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第84話 再戦

 エリン、ネメときて、これから始まるのはかつてのパーティーメンバーを取り戻す最後の戦いだ。

 フォース・グランズ。『到達する者(アライバーズ)』のリーダーであり、エースアタッカーであった最強の剣士。

 もう取り戻すことはできないジンの相方でもあり、パーティー結成の決起人でもある。


 そんな人物を置いて、『到達する者(アライバーズ)』再結成などできるわけがない。

フォース抜きに『到達する者(アライバーズ)』は成り立たない。


「またオレの前にノコノコやってきたっていうことは、そういうことだと思っていいんだよな?」


「はい」


 フォースの鋭い眼光が突き刺さる。

 俺は物怖じする気持ちを振り切って、覚悟を告げた。


「フォースさんを納得させに来ました」


到達する者(アライバーズ)』が解散してから彼と会うのは、これが初めてじゃない。

 一度、パーティーの再結成を持ち掛けて断られた。

 このままでは絶対にダンジョン制覇は叶わないと。俺の実力不足を挙げて、現実を突きつけてきた。


その際、彼は条件を持ち出した。

もし俺がジンと同等の力があると認められるなら、パーティーに戻ってもいいと。『到達する者(アライバーズ)』を復活させてもいいと。

そのために今から俺はフォースに挑んで、勝たなくてはいけない。


「意気込みだけは充分なようだな」


「準備もしっかりしてきました。意気込みだけじゃありません」


 フォースとやり合える算段はこれまでの旅路でしっかりと揃えてきた。

 それだけじゃない。ただ、この場で勝つだけじゃ意味がない。

 もうダンジョン探索で足手纏いにならないように。みんなを引っ張れる存在になれるように。一人の冒険者として戦えるように。

 しっかりと鍛えて技術を身につけてきた。装備も整えてきた。


「勝ちに来ました」


「言うじゃねえか。お前とは何度か手合わせしてきたけど、オレに勝つ気で来るのは初めてのことじゃねえか?」


「そうかもしれません。昔みたいな甘ったれた気持ちは全部捨ててきました」


「そうか。戦う場所に指定とかあるか?」


「特に。ただ手加減なしの全力でいくつもりなので、思う存分暴れられる広い場所がいいですね」


 今回の戦いではミーヤとの決闘で使った場外戦術なども使う気はさらさらなかった。

 真っ正面から、ダンジョン探索で使う予定の戦闘技術のみで挑んでいく。


「わかった。なら、ここでいいか」


「はい」


 今、俺達がいるのは一回目に戦ったときと同じ、外の山の中である。

 後ろではロズリア、エリン、ネメが見守っている。

 フォースの弟子と思われるような人達も一回目よりは少ないが、ちらほらと見学に来ている。


「支援スペルとかはいらないのか? ネメがいるんだし、別にかけてもいいぞ?」


「大丈夫ですよ。ネメ姉さんには怪我をしたときの回復だけにしてもらいます。ということでよろしくお願いしますね」


「任せるです!」


 視線を向けると、ネメはドンと胸を叩いた。

 彼女はもう正真正銘の『到達する者(アライバーズ)』の神官だ。

 これなら安心して戦える。後ろに神官がついているのと、ついていないのでは雲泥の差だ。


「じゃあ、グダグダしてもあれだし、さっさと戦うことにするか」


「はい、そうしましょう」


「うっし!」


 掛け声をかけると、フォースは煌狛を抜いて、切っ先をこちらに向けた。銀色の刀身が太陽の光に照らされて輝いている。

 俺は両手を叩いて手袋の感触を確かめると、軽く握り拳を作って構えた。


「いいのか? ダガーは使わなくて」


「はい。色々考えた結果、自分には向いてないって結論になりました。結構練習しましたけど、しっくりくる感じが全然来ないというか。なら、無理しないで自分の得意なことで戦った方がいいって判断です」


