第77話 七賢選抜
そんなこんなあって翌日。
あんな悶々とする出来事の後に、ロズリアと同じ部屋で一夜を過ごさなくてはいけないということで身構えていたのだが、長旅の疲れもあっていつの間にか眠っていた。
特に何もないまま、気がついたら朝だった。
その後は普通に朝食を食べ、予定通り1区へと向かうことにした。
街内を走る馬車は七賢選抜の影響もあって混んでおり、道も混雑していたため着いたのは昼前となった。
学園前で馬車を降りることにする。《索敵》を広げると、この学園の中央の塔にエリンがいることはわかっていた。
後は会いに行くだけだ。もう一度拒絶されることを恐れる気持ちはあったが会いに行かないわけにはいかない。
豪勢な石の校門を見据えながら敷地内に入った。
その中に待っていたのは綺麗に整備された花壇と、美しく水のアーチを描く噴水。
広がる石畳の上にはたくさんの観光客と、特徴的な柄のローブを着る少年少女が見受けられる。おそらくこの学園の生徒だろう。
教科書や杖を持ちながら仲間内で談笑している生徒もいれば、魔法によるパフォーマンスを観光客に行っている生徒までいる。
水の玉が生徒の周囲をぐるぐると回り、股の下を通したり観客の隙間を縫っていたりしている。
あれは《
魔法の聖地だけはある。一人一人の使う魔法のレベルが高かった。
広場を抜けると、目の前には大きな塔が待ち構えていた。
馬車からも見えた七本の塔の一本。1区の学園の中央校舎である。
塔を見上げながら中へ入ろうと足を進めると、横から声をかけられた。
「ちょっとキミ達、待ってくれ」
俺とロズリアは首を傾げながらも、声に従って立ち止まる。
駆け寄ってくるローブ姿の男。そのまま俺達の前に来ると口を開いた。
「キミ達、観光客かい?」
「まあ、そんな感じですかね……?」
「だったら、ここは立ち入り禁止だよ」
「えっ?」
まさかの立ち入り禁止とは。エリンに会うためにはどうすればいいのだろう。
「この校舎の中に入りたい時は――」
「普段は入れるんだけどね。七賢選抜のせいで観光客も多くなってるせいで、安全上の問題、今は生徒以外立ち入り禁止となっているんだ」
声をかけてきた人物の腰元に目を向ける。
ベルトにはサーベルが差してあり、どうやら彼は警備員だったようだ。
入口の前には他にも警備員らしき人が見受けられ、この学園の生徒は学生証を見せて校舎内へと入っていた。
俺達のような一般人で校舎内へと入っていく人は一人も見当たらない。
「マジか……」
中に入れないなんて予想していなかった。思わぬ足止めに肩透かしを食らった気分だ。
「どうしますか?」
ロズリアが尋ねてくる。
エリンが学園から出てくるところを待ち伏せるという手もあるが、思いっきりストーカーみたいだ。
「あの、すみません……。じゃあ、学園の人を呼び出してもらえることってできたりしますか? 知り合いなんですけど……」
「それなら大丈夫だよ。名前と所属を言ってくれないかな?」
随分と優しい警備員に当たったようだ。メモ用紙とペンをポケットから取り出してくれた。
「エリン・フォットロードっていう人なんですけど呼び出せたりします?」
その名前を出した途端、警備員の顔が曇る。
咳払いを軽くすると、彼はこちらに向き直って疑る視線を向けてきた。
「キミ達は本当にエリン・フォットロード知り合いなの?」
「そうなんですけど、やっぱり信じてもらえないですかね?」
「悪いけどね。状況が状況だからね」
案の定、予想していた通りの反応が返ってくる。
エリンと直接会えたら話がすんなりいっただろうけど、やっぱ第三者を介すとこうなるよな。
「本当に知り合いなんですから! 信じてくださいよ!」
しかし、状況をまだ理解していないロズリアは抗議をする。
「なんでエリンさんだと会えないんですか?」
「一応訊くけど、キミ達はエリン・フォットロードとどういう関係なのかな? ファンだったりしないよね?」
「ファンなんかじゃありませんよ! どちらかというとアンチです!」
「アンチだったらさらに会わせるわけにはいかないんだけどね……」
警備員は困ったように頬を掻いていた。
