クレハ・アインの始まり
初めて書いた作品です!
ぶんッ!!!と木刀を振るう音が聞こえる。
音を聞くだけで相当な力が込められているのがよく分かる。
彼女は怒っていた。自分が16になったら冒険者として稽古を付けてやると言う約束を父が破ったからだ。
「クレハもういいじゃない、お父さんだってとても寂しそうにしていたわよ?」
母がもう許してやれと言ってくるが、そう安易と引き下がれるほど、優しい問題じゃない。
ボクのお父さんは凄い冒険者だ、冒険者のランクは最も高く、この世界全体でも6人しか居ない最上級冒険者なのだ。
そんな凄い冒険者に本格的な稽古をつけて貰えると、ずっと前から楽しみにしていたのに、急に仕事が出来たから稽古をつける事が出来ないと言われて、怒るなと言う方がおかしいのである。
「絶対に嫌だよ!お母さんだってもしずっと楽しみにしていた旅行が急に中止になったら嫌でしょ?」
「まあ…それはそうだけど…。」
ボクの言葉に母は言い淀む。
すると母の携帯から着信音が鳴った。
「あら、お父さんからだわ、もしもし、ええ、ええ………ほんとに?いいの?……わかったわ。」
数分ほど電話をした後、話し終えたのかお母さんが戻ってくる。
「お父さん仕事で暫くの間、戻って来れなくなっちゃったみたいなの、それでね、クレハにはお父さんの代わりに戦闘を教える人を用意したから、その人のところで稽古をつけて貰えって」
「ええ…お父さんじゃなきゃ嫌だよ…でも、ちゃんと他の案を考えてくれてたんだ。」
父が他の案を考えてくれた事に安堵し、胸を撫で下ろす。
父が稽古をしてくれないのは残念だが、父が頼んだ相手である、期待は十分できるとクレハは思っていた。
「それで、その稽古をつけてくれる人ってどんな人なの?」
「名前はエスタ・アエデス、ズィーベン学園の教師らしいわよ。」
「ズィーベン学園の教師!?」
ズィーベン学園、それは空中都市に存在する世界で最も大きい学園であり、異端境界防衛軍の戦士を育てる、育成組織でもある。
ズィーベン学園の教師は戦士を育てるだけあって、かなり強く、最上級冒険者程では無いが、それでも期待してしまう程の実力を持っていた。
そんな教師として最高級な人物に教えを乞う事が出来ると知り、目を輝かしていると、ある問題点が思い浮かんだ。
「ちょっとまって、ズィーベン学園の教師って、凄い忙しい事で有名だよね?ボクに稽古をつける余裕なんてないんじゃ無いの?」
ズィーベン学園の生徒は多く、6つ存在するクラスには1クラス200人以上の人物が在籍していると言われており、そんな大勢の生徒を捌くのはとても大変だと言うことで有名だった。
「だからクレハには、空中都市に行ってズィーベン学園に編入してもらいたいのよ。」
「編入か〜、てことは編入権獲得大会に出ないといけないのか。」
ズィーベン学園は基本、3年に1度行われる入学試験に合格した生徒しか入学出来ないが、年に4回、それぞれ四季に1回ずつ行われる、編入権獲得大会に出場し優勝することで、編入する事が可能になる。
「編入権獲得大会って優勝するのがめちゃくちゃ難しい上に、優勝しても担任教師に認められて、編入試験に合格しないといけないんだよね?ボクに出来るかな〜。」
少し不安がっていると、クレハに母が優しく励まそうと話しかけた。
「クレハ、あなたなら大丈夫よ、あの人の娘なんだから、それに、エスタ先生は赤組クラスの担任教師って聞いたわ、きっと認めてもらえるわよ。」
組クラスの担任教師は教師の中でも格段に強く、各クラスに所属する教師の代表的な教師でもある。
「そうだよね、ボクお父さんとお母さんの娘だもんね!絶対編入してみせるよ!」
母の言葉にやる気が上がったクレハは、絶対に編入して見せることを決意し、もう一度ぶんッ!!!と木刀を振った。
その音は怒っている様な音ではなく、少し楽しそうな音に聞こえた。