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第42話 語られない主人公の物語

「ノート、これから暇か?」


 四日がかりで18階層を攻略した次の、そのまた次の日のことである。

 リビングでくつろいでいたところ、フォースに声をかけられた。


「暇ですけど……。どうしたんです?」


「いや、ちょっとな……。たまには手合わせでもしないか?」


「構いませんけど、俺弱いですよ。あそこで暇そうにしているジンさんにでも声をかけたらどうです?」


「それはいい。オレはノートと戦いたいんだよ! わかるか?」


「はあ……」


 この前のエリンの件もあって、リビングで声をかけられるということに警戒していたが、今回のフォースからの提案は素直にありがたい。


 フォースは既に出かける準備を終えている状況だった。

 外行きの格好をしており、しっかりと刀も腰に差している。


 俺は返事をして立ち上がると、自分の部屋に向かい準備を整えることにした。

 ダンジョン探索用の服装に着替え、ダガーナイフを腰のベルトに装着する。

 自分の部屋がある二階から階段で下りたところ、フォースは廊下で待機していた。


「それじゃあ、行くか」


「はい。それで今日はどこで手合わせします?」


「いつもノートがジンと手合わせしてるところでいいだろ?」


「そうですね。そういえば、前にも一回だけフォースさんに手合わせを持ち掛けられたことありましたよね?」


「そうだっけか?」


「覚えていないんですか……。アーツの練習に付き合うとか言っておいて、ロズリアを賭けた真剣勝負とやらを挑まれましたよ……」


「そんなことあったなー」


「まさか今回もってパターンじゃないですよね?」


「そ、そ、そんなわけないじゃないか……」


 突然挙動不審にならないでくれ。ちょっと不安なんだけど……。






「はーっはっはっはー! のこのこと騙されたな、ノート! 今日はお前に天誅を与えるために呼び出したのだ!」


 目的地に着いた開口一番がそれだった。

 フォースは銀色の刀をこちらに向け、ふんぞり返っている。


「そんなことだろうと思いましたよ……。で、どうしてです? 天誅を与えられるようなことをした覚えがないんですが……」


「ここに来てしらを切るつもりか! ちゃんと目撃証言は出ているんだぞ!」


「目撃されて困るようなことはしていないですよ。一応訊きますけど、どんな証言ですか?」


「ロズリアちゃんとホテル前でいちゃついていたという証言だ!」


 そうきたか。この前の尾行のやつだ、それ……。

 確かにあの日、偶然ロズリアとホテルの前まで行ってしまった。

 そこで話し込んだりもした。

 傍から見たらあれ、いちゃついているように見えるよな……。


「黙っているということは、心当たりがあるってことだよな?」


 フォースは殺気をまき散らしながら詰め寄ってくる。

 怖い……。

 慌てながらも弁解しようと口を開く。


「そ、それは……」


「言い訳はいい。大事なのは事実だ。はっきり訊くぞ! ヤったんか? ロズリアちゃんとヤったのか?」


「はっきり訊きすぎですよ!」


「童貞卒業したんか? オレを差し置いて! ロズリアちゃんの膜はどうなったんだ?」


 膜言うな! 表現がゲスすぎる!

 そういうところが童貞っぽいっていうか……。

 あっ、そういえば俺も童貞だったわ。


「してないですよ……。ヤってないです!」


「だよなー。ノートが童貞卒業できるはずないって思ってたぜ!」


 安心したのか、深く息を吐きながら肩に手を置いてくるフォース。

 なんだ。その右手のグーは。

 俺が童貞でそんなに嬉しかったのか、おい。


「まあ、でも天誅は与えるけどな」


「なんでですか⁉」


「ヤってなくても、ロズリアちゃんといちゃついていたことは事実だろ?」


「確かにそうですけど……それには複雑な事情が……」


「なんだよ。複雑な事情って?」

 埒が明かないので、その日ジンを尾行していたこと、尾行していた理由をフォースに話すことにした。



「なるほど、そういうことな」


「はい……」


「ところで、そのリースちゃんとやらがジンのことを好きなこと、オレに言ってもよかったのか?」


 しまった。またやってしまった。

 ロズリアだけでなく、ついうっかりフォースにまで口を滑らせてしまった。


 もしかして、俺って口軽いのか?