このまま放っておくと何余計なことを言い出すかわからない。
俺はまだロズリアに言っていなかった、エリンの重大な情報を告げることにする。
「警戒されるから、あまり変なこと言わないでくれない? 仮にも七賢選抜の候補者なんだからさ」
「その言い方だとエリンさんが七賢選抜の候補者ってことに聞こえるんですけど……」
昨日の夕食時にロズリアにはこの国における七賢者の立場と、七賢選抜というイベントの大きさについては語っておいた。
だから、この国の事情に疎い彼女でも俺の言わんとしている意味がわかるはずだ。
「七賢者ってこの国で最もすごい七人の魔法使いのことなんですよね?」
「うん」
「それこそ将軍とかに匹敵するような」
「そうだよ」
「それの候補にエリンさんが?」
「まあね」
「その候補者って何百人いる内の一人ってことじゃないですよね?」
「違うから。確か数人しかいなかったと思う――」
「数人じゃない。五人だ」
突然横から割って入ってきた声に驚く。
いつの間にか、俺とロズリアの向かいに一人の男が立っていた。
金髪のオールバックに険しい目つき。身につけているローブはこの学園でよく見かける柄のものだ。ここの生徒だろうか。
「これだから庶民は困るんだ。何も知らないくせに物見感覚で七賢選抜に興味を持ち出す。困ったものだ」
「一体誰なんですか、この人……」
いきなりの乱入者に戸惑いの声を上げるロズリア。俺としても全く同じ感想だ。
「俺様の名前か? ユイル・ヒュッペリン、この学園の高等教育科の四年だ」
「はあ……」
名前を言われてもピンと来ない。
この街に来たのも初めてのことだ。国中に名前が轟くようなよっぽどの人物じゃない限り知らないというのが正直なところだ。
どう反応しようかと辺りを見回していると、俺と同じような表情をしていた警備員と視線がぶつかる。
どうやらこの学園の警備員にも名前は知られていないようだった。別に有名人とかじゃなかったみたい。
「なんだ、その反応は? ヒュッペリン家の次期後継者の俺様が名乗ったのだぞ? もう少し驚いたらどうだ」
「この街に来るの初めてなんで、そういう事情全然わからないんですよね。すみません……」
とりあえず下手に出ておく。
話しぶりから推測するに、どこかの偉い身分の人間なのだろう。庶民とか言ってたし……。
ヒュッペリンという名を耳にしたことがないし、イザールの魔法貴族といったところだろうか。警備員も知らない辺り、中堅辺りの貴族かもしれない。
「ふん、田舎者か。なら、知らないのも仕方ないか」
勝手に納得してくれたようだ。目をつぶって頷いている。
「見たところ、七賢選抜を物珍しさに見学しにきたカップルといったところか。何も知らないで学園に詰め寄ってくる貴様らのような人間が一番困るのだよ」
随分とした言いようだ。初対面とは思えない高圧的な態度。
変な人に絡まれてしまった。
とりあえずこの場は切り上げて、後日出直すことにしようとロズリアに目配せする。
「カップルですって! 聞きましたか、ノートくん!」
ああ、ロズリアはもう役に立たなくなってしまった。
彼女の手を引き、ユイルへと頭を下げる。
「なんかすみません。迷惑かけてしまったみたいなんで、帰りますね」
「おい、ちょっと待て」
俺が立ち去ろうとする素振りを見せると、ユイルから声がかけられた。
引き留められると思わなかった。おっかなびっくりに振り向くと、ユイルは口を開いた。
「さっきからそこの警備員との問答を聞いていたが、貴様らは七賢選抜について全然知らないみたいじゃないか」
「そうですね……。勉強不足ですみません……」
「致し方ないか。いいだろう。この俺様が七賢選抜について色々と教えてやるか」
「それは悪いですから――」
「この俺様の貴重な時間を費やすわけだ。遠慮したい気持ちはわかる。貴様ら観光客だろ? 七賢選抜のシステムや候補者について知らないようじゃ何も楽しめないぞ」
「まあ、そうですけど……」
「この街に来るのにも旅費は掛かっただろう? 庶民がなけなしのお金を払って、七賢選抜を見に来たんだ。充分に楽しまなければ損ではないか?」
あれ? この人が説明を申し出ているのって、俺達のため?
