプレイボーイ野ろぶべっ!?」


「違うっつってんだろ!!」


 怪しい噂を助長しそうなセリフを吐きそうだった将人を、物理的な手段で黙らせる。


「はは。けど真面目な話、俺ら邪魔だったら多少の遠慮はするぞ?」


 修平が蹲る将人を見て苦笑しながら俺に提案してくる。


 ……気の利いた提案ではあるが、あいにくお門違いだ。


「いや、本当にそういったことは一切ないから」


「そうなのか? ……いや、お前がそう言うなら構わないんだが」


 俺の断言に修平が頷いた。


「そうかい? 少なくとも、あのお嬢様たちとの距離は断トツで君が近いと思うけどね」


「……どれだけこのクラスでアウェイなんだよ、あの2人は」


 ただ帰りの挨拶しただけでこれかよ。転校2日目で断トツでトップに躍り出るとか。


 ……っと。ん?

 懐で振動している物を取り出す。

 携帯電話がマナーモードという状況下にありつつも必死に自己主張を繰り返していた。


「何だ、電話か?」


 修平は質問しながら、さり気なく俺の携帯電話の画面が見えない位置に移動していた。


「いや、メール」


 見てみる。差出人は。


『花園 舞』


 ちらりと舞の席を見てみればいつの間に居なくなったのか、既にもぬけの殻になっていた。


 言いたいことがあるなら、帰る前に直接言っていけばいいものを。そう思いつつ文面を開いて、固まった。


『今日から見回り、私も付き合うから』


 ……あれ? 見回りしてること、教えたっけ?







「別に言われなくても分かるわよ」


 放課後。

 将人たちと帰宅し、改めて寮棟1階の共有スペースにて舞と落ち合った。先ほどの疑問を投げかけてみれば、当然でしょとばかりに返される。


「姫百合可憐が咲夜ちゃんに関するお礼を言った時点で分かってたわよ。『昨晩は』ってね。貴方は昨日の模擬戦以降、夕食までは私と一緒に行動していた。それなのに私の知らない出来事がある。ならばそれはいつ起こったの? 当然、答えは1つ。私と貴方が別れた後。あの時間から外に出るなんて、それこそ見回りしていたとしか考えられないじゃない」


「お前、進路間違えてるよ。魔法使い辞めて探偵目指せ」


 どれだけ鋭いんだよ。


「昨日はどんなルートで回ってたのよ」


「んー? あまり意識はしていなかったが……。確か最初に校舎、次に正門、部室棟にグラウンド、体育館回って……。で、教会だな」


「なるほど、そこで咲夜ちゃんに会ったってわけね」


「ああ、だから一か所だけ回れてないんだ」


「どこ?」


「生徒会室……じゃない。生徒会館か」


「あら、よく知ってるわね?」


 俺の口から出た単語を聞いて、舞が目を丸くした。


「ああ、昨日咲夜から聞いた」


「なるほど。けど、あそこまでは回る必要はないと思う」


「何で?」


「生徒会の人って、貴方が想像している以上のやり手よ。本当に同じ学校の生徒かしらって思う時あるわ」


「へぇ……」


 舞がここまで称賛するのは珍しい。昨日は咲夜が持ち上げているのかとも思ったが、どうやら本格的に凄い集団のようだ。


「生徒会館に身を潜めるなんて不可能でしょうね。彼らが見逃すはずもないわ」


「ふむ」


「もしかしたら……。そのうち貴方をスカウトに来るかもね」


「冗談だろ?」


 なんでだよ。お前らお嬢様2人と瞬く間に仲良くなったからか。


「学園内での『噂の転校生』の株は急上昇中よ」


「なぜ?」


「クラスメイトたちが、話しちゃってるからじゃないかしら。みんな別のクラスにも友達いるみたいだし。信じらんない」


 ……俺はお前のその思考回路が信じられないけどな。


「呪文詠唱が使えないのは事実。それを逆手に取った転校理由だったんでしょうけど、完全に裏目に出てるわね。詠唱ができないにも拘わらず、それなりのやり手だって認識にすり替わってるみたいだから」