 過ぎてしまったことは仕方ない。ここは切り替えが大事だ。


「ここだけの話でお願いできますか?」


「いいけど……オレ、お前には絶対自分の秘密喋らないことにするわ……」


「それ、ロズリアにも言われました。俺もその方がいいと思います」


 フォースからの評価がだだ下がりしてしまった。


「で、フォースさんは知っていたりします? ジンさんに恋人がいるかどうか?」


「あー、それはいねえよ。間違いないな」


「どうして言い切れるんですか? ジンさんなら余裕で彼女くらい作れそうじゃないですか? かっこいいですし……」


「オレ達と違って作れないんじゃねえよ。あいつは作らないんだ」


 さりげなく俺も彼女作れないグループに入れるのをやめてくれ。

 最近の俺ならなんか一歩踏み出せば彼女くらい作れそうな気がするような、しないような。

 多分、フォースよりかは可能性があると思う。


「作らないってどういうことです?」


「うーん、オレの口から言うのもそれは違う気がするし、ジン本人に訊けよ。ただ、一つ言うなら暗殺者だった過去が関係してるっぽいな」


 ここ最近、ジンの過去を仄めかすような、彼自身の発言、リースの言動、その他もろもろを耳にする機会が多かった。

 俺は胸にしまっていた疑問を口にする。


「ずっと訊きたかったんですが、その暗殺者って戦闘職(バトルスタイル)のことだけを指しているわけじゃないですよね?」


 そんな俺の質問に対して、フォースは頭の後ろに腕を組みながら気軽に答える。


「その通りだ。あいつは殺し屋――とも違うな。とある極悪貴族お抱えの暗殺部隊のメンバーだった。この表現の方が正しい気がするな。まあ、とにかくそんなようなことを、このパーティーに来るまではしていたらしいぜ。現にオレとジンが知り合ったのも、あいつの当時の暗殺対象がオレだったからだしな」


「それってどういうことです?」


 思わず身を乗り出してしまう。

 俺の食いつき具合にフォースはニヤリと口角を上げた。


「そうだな。秘密にすることでもないし、これを機に教えてやるか。ジンとの昔話と、オレが『到達する者(アライバーズ)』を結成した経緯ってやつを――」






 ***






「突然だが、ノート。お前には子供の時の夢ってあったか?」


 オレはノートに問いかける。

 予告していたパーティーの結成時の話とは直接関係ないような、回りくどい質問から切り出したのは、こいつになら踏み込んだ話をしてやってもいいかって思ったからだ。


 ジンには話したことあるが、ネメやエリン、ロズリアちゃんには話したことないオレの本音。

 別にノートより長い付き合いのあるネメやエリンのことを信頼してないわけじゃねえ。

 でも、内心をぶつけるのって、男同士にしかできないっていうか、女に話すのが恥ずかしいっていうか、そういうところあるよな……?


「どうしたんです。いきなり?」


 さすがにいきなりの質問過ぎたのか、ノートは不安を募らせた表情で見つめてくる。


「いいから答えろって」


「ありましたよ。幼馴染と一緒に冒険者としてやっていくことが夢でした。今となってはもう叶わない夢ですけどね」


「そうか。お前の夢は叶わなかったのか……」


 そういえば、前にノートの昔話は聞いていたような気がする。

 確か、幼馴染に振られたんだっけな?

 幼馴染の女がいるなんて勝ち組野郎じゃねえかと当時は文句を言いたくなった思い出がある。


「オレの夢はな、最強の剣士になることだったんだ」


 昔の思い出が次々と呼び起こされていく。

 これからノートに話すのはオレの原点の話だ。


「これはオレが小さかった頃のことだ。ただの普通の少年だったフォース・グランズくんは、嫌々ながら親に連れられて道場に来たんだ。親が子に戦闘技術を学ばせようと、無理やり剣術を習わせるなんてよくある話だろ? そこでオレは、師匠――いや当時はまだ師匠じゃなかったな。これから師匠になる男の剣を目にしたんだ。目の前で刀を振るっている男の姿を見て、オレは確信した。ここにいるのは最強の剣士だ。オレもこの人みたいになりたいってな」


 足元の石を払い、ゆっくりと地面に腰を下ろす。

 ノートもそれに倣うように座り出す。


「それからのオレはなりふり構わず剣に打ち込むようになった。同世代のやつが色恋に現を抜かしだす中、俺は女にも目もくれず剣術を極めることだけを考えていた。今思えば、あの時からちゃんと女に興味を持っていたら、今頃彼女でもできていたのか?」