 フォースは最強の剣士だ。紛うことなき格上の相手だ。

 そんな人物に数ヶ月で身につけた付け焼き刃の技なんて通用するわけがない。

 それよりは昔から自分が使えて、身に馴染んでいる技を活かした戦い方の方が信頼できる。


 そもそも、俺は剣の類の才能がからっきしないのだ。

 そんなの『到達する者(アライバーズ)』に入る前からわかっていた。

 野良で冒険者をやっていた時も剣を使っていたが、まったくといっていいほど上達しなかった。

 だけど、俺は盗賊の戦闘職になって、ジンの影響もありダガーを使うようになった。


 でも、盗賊の戦い方はそれだけじゃない。

 投擲をメインで戦っていたリース、そして体術を得意とするエイシャなど、世間には様々なタイプの盗賊がいた。

 自分の目で色々な世界に触れ、視野が広げることができた。


「じゃあ、行きますよ」


「おう」


 その掛け声とともに、場がより一層緊張感に包まれる。

 互いの了承。戦闘開始の合図である。


「……」


 攻撃をするにも何も、まず厄介なのはフォースのスキル【心眼】だ。

 こちらの攻撃を看破してくるそのスキルのせいで、いくら俺が有効打のある攻撃を放とうともいなされてしまう。


 だけど、【心眼】は無敵のスキルじゃない。

 過去にジンはこれとやり合っていたはずなのだ。

 だから、俺は――。


「――《絶影》」


 かつて『到達する者(アライバーズ)』にいた最速の男と肩を並べるようなスピードで駆け出した。


 より速く、より滑らかに。光を置き去りにする速度で。

 何度も見た、何度も身体で味わい叩きのめされた、陰影を正確になぞるように。


 ジンの《絶影》は今も瞼の裏に焼き付いている。心に刻み込まれている。

 忘れられるわけがない戦闘の光景。

 今度はそれを。偽物じゃなくて。

 ――本物にするんだ。


「――っ」


 フォースの顔が歪んだ。

 実際に目で見てないけど。そんな気がした。


《絶影》中はその速すぎるスピードのせいで、視野はあまりあてにならない。

 頼りになるのは《索敵》によって研ぎ澄まされた感覚だ。


 フォースは動揺しているはずだ。おそらく、多分。

そうでなくちゃ、それこそフォースに勝つ術がなくなってしまう。


かつてジンはフォースと渡り合っていた。その事実は揺るがない。

なら、どうして渡り合えていたか。理由は一つしか考えられない。


スピードだ。ジンの一番の武器がそれだから。

全ての攻撃が見破られるなら、対処されない速度の攻撃を仕掛ければいい。

フォースの反射速度が間に合わないほどの速度で攻撃を打ち込む。


「一撃で決める!」


一足で間合いに入る。

フォースの剣域。俺が今進んでいるのは、一瞬で刃が到達する危険地帯だ。


ジンがフォースと渡り合っていたということは逆もまた然り。

ジンの《絶影》にフォースなら反応することができるということだ。

迎撃のための刃が振りかざされたのを感じ取った。


俺の攻撃をいなすことは諦めて、そのまま真っ正面から迎え撃つつもりのようだ。

それを待っていた。

――躱されなければ、俺の攻撃は届く。


「ふっ」


 息を吐きながら左足を前に。後ろの右足に重心を込めて腰をねじる。

 右手は掌底の形に。力を溜めて、次の一撃に全てを出し尽くす。


掌底(ショット)》の構え。エイシャとの手合わせで身につけたアーツ。

 だけど、それだけじゃフォースには届かない。


必殺(クリティカル)》よりかは自信があるものの、それでも極めたというには程遠い技術。

 身につけてから日が浅い分、それは避けられない事実だ。


 俺が元より得意としていたのは一番に《索敵》、《罠探知》、《罠解除》、時点で回避アーツや《隠密》といった具合で、最後に攻撃アーツがくる。

 それはアーツを習ってきた順番そのもの。向き合ってきた時間分、技巧は研ぎ澄まされていった。

 だから、俺は最も昔に出会ったアーツのうちの一つを発動した。


――《罠解除》。


 手のひらに展開されていた魔法陣を起動する。

 正確に言うなら、手袋の布地の表面。魔法術式と親和性の高い、その布に込められたエリンの罠魔法、そのプロテクトだけを解除した。


 プロテクトを解除するということは、起爆スイッチを押すということだ。

 0.1秒より速い速度。《絶影》にも勝るスピードでプロテクトを解除すると、そのまま《掌底》を叩きつける。

 起動した罠魔法は《掌底》の威力に乗せられ、フォースに迫る。


「《魔法(スペル)掌底(ショット)》ッ!」


七賢者の放つスペルを0距離で。《掌底》に乗せて放つ。

それこそが俺が選んだ新しい戦い方。

パーティーの仲間と魔道具の力を借りた疑似的な魔法行使(スペルキャスター)系盗賊。

新しい『到達する者』の盗賊の戦闘スタイルだ。


「――ッ」


目の前で閃光が弾け飛ぶ。

エリンお手製の超攻撃型罠魔法。威力や性能に関しては安心できる。


罠魔法にも適正があり、全ての魔法を短期間でマスターする術を持った彼女にとって罠魔法なんてお手の物だ。

エリンの魔法なら、魔力を通して魔法が発動できる魔道具なんかより桁違いの威力になる。


罠魔法は通常魔法よりいくらか威力が減衰するというデメリットはあるものの、近接で当てられる分威力は高くなり、デメリットは打ち消せる。

よって、《魔法(スペル)掌底(ショット)》はダンジョンのモンスターにも充分通用するほどの威力を持つ技に昇華されていた。


今回は対人戦ということもあり、威力は少し抑えた術式を用意してもらっている。

だけど、至近距離で当てるには充分過ぎる威力。フォースに《魔法耐性・大》のスキルがなければ一撃で命を奪うほどの威力なはずだ。


衝撃波とともに腕を振り切る。

 掌から放たれた魔法はフォースを吹き飛ばし、そのまま後方の木々を薙ぎ払った。

 正面の地面は放射線状にえぐれ、ちょっとした爆心地みたいになっている。

 砂煙は舞い、フォースは既に見えないほどの距離に飛ばされていた。


「……」


 あれ? やり過ぎじゃないこれ?

 フォースにダメージを当えられるほどの威力にしてとは頼んだけど、まさかこれほどのスペルを仕込んでいたなんて。

 フォース、死んでないよね……?