「そうか、まいったな」


 クラスメイトに口止めするわけにはいかない。止めようがないぞ。


「でも実際のところ、任務にはあまり支障はないんじゃない? それなりのやり手(、、、、、、、、)ってところがミソよ。貴方が模擬戦で派手に気絶したお蔭で、それほどのインパクトにはなってない。本業の敵からしてみれば、そう注目すべき事柄でもない。それに、敵がいるのかどうかは別として、噂話まで聞きつけられるところに潜伏できるのなら、とうに姫百合可憐なり咲夜ちゃんなりにアクション掛けてるわよ」


「……そう、だな」


 確かに、舞の意見は的を射ていると思う。この学園はほぼ外界から隔離されている空間だ。噂程度の話が外に出ることは考えにくい。


「あまり根をつめない方がいいと思うわよ。考え過ぎるのは貴方の悪い癖。相手の偶像を勝手に作り出すと、いざという時体が動かないわよ」


「ああ」


 その舞の言葉で、ひとまずこの話はやめにする。


「それで見回りについてだけど」


「……本当にお前もやるのか?」


「もちろん。安心して、ちゃんとこのコも持ってくから」


 舞はそう言って今まで抱きしめていたものを差し出してくる。


「……こいつか」


 それは、帰国した初日。


 舞の部屋で目撃したエメラルドグリーンのクマのぬいぐるみだった。


「クマシリーズねぇ。力任せの戦闘ならばっちりだが……。見回りには不適切だな」


「じゃあ、後で私の部屋にでも跳ばしといてよ」


「できるか。お前の寮の部屋に行ったことないし、そんなあっちこっち物を跳ばせるほど便利な能力じゃねーよ。他にストックは無いのか?」


「一応、ウサギが2つあるけど」


「そっちの方がいいだろうな」


「ん。分かった。けど、このコも念のため連れて行くわ」


「仮に戦闘になったら心強いかもな。とはいえ、実際のところ来ないんじゃないかと踏んでいる」


「あら、どういう風の吹き回しかしら。学園の障壁に惚れたの?」


「……微妙な言い回しではあるが、その通りだ。昨日確認して痛感した。ねずみ一匹通す隙間も無いな、ここは」


「だから言ったでしょ? 護衛なんて必要ないのよ」


「そうであることを願いたいね」


 ぐるりと見渡しながらそう告げる。


 ある物に目が留まった。


「……公衆電話なんてあったのか」


 ロビーの一角。


 少し壁の奥まった場所に、緑色をした電話機が2台置いてある。


「携帯持ってない子だっているのよ? と言っても公衆電話が設置してある場所なんて、ここと教員室前だけだけど」


「そうなのか。まあ、そんなあちこち設置する物でもないしな」


「それもそうね。それで見回りは何時からかしら」


 ちっ。

 うまく誤魔化されておけばいいものを。


「夜10時にここに集合だ」


「10時って……。門限ジャストじゃない。出られないわよ?」


「跳ぶ」


「ああ、なるほど。流石ね。って、まさか咲夜ちゃんに教えたんじゃ……」


「いや、身体強化でベランダまで上がって、窓から入った」


「あっそ。一応の線引きはできてるみたいね」


「一応ってなに!?」


 ジト目で言われ、心外だとばかりに呻く。


「まあいいわ。じゃあ、そんな感じにしましょうか。それで聖夜、今日の夕食は?」


「今から食うところだ。一緒に行くか」


「うん」


 一緒に食堂へと足を向ける。


 無論。

 麺だけを注文するという奇特な行動を取る俺に対し、舞が白い目で見ていたことは言うまでもない。







 転移魔法で寮棟のセキュリティをやり過ごし、外へと出る。曲がりくねった並木道を歩き、学園の十字路に当たるところで舞が駆け出した。


