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第72話 最強の味方にして、最強の敵

「フォースさん……」


 その姿を見つけ、一歩、二歩と近づく。

 彼もこちらの存在に気がついたようだ。琥珀色の瞳が見開かれる。


「ノートと……ロズリアちゃん……?」


「そうですよ。お久しぶりです、フォースくん」


「おぉ」


 その温かな返事に戸惑いを見せながら、フォースは苦笑いを浮かべた。


「こんなところでまさか再会するとはな」


「偶然じゃないですから。会いに来たんですよ」


「師範代、この人達と知り合いなんですか?」

 おそるおそるといった様子で横から声がかかる。

 フォースは軽く手を振って答えた。


「ああ。だから、そんな敵意むき出しにするなって」


「すみません。てっきり道場破りかと……」


「謝んなくていいって。勘違いだったんだろ? だったら責めねえよ」


 あっけらかんと言うフォース。軽くて淡白なその声色は昔と変わらないようで。どこか変わっているような印象を受けた。


「さあ、オレの客人だ。お前らはこんなところでさっさと修業でもしてろ」


 どう見ても年上の剣士をいとも簡単に追い払うと俺達へと向き合った。


「はるばる来てくれたわけだし、ゆっくり話でもするとするか。ところで――」


 フォースの目は一人の少女へと向く。


「誰だ? この女の子は?」


「どうもっ。ミーヤ・ラインって言いますっ!」


「そ、そうか……」


 勢いの良い自己紹介に、身を引きながらも返事をするフォース。

 咳払いをして姿勢を持ち直すと、口を開いた。


「で、どうしたんだ? どうしてオレに会いに来た?」


 やっぱり気になるのはそこだろう。

 一年近くぶりの再会。しかも別れを告げたはずの過去のパーティーメンバーからの来訪ときた。


 ただ遊びに来たとはわけが違うことは、彼もわかっているはずだ。

 だから、俺は回りくどい表現を避け、本題を切り出すことにした。


「『到達する者(アライバーズ)』を復活させに来たんです。もう一度、ダンジョンに挑みませんか?」


「やっぱり、か……」


 青みがかった髪を掻きながら、彼は言う。


「そんなことだと思ったよ。ロズリアと二人揃ってさ。来るとしたらそんな要件だよな。で、こちらのミーヤとやらは新しいパーティーメンバーか?」


「それが違うんですよね……。ただ偶々馬車が一緒になったというか……」


「ただ馬車が一緒になっただけで、どうしてここに来るんだ?」


「色々あったんですよ」


「色々あったか……。まあ、ノートっぽいっちゃノートっぽいか」


 どうやら勝手に納得してくれたようだ。フォースはミーヤの件に興味を失い、話題は元に戻る。


「で、オレとお前とロズリアで『到達する者(アライバーズ)』をやり直すってか?」


「エリンとネメにはこれから声をかけようと思っています」


「じゃあ、昔の五人で『到達する者(アライバーズ)』をやり直すってことか?」


「俺はそのつもりです」


 琥珀色の瞳を見つめながら言う。

 俺の覚悟が届くように。熱意が伝わるように。