口調こそは他人を見下しているけど、もしかしていい人なんじゃ……?
「でも、やっぱり悪いですし……」
申し出自体はありがたいのだけど、俺達は普通の観光客ではない。
七賢選抜を楽しもうとしているのではなく、エリンをパーティーに呼び戻しに来ただけだ。
七賢選抜の詳しいシステムや候補者について興味はあるものの、それだけの興味のために他人に手間をかけさせるのは申し訳なく思えた。
「謙遜は美徳だが、過度な謙遜は見苦しいぞ? 俺様が折角、知識を授けてやると言ったんだ。黙って従っておればよい」
「はあ……」
どうやら拒否権はないようだ。
善人であることは間違いないみたいだけど、人の話を聞かないのは困ったものだ。
あまり出会ったことないタイプなので、対応に困ってしまう。
実際のところ、このまま警備員と押し問答していてもエリンに会うことは出来なそうだ。
会うとしたら校舎の前で待ち構えるしかないだろうが、エリンがいつ校舎の外に出てくるかはわからない。
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エリンは早々現れる気配がしなかったので、暇つぶしがてら話でも聞くことにしよう。
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「最初からそうすればいいんだ」
ユイルは余計な一言を放ちながらも、機嫌が良さそうに鼻を鳴らした。
「ありがとうございます。なら、最初に七賢選抜のシステムについて質問していいですか?」
そう尋ねたのはロズリアだ。
両手を胸の前に当て、軽くお辞儀をする素振りを見せた。
「七賢選抜の候補者は五人いるとのことですが、どのようにして選ばれるのでしょうか?」
ユイルに話しかけられる原因となった候補者について、から質問をすることにしたようだ。
俺もエリンが七賢選抜に参加することはエイシャからの情報で掴んでいたが、七賢選抜の仕組みについては理解していない。
前回の七賢選抜は俺がチャングズの村にいた頃の話なので、初見も同然だった。
「候補者の選ばれ方は単純だ。簡単に言えば推薦制だな」
「推薦制ですか?」
「そうだ。基本的に推薦者はイザールにある六つの自治区の長となる。要するに学園長となるわけだ。とはいっても、一人の独断で決めるというよりは組織全体で候補者を決めて、学園長の名で推薦を出すという形になっている」
簡単にいうと、七賢選抜の候補者になるには学園の推薦が必要というわけか。
てっきり実力順で候補が決まっているのかと思っていたが、実際は違ったようだ。
「学園が推薦する者に制限はない。自分の学園の人間を進めてもよい。学園長自らが名乗り出てもよい。外部から連れてきた人間を推薦してもよい。コネと学園が推薦するに値すると認める実力があれば、誰でも候補者になれるというわけだ。現に今回の七賢選抜の五分の二は学園に所属していない生徒となる」
「エリンもその内の一人?」
「そうだ。あとは国お抱えの魔導士が一人だな」
「そうなんですね。でも、六つ学園があるのに五人しか候補者が出ていないっておかしくないですか?」
ロズリアはふと疑問に思ったようで、人差し指を頬に当てながら尋ねる。
「いや、おかしくないさ。推薦自体を辞退したんだ」
そう言って、ユイルは説明を続ける。
「各区の学園にも面子というものがあるからな。分不相応な人を推薦すれば、その学園の地位も落ちてしまう。今回の七賢選抜で、3区は情けない結果しか残せない魔法使いを選出するよりは、今回は推薦するに相応しい魔法使いが見つからなかったことにするという選択肢を取ったわけだ」
「へえ……」
なんか色々と面倒な事情があるんだな。
組織とか面子とか、そういった複雑な事柄に携わったことがないのであまりピンとはこないけど。
「で、どうやってその推薦者から七賢者を選ぶんです? 七賢選抜って具体的に何をやるんですか?」
「そんなのも知らないでこの街にやってきたのか。呆れるな」
俺の問いかけに肩を竦めるユイル。
だけど、彼は説明をやめる素振りは見せなかった。