「じゃ、私はこっち行くから」


「お、おいおい。一緒に回らないのか?」


 個人行動を開始しようとする舞を慌てて呼び止める。


「なによ。敵が来ないって言ったのは貴方でしょ?」


「い、いや……。それはそうだが」


「なら、2人で真剣に1つずつ回るよりも、バラけてさっさと終わらせた方がいいと思うけど。今日明日で解決する問題でもないわけだし、毎日全力で回ってたら持たないわよ?」


 ……確かに言う通りではあるけれども。


「そういうわけで。私はこっち行くから。見回り終わったらここで落ち合いましょ。何かあったら連絡頂戴?」


「あ、おいっ!」


 舞はそう言うや否や走って行ってしまった。


「……ったく」


 あいつは一度決めるとそれに向かって突っ走っていく奴だからな。


 言っても無駄か。まあ、狙われてるのはあいつってわけじゃないんだし……。

 そこまで考えて、悪寒が体を走り抜けた。


 ――――あいつが狙われてないなんて、誰が決めたんだ?


 泰造氏の話では、狙われているのは『魔力の高い学生』だった。

 たまたま受けた護衛対象が可憐と咲夜であったというだけで、それは舞がターゲットから除外される理由には成り得ない。


 護衛の依頼を受けたことで、狙われるのは可憐と咲夜というおかしな先入観を持っていたが、そうじゃない。舞だって魔力が高いと称される魔法使いの家系のお嬢様。可憐や咲夜と何が違う。違わないだろ。舞だってターゲットになり得る。


 そう思い、舞の走って行った教会の方角へ足を向けようとしたところで。

 無意識の内に振り返る。

 声が、聞こえた気がした。


 耳を澄ましてみる。複数だ。

 聞こえてくる方角は。


「……舞が向かった方角とは、逆か」


 声はまだ聞こえてくる。平和的とは言えない色合いだ。

 そしてその中の1つに、聞いたことのある声も含まれていた。


「……この声、まさか可憐じゃあ」


 断言はできない。遠くから聞こえてくる声で聞き分けられるほど、俺は可憐と会話していない。

 それでも、あの綺麗な声色は……。


 おそらく、可憐だ。


 どのような手段を用いたかは知らないが、どうやら本当に敵は学園内に侵入してきたらしい。


 思わず舌打ちをする。

 携帯電話を取り出そうとして、やめた。


 舞に連絡するのは避けた方が良い。舞がターゲットになり得るのならば、一緒に連れて行くことは得策じゃない。俺1人でどうにかするべき。逆にできないような相手なら、それこそ舞は呼ぶべきじゃない。


 そう考えて、駆け出した。

 相手の侵入手口も、なぜ咲夜ではなく可憐の方がこの時間に外を出歩いているのかも、ひとまず棚上げ。


 とにかく、魔法戦になる前に駆けつける必要がある。跳んでもいいが、正確な位置関係が把握できていない以上、戦闘のど真ん中に現れでもしたら意図せぬ流れ弾でノックアウトされかねない。


 舞の方も心配ではあるが、仮に何かあるようなら舞は俺に知らせてくるだろう。そうすれば、場所を聞き出して直ぐそこに向かえばいい。


 明らかに、楽観論であることは承知の上で。

 ……まずは、こっち。


『今日明日で解決する問題でもないわけだし』


 不意に、先ほど舞が口にしていた言葉を思い出す。

 それに軽々しく同意していた自分に、吐き気がする。今更ながら、浅はかな考え方しかしていなかったことを自覚した。


 魔法使いのライセンスを取得したばかりの新米魔法使いに任せられる仕事じゃねーよ。そんな言い訳まがいの悪態を心の中で吐き捨てながら、俺は声のする方角へと足を向けた。

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