 だけど、フォースは――。


「無理だろ、それは」


 あっさりとこちらの誘いを一蹴した。


「あのジンが死んだんだぞ? そのことを忘れたんじゃないよな?」


「……忘れるわけないですよ」


 忘れるわけないじゃないか。忘れられるわけがない。

 ジンは俺の恩人で。尊敬する人で。目標だった。

 昔までの俺はただその影について行っているだけで。後を追うことしか考えていなかった。

 だけど、もうジンはいない。自分で自分の未来を切り開かなくてはいけない。


「でも、『到達する者(アライバーズ)』での日常も忘れられないんですよ。楽しかったんですよ。最高に。だから、もう一度やり直したいと思ったんです」


「やり直したいと思っただけでやり直せるほど、現実は甘くねえだろ」


 フォースはこちらの想いを挫くように淡々と告げる。


「お前のやろうとしていることはただの無茶だ。無謀だ。何一つ現実的じゃない」


「そんなことないですよ。またみんなで集まれば――」


「みんなで集まれば出来るっていうのか? ダンジョン攻略が? ジンがいた頃の六人でも無理だったのに?」


「――っ」


 フォースの言うことは何一つ間違っていない。

到達する者(アライバーズ)』はジン含めて六人でもダンジョン攻略に失敗した。それも30階層あるうちの21階層でときた。

 ダンジョンは階層が深くなればなるほど、危険度は増していく。それをジン抜きの五人でダンジョン制覇なんて、ただの絵空事に近かった。


 だけど、ここで素直に引くわけにはいかない。引いたら『到達する者(アライバーズ)』復活の話が立ち消えになってしまう。


「もちろん新しいメンバーも探しますよ。六人揃えば問題ないでしょ?」


「そんなわけないだろ。どうするんだ? その新しいメンバーとやらは? 候補はいるのか?」


「まだですけど……。おいおい探していくつもりですよ」


「ジンより強い人間をか?」


「いや……それは無理かもですけど……」


「だったら話にならないだろ」


 目の前の青年はきっぱりと言い放つ。


「六人揃っても、以前より弱くなっちゃ何も意味ねえだろ」


「そうですけど……。でも、五人が前より強くなればいけるんじゃないですか? フォースさんは今まで修業してきたんでしょう?」


「おいおい、どんな無茶ぶりだよ。オレがジンの分まで強くなれってか? それって人に二倍強くなれって言ってるも同然だぜ?」


 フォースほどの実力の完成した人間が二倍強くなる。そんなのは無理に等しい。いくら過酷な修業をしたところで限界というものがある。

 彼の指摘通り、『到達する者(アライバーズ)』はジンがいなくなって弱体化が免れない。

 たとえ、個々が強くなったとしてもそれは誤差の範囲だ。21階層は突破できるかもしれないが、30階層まで制覇できるとは到底思えない。


「ということは、『到達する者(アライバーズ)』の復活には反対ってことですか?」


「当たり前だろ。ノートが一人でダンジョン攻略をするっていうなら勝手にしろって話だけど、その無謀な自殺には付き合わされたくないからな。オレだって死にたくはないし、何より仲間が死ぬのはもう勘弁だ」