「それはないんじゃないんですかね」


 こっちが真面目な話をしているのに、ふざけたツッコミ入れてくんなよ。

 オレだって顔はそこまで悪くないんだ。

 あとは女との会話に慣れさえすれば、彼女の一人や二人│五人くらいできるに決まってる。


 話が逸れそうになったので、元に戻すことにしよう。


「それでな、頑張った甲斐もあってか、どんどん剣の腕も上がってきてな。段々強くなってきたんだよ。最初は同年代の中で一番、次に先輩達ともやりあえるようになってきて。あの時は楽しかった。毎日が充実感に溢れていたっての? できなかったことが数週間後にはできるようになっていて、そしたら見える景色が変わってきて、そしてまた新たな壁にぶつかって絶望して。でも、これを繰り返していけば、いつか師匠のようになれるんだって信じていたんだ」


 当時を思い出し、気持ちが高ぶっていく。

 高揚する感情を逃がすように石ころを蹴ると、ノートの方へ転がっていった。

 石はころころと力なく進み、ノートの足元に届かないまま止まってしまった。


 わずかの沈黙。先に口を開いたのはノートだった。


「ということは、なんかあったんですか?」


「15歳になってスキルを得た。それだけだ」


「それだけって――」


「本当にそれだけだったんだぜ。それだけでオレは師匠の剣の腕を超えたんだ。夢をいとも簡単に達成しちゃったんだよ。ほんとつまらない世界だよな。この世界って。スキルが全部だったんだ。どんなにアーツを研き上げた師匠でも、【剣術・中】だったら駄目なんだ。ずっと師匠が最強の剣士だと信じてきたのに、ぽっと【剣術・極】のスキルを手に入れたオレに敵わないんだよ。本当、馬鹿らしくなっちゃうよな……」


 これはあとから知ったことだが、師匠はこの世界最強の剣士でもなんでもなかった。

 まだ子供で、無知だったオレの目に最強の剣士として映っただけで、このスキル至上主義の世界じゃ、有象無象のちょっと強いだけの大したことない剣士だった。


「人間、諦めなければ夢は叶うっていうよな。その通りだと思う。だけどな、夢は叶っても理想ってやつはなかなか叶ってくれないんだよ。最強の剣士になるって夢は叶えたけど、自分の中にある理想の最強の剣士にはなれなかったんだ」


 自分が目標にしていた夢と抱いていた理想が違うなんてことはよくあることだ。

 師匠のように毎日、血のにじむような努力をして、何年もかけて師匠の実力にたどり着く。

 そんな理想が自分の中にはあったのだと、夢を叶えてから知ることになった。


 そして理想は、スキルを手に入れて夢を叶えるとともに崩れ去ってしまった。


「随分贅沢な悩みですね……」


「外れスキルを引き当てたお前にとってはそうかもな。だけど、そう思うんだから仕方ないだろ? オレは遠慮という言葉が嫌いで、思ったことを口に出さずにはいられない人間なんだ」


「いつものフォースさんを見ていたら、それはわかります」


「それからオレは、次に目標に据えられるような剣士を見つけるために、各地を回って名の通る剣士に挑んでいったんだ。けど、オレより強いやつは現れなかった……」


「羨ましく聞こえるほどの自慢ですね……」


「自慢じゃない、事実だ。実際、あの時期は手ごたえのあるやつがいなくて退屈で死にそうだった。剣に飽きて、今まで見向きもしなかった女遊びに走ろうともした。いざ女を追っかけようとしても、女性経験がなさ過ぎて上手くいかなかったけどな……」


 あの時期は剣の道なんかに進むんじゃなかったって何度も後悔した。

 正直、刀を握るのが辛かった。


 でも、剣に対して、十あるうちの一くらいは楽しいって思ってしまう自分もいた。

 十あるうちの九は辛いかもしれないけど、自分の人生から剣術を取ったら、十あるうちの一も楽しくない人生が待っている気がして、結局刀を手放せなかったんだ。


「でも、そんな風に色んな腕自慢に喧嘩を挑んでプライドをへし折っていったら、恨まれもするわけだよな。ディーンラークという貴族の、お抱えの騎士を盛大に倒した際、その貴族に目をつけられ、オレは暗殺されかけたんだ。その時の実行役だった暗殺者っていうのがジンってわけ」