 背後にいるエリンに目を向ける。

 彼女は得意げにそうに右手でグーを作っていた。

 どうやら伝達ミスではなかったようだ。ただ純粋に製作者が馬鹿だっただけみたいだ。


「思いっきり自然破壊しちゃったよ……。というか、フォースは? 生きてるの?」


 ネメと目が合う。アイコンタクトだけでこちらの伝えたいことは伝わったみたいだ。


「回復ですか? 任せてくださいです!」


 ネメが杖を掲げると同時に、背筋を震わせる声が聞こえてきた。


「おいおい。まだ戦いは終わっちゃいねえぜ……」


 本来なら聞こえるはずのない方角からの声。俺は慌てて振り向いた。


「いい一撃だった。昔のオレだったら、倒されていただろうな……」


「……っ」


 砂煙に浮かび上がる一つの影。刺々しく禍々しいオーラが接近してきている。

相対していた敵が未だ倒し切れていないことが、《索敵》からはまじまじと感じ取れていた。


「なんですか……それ……?」


 代わり映えした相手の姿に息を吞む。

 目の前にいるのはかつて俺の知っていた『到達する者』の剣士からはほど遠い、黒煙の鎧に包まれた剣士だった。


「『煉獄・纏』といったところだな。お前が強くなっている間、こっちも指をくわえて待っていたわけじゃないんだ。成長してるに決まってるだろ」


「それもそうですけど……」


 マズい。完全に予想外だ。

 フォースを仕留められると思っていた手が通用しないなんて。


 手袋に込められている術式は左右一つずつ。

 右は既に発動してしまったので、残るは左の一発のみだ。


 しかし、左の一発の威力は先ほど防がれた右と同程度しかない。

むしろ、利き手じゃないぶん、《掌底(ショット)》の精度は落ちる。俺の残された手持ちでは妖刀によって作られた鎧を突破するのは不可能に近かった。


エリンに別の高威力の術式を編んでもらえば、勝てる可能性も出てくるが、戦いの途中に第三者の手を借りるのは反則だろう。

そもそも、戦いの前に第三者の手を借りることがセーフなのかは怪しいところだけど……。


「じゃあ、第二ラウンド開始だ」


 そんなこちらの胸の内を知らずして、目の前の剣士は残酷な宣言をした。






 ***






 俺とフォースは戦いが終わった後、二人で話し込んでいた。

 会話の内容は専ら、先ほどの手合わせの話だった。


「へえ~この手袋で家一つ買える値段なのか。全然そうは見えねえけど……」


「そうですよね。元はただの布だったんですよ。それを加工してもらったんで、本当はもうちょっとかかってます」


「なるほどな~」


「ちょっと! 乱暴に伸ばさないでくださいよ! ちぎれたらどうするんです?」


 新兵器である手袋を、フォースは興味津々に触っている。

 その光景を俺は内心冷や冷やしながら眺めてた。


「そんなすぐ壊れたらダンジョン探索で使えないだろ」


「それはそうですけど……」


「それに結構頑丈そうだしな。ちょっとやそっとじゃ壊れそうにないな」


 フォースは手袋に興味を失うと、こちらにポイっと投げた。

 慌ててキャッチすると、抗議の目を向けた。


「投げないでくださいよ」


「いいじゃないか、そんぐらい。高いからって大切に扱いすぎだろ」


「当たり前じゃないですか! エリンに借りて買ったもんなんですから。使えなくなったらローンだけ残るんですよ!」


「あっ、自分の金で買ったわけじゃねえんだ……。そこはノートだな」


「買えるわけじゃないですか、自分のお金で」


 魔法都市に着いた時点で所持金は底をつきかけてたのだ。生活するだけで精一杯なのに魔道具なんて買っている余裕あるはずがない。


 幸いにも、エリンはここ一年のイザールでの活動でかなりの額稼いでいたみたいだし、パーティーを出ていくとき、ちゃっかりとある程度の金額は持っていっていたようだ。

 金銭的に余裕のある彼女に頼み込んで、魔道具代を貸してもらったというわけだ。