「フォースくん、そんな言い方はないんじゃないですか⁉」


 先ほどから黙っていたロズリアが割って入る。怒りを隠さずに詰め寄るが、フォースは何食わぬ顔で返す。


「なんだよ。今は二人で大事な話をしているんだよ。邪魔するな」


「あのですね! ノートくんは色々考えて! 色々悩んで! この決断をしたんですよ! それを無謀な自殺って! あんまりな言い方じゃないですか⁉」


「だったらなんて言えばいいんだ? オレは事実をありのまま言ったつもりだけど?」


「そんな酷い人だとは思いませんでした!」


 フォースがロズリアに冷たい言葉を投げかけるのを初めて目撃した。彼はいつもロズリアに対してはイエスマンであった。

 そんなフォースがこうも言うということは、現時点ではこの意見を譲るつもりがないということだろう。


「見損ないました。フォースくんなんてもう知りませんっ!」


「そうかい。ロズリアちゃんも死にたくないんだったら、ノートから離れることだな」


「そういうこと言うんですね……。もういいです。ノートくん行きましょう」


 俺の腕を引いて、この場から立ち去ろうとするロズリア。

 それには応じず、俺はフォースの瞳を見つめて言った。


「だったら、どうしたら『到達する者(アライバーズ)』はダンジョン制覇をできるようになると思いますか?」


 フォースの力無くして『到達する者(アライバーズ)』の復活は不可能だと考えていいだろう。

実力的な問題でもそうだし、何よりパーティーの創設者であるジンもフォースもいなかったら、それは『到達する者(アライバーズ)』とはかけ離れた別のパーティーだ。


 それにフォースはダンジョン攻略をしたくないとは一言も言っていない。

ダンジョン制覇という目的の達成が現実的でないからと復活に反対しているだけだ。

 なら、ダンジョン制覇という目的の達成を現実的なものにすればいい。


「どうしたらフォースさんは『到達する者(アライバーズ)』に戻ってくれますか?」


「……新メンバーを探すこと。それは最低条件だ」


 ほら。やっぱりフォースはダンジョン攻略を諦めていない。だから、こうして具体的な方策を出してくれる。


「最低条件ってことは他にも条件があるってことですよね?」


「まあな。むしろ、こっちが本命だと思って構わねえ」


 フォースはそう断って告げた。


「お前だよ、ノート。お前が強くならなくちゃ話にならねえんだよ」


「俺が、強く……?」


「そうだ。お前が強くなるんだ。オレ達と足を並べるくらい。そして、ジンに代われるくらい」


 突然告げられた無茶とも思える要求。その真意を確かめるべく口を開く。


「どうしてそう思うんです?」


「当たり前だろ。ジンがいなくなって、『到達する者(アライバーズ)』の戦力は激減した。しかも、ジンの抜けた穴を埋めるほどの人材はそう見つからないときた。だったら、誰かがジンの代わりをしなくちゃならねえ」


「それが俺だと?」


「ああ。オレが二倍強くなるより、よっぽど現実的だろ?」


 なんと簡単に言ってくれるものだ。

 ジンに取って代わる。ジンと同じくらい強くなる。

 無茶だ。無謀だ。不可能に近い。


 ――でも、ダンジョン制覇よりかはずっと簡単かもしれない。


 これから俺達はそんな無謀なことに挑もうとしているのだ。

前人未到の秘境の踏破。今まで誰しもが叶えられなかった人類の悲願の一つを、たった六人だけで叶えようとしているのだ。

「それにお前がジンの代わりを務められれば、ダンジョン攻略に向かない盗賊系戦闘職(バトルスタイル)が二人いるという『到達する者(アライバーズ)』の弱点も克服できる。新しく入れるメンバーの幅も増える」