「その時、初めてジンさんに出会ったってことですか……」


「ああ。そこであいつと戦うはめになったんだ。そして痛感したんだ。確かにオレは最強の剣士かもしれない。でも、最強の人間ではなかったってことに。目の前にオレと同じくらい強い、剣を使う暗殺者がいて、すげえ嬉しかった。血が沸くっての? とにかく熱くなったんだよ」


 あの時の感動が蘇る。

 それは、最初に師匠の剣を見た時と同じくらい――いやそれ以上の感動だったかもしれない。


 いつしか拳を握っていた。

 目頭がちょっとだけ熱を帯びている。


「こいつともっと戦いたい。こいつと同じような、剣士以外の最強に至ったやつと競い合いたいって思いが湧いてきた。だって、世界は広いんだから。暗殺者や魔導士、神官、狩人、錬金術師、その他諸々の戦闘職(バトルスタイル)に就いている人でオレやジンと同じくらい強いやつがいてもおかしくないだろ?」


 あの時の戦いを思い出すと今でも冷や汗をかく。

 ジンの鋭い猛攻。【心眼】スキルがなかったら確実に殺されていた。

 自身の命の危機が迫り、かつてない感動に襲われ、当時のオレの思考は加速していた。


 今、思い返すと、どうしてそんな結論が出たのかわからない。

 直前に、通りすがりの冒険者から偶然ダンジョンの話を聞いていたからかもしれない。

 魔導士や神官といった他の戦闘職(バトルスタイル)のやつらと対等にぶつかり合える舞台を探していたからかもしれない。

 目の前の男となら、すごいことが成し遂げられる予感がしたからかもしれない。


 対峙しているジンに、不意に言ってしまった。


「『なあ、そんなに強いんだったらオレとパーティーを組んで、ダンジョンに潜らねえか?』って気づいたらそう声をかけていたんだ」


 オレの突然の提案に驚いたジンの表情は今でも忘れない。

 糸目だったあいつが、いきなり目を見開くんだもんな。


「それからオレは思いのたけをぶつけた。戦いの最中だったってのに刀を振るうことを忘れ、必死で勧誘を始めたんだ。今思い返すと、よく殺されなかったよな。相手がジンで助かった」


「そんなんでジンさんからOKもらえたんですか⁉」


「いや、最初は断られたよ。『悪いけど、それはできないね。ボクはディーンラークに育てられた暗殺者だ。抜け出せば、彼は放っておかない。いずれボク達は隙をつかれ暗殺されるだろうね』ってな」


「それじゃどうやって……」


「だから言い返してやったんだ。『じゃあ、オレ達の方から暗殺でもしにいこう。オレに暗殺者をけしかけるようなろくでもないやつなんだ。殺され返されても文句は言えないだろ。一人ならできないかもしれないけど、オレ達二人が力を合わせれば不可能じゃないはずだ』って」


「無茶苦茶じゃないですか……」


「でも、無茶苦茶なことをできるくらいの力はオレ達にはあったからな。それを聞いたジンは爆笑していたよ。あんなに笑ったあいつを見たのは、あれが最初で最後だったな」


 それからジンは、『いいね。最高だよ』と返してきた。

 そうして了承が取れた後、瞬く間に作戦を実行に移した。


 暗殺されかけたと、怒ったふりをして正面からディーンラークの屋敷に殴り込みに行くオレ。

 お抱えの兵士達がオレを相手取っている間に、オレに倒されたことになっていたジンがディーンラークを暗殺した。


 あいつ自身も、自分の主人に抱えているものはあったみたいで、『ボクが手を下すよ』と言ったきり、こっちの意見は聞かずじまいだった。

 もしかしたら、オレに手を汚させないための配慮だったかもしれない。


「そうして、自由の身になったジンはオレと一緒にパーティーを組むことになったんだよ」


「なんか物語みたいにスケールのでかい話でしたね。俺がパーティーに入った時とは大違いっていうか……」


「お前みたいなパターンが普通なんだよ。次に入ってきたネメも、そのあとに入ってきた今はいないメンバー達も、最近入ってきたという部類になるエリンも、そんな劇的なエピソードはねえよ。オレとジンだけが特別なんだ」


 このパーティーはオレとジンがオレ達二人のために作って、お前らがそれに乗っかってきた。『到達する者(アライバーズ)』はそうやって作られたパーティーなんだ。そういうパーティーなんだ。