「統括区――7区のことだな。そこの長を含めた幹部数人で決めることになっている。ただ7区の幹部役員は各区の学長が兼任しているため、実質全区の長の多数決という形になるな」
「それだと公平性がなくなっちゃわないですか? 自分の区の候補者を選ばせようとするんじゃ……」
「各区の学長だって立派な魔法使いだ。利権に目が眩んで、自分達が出した候補者を贔屓するわけがないだろう。彼らは魔法に対して真摯だ。魔法に対しては噓を吐かない。こういった感覚は魔法使いでない一般人の貴様らにはわからないだろうがな」
「はあ……」
「それにそういったことを回避するための措置もしっかり取られている。それが『10戦』と呼ばれる公開試合だ」
「『10戦』ですか?」
聞きなれないワードがまた出てきた。
ロズリアも俺と同じように首を傾げている。
「そうだ。要は大人数の観客の前で一対一の魔術試合をするんだ。それで魔法使いとしての優劣を示していくんだ。もちろんその他にも過去の功績なども反映されるが、民意が最も反映され、勝ち負けがはっきりする『10戦』の結果がそのまま七賢選抜に反映されるな」
「簡単にまとめると決闘で決めるようなものですか?」
「一般人の認識ならそんなもので構わないだろう。この街に来ている観光客も『10戦』を見に来ているようなものだしな。というか、それも知らないで観光しに来たのか?」
「まあですね。実は――」
そう断って、俺はエリンに会いに来た事情について話すことにした。
以前彼女とパーティーを組んでいたこと。とあるきっかけでパーティーが解散してしまったこ��。そして、またパーティー活動を再開しようと思っていること。
面倒見の良いユイルを説得することで、何とかしてエリンとのアポイントメントを取れないかという思惑を込めてだ。
この学園の生徒である彼なら塔の中にも入れるだろう。
しかし、ユイルはゆっくりと首を振った。
「残念だが、この俺様をもってしてもエリン・フォットロードに会うことは難しいだろう。彼女はこの街で最も注目を集めている人物の一人だ。七賢選抜も佳境となった今は万全の警護をつけられて近づくことも出来ない」
「本当ですか……」
どうしよう。もしかしてエリンと会えない感じか?
簡単にエリンと会えると思っていたが、事情はもっと込み入っていたようだ。
「となると、エリンさんと会えるのは七賢選抜の後ということでしょうか?」
「もしエリンが七賢者に選ばれたらどうするんだよ。パーティーに戻れなそうじゃない?」
「まず無理だろうな。七賢者に選ばれたものが、一般人の冒険者パーティーに入ることなど許されるわけない。国から仕事が割り振られ、個人の自由は大きく制限されるはずだ。役職には責任が伴う。簡単に辞められもしない」
国の将軍が冒険者になるわけにはいかないようなものだろう。
エリンが七賢者に選ばれた時点で『
「俺達としてはエリンに七賢選抜を思いとどまってもらわないとってことか……」
一体エリンはどこに向かおうとしているのだろう。
また会おうって約束はやっぱり嘘だったのだろうか。好きって言ってくれたのは嘘だったのだろうか。
エリンは自ら俺の手の届かないところに行こうとしていた。
もしかしたら俺のことなんてもうどうでもいいと思っているのかもしれない。俺の存在なんて忘れているのかもしれない。
『
「その辺りは問題ないだろう。今回の七賢選抜、エリン・フォットロードの負けは決まったようなものだ」
しかし、こちらの葛藤を無視してユイルは告げた。
それに食ってかかったのはロズリアであった。
「エリンさんの負けが決まったようなものってどういうことです? あの人、性格はあれですけど魔法の腕だけはすごいんですよ? 性格はあれですけど」
「なんで二回言った?」
「だって大事なところですから。性格審査とかあったら絶対落ちそうじゃないですか?」
「そうかな……」
別に俺はエリンの性格が悪いと思わないけどなぁ。
確かに口は悪いことは認めるけど。
「性格の問題なんかじゃないさ。単に七賢者になれるほど、魔術師としての実力が足りていないというだけだ」