 あと、一応訊きたいんだけど、『そこはノートだな』って何?

 俺、そんなヒモみたいなイメージついているの?


 確かに以前使っていたダガーもエリンに買ってもらったし、靴や服などの装備も『到達する者(アライバーズ)』の活動資金から出してもらった金で補っていた。

 あれ? もしかして俺って自分の金で買った装備一つもない?


「……」


「どうしたんだ? 変な顔して」


「いや、気づいてはいけない事実に気づいてしまっただけです……」


「よくわかんないけど、そうか。まあ、それはいいや」


 フォースは軽く首を振ると、話題を変えた。


「でも、いいアイデアなんじゃね? 罠魔法を使うってアイデアは」


「そうですか?」


「攻撃スキルがないっていう欠点は大きいからな。他のメンバーの力を借りて戦いでもしないと、前線には立てないだろ。変に一人にこだわって戦われるより、全然脅威だわ」


「でも、負けちゃいましたけどね」


 結局、あの後のフォースとの第二ラウンドは俺の敗北という形で幕を閉じた。

《絶影》のおかげで即敗北という事態には陥らなかったが、それでも成長したフォースの力は目を見張るほどのものだった。


 しかも、俺にはそれが全力を出し切っているようには見えなかった。まだまだ何かを隠し持っていてもおかしくはない。

 さすがは元『到達する者(アライバーズ)』のエースという感じだ。


「約束は守れませんでしたね。戦う力は身につけましたけど、フォースさんには勝てませんでした。『到達する者(アライバーズ)』復活はまだまだってことですね……」


「そうか? そんな約束したか?」


 フォースは首を回しながら続けた。


「約束はジンと同等の力を身につけることだったはずだ。少なくとも成長前のオレに一杯食わせられるような実力は持っているようには思えた」


「それって――」


「まあ、合格ってことだな。まあ、継戦能力や一人じゃ魔法をセットできないっていう難点はある。そう考えると、ジンの方が圧倒的に上だけどな。でも、瞬間だけなら、肩を並べられる。むしろ、瞬間火力だけみれば上かもしれない」


 フォースが告げた意外な評価。そして、『到達する者(アライバーズ)』の復活を認められたことに胸が熱くなった。


「戻ってきてくれるんですね!」


「ああ」


「よかったです! これでもう一度ダンジョンに潜れるんですね!」


「喜ぶのはまだ早いだろ。新しいメンバーの目途も立っていない。課題が山積みだ。そんな簡単な話じゃねえよ」


「そうですけど、みんな揃うのでも大変な道のりでしたから……」


 俺がダンジョン攻略にもう一度挑む気になって。

 ロズリアにその事実を告げて、受け入れてもらって。

 七賢選抜に乗り込んで、エリンを連れ去って。

 ナクト達と話し合って、ネメを託されて。

 フォースと戦って、彼を認めさせることに成功させて。

 やっとここまで来た。五人が揃うことができた。


 ジンはもういないけど。それでもなんとか、彼が大事にしてきた『到達する者』というパーティーを再結成させることができた。

 背後に目を向ける。すると、残りの三人も寄ってきた。


「話は終わったです?」


「はい、一通りは。フォースさんも戻ってきてくれるみたいですよ」


「それはよかったです! これでノートが失敗してたら、『最強無敵パーティーず』を解散させた責任を取ってもらう必要があったです!」


「解散させたって人聞き悪くないですか? 別に俺が何かしたわけじゃないですし……」


「でも、ノートが戻って来なかったら、解散しなかったです!」


「もしかして、根に持ってます? それに俺だけじゃなくて、一緒にいたロズリアにも言ってくださいよ」


「そこで責任転嫁ですか⁉ だったら、追い打ちをかけたエリンさんじゃないですか? エリンさんが七賢選抜に勝ったせいで、ナクトくん達が気後れするようになったわけですし」