 誰がなんと言おうと、他のやつらがいくら活躍しようとも。

 オレとジンが、このパーティーで紡ぎ出す物語の主人公なんだ。






 ***






 フォースは話したいことを言い切ったようだ。

 深く息を吐きながら空を見やっている。


 彼が抱く思いを、ここまで直接的に伝えられたのは初めてのことだ。

 このパーティーに入ってからだいぶ時が経ったが、今日初めてフォースという人間のことを少しばかり理解できた気がする。


 もちろん、彼の言い分は部分的には理解できないところもあった。

 俺には強いスキルなんてないし、恵まれた人の悩みなんて正直わからないところもある。


 だけど、一見悩みなんてなさそうなフォースにも悩みが存在していたことだけはわかった。

 もしかしたら、人は誰しもが大小様々な悩みを持っていて、外面だけではそれを理解することはできないのかもしれない。

 抱える悩みはその人自身のものであり、自分に比べてどうだとか、他の不幸な人を例に出してどうだとか、客観的な基準で計ってはいけないのだ。


 俺はフォースに問いかける。


「フォースさん、今は満足しているんですか?『到達する者(アライバーズ)』での毎日は?」


 自分はジンに誘われて『到達する者(アライバーズ)』に入った。そして救われた。


 果たして、フォースにとってこのパーティーは救いとなり得たのか、どうしても知りたかった。


「さあな。満足しているんじゃね? そこまで悪くねえって思っているしな」


 そう言ったフォースの表情から、彼が救われていたことを悟った。


「満足しているなら、ロズリアに誑かされてパーティーを抜けるとか言い出さないでくださいよ!」


「お前っ⁉ 今それほじくり返してくるか?」


 冗談交じりのツッコミにフォースも笑いながら応える。


「それとこれは違うっていうか、恋は盲目っていうか色々あるだろ?」


「わからなくもないのが腹立ちますね……」


 俺もロズリアに誑かされて一度はパーティーを裏切ることも視野に入れた身だ。

 後ろめたさがあるためか深くは追及できない。


「そもそも、誑かされたっていうのもどうかと思うんだよ! オレはあの時点ではロズリアちゃんと両想いだったと今でも思ってるぞ!」


「それマジで言ってるんですか?」


「ああ! 今は何の気の迷いかノートに惚れているみたいだけど、いずれはオレのもとへ戻ってくるはず! 多分……?」


 どうやら現在もフォースはロズリアに誑かされている最中だったみたいだ。

 ロズリアが果たして俺に惚れている演技をしているだけなのか、気の迷いで好意を寄せているのかは知らないが、フォースのもとに戻っていくことだけはないと思う……。


「なんか頭痛くなってきたんでその話やめましょう。自分で話題振っといてなんですけど」


「本当にお前が振っといてなんなんだよって感じだけどな」


「じゃあ、それついでにもう一ついいですか?」


「なんだ?」


「どうしてパーティーでの顔合わせのときに言っていたダンジョン制覇を目指す理由が、女にモテたいだったんですか? それこそエリンが宣言してたみたいに、自身が最強であることを示すためとかじゃなかったんですか?」


「いや、オレは自分が最強だと示すことなんて目指してねえし、そもそも、示さなくても最強の剣士だろ? オレって?」


「まあ……否定できないんですけど……」


「だからオレがジンと出逢って抱いた夢は、最強のやつらとともに戦ったり、競い合うことだったんだよ。その夢もこのパーティーを組んで叶えた。だから、ダンジョン制覇を目指す理由にするのは違うだろ?」


「確かに言われてみれば……」


「そうしたら、あとオレが叶えられてない目標なんて彼女つくるってことくらいだろ? そういうわけ」


「わかるような、わからないような微妙なところですね……」


「その目標も、ダンジョン制覇さえして名誉を手に入れば余裕で叶えられるってわけ。そう考えるとダンジョン攻略ってオレにとって一石何鳥ももたらすよな……。そんな目標を咄嗟に思いついてしまった自分の発想力が怖いぜ」


 満足げに頷くフォース。

 その横顔を眺めながら、その自己評価の高さもあながち間違いじゃないのかもって思ってしまった。


 フォースが『到達する者(アライバーズ)』を作ってくれたから、今の俺達がある。

 逆を言えば、フォースが思い立たなかったら、俺やフォース、他のみんな達も今より味 気ない人生を送っていただろう。


「案外、フォースさんが『到達する者(アライバーズ)』のリーダーっていうのも納得できるかもしれませんね」


「おい! 今頃かよ! それと案外は余計だ!」


 フォースの大きな声が、風に乗せられて辺りに響いていった。


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