 フォースは真剣にダンジョン制覇について考えてくれている。『到達する者(アライバーズ)』のこれからについて考えてくれている。

 その姿は紛れもなくパーティーのリーダーであった。


「わかりました。俺がジンさんの代わりを務められるくらい強くなれれば、『到達する(アライバーズ)』の復活を認めてくれるんですね?」


「簡単に言ってくれるな。ジンと肩を並べるくらい強くなるってことは、要するにオレと同じくらい強くなるってことだぞ?」


 そう言って、刀を肩にかけ不敵に微笑むフォース。

 過去に彼の口から語られたエピソードが頭の中に過る。

 フォースとジンが最初に出会った時のこと。


ジンがフォースを暗殺しにやってきて、ジンとフォースが互角に戦って。フォースが戦いの途中で勧誘を始めたという『到達する者(アライバーズ)』の原初の歴史。

 その瞬間、二人の対等な関係は始まった。優劣も力関係もない、純粋に対等な関係。

その関係は強者揃いの『到達する者(アライバーズ)』の中でも、明確に特別な関係だった。


「簡単に言ってるわけじゃないですよ。フォースさんやジンさんの強さはいやってほど知っています」


 現にフォースやジンとの手合わせで、俺は一度も勝ったことがない。それどころか、一撃だって与えられたことはなかった。

ジンとなんて何百戦と戦っているにも関わらずだ。

「でも、そうするしかないんですよね? そうしないと『到達する者(アライバーズ)』が戻ってこないっていうなら、強くなるしかないじゃないですか?」


「言うじゃないか。まあ、口だけではなんとでも言えるけどな」


 フォースはこちらの言葉を鼻で笑うと、周囲で様子を窺っていた門下生の一人に向かって話しかける。


「おい、そこのお前。空いている稽古場あるか?」


「あっ、はいっ! 師範代が使うならどこでも空けておきます!」


「そこまではしなくていいから。とりあえず、適当な場所探しとくわ」


 丁重な返事をする門下生を軽くあしらうと、フォースは俺に向かって言った。


「まあ、ここで話していてもなんだ。さっさと腕試しといこうぜ」


 こうしてフォースを『到達する者(アライバーズ)』に取り戻すため試練が幕を開けた。




「ここでいいか」


「広さ的にもちょうど良さそうですね」


「それにしても外がいいなんて不思議なことを言ってくるもんだな」


 そう言って、フォースは辺りを見回す。

 ここは剣聖の丘の中腹。フォースがいた道場からは少し離れた荒地のど真ん中だ。


 ギャラリーにはロズリアとミーヤ、そして手の空いていた門下生がかなりの数来ている。

どうやら突然現れた部外者と、最強の剣士の戦いに興味津々なようだ。彼らは空き地の隅で俺とフォースを囲むように並んでいた。


「部屋の中じゃ駄目な理由でもあるのか?」


「ピュリフの街でフォースさんと戦ったときも外でだったじゃないですか? それに合わせようとしただけです」


 もちろん嘘である。ミーヤと決闘した時に使った《隠密》からの奇襲を決められる状況を狙ってのことだ。

自分の特技で戦うロケーションじゃなきゃ、フォースに勝つことは難しい。

 ギャラリーにいるミーヤは俺の狙いに気がついたのか、眉間に皺を寄せていた。


「まあ、いいか。どんな手を使おうとオレには勝てねえよ」


 こちらの手に気づいているようにも、気づいていないようにも見える返事がくる。

 フォースにとっては俺の小細工など気にするほどのことではないのかもしれない。そのくらい二人の実力差は隔たっている。


「やってみないとわからないじゃないですか」


 精一杯の強がりを持って、ダガーを引き抜く。


 完全な戦闘態勢。俺は既に全神経を目の前の剣士に向けているし、彼もまたこちらを仕留めんと鋭い眼光を向けていた。

 左手は鞘に。脱力した右手は柄に軽く添えられている。抜刀の構えだ。


「行きますよ」


「そういうのいいから。さっさとかかってこいよ」


 身体が弛緩しているのがこの距離からでも見て取れる。どうやら、そのまま迎え撃つつもりらしい。

 なら、その余裕そうな態度に甘えて――。


「《偽・絶影》」


 最速で駆け出した。後方に。そのままギャラリーの人ごみの中に潜んでいく。


「おっ、逃げたわけじゃないよな……。となると奇襲か」


 目の前の敵が突然消えたにも関わらず、フォースは余裕の態度を崩さない。

ここで即座にパニックにならない辺り、ミーヤという冒険者と踏んできた場数の違いが現れているように思えた。


「なあ、ここで質問だ」


 フォースはどこに向かって言うでもなく、言葉を投げかけた。


「ジンはどうしてオレを殺せなかったと思う?」


 ――そんなの決まっている。フォースがジンと同じくらい強かったからだ。

 心の中に浮かんだ答えを口にせず、俺は駆け出した。

一直線に。身体を弾丸と化して。鋭利な刃をフォースへと放っていく。