「そこで私⁉ ほら、ノート。私の弁護をしなさいよ」


「えっ……なんで俺?」


「手袋代」


「はい、エリン様。是非とも弁護させていただきます」


 お金を借りてから、俺はエリンに頭を上げられなくなってしまった。

 こればかりは仕方ない。早くダンジョン探索をして、お宝の一つでも見つけて返済したいところだ。


「なんか、全然変わらねえな、お前ら」


「そうですか? みんな、やっぱり所々は変わってますよ」


「そうです! ネメは大人っぽくなったです!」


「確かにネメ姉さんは成長しましたよね。かなり大人っぽくなりましたよ」


「ノート……お前、ネメにも何か弱みを握られてるのか?」


 疑わしい視線を向けてくるフォース。

 いや、そうじゃないんだって。フォースはネメのリーダーらしさを見てないからそんなことが言えるんだって。


 確かに見た目や発言は何も変わってないけども。

 何が変わったのか具体的に言えって言われても困るところだけども。


「それにしてもエリン。お前すごかったらしいな。なんでも七賢選抜で大活躍したんだろ?」


「あれ? フォース、そのこと知ってたの?」


「知ってたも何も、流石にあそこまで騒ぎになってたら、知らないわけないだろ」


「もしかして私って国中で有名になっちゃった?」


「当たり前だろ。今、国で一番話題の魔導士なんじゃねえか?」


「それって良い意味の有名ってことでいいのよね……?」


「どうだかな。良い意味と七賢者の立場を捨てるなんて馬鹿じゃねえのって意見が7:3くらいなんじゃね?」


「それならいいわ! 良い意味が七割もあるなんて、私にしては珍しいもの!」


 まあ、今までエリンは魔導士としての強さよりも、問題行動の悪評の方が多かったからね……。

 でも、それくらいで喜ぶのは悲しくなってくるからやめてくれない?


「早く世間の目を覚まさせてあげたいですね。エリンさんは、実はポンコツ魔導士ですよーって」


「何か言った? ロズリア」


「いや、エリンさんってチビで貧乳で目つきが悪くて、女性としての魅力が全然ないですよねって言っただけです」


「さっきより酷くなってんですけど! なんで訊き返す前より辛辣なのよ!」


「全部、本当のことだから仕方ない」


「フォースは黙りなさい」


 エリンはぴしゃっと言い放つ。

 いや、まあ全部が本当のことってわけはないと思うよ。少なくとも最後の一つくらいは訂正しておきたいし。


「エリンはチビで貧乳です!」


「ネメにだけは言われたくないわよ! 自分の姿を鏡で見なさいよ!」


「エリン酷いです……ぐすん……」


「ネメさんを泣かせちゃいけませんよ。エリンさん」


「そうだそうだ!」


「なんで、私が悪いみたいになってんのよ! 先に言ってきたのはネメの方じゃない!」


 プリプリと怒っているエリン。それをからかうロズリア。

 火に油を注ぐフォースと、素っ頓狂な発言をするネメ。

 一年ぶりの再集合だけど、なんか全然久しぶりって感じがしない。


 懐かしい『到達する者(アライバーズ)』での光景が目の前には広がっていた。

 きっとこれが、俺が欲していたもので、もう一度取り戻したかったものだったのだ。

到達する者(アライバーズ)』はここから再出発するのだ。


 ジンさん。俺はあなたのいないパーティーでもう一度だけダンジョン制覇に挑んでみます。

 あなたと叶えられなかった夢の続きを追い求めます。

 今は課題が山積みですけど、この五人がいればきっと上手くいきます。


 ジンさんが認めた五人だから。絶対できると信じています。

 だから、見守っていてください。きっとダンジョンを制覇してみますから。


 そして、『|到達する者』には偉大な暗殺者がいたと。

ジンさんが『到達する者(アライバーズ)』を作って、みんなを引っ張ってくれたおかげで偉業が成し遂げられたのだと、世間に知らしめさせます。


名でも功績でも何でもいい。正しいものを残したかったんだ。

そう語ってくれましたね。

今度は俺が恩を返す番です。

居場所と夢を与えてくれたジンさんの願いを、今度は俺が叶えてみせます。

 そう約束します。



5章これにて終了です。


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