しかし、ユイルから返ってきたのは予想もしていない答えだった。
「エリンの実力が足りていない?」
「そうだ。冒険者上がりの魔導士が勝ち抜けるほど七賢選抜は甘くない」
「冒険者上がりの魔導士が学園の魔導士より劣っているってことですか?」
「そんなこと当たり前だろう。わざわざ口にするほどのことでもない。なにせ魔法に向き合ってきた時間が違うからな」
ユイルはさも当然かのように言い放った。
「魔導の道に近道はないという格言がある通り、魔法使いにとってどれだけの時間、魔法と向き合ってきたかということだけが魔法を極めるために重要だ。冒険者の魔導士どもがモンスターと戦っている間も、学園の魔導士は己の魔導を極めるために研鑽しているわけだ。魔法の実力で負けるはずがないだろう」
「でも、エリンだってモンスターをたくさん倒してますよ? もしかしたらいい勝負になるんじゃ――」
「何もわかってないな、貴様は。確かに冒険者の魔導士の方がモンスターと戦うのが得意かもしれない。しかし、魔導士同士の戦いとなれば話は別だ。戦いのノウハウも圧倒的に学園の魔導士の方が上だ。そもそも冒険者の魔導士は集団戦に特化した戦い方しかできない。魔法の発動速度も遅い。魔法の操作性も疎かだ。モンスターを倒せる威力だけ突き詰めた魔法じゃ魔法使い同士の戦闘では勝てるはずもない」
集団戦に特化した戦い方か。確かにエリンの戦い方の特徴そのものかもしれない。
戦士などの前衛職が魔導士を守り、魔導士は有効打を与えるほどの威力が籠った魔法をモンスターに放つ。
それこそが冒険者の理想とされる固定砲台としての魔導士のあり方だ。
エリンはその道ではトップクラスの実力を持っているはずだ。
だからといって一対一で戦って強いかと訊かれたら、答えに困ってしまうところだ。
エリンのスペルは大威力だが、発動までに時間がかかる。発動したところで、技は大振りで、ある程度の速さを持ってすれば躱すことだって出来なくはない。
現にパーティーでダンジョンに挑んでいる最中、後ろから来たエリンのスペルを【偽・絶影】を使って避けることだって出来た。
俺とエリンが一対一で戦ったなら、俺が勝つことだってそう難しくない。
エリンの強さとは一対一で真価を発揮するタイプのものではないのだ。
「現に王都から来た魔導士は学園の魔導士に為すすべもなく敗け続けている。エリン・フォットロードは今のところ相性の良い対戦相手だったおかげで勝っているが、それも次で終わりだろう」
「そんなに次の対戦相手って強いんですか?」
「もちろん。今の時点で全勝している優勝候補だ。正確にいうと次の対戦相手というよりは今の対戦相手といった方が正しいがな」
「ん? どういうことですか?」
「それを説明するには『10戦』を実際に見たほうが手っ取り早いだろう。どうだ? もしよかったら、七賢選抜の『10戦』でも観に行くか?」
突然の申し出に驚いた。
確かにここまで話を聞いたら、実際に観てみたくもなる。
ロズリアと顔を見合わせ頷いた。
「それなら是非」
「でもすぐに観戦できるものなんですか? 観光客とか多そうですし、チケットを取るのも難しそうじゃないですか?」
「それなら問題ない。なんたって俺様にはコネがあるからな」
ロズリアの質問にユイルは自信満々に胸を叩いた。
コネという響きはあれだが、入手困難なチケットを手に入れられるのはありがたい。
「いいんですか? ありがとうございます!」
「助かります、ユイルさん」
俺とロズリアは素直に感謝の言葉を述べることにした。
ユイルはふんと鼻を鳴らして応える。
「俺様と関われたことを幸運に思うんだな」
「それで……チケット代っていくらくらいかかるんですか?」
俺達の手持ちはこの街への旅費だけで、だいぶ減ってしまった。
当日お金がなくて行けなくなったとかなったら困るので、一応確認しておくことにする。
「何を言っているんだ、貴様は?」
ユイルは一瞬顔を顰める。そして、口を開いた。
「この俺様が庶民から金を取るわけないだろ」
いいやつすぎかよ、おい。