「――答えはオレに奇襲は通用しないからだ」


 そんな会心の一撃をフォースはいとも簡単に受け止めた。

 刀を抜かずして。腰に差した鞘の角度を上げ、斜め後ろからの奇襲に難なく対処してきた。

 それもこちらを一度も振り向くことをせずに。


「おい、ノート。忘れたのか? オレには《心眼》ってスキルがあるんだぜ? 奇襲なんてまどろっこしい手、意味ねえよ。やり直しだ」


 そう言うと、動きの止まった俺に蹴りを放ってくる。咄嗟に両腕をクロスして威力を受け止めながら、後ろに下がり距離を取る。


「反則的ですね……」


 思わず口から文句が漏れてしまう。


 スキル《心眼》。攻撃を見極められるようになる圧倒的性能の戦闘スキルだ。

そのスキルさえあれば、奇襲やら目に留まらないほどの攻撃にも対処できてしまう。

まさに盗賊や暗殺者の天敵みたいなスキルである。

 このスキルと類まれなる反射速度があれば、脱力した状態でも俺の奇襲をいなせてしまうようだ。

昔のジンの奇襲とやらもこのスキルでやり過ごしたのだろう。


 小細工は通用しないときた。それなら次は正攻法で行く。

 最高速の《偽・絶影》で突っ切るしかない。

 足にバネを溜め、《縮地》の準備をする。溜め終わると即座に射出した。


「遅せえよ。ジンより全然遅い」


 その呟きが聞こえた頃にはダガーの刃と刀が競り合って、甲高い音を響かせていた。

 この競合はフォースが絶妙な力加減で保たせているに過ぎない。刃の扱いの力量はかけ離れている。

 フォースが腕に力を入れると、俺はすぐさま吹き飛ばされた。


「そんなんじゃ全然話にならねえ。やり直しだ」


まただ。また届かなかった。

俺の今の力量じゃ、そう簡単にジンに並ぶことなんてできない。


「次、行きます」


 一声かけて、走り出す。

 もう一度、《偽・絶影》。全集中をスピードに振り切った特攻だ。


「そもそもそんな攻撃じゃ、届いたところでオレにダメージを与えることなんてできないぜ」


 振り切った手を使い、ダガーを弾かれてしまう。刃は俺の腕から落ち、そのまま土の上へと刺さった。

 今度は剣すら抜かないで対処されてしまった。俺の攻撃が甘いのを完全に見極められてしまった。


 俺の《必殺(クリティカル)》は未だ完成しているとは言えない状況だ。

発動確率は上がったものの、必ず発動できるわけではないし、発動したところで大した威力にはならない。


 フォースに生半可な攻撃は通用しない。

ミーヤとの決闘ではダガーを首に当てるという方法で自分の攻撃技術が未熟なことを誤魔化した。


 しかし、《心眼》を持つフォースには通用しない。攻撃技術の拙さまで全て見破られてしまうからだ。

 今まで俺が誤魔化してなんとかやり過ごしてきた全てが、フォースの前では白日の下に晒されてしまう。


「はぁ、もういいよ……。止めだ、止め。これ以上やっても意味がねえ」


 フォースはため息を吐くと、肩を落とした。そのままこちらを鋭い眼光で射止めてくる。


「お前、昔から全然変わってねえじゃねえか。全然強くなってねえ。オレ達が別れてから一年近く経ったけど、その間お前は一体何をしてきたんだ?」


「それは……」


 答えらえるはずがない。

 だって、何もしてなかったんだから。


 ジンが死んで、危険なことから足を洗おうと冒険者を辞めた。逃げるように王都で生活をすることにした。

ロズリアと二人きり、ぬるま湯に浸かったような日常を歩んでいた。


 その間もフォースは修業に励んでいた。大切な相棒を失った後悔を胸に、剣の腕を磨くことだけに励んでいた。

 両者の違いは一目瞭然だ。差は戦いの結果として明確に表れていた。


「お前は馬鹿じゃないからわかるだろ? 今のお前じゃ、絶対オレには勝てない。ジンにも並ぶことはできない」


「……はい」


 これ以上は言われなくてもわかっていた。

何度手合わせをしてもフォースと渡り合えるビジョンは見えないし、そろそろ《偽・絶影》の反動も限界が来ていた。

 情けなくて悔しいが、どうしようもない現実がそこにはあった。


「……出直してきます」


「ああ、そうか。勝手にしろ」


 そう言って、背を向けて立ち去ろうとするフォース。


「ノートくん、大丈夫ですか?」


 すかさずロズリアが駆け寄ってくる。

俺の肩に手を置いたまま、潤んだ瞳で去っていく背中を見つめているも、フォースは視線を気にも留めず歩みを進めていった。


 そのまま『到達する者(アライバーズ)』復活という夢は、俺の実力不足のせいで幕を閉じたかのように思えたが――。


「ちょっと待ってよ、そこの人」


 予想外の人物の声でフォースは引き留められた。引き留めたのは幼馴染のハーフエルフ、まさかのミーヤ・ラインだった。


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